第9話「野菜戦士の大人な仕事」
今日の朝も祠の掃除をし、みかんをお供えした。
案の定、祠の中からほっそりとした腕が伸びてきたので、いつものように捕まえて神様へ挨拶をした。
今回は驚く代わりに僕の額を見ながら笑い声が聞こえてきた。
「ギャーハハハハハハハー!!ヒーヒヒヒヒヒ腹痛ぇー、痛ぇーよぉ。
『野菜』ってぇ何だそりゃあ、何かのヒーローかよぉ。どう見てもよぉ、モヤシ野郎じゃねぇかよぉ。
野菜だけにってかぁ!!
ヤベェー腹ちぎれちまうぜぇー!
敵倒せんのかよぉー?
雑草一本引っこ抜く気ねぇだろお?
同族だから無理ですとか言ってよぉ。
何が同族なんだよぉー、言い訳も甚だしいわぁ。
こりゃあ傑作だぜぇー。」
こんなに笑われるとは思わなかった。
正直心がズタズタに切り刻まれていくようだった。
「そんなに笑わなくたっていいじゃないですか!もういいです。相談しようと思ってたのに、もういいですよ!」
僕は泣きそうになりながら祠を後にした。
「おぉう、ちょっと待てやぁ!」
僕は無視をしてそのまま歩いていく。
「待てやぁ!待たねぇと…。」
僕はそれでも無視をしたのだが、気が付くと祠の前にいた。
「えっ?」
「力使わせんじゃねぇよ。ったくよぉ、何があったんだよ?」
僕の怒りは気が済まなかったが、仕方なく話をした。
「昨日、美菜ちゃんと出かけたんですけど、その時美菜ちゃんを写した写真て…美菜ちゃん…写るんですか?」
神様はしばらく考えこんでいたようだったが、ゆっくりと話し始めた。
「多分写んねぇだろうなぁ…。」
「そうですよね…じゃあ、写真現像しても…意味ないですよね…。」
「いや、現像は出しておけ。」
「何でですか?」
「そりゃぁ思い出だからだろぉ。写ってなくたって思い出には残るんだぜぇ。」
「何くさい事言ってるんですか?写ってない物を見るのって辛いじゃないですか?」
「写るかもしれねぇじゃねぇかよ?」
「えっ?写るんですけ?」
「いや、写らねぇだろうけど。」
「どっちなんですか!?ふざけないでくださいよ!」
「いや、わかんねぇだろぉ。写るのもあるかもしれねぇぞぉ。心霊写真としてよぉ、へへ。」
「もう意味わかんないですよ。」
「俺だってわかんねぇよぉ。」
「じゃぁもう何も言わないでくださいよ。」
「いや、言わなきゃいけねぇだろぉ。」
「わかんないって言えばいいじゃないですか?」
「神様なんだから言った方がいいかなぁ、とかあるだろぉ!」
「そんな神様の業界事情なんて知りませんよ!」
「とにかく現像出してこいや!!」
なぜか怒られた僕は何も言わずにその場を後にした。
僕は頭に帽子を深くかぶり、自転車のカゴにカメラを入れて写真屋に向かった。
カメラを現像に出したいと言ったら真帆ちゃんさんが、カメラごと持っていきなさい、とカメラを渡してくれた。
「フィルムだけでいいですよ。」
「だめよ。ちゃんと新しいフィルムを入れてもらってきて。」
「えっ?自分でやればいいじゃないですか?セット出来ないんですか?」
「で、出来るしぃ。出来る女だしぃ。カメラなんてちょちょいのちょいだしぃ。」
「じゃあフラッシュたくにはどこを操作するんですか?」
「え?このボタン押せば…。」
「違いますよ!それ炊飯器の炊飯ボタン!ご飯炊いてどうすんですか!?フラッシュたいてくださいよ!」
「え?あぁ、フラッシュね、そんなのちょちょいのちょいだしぃ。」
「どのボタンですか?」
「今は…ねぇ、お昼だし…必要ないじゃない?もうちょっと暗くなってから…ね?」
「ウインクとかしないでいいですから!
