外伝 狙われた女
1996年2月24日。中学最後の冬。
もうすぐ春だというのにあんまりに寒かったのを今でも覚えている。
その日私は昼間まで高校でやるつもりのバレーボールの練習をしたあと当時のガールフレンドである富永彩希子が遊びに来たので自宅で二人で過ごし、夕方頃彼女を家まで送り届けるといういつもと変わらない休日を過ごしていた。
「ありがと始君、また明後日学校で」
「ああ、そろそろ卒業だから、生徒会の引き継ぎ業務手伝ってくれるか」
「わかった、準備しとく」
「じゃ、また」
そう言って富永宅を後にした帰り道。道の真ん中にそれは落ちていた。
ペンダントだった。平たい円盤のような形で表面は複雑かつ精巧な模様が型取られており、裏には一言
「ま、い、ら、MYRA?」
とだけ書かれていた。今思えばそのまま交番に届けるのも一つの手だったかもしれない。
だが私はそれを持ち帰った。
かなりの作り込みに見えたので細かいところまで見てみたいという欲求に駆られたのだ。
家に帰り、そのまま部屋に引きこもった。
顕微鏡を取り出してレンズ越しにペンダントを見る。見た所この模様は型取りしたものではなく彫りで作られている。なんと細かい造形であろうか。
しばらく見ていると私は気付いた。
なにかしらスイッチのようなものがある。
肉眼では見えないほどのサイズだ、こんなものをスイッチと呼んで良いのだろうかは分からないが押してみたくなった。ピンセットで試したがピンセットの先ですら大きく、かなり細い針で押してやる。
「あ、開いた」
どうやらロックが外れたみたいだ。するとペンダントは真っ二つに割れた。顕微鏡ですらその継ぎ目には全く気付かなかったのにそんなことってあるだろうか。
と、突然
「なに見てるの?」
「わっ、母上。いつから覗いてたの?」
「あなたがピンセットから針に持ち変えたときから」
「結構みてるな」
「ねっ、ねっ、なに見てるの。アタシにも見せて見せて」
「ペンダント、道で拾ったんだ。凄い作りしてるから見たくなって持って帰って来ちゃった。明日警察に届けるよ」
「どれどれ・・・ほおーこれはよく出来てるわね。国内じゃ見ることはできない模様だ・・・割れてるじゃない、壊したの?」
「いや、肉眼では見えないほどのサイズのスイッチがあってさ、針で押してみたらロックが開いてこの通り」
「中になにか入ってるわよ、取り出してみよっか」
そう言って母はピンセットで中のものを出した。キラキラ光る宝石のような物体だった。1ミリもないような大きさのそれが約30個ほど入っていた。
「なにこれ、粉?」
「なんだろこれ・・・どうも金属らしいけど・・・こんなのアタシでも見たことない」
「とにかく元に戻そう。届けるのは交番じゃなくて近くの大学の研究室がいいかもね」
そういいながら入っていたものを元のところにいれていく。ピンセットで掴むには割りと大きかったから苦労したが直ぐに全て入った。割れたペンダントも合わせ目を合わせるだけですぐに固定された。なんなんだこの技術。
「そうね、アタシの大学の先生に見てもらいましょうか、地質学の先生なんだけどあなた会ったこと無かったっけ、日下部先生」
「前にもお話聞きに言ったじゃん「黒刀事件」の時に。あの先生でしょ」
「あとで電話しといてあげるから、明日行ってきたら?先生も歓迎してくれるわよ」
「そだね、ところで母上。なにか用事だったんじゃないの?」
「あ、そうだ。ご飯よ、一也も待ってる」
さて、夜も更けた頃。
どこからかカチャリカチャリと音がする。この音は・・・。
