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夏の香りと甘党の神様  作者: うさぎ荘
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11/22

第10話「皆とケンカ」

僕は今、迷っていた。


ここ数日、美菜ちゃんとは毎日会っている。


でもあの日から何一つ進展がない。


あの日、山の上から遠くの神社を見た時、美菜ちゃんは何かを一瞬思い出したようだった。


でもそれ以降何かをまた思い出したような出来事もないし、当然、『恋の形をした物』も見つかってはいない。


翌日、僕達は美菜ちゃんが一瞬何かを思い出したという神社に行ってみた。


でも新たに何かを思い出すという事はなかった。


「…今日も何も見つからなかったね。」


「そうだね…。でも今日も勇人君と居れて凄く楽しかったよ。」


「そう?…でも、最近全然進展がないし…このままじゃ…。」


「ううん。いいの。私ね、最近凄く思うんだ。世界中で誰も私の事が見えなくたって、勇人君だけが私を見てくれてる…それだけで十分幸せなんだ。」


僕はそれを聞いて凄く嬉しかった。本当は、「僕だって…。」と、言いたかった。


でも、それでも何もしてあげられない自分が情けなくて、何も言えず、結局「ありがとう。」とだけ言ってから美菜ちゃんと別れ、家路に着いたのだった。


正直なところ、僕はどうしていけばいいのだろうか凄く悩んでいた。


今は一緒にいてくれるだけでいいと、そう思ってくれてはいても、僕自身はそうは思えなかった。


彼女に出来る事は何かを再度考えてみた。でも、もうこの町でめぼしい場所は大腿見尽くした。


あまり人がいない所も結構探した。


でも手がかり一つ見つからなかった。


神様とはあれから何か気まずくて、掃除をし、お供えをしたら、すぐに家に戻っていた。


真帆ちゃんさんには何か相談しづらいとこでもある。


きっと「恋話ね!」とぐいぐい食い込んでくるからだろう。



僕がこの町で知っている知り合いといえば、後は写真屋のバイトのおじさんだけだろう。


僕は試しに、自分用のカメラを欲しいけど、お金がなくてどうしようか悩んでいる、と相談してみた。


バイトはあれからずっとヘコヘコしていて、


「へい、それはもう坊っちゃまの好きなようにしていただくのが一番かと。少しくらいなら安くしますがね…ヒヒッ。ところで坊っちゃまぁ?あの写真の件はどうなりましたかねぇ?」


と、相手にするのも馬鹿らしくなってしまう。


この先、まだ探し続けるべきか、諦めて美菜ちゃんと楽しく過ごしている方が良いのか悩んでいた。


僕は悩みながらもいつものように午後一時から美菜ちゃんと会って、その日探しに行く場所を話し合ってから出掛けて行った。


「今日はどこ探しに行こうか?」


「うーん、もう大体探したもんね。私もあれから特に思い出したって事もないし…どうしよう…。」


僕は必死で色々な場所を考えてみた。


でも、もうこの町は探し尽してしまったので新しい所は出てこなかった。


「そうだ!もっと町の方に行ってみようよ!

