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夢を叶えて

 2003年10月10日午後9時8分。三ツ島遊郭浜風15階甲の間隠し事務所。中森始を探している男がいる、という情報があったのはウダウダ悩み事をしていた頃だった。その時は町の巡回は休んで栄の専属ボディーガードに戻っていた。栄が行くところ中森始在り・・・二年前大学を卒業した当時の状況に戻っていた。そんなある日、ハリー・ホプキンスより彩さんから電話があったのだ。

「俺と会いたいって?」

「そう。分かって欲しいんだけど、君に会いたがる人は結構いるのよ。その度に君も忙しいからって止めてるんだけど」

「そんな彩さんがそういう連絡を寄越すってことは・・・」

「お仕事を頼みたいんだって」

「俺は栄専属って言うのはご存知で?」

「勿論それは承知の上なんだけど・・・会ってみて良いと思う。ていうか会わせたい」

「・・・今の時間は無理だわ。栄の横に居なきゃいけない」

「いつなら良いかな」

「明日の昼以降。俺の家の屋上なら会っても良いよ」

「家!?」

「うん、いいよ。話くらい聞いてあげる」

「分かった。そう伝える」

「彩さんがここまで食い下がるなんて中々無いことだしな。応えられるかは置いといて」

「ありがとう、その約束でよろしくね」















「栄」

「?どうされました?」

「ちょっとお前の側離れるかもしれん」

「あらあら・・・」

「なんか嫌な予感がする」

「彩さんからの電話はちょこちょこあるけれど今日のはどんな電話だったの?」

「俺に仕事を頼みたい人間がいるんだって。彩さんの仲介だ」

「そんな事が・・・天変地異の前触れかしら」

「今までこんなこと無かったのにな。なんなんだろ」

「まずどうするの?」

「明日の昼にウチに来いって伝えた。話くらいは聞いてやる」

















 2003年10月11日午後2時。ランカスターマンション屋上テラス。その男、三沢誉が俺のマンションの屋上に来た時間である。俺は久し振りの快晴の天気だったのでリクライニングに座って日光浴をしていた。若い男だった。俺とそんなに年は変わらない。後で聞いたら一つ上だった。

「貴方が・・・中森始さん」

「如何にも」

「中々・・・お強いとお伺いしました」

「お褒めに預かり光栄です」

この間も俺は日光浴の真っ最中。ほぼ寝転がりながら応対した。こんな失礼なヤツだと分かればとっとと帰ると思った。そうすれば栄の側にいられるから。ところが・・・だ。

「貴方にしか出来ない仕事なんです」

「一人の人間にしか出来ない仕事なんぞ存在しません」

「ある人のボディーガードをやって頂きたいんです」

「私じゃなくてももっと良い人材はいますし、俺は今は浜風屋栄太夫の専属用心棒です。彼女をほっといて他の人間の護衛など出来ません」

「貴方以外には考えられない」

「だから・・・」

「そう「彼女」は言っています」

「・・・知り合いのバウンサー業の社長を紹介します。私の紹介なら快く引き受けてくれるでしょう」

「・・・!」

「フリーの私よりもそちらの方が組織的にしっかりして・・・」

入間組を紹介するつもりで話していた。その時。














ゴッ

「お願いします。貴方でなくてはならないのです」

「!ちょっと・・・」

Japanese DOGEZA。土下座である。久し振りに見てこちらがビックリしてしまった。思わず立ち上がり額を地面につけている彼のところに駆け寄った。

「おいおいちょっと・・・!」

「お願いします・・・」

「やめてください。私は貴方にこんなことをさせるような人間じゃない。頭上げてください」

「本気なんです・・・お願いしますっ」

「貴方にそこまでさせる女とは・・・」

「貴方のっ・・・」

「?」

「思い人だった人ですっ」

「・・・は?」




















 ヘンメルホルンマンション中央エレベータ。その「彼女」は中々良いところに住んでいた。都会の一等地の高層マンションの最上階。出来るだけ高いところで世界を見渡すことが感性を拓く鍵なんだそうだ。車はポルシェのボクスター986型最終生産型。白いボディには純正にはない種のパールが入っていた。煌めくその色は全てを包み込もうという過激な包容力を感じる。エレベーターは地上50階まで2分かけて上った。