家の塀の瓦を踏んだときに鳴る音だ。昔よく登ってはその上を歩き回った。その時に鳴る音。動物が歩いている音じゃない。人間だ。敷地内に侵入者が入ったようだ。
私は隣の母の部屋に面している壁を四回、軽くノックした。この場合それは不審者が入ってきた事を意味する。
一回なぞる音がした。母上である。こう来た場合対処は決まっている。
私は枕元に置いてある愛用のアイアンバトンー当時の武器。家の裏山で採れた鉄で作った太鼓のバチよりちょっと細い短棒ーを両手にもち、ドアを静かに開ける。我が実家の廊下は真ん中だけ軋む音がわざと鳴るように作られている。昔の忍者屋敷と同じように侵入者が今どこにいるのかがすぐ判るようになっているのだ。私の部屋の反対側からその音は鳴って来ている。
キィ・・・キィ・・・キィ・・・
だが直ぐに仕組みに気付いたのだろう、音は鳴らなくなった。床に耳を付けてみる。微かに摺り足の音がする。その様子から察するに真っ直ぐ私の部屋を目指しているようだった。
なにを狙っているのだ?答えは簡単。拾ってきたペンダントだろう。やはりあれは訳ありの品のようだ。この状況だとそうとしか考えられなかった。
物取りなら台所の引き出しを開け閉めする音が聞こえるはずだがそんな音は一切していない。寧ろ賊は侵入してから真っ直ぐこちらを目指して向かってきている。
私か、母と一也の部屋に目的があるとしか思えない。どうしてくれようか。こちらから攻めに行くか?いや、折角だから部屋に入れてやろう。話くらい聞いてやる。
私はドアを外から見られないように、しかしゆっくり静かに開け、ペンダントを机に出した。
チェーンの一部が赤く光っていた。これが発信器になってるんだな、チェーンにまでは目が行かなかった。
私はブツを机に置いてドアの壁際で待った。
大人になった今でもこういう状況にはどうしても慣れない。かくれんぼの鬼が自分の周りで自分を探してる時の感覚。例の如く流れる時間が長い。
時計が全く動かない、壊れているのかとか思ったりもした。秒針を見ると心が少し落ち着く。ちゃんと動いているのが確認できた。
摺り足の音は部屋に近づくほど普通に耳でも判るようになってきた。
その時、一瞬キィ・・・と軋む音が聞こえてしまった。向こうはミスを犯したのだ。
と、同時に私の緊張もMAXになる。人類初の月面着陸時、ニール・アームストロングの心拍数は150を超えたと言うが、もしかしたら私もそれくらいまでいってたかもしれない。
スッ・・・と、ドアが開いた。入ってきたのだ。
賊の姿が見えた瞬間私はドアを閉め電気をつけ、「Hold up!」と叫んでやるつもりだった。しかしそれではドアを掴まれ、そのまま逃げられてしまう。直ぐに出られないポジションにいるのでそれは不利と悟り、部屋の真ん中に来た時点でやってやろうと考えた。壁際の布団には念のため色々なもので人形をつくり、あたかも誰かが布団にもぐって寝ている風に見えるようにしてある。時期的にもぐって寝ていても不思議ではないのだから。
賊はそれを確認した。甘い。布団めくらんかい。
その瞬間私の筋肉は躍動する。ドアを閉め、電気をつける。そしてこう言ってやった。
「HOLD UP!!」
けたたましい叫び声が家中に響いたとともにアイアンバトンを背中と首に押し付けてやる。相手はおとなしく手を上げた。女の声だった。
「私ハ普通ノ家二入ッタツモリダッタノダケレド、ナンナノコノ家ハ、罠ダラケジャナイ。色ンナトコロカラ音ガスル」
「So COOLだろ?This is Ninja Houseってやつかな、手を頭の上に移動させて」
「膝をついてこっちを向いて」
おーう、服の上からでも分かる。なかなかにグラマラス。
