Part5 Son-in-law
Part5 Son-in-law
食べ物が焼けるにおいは、人を幸せにする、と思う。
クラストとトマトソース、モツァレラチーズが交じり合った香ばしいかおり。
「そろそろ焼けたかな」
言いながら美紅がオーブンを開ける。
部屋いっぱいにマルゲリータ・ピザの香りが広がった。
仕上げにバジルをのせて出来上がり。
「すごい、ピザって家でできるんだ」
思わず感嘆の声を上げてしまう。ピザって宅配してもらうものだとばかり思っていた。それがこんな狭いキッチンでできるなんて。
「ソースは市販品だから手抜きだけどね、凝りだしたらきりがないから」
と、美紅は謙遜するけど、素晴らしいできばえだと思う。
なにより正真正銘、手作りの焼きたてだ、感動してしまう。
「お母さんの好物だから、ピザはよく作るの。蒼くんも好きでよかった」
美紅がつくってくれるのならピザに限らずなんだって喜んで食べる、好き嫌いはないけど、嫌いなものがあっても美紅の笑顔があれば食べられそうな気がする。
・・・そういえば、美紅のお母さんは料理しないんだっけ。
料理って母親に教えてもらうものだと思っていた。まあ、教えてもらったことないけど。俺の場合12から家を出て寮生活だったから、教わる暇もなかった、ということはある。
「うちの母だったら、ものすごく喜びそうだな」
「蒼くんのお母さんも料理しないの?」
「いや、ふつうに毎日飯は作ってたけど、しょっちゅう他人がつくったもの食べたいって言ってたし、娘がほしいとも常々言ってるから。うち男しかいないし」
「うーん、そういえばうちは女ばかりだからお母さんは息子ほしいっていつも言ってる。ほら、七夕のとき、すごく嬉しそうだったでしょ」
「そういや、確かそんなことを」
“娘もいいけど、私、息子が欲しかったの。イケメンの息子が二人も出来て嬉しいわ”
思い出した。
あの時は緊張していて深く考えなかったけど、真矢さんは朱里さんの婚約者なんだし、その真矢さんと同列ってことはつまり、俺を美紅の結婚相手って考えているということ?
わ、何かドキドキしてきた。
「蒼くん?」
美紅の言葉で我に返った。
俺の顔を見上げる美紅は不思議そうな顔をしている。俺が今何を考えていたかとか、当然まったくわかってないよな。
そうでした・・・。
美紅のお母さんがどう思っていようと、美紅本人にその気がなくてはどうしようもない。
一瞬、ムダな期待をしてしまった。
道は、遠い・・・。
渡されたピザカッターで、マルゲリータ・ピザを切り分けながら、俺は内心でため息をついていた。
蒼くんの夢はまだはるかかなた・・・とか?
美紅ちゃんもけっこう鈍感ですね、似た者同士ww
ゆかりさん(蒼くんの母)は確かに美紅ちゃんと一緒に料理つくったりしたら喜びそうです。息子は中1で家出てしまったしね。そういう日が来るといいね、蒼くん