「地震が起こったらどうすんの」

「ウイングスーツで逃げます」

「本気で言ってんのか」

「本気じゃないなら時間見つけてスカイダイビングしに行かないですよ」

「あいつそんなことしてんのか」

昔から「彼女」は突飛なところがあった。元箱入り娘だからなんでもかんでもやりたがった。ウチに来たら山を越え谷を越え・・・色んなところを駆けずり回っていた。実家の屋敷の瓦屋根に上って忍者ごっことかしていた。バイクに俺が乗り始めたら後ろに乗せろとせがんできた。実家に行くための山道を半分攻めたら面白がって下りもやれとか言ってきたそんな女が今や超高層マンションの最上階に住んでるらしい。それも俺にとっては「突飛な事」なんだけど。笑える。












 ヘンメルマウスマンション5001号室前。

「ここです」

「うん」




 ピンポーン

「「先生」。三沢です」

『入って良いわよ』

「どうぞ」

「へえ」

スリッパが並んでいた。いつも家の中は裸足だったのに。有り難く一足履いて中に進んだ。飾りみたいなのは無かった。唯一玄関には花が生けられていた。キッチンは片付けられ、料理をやる人間の整理の仕方に見えた。カップ麺さえ作り方を知らなかったのに今ではオリーブオイルに拘ってるらしい。リビングには食卓とソファーの前に大きな液晶テレビが置いてあった。でっかいテレビ、こんなんで何見るんだ。反対側の一角はトレーニングスペースらしい。サンドバッグとトランポリンが置かれていた。それとは別に仕事部屋がある。三沢がノックする。

「先生、入りますよ」

「どうぞ」

「中森さん」

「うん」

部屋は一面ガラス張り。都会の町を一望出来る。下の建物がまるで粒に見える。入り口の正面にはでっかい机。そんなにスペース必要なんか。必要なんだろう。左側の壁は本棚があった。置いてる本は自分で出した作品のみ。他人のものは全く無い。置いてあったのはドラえもんとその大長編、星新一の短編集だけだった。

「先生、お連れしました」











 


























「始君」

「おう彩希子」









 




 名前を呼びあったその瞬間全てをかなぐり捨て抱きついてきた。

「会いたかったよおおおおおお!!!!!!!!!!」

「俺も会いたかった」

「ごめんね忙しくってえええええええ!!!!!!!」

「スゲーじゃん彩希子。夢叶えたじゃねえか、えーっと・・・小川玲子先生」

「やめてええええええええええええ」






 独特の怪奇感を纏わせながら温かいハッピーエンドな長編小説を軸にデビュー三年目にして大人気作家。流行を作り出している新進気鋭の天才、小川玲子。その正体は俺のかつての恋人、富永彩希子その人である。