不二子ちゃんみたいにセクシーなライダースーツを着ていた。思春期の男子には、中々刺激が強いぜ・・・
「覆面、マスクをとって」
すっげー美人が私の前に現れた。パツキンの綺麗系のおねーさんだが・・・ただの物取りではなさそうな雰囲気。さながら国際スパイのようだ。
壁を一回叩く。一度なぞる音がした。
入ってくるなり母は言う。
「すっごい、不二子ちゃんみたい!!!それかメーテルかエメラルダス!!!!!」
やはり親子で考える事は同じのようだ。
午前2時、我が家の居間にて。
「まあ座りなさい。始、ちゃんと見といてね❤️母はお茶入れてくるから~」
「はーい。まあ座ってどうぞ」
「ワカッタワ」
うちだとこうなる。取り敢えず話を聞くことにする。なんせ自分たちで侵入者を無力化する腕はもっていると自負している。その上での自信と矜持がこれを可能にする。警察の出番はその後だし、それすらも呼ぶかどうかは我々が決める。
「取り敢えず・・・日本語は大丈夫なんだね?」
「ハイ。大丈夫デース」
「えー、名前教えてくんない?」
「ゆーりぃ・ががーりん」
「偽名にしたって男名だけど・・・なに、そっちの方?」
「確かめテミルデース?」
「はいはい今度ね。で、本名は?アンドレィ・コピィロフ?」
「ヴぉるく・はん・・・えめりやーえんこ・ひょーどるトカ?」
「セリゲイ・ハリトーノフ!」
「びたーぜ・たりえる」
「フロム、ロシア?」
「は!ナゼワカッタ!?」
「上げる名前がリングスのロシア人ばっかしだから、ビターゼはグルジアだけど」
「イヤー、ちょっと前よく見テタカラネー、好きナンデース」
「そうなんだー、格闘技好き・・・で、名前は?」
「せるげい・ころりょふ!」
「宇宙に戻った・・・」
ふと私は思い出す。ペンダントの裏に書かれていた四つのアルファベットを。えーなんだっけ、えーと・・・
「ま、マイラ?」
「!」
「アレヲ見タノ?・・・!」
おお遂に白状してしまった。
「マイラ、下の名前は?」
「・・・ゆるきあいねん」
「本当は?」
「・・・」
「別にどこに言うとかそういうのはないから、警察に連れてくとかは・・・まあ話聞いてから判断する」
「・・・モット」
「も、もっと?」
「モット、ナンか、モウチョット」
「くれってのか。ちゅーかもう一部名前は分かってるんだが・・・えぇー・・・まぁ、なにか分かった上で持ち主だって分かったらペンダントは返すし・・・ご飯も出すし・・・そうだ、行くとこあるの?」
「言ッタラ無クナル」
「じゃあうちにいればいい、良いよね母上!」
台所で茶の準備をする母に向かって叫ぶ。客は客でも招かれざる客なんだが。
「!?」
「別に良いわよ~洗いざらい言ってもらったうえで中森家預かりにするってことでしょ、部屋も余ってるし・・・良いわよ」
そういって母は私たちの前にお茶を出す。薦められてマイラはお茶を一口。美味しそうだった。母のお茶が口に合ったみたいだ、良かった。
「は、はまーとヴぁ・・・」
「マイラ・ハマートヴァか、中森始です。よろしく」
「母の美和です、よろしく。ご飯は?食べた?」
「た、タベテナイ・・・」
「日本食は大丈夫?ロシアのご飯は・・・ウォッカしかないな、お米よりかパンの方がいいな。あ、作ってくるから、始は尋問よろしく」
「はーい、じゃあマイラ色々聞いていくから、ご飯来たら食べながらで良いから、ね」
「s・・Спасибо(スパシーバ)・・・」
「ん・・・じゃあ・・・職業は?」
「KGB」
「ふーん、KGB・・・KGB!!!?」
マイラ・ハマートヴァ。ロシア生まれの24歳でAB型女子。KGB職員でソ連の裏という裏を見、国際スパイとして各国を飛び回っていたらしい。日本には亡命目的で来たと言う。
