Part3 At Home
Part3 At Home
アパートの階段を二人で上がる。
もう何回めかな。3月に初めてデートしてから、わりと頻繁にここに来てくれるようになった。
美紅の部屋よりずっと狭くて窮屈なのに、不平不満なんかひとことも言わない。
俺には過ぎた彼女だよな、と、つくづく思う。
部屋の前で鍵を開けようとポケットを探る、あ、反対側だ。
持っていた荷物を左手に持ち替えようとすると、
「鍵、開けるね」
右手が空いている美紅がバックから鍵を出して開けてくれた。
「サンキュ!」
美紅がにこっと笑う。すっごい幸せ。
うん、ここは俺達の家だよな、とか思ったりして。
激狭で、安普請で、不満を言えばきりがないけど、美紅が一緒にいてくれるだけで、どんな豪邸より素晴らしいと思える。
いつも一緒にいたい。
どこへも帰したくない。
その思いが募って、ドアを開けて部屋に入るなり美紅を抱きしめてしまった。
「どうしたの?」
美紅の問いに、何と答えていいかわからなくて、抱きしめた腕の力を強くする。
幸せと比例して上がってゆくせつなさ。
ずっとずっと、この腕の中に美紅を閉じ込めておけたらいいのに。
その気持ちに気付いてくれたのかどうか。
美紅の両腕が俺の背中に回された。
「どこへも行かない」
そう言ってくれているようで、安堵感が満ちてくる。
「ねえ、蒼くん・・・」
「なに?」
「ここは蒼くんの家だけど、あたしもここに帰るって言っていい?」
「みく?」
「わ、何かあつかましいかな、ごめん、今の忘れ・・・」
残念でした、今の言葉は絶対忘れない。
そう思ったから、美紅の台詞を途中で奪うように、強引にキスした。
「ここは、俺達の家だから」
「うん・・・」
「じゃあ、さ。家に帰ってきたらなんて言うんだっけ」
顔を見合わせて微笑む。
「ただいま!」
声を揃えて言う、そして
「おかえり!」
もう一度、声を揃える。
ちょっと胸の奥がくすぐったくなるような気分。
心の中が見えたらいいのに。そう思うことはしょっちゅうある。
でも、見えないからこそ、それが垣間見えたときの喜びは大きいのかもしれない。
もしかしたら、俺が時々不安になるのと同じように美紅のほうも不安だったりするのかな。
だったら、心の中をすべて見せて安心させてあげたい。
2人分の靴を揃えてくれる美紅の横顔を見ながら強くそう思った。
「さっきはゴメンね、蒼くん」
え?ごめんって?
「あの、何が?全然心当たりがないんだけど」
「アヤカちゃんのこと。あたしってバカだよね、小学生に本気で嫉妬するなんて。蒼くんは小学校の先生になるんだから、子供に人気あることを喜ばなきゃいけないのに」
「え、あ、さっきの?あれ、からかわれただけだろ。10歳の子供にいいようにあしらわれて情けないな、俺」
美紅はどういうわけかくすっと笑った。
「蒼くんったら。でもそういうところが好き」
「あ、どうも。って、え、何が?」
「だからそういうところ・・・」
さっぱりわからない。
美紅といい、アヤカちゃんといい、女の子って謎だらけだ。
でも、まあいいか。
美紅に「好き」って言ってもらえただけで嬉しいなんて我ながら単純だとは思うけど、美紅も嬉しそうだし。
「じゃあ、ホームパーティ始める?」
「うん!」
At home・・・
そう、ここは俺達の家。
どうでもいいようなパートなんですが、実はここすごく苦しかったです。
書いては消し、書いては消し、の繰り返し。ある意味、どうってことないパートのほうが、クライマックス書くよりずっとむずかしいです。
美紅ちゃんの嫉妬に全然気付かない蒼くん。
らしいですよね。




