Part4 距離感
Part4 距離感
パーティといっても特別なことをするわけじゃない。
いつも通りに美紅がメインになって料理をやって、俺はそのアシスタント。
なにせ男子校だったし、寮だったし、サッカーが忙しくて自分の時間とか皆無に等しかったし。
今までそういう環境で育ってきたせいで、この歳まで、ほとんど家庭科というものをやったことがなかったから、最初は、それは悲惨だったけど、美紅が辛抱強く教えてくれたおかげで大分マシになった。
少しずつ、調理器具とか食器も増えてきて「家」らしくなってきた感じ。
もう少し二人でいるときに快適に過ごせる場所に引越したいな、と真剣に思う。
でも、とてもそんな余裕はない。
美紅はそれでも楽しそうだけど、不満があっても我慢してるんじゃないだろうか。
「美紅・・・」
ピザ生地を捏ねている美紅に話しかける。
「なに?」
「こんな狭いところで、窮屈じゃない?」
「うーん、ちょっと調理台は狭いかな。でもまな板シンクに渡したら十分作業できるし、平気」
「いや、キッチンだけじゃなくて、全体的に」
美紅は俺を見上げた。楽しそうな表情、無理しているようには見えない、けど。
「距離が近くていいよね」
「え?」
「あたし、小さいときとかすごく淋しかった。家広いし、お父さんもお母さんも忙しくてあまり家にいなかったから。おねえちゃんもね、どんどんレッスンが忙しくなって相手してくれなくなっちゃって」
医師の父、弁護士の母、ピアニストの姉。
単純に華やかで裕福で羨ましいとしか思ってなかった。自分と引き比べて落ち込んだこともあった。
だけど、よく考えてみれば、美紅の家族の仕事はどれも定刻に家に帰ってこられるような種類のものではない。
あんな広い家で小さな女の子が一人きりだなんて、どれだけ心細かっただろう。そして、今までそんなことに全然気付かずに、美紅の環境を羨んでいた自分はどれだけ矮小な人間だったんだろう。ほんとに恥ずかしい。
「ここにいるとね、どこからでも蒼くんが見えるのがい・・」
愛しくてせつなくて、たまらなくなって美紅を後ろから抱きしめた。
いつでもそばにいるから
どこへもいかないから
それで美紅が安心していられるなら、心細さに泣くことがないのなら。
「ありがと・・・」
美紅の頬から涙がひとつぶ零れた。
「生地、寝かせておかなきゃ。蒼くん、そこのラップ取って」
振り向いた美紅はもうとびきりの笑顔だった。
雨上がりの太陽みたいで眩しい。
これからもずっと美紅が笑顔でいられるように。
もう二度と泣かなくてすむように。
そのために出来ることがあるなら、何でもする。
心からそう思った。
お嬢様、美紅ちゃんはとても孤独な子供でした、という話。
朱里さんのように突出した才能があったわけでもなく、蒼くんのように打ち込むものもなかった美紅ちゃんはかなり辛かったと思われます。みんなに愛されてはいるんですけどね。
そりゃコンプレックスも感じるでしょうね。