「亡命?ロシアから出たいの?」
「ソウ、ろしあ、そびえとから生まれカワッタ。でもトッテモ貧乏。私色々知りスギタ。大事なモノモッテキタけどオトシタ。ソレヲ始ガヒロッタ。発信器ジブンデツケタ」
「じゃあ元々は付いてなかったのか。ネックレスに発信器仕込むとは・・・流石KGB職員。あ、あれさぁ、中なに入ってんの?」
「!?な、中ミタ?ミレタ?ミレタノ?」
「う?うん、見れた・・・金属片?が入ってたけど・・・」
「ジャ・・・伝説はホントダッタノ・・・」
「伝説?やはり訳ありの品か」
「おりはるこん、伝説ノ金属ガ入ッテルッテ」
「オリハルコン!?」
そりゃあウチの母も分からない筈だ、なんせもう生産技術すら分からない、存在していたかどうかすら分からないような伝説上の金属だ。
「伝説デハ宝石ノヨウニ扱ワレテイタトイウ。コレヲ政府ハれあめたるとして精密機械ノ部品二使用スルタメ狙ッテイル」
「狙っている、っていう言い方が引っ掛かるな・・・何に使うつもりだ?」
「宇宙開発トカ・・・弾道みさいるノぱーつ二スルラシイ、コレヲ国二渡スワケニハイカナイ、本当二おりはるこんナラバ私ハコレヲ処分シナケレバナラナイ」
「じゃあ・・・見てもらうか?ちょうど明日母上の大学の先生に見てもらうつもりだったんだ。明日マイラもついてきなよ」
「ヤー、ソウイウコトナラツイテイク」
「決まりだ、じゃあそろそろ寝よ・・・もう遅い。ていうか日本に来てからどこに滞在してたの?」
「こうえん、日本トッテモイイトコ。外でネテモ凍エ死二シナイ」
「どこの公園だよ!母上申し訳ないが車出してくれませんか!?マイラの荷物を取りに行きたいので!なんでホテル取らねーんだ!」
「円モッテナイ、私ビンボー」
翌日の13時。日下部先生は大学が休みだったのでご自宅に呼んで頂いた。
「久しぶりだねえ始君。二年ぶりかな?前に刀を持ってきてくれた時以来?」
「お久しぶりです先生。あの時は解析頂きありがとうございました。」
「話は美和から聞いてるよ。早速解析にかけてみよう、あ、そうか肉眼じゃ開けられないのか。顕微鏡を用意しよう。どうやって開けるんだ?」
日下部先生の頼みでペンダントの仕掛けを解除し、中を取り出した後先生は自分の研究室に引っ込んだ。我々二人、マイラと私は応接室で待つように言われた。
「あのペンダント・・・マイラにとって大事なモノなのか?」
「アレハ我が家ニツタワル家宝ダ。家二ウマレタ女ノ子ハまいらノ名前トコノペンダントヲ受け継イデイク。我がハマートヴァ家ハ祖父ノ代で没落シテシマッタ。ソレデモコレハズットウケツイデイカナケレバナラナイ」
「家族は、いらっしゃらないの?」
「モウ、イナイ。ままハお腹スイテ死ンジャッタ。私組織二ヒロワレタ。生キナキャイケナイカラガンバッタ、デモ」
「でも?」
「モ、モウ、人殺シタクナイ」
「!」
「サムイノヤダ、体ガ冷たイノヤダ、人殺スノモウヤダ、」
「・・・」
「・・・始」
「なに」
「助ケテ」
15の私でも分かる。どれだけ今まで大変だったかを。家族は愛を与えたかった、与えたかったが与えられなかった。その愛を充分に受けられなかったのだ。仕事の教育しか受けられず、そのまま内面はあまり成長できず体だけ大きくなっていったのだろう。私はこの一人の女の子に、「助けて」と言われてしまった。私は・・・。
「マイラ、絶対助けられるわけじゃない。絶対守れるわけじゃない。そこまで俺はまだ立派な人間じゃない」
「始?」
「でも、俺は君を守るよ。命を賭けて・・・守る」
「!」
その時だった。
パリーン!!!!!!!!!!
