標的はあなた!!
2003年9月18日
いつもの日常が広がる黒刻町。町行く通行人に声をかけるキャッチ。賑わうメインストリート。行きかう夜の蝶達。久しぶりに来た夜の街に心躍らせる客。だが誰も彼もどこか物足りない、そんな心持ち。そう、彼が町に顔を見せなくなってから・・・。
黒刻町メインストリート。
「最近中森さん見ねえな」
「あー、栄太夫の専属に戻ったって」
「え、なんで・・・いや、元の形に戻ったわけか?」
「知らんけど、こないだの騒動があってから表には出てきてねえから・・・人が一人死んだんだし、思うところもあるんだろう」
「俺いつもここで挨拶させてもらってるんだよな・・・結構寂しいな」
「な。あの人俺らに滅茶苦茶優しいもんな」
「今何してんだろ」
「栄太夫とよろしくやってる・・・って思いたい」
「逆にそうしていて欲しいわ・・・」
バー・バンシイ。
「最近始君・・・来てくれないのよね」
「あの黒刻町の用心棒・・・どうしちゃったんだ?」
「こないだの騒動が片付いてから町でも見かけない・・・元気だったら良いのだけれど」
「心配なら早終いして見てきてやれよ。暗い顔のママも心配だ」
「そうねえ、たまには浜風に行って栄太夫と始君とお話するのも良いかもね」
ハリー・ホプキンス。
「彩。始とは連絡とってないのか」
「支配人。うん、電話には出てくれるけど・・・あんまり元気無さそうなの。ねえ、一回改めて招待してみない?営業とか抜きで」
「それも良いな。たまにはみんなでパーッとやるのも、良いかもしれんな」
「でも・・・来てくれるかしら」
「ふーん・・・」
「ルミに一回様子見てきてもらおっか」
「任せて良いか?なんだかんだ心配だ」
「わかったわ」
入間組事務所。
「始、うちの仕事は続けてくれるの?」
「いや、一回休ませて言うてきましたわ。始の旦那がそんなこと言うなんてよっぽどの事でっさかいな。あんまり外にも出ていかんて浜風の方からも言われまして」
「ふーん・・・」
「こないだの事、堪えたんとちゃいますか。いつでも復帰してエエからとは言うといたんですけど」
「やっぱり堅気だしねえ・・・」
「組長、たまには始誘って酒盛りしませんか。もうすぐ夏ですし、バーベキューでも」
「そうねえ」
「大悟は何か聞いてないのか?」
「俺も最近は全然会わないですね。家にも帰らず、ずっと浜風に引きこもってるって」
「あのアクティブな始さんが?」
「心配ね・・・」
「大悟、一回様子見てきてくれる?あれからしばらく経ったとは言え全然外に出ないなんて流石に心配するわ」
「そうすね、じゃ、行ってきます」
黒刻町メインストリート。男を心配して駆ける二組の脚。目指す男が一緒だからなのか二人は出会う。
「あら、貴女・・・坂田ルミちゃんでしょ」
「そう言う貴女は・・・マダム摩子さん!!?」
「こんばんわ。彩からあたしのこと聞いてるみたいね」
「色んな人から聞きます!本物だ!」
「あらやだ照れるわね。本物だなんてそんな大袈裟なものじゃないんだけど・・・ところでハリー・ホプキンスは?仕事じゃないの?」
「実は、彩さんから始さんの様子見に行ってきてって言われて。今向かってるところです」
「あら偶然。あたしも彼に会いに行こうと思って。よかったら一緒に行かない?」
「えっ!あっ、いや。なんというか・・・」
「?」
「おっ、会瀬の邪魔するのは・・・」
「あはははは!!大丈夫よ、会瀬に行くならそもそもこんなところで人に声かけないわよ。ちゃーんと栄にも会いに行くんだから」
「な、なーんだ・・・あはは」
「決まり。一緒に行こっか」
「はい!」
「よし・・・あれ。あの子」
「?」
「大悟君だ。大悟くーん!」
「摩子さんじゃん、ルミちゃんも。何やってんですか?」
「お疲れ様ですー」
「大悟君じゃん。何してるの?」
「組長の命で始の兄貴の様子を見に・・・」
三ツ島遊郭浜風屋正門前。奉公人のツートップ、紫電と雷電は来客に呼び止められる。
「こんばんわ雷電に紫電。串田さんいますか?」
「おわっ!マダム摩子に入間組の円に人気急上昇中の坂田ルミちゃん!どんな組み合せすか!!」
「写真に納めたい・・・」
「串田の親父なら帳簿とにらめっこの最中です!」
「ごっ、ご用件は・・・」
「始の兄貴に会いに来ました。店に引きこもってると聞いて」
「あのっ、始さんはお元気ですか」