 ヘンメルマウスマンション5001号室リビングルーム。

「中々良いところに住んでんじゃん。流石は人気作家様ってところか」

「やめてよもう・・・始君は?どう?」

「相変わらず、しがないバウンサーだよ」

「好きでやってるの?」

「うん?」

「また・・・誰かの為に?」

「どうやらそれが、俺のしたい事らしい」

「ふーん・・・そうなんだ」

「彩希子は?やりたいことやれてんのか?」

「やれてるやれてる!編集さんとマネージャー・・・三沢さんね・・・が私の我儘聞いてくれてるから」

「華道はまだやってるんか?玄関に飾ってたな」

「あれお母様。月一くらいで送ってくるの。ドライフラワーになってるから結構保つ」

「へー」

「あっ、お茶入れるね?三沢さんもリビングに」

「分かりました」

入れてくれた昆布茶を俺は啜りながら三沢は鞄から幾つもの手紙を取り出す。

「脅迫状です」

「全部か」

「はい」

「ふーん・・・よし、片っ端からぶちのめすか」

「始君。私が気にしてると思ってるの?」

「いや?ただ個人的に腹立ってるだけ。ちきしょう、やっぱり差出人は全部書いてねえか、当たり前だけど」

「ぶっちゃけそれらは貴方をお雇いする決め手ではありません。しかし差し出された期間が全部同じ時期なんです」

「同じ時期?」

「先月刊行した新刊、化石の城が出てからなんです」

「俺知ってるよそれ。良かったけどな」

「ところが発行部数的には過去ワーストなんです」

「まだ先月出たばっかりだろ」

「私ね、今のところ1ヶ月ごとに新作出せてるんだ」

「・・・?彩希子の小説結構長いよな。そんなポンポン新しいの出せるもんなんか?」

「正直先生の執筆速度は業界でもかなり早いほうです。なのでだいたいの日数で幾ら売れたかっていうのがあまりにも分かりやすいんです」

「化石の城の売り上げのペースは過去作に比べて遅いのか」

「他の作家さんよりもかなり少ないですね。勿論書店への納品も印刷所の発行も遅れてはいません」

「問題は出来、というかお話なの」

「おお、そうだ。あの話、結局誰も幸せになってねえ」

「今までの先生の作品のキャラクター達は皆何かを抱え、それを解決する事によって成長し、未来を明るくする事が特徴でもありました」

「ところが今回はちょっと実験してみたの。今までとちょっと作風変えてみようかって」

「私も編集部も一回やってみるかと賛同したんです。ところが・・・」

「成功どころか批判の的になったと」

「あたしのファンって言ってくれる人、恥ずかしいんだけど自分達のことをレイリストって言ってるみたいで・・・」

「またそれが過激でして・・・「こんなのは我々が読みたい小川玲子では無い」とか」

「ホントだ書いてる。「こんなもの忘れて次回作期待してます」ってか。やっぱりぶちのめそう」

「つくづく実感したわ。レイリストって定食しか食べないのかって」

「ガラッと作風変えたもんな!和食にいきなり豆板醤入れたみたいに!俺は好きだけどな」

「まあ別に言いたい奴らには言わせとけば良いのよ。私は私の為に書いてるんだから。それでお金が発生してるんだから大満足よ」

「ところが言いたいだけじゃ済まない輩もいるみたいで・・・」

「ほお」

「本屋さんに特集コーナーで置いてくれてた化石の城が何者かによって燃やされたの」

「うえー」

「お陰でまあまあ燃えるしそれに反応したスプリンクラーで周りの作家さんの本が水浸しになっちゃって・・・」

「それが先週三件。同じ日に」

「嘘だろ」

「監視カメラなんて高級品はまだまだ普及してないもんで犯人もまだ捕まってなくって・・・」

「私の判断でいつか先生の周辺が危険に晒されるかもしれないと思いまして・・・それで」

「俺を呼んだと」

「いえ、その前に・・・」

「TDFを呼んでくれたの」

「TDF・・・?ほーん、間違いないじゃん。俺いるか?」

「中森さん、TDF知ってるんですか・・・?」

「うん、まあ」

そう言いながらチラリと彩希子の方を見やる。笑いを堪えているようだった。全く・・・。






 

 身辺警護専門警備会社TDF。名前の通り個人警護に特化した警備会社で各界の著名人や大会社の経営者を顧客としている。警護部門に加え、諜報部門、独自の装備開発を行っている科学技術課が存在する。「俺」が言うのもなんだが日本でも随一の規模と値段を誇る。