先生の部屋からだ。硝子が割れる音。私は体が動いていた。マイラの手を掴み先生の部屋を開ける。
ドアの前には先生が腰を抜かして倒れ込み、窓際には一人の屈強な男が立っていた。
「発信器を追いかけて来てみれば・・・超ラッキーだぜ、マイラもペンダントも両方手に入れられる、ついでに解析のデータも手に入る、本当にラッキーだ!!!!!」
日本語はマイラより上手いっぽい。
「先生怪我は」
「いや、無い・・・大丈夫だ」
「マイラ、知り合いか?」
「ぶ、BLACK SATURNの・・・」
「ぶ、BLACK SATURN?」
「ミスターサンドゥー・・・」
「マイラ、私とともに来てもらうぞ。そしてもう一度、BLACK SATURNのために全てを捧げてもらう」
マイラが怯えている。先生も恐れられておられる。こんなとき俺がどう行動するか。そんなものはこの時からとっくに決まっていた。
「うるせえよ、オッサン」
「!?」
「マイラはもうそういう仕事はしねえ、嫌がってるじゃん。させるとしたら家庭菜園とか家事くらい、自分がやりたい仕事しかさせねえよ」
「邪魔だクソガキ、お前はマイラのなんなんだ」
「友達だよ。助けてって言われたんだよ友達に。助けないとな」
「笑かすなクソガキ、丸腰のお前になにができる?」
「お前を倒せる」
「笑わせ・・・」
その瞬間私は相手の懐に潜り込みつつ脛に右踵を使った蹴りを入れる。
「!!?」
怯んだところにみぞおちに膝を入れそのまま顔面にも膝をいれる。敵の腕が俺を掴もうとしてきたので相手の股をくぐってかわしつつ後ろに回る。金的に蹴りを入れ、腰を腕で掴みそのままジャーマン・スープレックスをかます。起き上がろうとしたのでそこに顔面キックを喰らわしてやる。
「先生、警察を呼んでくださいっ、あと紐!丈夫なやつ」
「わ、わかった」
「マイラ、先生を手伝え!」
「!」
二人に指示を飛ばし、そのまま追加の攻撃を行う。両手を蹴り飛ばし両手を踏みつけまくる。脇腹が開いていたのであばら骨が折れないように注意しつつ蹴りを入れる。ガムテープがあったので取り敢えず目と口を塞ぐ。紐が遅かったので仕方ないからガムテープで後ろ向きにがんじがらめに縛った。
二人が帰ってきた頃には無力化は終わっていた。
「ヤ、ヤッパリ始強イ!!!」
サンドゥーは後に駆けつけた警察により逮捕され、その結果BLACK SATURNの戦闘隊員だということが分かった。
BLACK SATURN。
強大なテロ組織であり、今までに数多くの事件事故に関わっているらしい。また過激な宗教団体としての一面も持ち、かなり強引な手法で信者を獲得したり洗脳による身体強化による破壊活動をしたりと・・・放っとくわけにはいかないくらい危ない組織のようだ。
その何人もいる幹部たちは全て国際手配されており、全員が日本円にして500万円以上の懸賞金がかけられている。国連の国際会議でも議題に上がり、そのニュースはたまに日本でも流れ、俺もたまに目にしていた。そんな奴らに狙われるとは・・・いったいマイラはどれだけ凄いやつなんだろう。
「マイラ・・・君は」
「ソウ、私ハKGBカラ抜け、国から逃ゲテキタトキニコノ組織に出会った。シバラク組織二イタケレドモット酷いトコロダッタノ。ダカラ日本二ニゲテキタ」
「そうだったのか・・・」
19時32分。
警察の取り調べも終わり、母が経営する個人専門警護会社「TDF」にてマイラの今後の警護について今の今まで会議を行っていたその晩の事だ。弟の一也から呼ばれた。
「兄さんー、日下部先生からお電話ですよー」
「はいはいー、はいーっ、変わりました始です、お怪我は大丈夫ですか?」
『ああ、わしは大丈夫だ。それよりもな、このオリハルコンとやら。どうも本物のようだ』
「本物ですか!」
『世界各国色々な伝説の記述を見ればオリハルコンは銅系の合金らしいんだが、原子レベルの配列は銅に近いが他に同じものは見たことがない。新種の金属と見るのが自然だ。オリハルコンというマイラさんの家の伝説は恐らく本当だろう』
「そ、そうでしたか・・・マイラはこれが本物だった場合、処分するつもりらしいんです。このまま存在し続ければ世の中に迷惑がかかるだろう、と」
『うーん学者的には勿体ないが・・・持ち主が言うなら仕方がない、サンプルはこちらで処分しておくからそちらは任せるよ』