「紫電」
「正直あんまり元気無さそう・・・みんなが会いに来たって言ったら喜んでくれるかも・・・」
「会える?」
「大丈夫だと思いますよ!俺らとも普通に話してくれるし」
「なーんか並みのテンションじゃ帰って空気悪くなりそう・・・よーし!」
「「「「?」」」」
三ツ島遊郭浜風屋15階甲の間。
「・・・」
「始様。お酒のお味は如何ですか?」
「・・・わかんない」
「始様が好きな味だと思って仕入れてみたのですけど・・・」
「大丈夫。美味しいのは分かるから」
「でも・・・?」
「?美味しいよ」
「でもでも・・・?」
「・・・。それ以上言えって言われると・・・辛いな」
「うーん。お口に合わないのかしら」
「旨いって。外してないよ、流石は栄」
「でも・・・当ててはないんでしょ?」
「そろそろ怒っちゃうぞ?」
「あらあら・・・やっと笑ってくれた」
「?そんなに俺の笑顔久し振りか?」
「自覚無いの?ここ最近ずーっと呆けたような顔しかしてなかったし、と思ったら難しい顔するし」
「全然自覚無いわ」
「まあでも、たまには悩んでも良いんじゃない?」
「そうかなあ」
「迷い無い始様も素敵だけど悩んでる顔も素敵よお」
「そんなもんかねえ・・・」
「まだまだ若いんですからいっぱい悩んで良いのよお」
「ありがと」
「太夫、よろしいでしょうか」
「あら銀河ちゃん。今行くわ」
「・・・」
「あらあらあら。どーぞおいでやすって言って」
「分かりました」
「・・・?」
「始様。皆に心配かけすぎたみたいね」
「あー・・・そうなあ。全然外出て無いもんなあ」
「入って良いわよお!」
「?」
「「「お疲れ様でーす!!!!!!!」」」
「!?」
「始くーん、元気い!!?」
「マダム!」
「兄貴心配するのはどこも一緒みたいっすねえ!!!」
「大悟!」
「お疲れですか!?私が癒して差し上げます!!!」
「ルミちゃん!!?」
「雷電紫電が喜んでくれるって言ったからあ・・・図々しく来ちゃったよお!!!」
「でも素面のテンションで行くと変な空気になるからって摩子さんが一杯引っかけてから行くって、聞かねえからー」
「ご馳走さまでしたマダム!」
「良かったわね、始様」
「・・・ったく」
「摩子さん、太夫、ルミちゃん。この人の次の台詞はぁ・・・?」
「「「「しょうがねえなぁ!!!」」」」
「しょうがねえなぁ・・・!大悟!」
「わーい!」
「そーれ乾杯!!!」
「「「「乾杯!!!」」」」
「かーっ、旨いっ。そーだ。うちの組で今度BBQしようって宗像さんが言い出したんすよお。皆で行きません!!?」
「えーっ良いなあー!私も良い!!?」
「そんなこと言うんならうちのお店だって今度皆さん呼んでパーティーしよって企画してるって聞きましたよぉ!!?」
「行きたいー!!!」
「でも俺には分かる。ルミちゃんとこもそうだけど・・・?」
「これも全てぇ・・・?」
「「「中森始のせい!!!」」」
「俺かよっ」
「そーですよぉ。彩さんも支配人も最近湿っぽいしい」
「うちの組なんて凍えてますよ。チョー寒い!!!」
「あたしの店だってお客様が心配してるんだよ!最近あのお兄さん見ないなあって!」
「なんか悪いなあ・・・」
「兄貴はこの町にとって今やっ、大事な存在であるっ!!!」
「よっ、その通り!!」
「しかししかししかししかし!!!兄貴はそれを分かってないっ!!!」
「そーだそーだ!!!」
「悩むんなら悩むって言ってくださいーっ!!!」
「太夫だってそう思うでしょーっ!!?」
「あたしは・・・1日中始様を一人占めできるから・・・」
「ズルいっ!!!」
「俺達だって兄貴と遊びに行きたい!!!」
「私も始さんと呑みたいっ!!!」
「ルミちゃん」
「組長だってずーっとボンヤリしてんですから!」
「彩さんだって仕事終わったら腑抜けになってます!」
「あたしだってボンヤリよお!」
「いや、俺だって外には出て・・・」
「でも始様、敷地外から出ないじゃない」
「兄貴が良くした町ですよ!?空気ぐらい吸いに来い!!」
「吸ってんじゃん」
「町に出てこいって言ってるのよお!!」
「うへえ」
「ほーらあ。始君タジタジぃ」
ぐでんぐでんと時は流れ・・・。
2003年9月19日午前4時3分。三ツ島遊郭浜風屋15階甲の間。
「大悟とルミちゃんは潰れたか・・・」