向こうの方にもきっと行った事あるかもしれないし、行ってみようよ!」


「うーん、町はちょっと…行けないんだ…。」

「でも…もうこの辺りじゃ探す場所もないし…行ってみよ?」


「ごめんなさい。でも町の方は行けないの…。」


「で…でも…。」


「…ごめんなさい。」


僕は、どうしてなのか知りたかった。


でも美菜ちゃんは謝るばかりで、何も話してはくれなかった。


だから、もう一度堰の方に行ってみようと提案し、堰の方へ行ってみた。


堰にはもう五回くらい行っていた。



何も見つからなかったけど、でも今回もやっぱり見つからなかった。


「今日もなかったね…。」


「うーん、難しいね。また明日別の場所探してみよ!」


「もう…ないんじゃないかな…。」


「ううん。きっとどこかにあるよ!」


「だって、僕達これだけ探したんだよ。何日も。向こうの山まで行ったのに…それでも見つかならないんだから…。」


「きっと見つかる!見つかるから…。」


「『恋の形をした物』なんて…。」


「あるよ!絶対あるから…信じて…あるんだから…。」


「ご…ごめん。でもこれだけ探しても見つからなかったから…。」


それ以上美菜ちゃんは何も言わなかった。


正確には泣いていて、何も言えなかった。


僕はどうして良いのかわからなくて、美菜ちゃんが泣き止むのを待って、もう一度「ごめん。」と言ってからお別れを言った。


今日はお互い、「また明日ね。」とは言わなかった。


翌日、僕は一日中庭より外には出なかった。

真帆ちゃんさんに怪しまれないよう宿題を片付ける事に必死になった。


実際、真帆ちゃんさんの家に来てから殆ど宿題には手をつけていなかったので、丁度良い機会ではあった。そろそろやろうと思っていたので物凄く良い機会でもあった。


朝はいつもと同じように神様のいる祠に向かい、水をぶっかけてブラシで強く擦り付た後、みかんをスッと置いてからスッとその場から離れた。

夕方もお供えだけをしてそそくさと家に戻っていった。


もしも神様に呼び止められたら面倒だったので、最近はずっとこんな感じだった。


その後、すぐに宿題へと取り掛かる。


算数の問題集を解いている間中、ちらちらとこちらへ向けられる視線を感じた。


僕は脇汗をびっしょりかきながらも平静を装い、驚く程集中出来ない算数に集中している振りをした。


「あら?今日はお出かけしないの?珍しいわね。」


僕の心臓は鼓動を打つのをやめてしまうのではないかという程、その声に驚かされた。


「そ、そ、そ、そ、そ、そうなんです。そろそろ宿題しないといけないんで、今日は…。」


「ふーん。」


完全に怪しまれていた。


もしかしたら気付いていたのかもしれない。


でも、そんなのは気にしないようにして、夕方までずっと勉強をしていた。


宿題はその後、一週間くらいで片付ける事が出来た。


その間にも外出はしたけど、美菜ちゃんには会わなかった。


家での生活も特に問題なく過ごせている。


ご飯も相変わらず美味しくて、特に感動したのは真帆ちゃんさんの手作りいちごジャムだった。


普段は和服なのにパンをかじっている姿がなんだか不思議なのだけど、とても美味そうで、朝はご飯派な僕も翌日食べさせてもらってからは、あっさりとパン派に寝返ってしまった程だった。


お盆が段々と近付いてきて、家族連れが増えてるきたのを感じるようになった。


だから僕は、その里帰りしている子達の中からきっと美菜ちゃんの姿が見えて、一緒に遊んでくれる子が現れるだろう、と密かに期待をしていた。


でも、そんな子達から美菜ちゃんの話題を聞く事は一度もなかった。



そんな日々を過ごしていたある日の夜、ご飯を食べていると、真帆ちゃんさんにふと、唐突に質問をされた。


「ねぇ、どうして最近、美菜ちゃんに会わないように、って避けてるの?」



「え?…どうしてそんな風に…。」


「だって、そりゃ見てればわかるわよ。だって、新入りってばここ数日、ずっと『振り』をしてるでしょ?忙しい振りとか、勉強に集中してる振りとか。」



「いや…それは…その…えっと…。」


僕は何も答えられず、口ごもってしまった。



「喧嘩でもしたの?」


「いえ…してないです。」



「じゃ、嫌いになっちゃった?」


「いえ、そんな事はないです!」


「じゃあ、飽きちゃったのね。飽きたらポイなのね。女の敵ポイ。」


「別に飽きてもいないし、ポイもしてないです…。」


僕は真帆ちゃんさんのボケを受け流して真剣に答えた。



「でも、私にしてみればポイしてるのと同じよ。このポイポイ野郎!」



「せめてスケコマシ野郎とかにしてくださいよ。捨てたとか嫌いになったんじゃなくて、もうどうすればいいのかわかんないんです。」


「あら、そうなの?初耳だわ。」


段々と真帆ちゃんさんの顔がニヤけてきて、この時、僕は真帆ちゃんさんに煽られて、うまく乗せられた事に気付いた。


僕は覚悟を決めて、美菜ちゃんとの事を話した。


美菜ちゃんが探している物、美菜ちゃんがどうしたいという事も、今まで何をしてきたかって事まで全部話した。


「ふーん、そっかぁ、そんなに難しい問題じゃなさそうね。良かったじゃない。」


真帆ちゃんさんの顔はさっきからずっとニタニタ顔になっていた。


僕は腹が立って仕方ががなかったので、真帆ちゃんさんに対して苛立ちを隠せない、あからさまな態度になっていた。


「全然良くないですよ!僕はどうしていいのかわからないんですから!