「実は私、TDFから出向して先生のマネージャーをやらさせて頂いておりまして」

「あ、そうなの?」

「はい。我が社の取締役の命で当社と昔から縁があると言う先生をお守りせよと」

「ふ、ふーん。因みに警備体制はどうなっとんのかね」

「はい、実際の警護は警護四課がローテーションで。周辺の情報収集は諜報二課がそれぞれ行っております」

「ふーん。ZATとMACか」

「!?・・・えーと来客対応は警護四課・・・ZATが行い、それを二課・・・MACがカメラで監視しています。但し私が入る場合はZATは出てきません」

「ここによく出入りするのはどんな人がいるの?」

「私と編集者ぐらいですかね。買い物は我々が行いますし」

「外には出ないようにはしてるよ。みなさんに迷惑かけないように意識はしてる。買い物くらいしか我儘言ってないよ」

「良い客じゃん。良かったね三沢さん」

「?・・・そうですね!」















「ただいま帰りました~・・・」

「?誰?」

「あっ、おつかい頼んでたの。ZATの人に」

「ふーん」

「東さん。お疲れ様です」

「いえいえ全然・・・・・・あれ」

「あっ、紹介します。こちら新しく雇い入れたボディー・・・」














「若!!!!?」

「ぷっ」

「ふふ」

「・・・?」

「あははははは!!!!!!」

「えっ、えっ?」

「そっ、そっかー。三沢はまだ若の事知らないのか・・・」

「なんの話ですか!?」

「若。お久しぶりです。お元気そうで」

「東さんも元気そうだね。最後に会ったのいつだっけ」

「若が大学卒業する前ですから1年半前くらいですかね」

「今日は他に誰が来てるの?」

「朝比奈課長です。あとでお会いになられては」

「そうだね。そうしよう」

「???」

「そろそろ三沢さんに説明してあげたら?」

「あ、そうですね。三沢、この中森さんはな」

「????」

「ウチの会長のご子息であらせられる」

「武家か」

そう。TDFの会長、中森美和は俺の母親である。最近は実家に帰ってないから新しく入った人は俺の事を知らない人も多い。

「言ってくださいよ!」

「知らんかったし」

「私も聞かれなかったし」

「まあ知らんわな」

「なんだよお~っ」

「身内なら俺も安心だわ。バッチリ守ってやるよ」

四人でお茶をしばいた後、MACが使っている部屋に向かい打ち合わせをすることになった。MACもローテで来ており、この日は鳳と課長補佐の佐藤が来ていた。























 ヘンメルマウスマンション4908号室。

「・・・そいでさ。ぶっちゃけどうなの」

「ぶっちゃけ・・・ですか」

「実力行使は無いわけ?」

「・・・それが」

「あるんだな」

「お嬢には伝えてませんが・・・編集さんの一声でまだお伝えはしてません」

「作品に影響あったらどうすんだって?まあそりゃそうだわな」

「なんなら三沢も嫌がらせがあることは最初黙ってたんです。でも・・・」

「送られた手紙に剃刀が仕込まれてまして。それのせいであいつ右手を怪我してしまいましてね。そこからのお嬢の名推理が発揮されて事が発覚しました」

「三沢もこれはいかんと我々に頼ったわけです。あいつはそういうことが出来るやつですからな」

「ふーん。で、朝比奈さん。そういうのは結構多いの?」

「二週間前は小型の爆弾が入った万年筆が送られてきました。キャップ取ったら爆発する仕掛けです」

「何だと・・・」

「我々が来てから宛名の無いモノは基本開けずに本社に回して解析にかけてます。物品関係も編集社を通していない物に関しては同様です」

「出前も全くとりません。最近はお嬢が自分で作られてますし、追い込みの時は我々がお作りしています。材料も我々が買ってきますし」

「外に出たいとかそんな我儘言わないか?」

「全く言わないです。流石若がお慕いになられた方です。その辺は落ち着かれてます・・・ですが」

「?」











「今度書店でサイン会やるんです」

「嘘だろ」

「本当です。編集さんにも言わせて頂いたんですが・・・」










 

『こんな状況で危険が迫ってるのにサイン会なんて・・・!』

『皆さんがいれば大丈夫でしょ。お願いしますよ』

「てな感じで・・・」

「それいつだい?」

「明日・・・」

「嘘だろ」

「流石にローテの人員だけじゃ足りないってんで三沢が急遽ボディーガードを探しにいったんです。若を導く為にお嬢は三沢にヒントを出されたと」

「黒刻町に行けと。腕の良い用心棒稼業をしている男がいるはずとも言われました」

「運命・・・なんかな。まっ、光栄だね」

「我々もビックリしました。まさか若にお声がかかっておられるとは」

「ふふ・・・で、サイン会ってのは何処でやるんだい」

「本町の青龍堂書店です」

















 2003年10月12日午後1時。青龍堂書店イベントホール。

 サイン会は大盛況だった。更にトークショーもやることが寸前で決まった時はビックリした。元々ベシャリが上手い彩希子。ファンの目の前でのトークはそれはそれは盛り上がったが護る側的には正直勘弁してほしかった。何せ体全体を晒してしまうのと護衛の人間が側にいることが出来ない。無防備という言葉を体現してしまっている。癪だが袖でいつでも飛び出せるように待機するしかなかった。