「だーいぶ飲んだもんねえ。二人とも頑張ってたよ?」
「悪いなあ」
「そこは嬉しがってよ」
「うっ」
「そうですよお。折角黒刻町四女神の二人が揃ってるんだから」
「?太夫なにそれ」
「知らないのマダム。あたし達そう呼ばれてるらしいのよ」
「えーっ、知らない。後の二人は?」
「彩さんとぉ、組長」
「誰だそんなこと言い始めたの」
「作者。キャラ付けだって」
「なにそれー」
「俺も言ってる。別嬪だから」
「じゃあーあたしの後釜はルミちゃんだな!」
「あたしはまだまだ負けませんわよー!」
「姦しいに更に女付け足して・・・」
「「なんか言いましたぁ!!?」」
「いーえ何も」
三ツ島遊郭浜風屋一階玄関。
「ごちそーさまでしたー。二人はおいていくわー」
「ありがとね、マダム」
「また来てくださいな」
「まっ、何かあったか・・・まあ皆知ってるけど。良いじゃん、悩め若人!!」
「栄にもそう言われたな」
「いっぱい悩んで良いんですから」
「何に悩んでるとか聞かないし」
「・・・」
「また黙る」
「折角美人二人が相手してくれてるんだぞぉ?もっとハメ外してくれるう?」
「やめろよ抱きたくなってくる」
「キャー!所詮雄う!!」
「うるせえ・・・」
「じゃっ、また来るわあ!!彩と組長には連絡しとくからあ!!!」
「マダム」
「?」
「ありがとね。ちょっと元気出たわ」
「ゆっくり。ゆっくりで良いんだから」
「うん」
「じゃあねえ!!」
「大悟君とルミちゃんは別々の部屋に寝かせてますから」
「うん。ありがとう」
「どうします?もう少し呑みます?」
「いや、もう寝よう。栄は?仕事大丈夫?」
「今月は当分頑張らなくて良くしてますので」
「そうか。久しぶりに一緒に寝るか」
「良いんですかあ!わーい!!」
「寝よ寝よ」
彩雲会直系入間組本家正門。
「あっ、アンタはっ!!」
「マダム摩子!!?」
「こんばんわ・・・じゃなくておはようございますか。入間組長いる?」
彩雲会直系入間組本家組長室。
「うちの大悟がお世話になったみたいで・・・大丈夫?」
「おかまいなくー、水商売してるしこれくらい日常茶飯事・・・って言いたいところだけど。やっぱ始君酒強いわー」
「お水飲んで。大悟は・・・聞くまでもないか、摩子がそんなになってるんだから」
「絶対怒らないであげてね、私含めてあの三人についてこれる人間なんてそういないんだから」
「分かってるわよ」
「大悟君の代わりに、ご報告をば」
「あら」
「始君。まだ本調子じゃないわ、まあまあ重傷ね」
「それは・・・自分が関わった人間の死を引き摺って?」
「いや、それだけじゃない。多分それに関してはずっと向き合っていくつもりなんだろうっていうのは彼を見て感じた」
「じゃあ・・・」
「聖快教が関わっていたとされた・・・」
「BLACKSATURN・・・」
「それでしょ。彼と組織の間にどんな縁があったかは聞いてないけど」
「中学最後の時期に初めて相対したらしい・・・。その年で犯罪結社とやりあうなんてまるでお話の世界」
「戦う事で組織の巨大さを実感したと」
「その組織がまた現れた。でも今度はあたし達がついてる」
「でも彼はそれが辛い」
「彼は自分が傷つくより他者が傷つく事の方が辛い男。私達がBLACKSATURNと中森始の戦いに巻き込まれ、それによって傷ついていく様を見るかもしれない。私達を失うかもしれないのが・・・辛い、と?」
「あの子ならそう考えてると思う」
「これは舐められてるの?」
「流石に違うでしょ。彼はそんなこと思わないのは」
「私もよく知ってる、けど」
「仲間を失うのが怖い。あの子はずっとそう思いながら今まで戦ってきたのよ。それがあの子の弱さであり強さ。私達があの子に惚れてる部分でもある」
「あの子見てると口から砂糖が出てきそうなくらい優しいなあって、そう思う」
「もしこの先あの子がここを出ていく日があったとして、私達は彼をキチンと送り出してあげなきゃいけない。それくらいは最低限思っておかないとね」
「そうねえ」
「まっ、あたしの所見はそんなところってことで」
「ありがとう。今度お店、お邪魔させてもらうわ」
「シャンパン冷やして待ってるわ、じゃね」
「ふーん、そんなやり取りが」
「みんな心配してんだぜ。応えろとは言わないが・・・」
「わかってるよ」
「愛されてるんだよ、お前は」