話聞いてました?」


「聞いてたわよ。だから簡単だってすぐにわかったんじゃない。」


「じゃ、どうすればいいんですか?」


「人に教えを求める時はちゃんとお願いしなさい。

ポイポイ野郎の僕にはわかりません。

教えてください、って。」


「嫌ですよ!何でそんな事言わないといけないんですか!?」


「まぁ、別にいいのよ。私も暇じゃないしぃ。あー、食器の片付けしないといけないわぁ、忙しいわぁ。明日のご飯の用意もしないといけないし、肩凝るわぁ。あー、おっぱい大きくて肩凝るわぁ。」


「最後のは関係ないじゃないですか!

わかりましたよ。言いますよ。言いますから!」


僕は真帆ちゃんさんに言われた通り、自分はポイポイ野郎でごめんなさい。

と謝った後にどうせればいいのか教えてください。とお願いした。


真帆ちゃんさんは得意な顔 になって、偉そうな態度で教えてくれた。


「美菜ちゃんは本当に探すのが目的なのかしらねぇ?見つけられたらそれでいいのかしらねぇ?」



とだけ教えてくれた。


「で、その答えは何ですか?」


「それはあなたが考える事よ。」


僕は途端に怒りがこみ上げてきた。


「教えてくれるって言ったじゃないですか!?こちとら頭下げてるんですよ!教えてくださいよ!」


真帆ちゃんさんはそんな僕を気にも留めず、「こちとら、てぇー。」と、笑いながら寝室へと入っていった。


翌日、僕はずっとだんまりを決め込んでいた。


真帆ちゃんさんに挨拶されても無視をした。


ご飯にも一口たりとも口をつけなかった。


祠にも行ってない。


この、やり場のない怒りをどうすればいいのかわからない僕はとりあえず、この家の裏にある山に登った。


大して高くはない山だけど、見晴らしは良かった。


ベンチに腰をかけてしばらくぼーっとしていると、誰かが登ってくる気配がした。


真帆ちゃんさんかと思ったけど、違うようだ。


その人は白い和服を着ていて、物凄く虚弱そうなな体をしている。


髪の毛も白くて肩に届きそうなくらい長く、目も左半分が隠れていた。


あんな人を今までこの町で見かけた事がなかったので、少し怖くなった。


「だ、だ、だ、誰ですか、あなたは?