「それでは今後はどのような作品が出来るのでしょうか?」

「うーん、そうねえ・・・私は常にやりたい、表したい事しか書いてないからねー。昨日実は1本書き上げたんだけど」

「えっ!新作ですか!?」









「捨てたわ」

「すっ、捨てた・・・」

「そっ!書き終わってから自分で最後まで読んでみたけど、全然面白くなかったわ!あはは!!」

「えっ、え~っ?」

「まあ次は面白く書くよ!次回作、期待してね!」

「とっ、ということで・・・小川玲子先生のトークショー、これにて終了です!お集まりの皆様、ありがとうございました!!」

「またね~!!」















 



 青龍堂書店イベントホール出演者用楽屋。

「お疲れ」

「始君」

「最後のワザとだろ」

「ブラフになったと思わない?これで犯人が見てたら心掻き乱されたハズ」

「変わったなお前」

「?」

「昔は自分が産み出したモノは自分の子どもと同義って言ってたのに。そんなこと言うようになったんだな」

「・・・?なにそれ、そんなこと言ったっけ」

「はあ・・・」

ぶっちゃけ余計な一言だったと思わなくもない。
























 

 青龍堂書店イベントホール出演者用楽屋前廊下。

「三沢さん、まだ終わってないからね」

「勿論です。家に帰るまでが遠足ですから」

「分かってるじゃん」











 


「始?」

「?」

「始じゃん!」

「山本さん!」

「久しぶりだなーっ!」

「山本さんこそ!元気ですか!?」

「元気元気!仕事か?」

「はい!山本さんも?」

「午前中にあの直木賞受賞の一鉄斎先生のトークショーがあってな。最近物騒だから護衛の仕事を貰ったんだ」

「そうだったんですか」

「そっちは?」

「小川玲子の護衛です」

「ホットスポットじゃねえか。気をつけてな」

「山本さんは専属ですか?」

「いや、今日1日だけだ。しっかりやれよ?」

「ありがとうございます。気を付けて」

「おう!」











 


「今のは?」

「山本周作さんって、同業の先輩。違う会社だったけど、色んな現場で一緒になって世話になったんだ」

「そうだったんですか」

そんな時だった。係員の女性が声をかけてきた。

「あのーすいません」

「はい、なんでしょうか」

「お客様からのファンレターを今頂きまして・・・どうしましょうか」

「!!?」

「・・・っ、それ・・・先生には見せてないですよね?」

「?はい。まずはマネージャーの方にお渡しするのが筋かと思いまして」

「先生は今控え室で帰り支度中・・・」

「三沢さん」

「自分が開けます」

「・・・」

「・・・」

「?」



ペラリ



「っ!」

「・・・!」

「???」

「!」

「どうしたっ!?」

「????」

「大丈夫です、ただのファンレターだ。これくれたのは?」

「?中学生くらいの女の子です」

「なっ、な~んだ・・・」

「ふう~・・・」

「お二人ともどうしたんですか?」

「ああいや、何にも」

「では我々はこれで」

「この度のサイン会に加えてトークショーまで・・・大変お忙しい中ご苦労様でした!先生にもまたよろしくお伝えください!!」

「いえ、こちらこそ。では」






















 


 青龍堂書店イベントホール出演者用楽屋前。

「ただの手紙にこんなにビビらなければならんとは。辛いね」

「ホントですね~」

「彩希子、入るよ」

「はっ、始君・・・」

「?どうした」

「これ・・・」











 