わかりました。じゃあ、タイマーは?」
すぐさま寝室に行こうとした真帆ちゃんさんをすぐに察して引き止めた。
「いや、目覚まし時計じゃないですから。このカメラに付いてる機能。」
「なーに言ってんだか?それで朝起きれる訳ないでしょうに。そのカメラで朝出来るのなんて寝起きドッキリだけよ…フフッ。」
僕は、そっとカメラを真帆ちゃんさんに渡した。
「じゃあ…ズームにしてみてください。」
真帆ちゃんさんは入念にカメラをくまなく見回し、これだ!というボタンを押した瞬間、フィルムを入れるフタが開いたので、何も言わずにカメラごとお店に持って行く事にした。
写真屋さんは国道に出てしばらく市内の方へ向かう途中にあった。
大通り沿いにあったので思っていたよりも早くに辿り着いた。
お店に入るとお客は僕一人で、店主らしき人は下を向いていた。
「あ…あの…すみません、現像を…。」
「…。」
「あのー…。」
全く反応をしめさない店主らしき人にもう一度声をかけた。
「あのぉ、すみませんが、現像を…。」
「わぁってるよ!!ここに来るんならそれしかねぇだろ!!ピザなら隣の店ですけど!?」
店主らしきおじさんはしばらく上の方を見回したが、誰もいなくて不思議に感じ、下の方を見ると僕がいたので相当驚いたようだった。
「な、何だ貴様は!?」
「す、すみません!現像をお願いします!それとその後ここに新しいフィルムを…。」
僕はカメラを店主に差し出した。
また、店主は黙ったままカメラを見たまま下を向いていた。
「おい、そこの若けぇの…これをどこで手に入れた?」
「いや、ちょっと借りている物で…。」
「あぁぁん!?嘘つけ!これをどこで手に入れたって聞いてんだ、このスットコドッコイ!!」
「えぇ!?だから借り物で…。」
「借りたという名の?」
「窃盗品です…って言う訳ないじゃないですか!!真帆ちゃんさんから借りてるんですって!」
店主はまたも黙りこんだ。
「何でだ…一つ屋根の下に住んでるって訳じゃあるめぇし、何で東暖さんから借りる必要があるんだ?」
「一緒に住んでるからですけど…。」
店主は一瞬心臓が止まったかのように動きが止まった。
その後、椅子から落ちた。
「痛てて…おい、小僧、今何て言った?」
「いえ、だから一緒に住んでます…一時的ですけど…。」
「オトしたのか?」
「え?オトしたというのは?」
「東暖さんをオトしたのかって聞いてんだよ?齢、その若さでか?」
店主はもうそれはポロポロ泣き始めた。
なんだか面倒くさい展開になってきた気がした。
ある程度泣き終わると店主の顔がおかしい表情になってきた。
「いやぁ、お坊ちゃん、今日も賢そうな格好でいやぁ、本当にお素晴らしい…。」
僕は何だか嫌な予感がしてきた。
「ところでお坊ちゃん、ちょっとしたお小遣い稼ぎ…いえ、社会の役に立つ素晴らしい仕事など興味ありませんか?いやいや、そんな大した仕事ってぇ訳じゃありやせん。へぇ。ちょおっと、東暖さんの入浴中のお写真をですね…。」
僕はただ、「現像お願いします。お金は出来てからお支払いします。」とだけ言ってお店を後にした。
後で真帆ちゃんさんにこの店主の事を聞いてみた。
「あぁ、その人バイトよ。」
「えぇ?そうなんですか?」
「昔、東京で働いてたみたいだけど、色々あったみたいで、あの不安定なキャラも人気なんだけど、現像が凄く上手くて評判なのよ。」
「そうなんですか、人は見かけによらないですね。」
二人はくすくす笑い合いながら夕食を食べた。
その数日後、カメラと現像写真を取りに行くと、ヘラヘラと苦手そうな愛想笑いを浮かべて頭を低くしながら丁寧な接客をしてくれた。
確かに現像した写真は今までの写真よりも綺麗だった。
しかし、やはりどの写真にも美菜ちゃんは写っていなかった。