勝手に人の敷地に入ってきて。

泥棒ですか?」


「おいおい、また俺を泥棒扱いすんのかよぉ。これで二回目だぞぉ?勘弁してくれよぉ。」


僕はハッとした。この細い腕には見覚えがあった。


「あっ!もしかして、神様ですか!?」



「いかにも。」


神様は物凄く偉そうにそう言い終えると、僕の座っているベンチの隣に腰を下ろした。


「何だお前?悩みでもあんのかぁ?」



「いえ、別に…。」


「ほぅ、そうかぁ。じゃあ何で今日はお供え持ってこねぇんだ?腹が減って死にそうなんだけどよぉ。」


「あっ、す、すいません。」


と言って僕はポケットに入っていたみかんを二つ取り出し、そのうちの一つを渡した。


神様はその一つを受け取ると、もう一つもぐい!と掴み、朝食を食べていない僕が握りしめていた手から無理やり引き離して奪い取った。


神様はみかんを手の平に乗せ、もう片方の手を近付けると皮が綺麗に剥かれていった。


次に人差し指を下に向けて近付けるとみかんの房が全部バラバラになり、その指を上にピン、と跳ね上げると一粒だけ宙に浮いた。


その宙に浮いたみかんは、神様が人差し指をを口の方へ向けると神様の口の方へスッと落ちていった。


僕はその一部始終をただ呆然と眺めていた。


こんな不思議な光景は、マジカルジェンキンスのマジックショー以来で、気が付けば


「おぉ!」と、拍手をしていた。


僕は美味しそうに食べる神様を見て、急にお腹が空いてきた。


みかんを一つもらおうと思って、手を伸ばしたけど、神様は僕の手を振り払い続けた。


「で、どんな悩みなんだぁ?女の事かぁ?」


「おいおい、何でわかるんだぁ?って顔してるけどよぉ、誰だってわかんだろぉ、お前くらいの年の奴が悩む事なんて大抵相場が決まってんだからよぉ。」


僕は、神様ってやっぱり凄いんだな、と思った。でも悩みを打ち明けるなんて事はしなかった。


昨日の真帆ちゃんさんとの一件があってから、僕は悩みを人に打ち明けるのが馬鹿らしくて、例え神様でも打ち明けるまい、と心に決めていた。


「チッ、何だよぉ、人が折角話聞いてやろうと思ってんのによぉ、まぁ大体の事は察しがつくけどなぁ。」


「本当にないですから。それに、どうせ悩み打ち明けたところでどうにかなる訳でもないし。」


「あっ、もしかしてお前、真帆に相談しただろぉ?あいつは駄目だかんなぁ、偏屈なところがあるからなぁ。」


僕はまたしても「どうしてわかるの?」という顔をしてしまったらしい。


神様がニヤリと笑いながら残りのみかんの皮を剥き始めた。


「まぁ、あいつの事は気にすんなぁ。俺が話聞いてやるからよぉ。」


僕は危うく打ち明ける所だった。


でもここまでだんまりを決め込んできたので、最後まで貫き通す事に決めたのだけど、次の神様の言葉でそれは決壊した。


「あぁ、それとよぉ、あの美菜って女、あいつ今年のお盆までしか『こっち』にいられねぇからよぉ、仲良くしてやってくれよなぁ。」


僕はすぐにその意味を理解出来なかった。


お盆が過ぎたらどうなるのだろう。


来年まで来れないという事なのだろうか。


それとも…。


「えっ、どういう意味ですか?お盆過ぎたら来年まで会えないって事ですか?」


「いやいや、今言った通りで、今年しかいられねぇんだよ。あいつ、両親よりも早くにいなくなっちまったし、神様連中を敵に回して無理矢理こっちに留まろうとしてるみてぇだからなぁ。お盆の最終日きっと地獄に連れて行かれちまうかもなぁ。」


僕はしばらく魂が抜けたようにその場に立ち尽くした。


それを聞いてどうすればいいのか、どうしたらいいのか。


僕の内側に留めていた感情は知らないうちに外側へ一気に流れ出した。


「そんな事言われても…僕はどうすればいいんですか?

僕にどうしろって言うんですか?

僕一人に押し付けて、何をしろという訳でもなくこれ以上どうすればいいのかわkんないですよ!」


「何って…、仲良くしてやればいいんだけどよぉ…。」


「僕が仲良くしたら美菜ちゃんは天国に行けるんですか!?僕にどんな力があるっていうんですか?僕だけに見えるからって皆押し付けるだけ押し付けて、何をすればいいのか誰も答えなんて教えてくれないのに、もう限界ですよ!おっぱい大きくて肩凝られても…そんなの知ったこっちゃないですよ!」


「俺のおっぱいが大きいように見えんのかよ!?だったら揉んでほぐしてくれよ!って、一体何の話してんだよ!?」


「神様の事なんて言ってないですよ!あぁ、もうどうしたらいいんですか!?探し物だって見つからないし、手がかりもないし、それでも仲良くしろって言われてもどうしたらいいんですか!?」


「あぁ、もう!!俺が何とかやるからとにかく仲良くしとけってんだよぉ!」


僕はやっぱり神様の事が嫌いだと思った。


神様と話したくないので僕はすぐにベンチから立ち上がり、裏山を降りていった。

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