貴女の存在を認めない

















楽屋の鏡にスプレーで書かれていた。

「!」

「今すぐ出るぞ」

「うん」

「三沢さん、東さんに連絡。直ぐ裏口に車回して!」

「はいっ!」

「彩希子、顔隠せ。こっちだ」

「うんっ」



パアンッッッ

「?」




銃声一閃。




「!」

「彩希子」

「怪我は無い!」

「俺も大丈夫です」

「三沢さん、彩希子を頼む。俺は・・・」

「任せてください!!」

「うん。気をつけて!!」

狙って撃ってきた。中の惨状に気がついて慌てて出る俺達を狙ったのだ。俺もまだそこまで頭が回らない。外したのはスーパーラッキーだった。


 ついに出てきやがった。銃声が聞こえた瞬間、黒いコートの裾がチラリと見えた。

 空気を切り裂いて自分の足を前に進める。前へ前へ前へ。


 角を曲がると黒いコートに黒い帽子、グロック17を握った黒い手袋をした男が走っているのが見えた。グロックを認識した瞬間それは奴さんの懐にしまわれた。


 両手を降って加速をかけ、逃げにかかった。それを全力で追い・・・かけるが通路は人でごった返していた。

 二つ目の角を曲がったところでその距離はかなり離れていた。


 それと警護対象が最優先ということもあり俺は引き返して彩希子達と合流することにした。




裏口を出た先は・・・

「先生が出てきたぞ!!!」

「小川先生~!!!!」

「レイリスト万歳!!!!」

「握手して!!!!」

大勢の出待ち。それに囲まれる二人。ヤベえ。今こそ俺のパワーを発揮する時だ。力づくで人波を掻き分け二人に近づいていく。

「どけどけどけ!!!」

「きゃっ!痛い!!」

「さっ・・・先生!」

「始君!」

「始さん!」

「どけ!痛い目見るぞ!!」

「何だあんた!!」

「喧しいっ」




「どけどけどけ!!!」

A31セフィーロが群衆を掻き分けるように現れた。ZATの専用車両である。

「東さん!」

「若!三沢!乗れ!」

「だーっ」

彩希子は俺がキープしていたので後席に飛び込む。このセフィーロはタクシーのように後席のドアを運転席側で明け閉め出来るのだ。そして三沢は開いていた助手席の窓に頭から飛び込んだ。上手いこと東が受け止め座らせる。

「この~っ、しょうがねえっ」

ブアーーーーッッッババババババババババババ!!!!!!!!!!!!!!!!。

RB25DETのチューニングエンジンを乗せたセフィーロのバーンアウト。後輪から白煙を巻き上げる。

プアーーーーッッッッッッッッッ!!!!!!!。けたたましくクラクションを鳴らす。

「今だ!」

「捕まれっ」

怯んだ群衆の隙をつき間一髪抜け出す事が出来た。
















「ふーっ」

「賊はどうなりましたか」

「逃げられた。距離も開いてたし彩希子が優先だ。二人とも怪我は」

「それが無いんですよ。さっきの群衆に捕まれたり引っ掻かれたりってだけで」

「不思議だ」 







「まだ追いかけてくる」

「人気者だねえ」

「よくこうやって顔出しするんか」

「出来るだけ」

「一段落するまでセーブしなきゃなあ・・・」

「しょうがないね・・・」 

「レイリスト万歳だって。おめでたいやつらだ」

「そんなこと言わないであげてよ。私の本読んでくれてる人達だよ」

「小川玲子の本を読んでる私達万歳って言ってるんだぞ。お前を褒めてるわけじゃない」

「そうかな」

「お前の事見ようともしてないやつらなんだよ。イライラするわ」

「・・・?怒ってくれてるの?」

「・・・読むやつらなんか気にすんなよ。面白ければ買うし面白くなけりゃ買わないんだから」

「そのつもりですー」















 会話しながらあの状況を冷静に思い出す。俺達が出てきたのは出て直ぐ廊下に出る部屋。賊が待ち構えていた角から部屋の入り口までは約3メートル。外す距離ではないし絶対に誰かしらに当たるハズ。なのに俺達三人に怪我は無い。

 二発目が無かったのは防御姿勢から追撃に移行する俺の動きが速かったから。敵は追撃で俺を仕留めるよりも逃げる事を選んだ。何故だ・・・?殺す事が目的ならこんなに格好の的は無い。だって角に向かって真っ直ぐ突っ込んで行ったからだ。にも関わらず二撃目は無かった。俺を狙う必要は無い。目的は彩希子の筈。俺なんて制圧してとっとと彩希子を狙いに行けば良い。させないけど。

俺を見て・・・逃げたのか?いやいやいや。そんな烏滸がましい。無い無い無い。










 













だが・・・もしそれがマジだったとしたら・・・。

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