「はい、ご協力ありがとうございました。はい、はい、おやすみなさい」
「どうだったって?兄さん」
「・・・本物だった。マイラは処分するって言ってたけど・・・どうするんだろ」
「マイラ」
「?」
「日下部先生から今連絡があった。オリハルコンは本物だそうだ」
「ソウ・・・始お願いアル」
「なに?」
「オリハルコン・・・海に沈めて来て」
「分かった、良いんだな?」
「うん。中身ハあんまり執着ナイカラ」
「そうか・・・あと、ペンダント、暫く俺が持っといていいか?これで逆に敵を誘き寄せてやりたい」
「始強い、心配ない。これ日本にいる間始に託す」
「ありがとう」
2時12分のことだった。カチャリカチャリ。ふたたびその音で目を覚ます。
「なにものだーっ!!!!!」
「名を名乗れーっ!!!!!」
また来たか!隣で寝ていたマイラもやはり目を覚ました。
「マイラはここにいろ、俺が部屋を出たらこっちの壁を一回叩け。そうすりゃ母上と一也が入ってきてくれる」
「始」
「すぐ戻る」
「当番は誰ですかーっ!!」
「UGです!本宅に侵入者二人確認!現在天城、古橋が対応に当たっています!」
「あと蘇我さんと諸星さん友里さんですね!?」
「は!若はどうなさいますか!」
「会議で決まった通り!俺は天城古橋両名に合流し敵を迎え撃つ!桐山さんは警察に連絡後、諸星、蘇我、友里と合流し四人で入口出口を固めて頂きたい!」
「はっ!!」
「天ー城!古橋ーっ!お待たせしましたーっ!!!!!」
「「若ーっ!!!!!」」
「状況はーっ!」
「ご覧の通りーっ!うおりゃーっ!!!!!」
「てめえらなにものだーっ!!!!!」
そう言って私は取っ組み合っている二人に加勢する。中々の動きだ、サンボとシステマの使い手と言ったところか。だがこちらも負けない。古橋は柔道と空手、天城もレスリングに自信がある。天城が一人の腕を取り、スリーパーの状態に持ち込んだ、今だ。
「若っ!今です!!!!」
「よぉし!」
そのまま回し蹴りを胴元に喰らわしてやる。
ドズン
「若っお見事!」
天城は手早く賊を縛る。
「次は古橋だ!それっ」
古橋も敵と組み合っていた。二人でかけつけた瞬間見事な巴投げを古橋が見せた。
「だーーっっ!!!!見たかこの野郎!!!!」
「古橋!天城!囲め!トリプルキックだ!!」
三人で敵を囲み、同時に飛び蹴りをかち喰らわしてやる。一瞬でノックアウトだ。
「「「よっしゃぁーーーーっっっ!!!!」」」
俺達は勝利の雄叫びを上げた。
翌日。11時40分。谷城中学校生徒会室。
「えーーっ、そんなことがあったの!?」
昨日の夜に起こったことを彩希子に報告した。
「おかげで昨日は大変だったよ、折角の日曜日がおじゃんさ」
「アタシ・・・あんまりお家行かない方が良い?」
「俺が守るから大丈夫ぃ」
「ところでさ、そのペンダントどうしてるの」
「うん?うん、持ってきてる」
そう言われて胸ポケットからペンダントを取り出す。すると
「へー綺麗じゃん、ところでさ、チェーンのここ光ってるけどこれなに?」
「ああ、ここは発信器になってるんだって。赤く点滅してるってことは誰か探してるんだな」
「マイラさんは今なにしてるの」
「今日は・・・TDFの皆に守られつつうちの掃除とか家事やってるよ」
「じゃあ今探してるのはマイラさんじゃないわけ?」
「・・・そうだな」
まあ私が「誰か探してるんだな」って言った時点から気付いてたよ。昨日のサンドゥーも発信器を辿ってこのペンダントを探し当てた、ということは
「点滅の速さが増すほどにその距離は近い。具合的に・・・彩希子!校内の地図を!」
「はいっ」
ズァッと彩希子は手早く地図をテーブルの上に広げた。
「点滅の仕方的に・・・」
点滅の間隔から半径百メートル内に探し主がいると仮定して・・・。
窓を開ける。怪しい不審者が堂々とグラウンドを歩いて来ている!
「迎え撃つ、彩希子は先生方に連絡。生徒会メンバーは生徒を避難路に誘導。あと警察とうちの会社にも電話!」
「分かった!」
グラウンドに並び立つ二人の影。中森始と花束をもった謎の男。
「マイラを追いかけて来たんだが・・・てめぇからペンダントの反応がある、察するにお前がサンドゥーや俺の部下二人をやったんだな?」
「中森始と言います。おたくのお名前伺ってもよろしい?」
「皆俺をガンガルと呼ぶ、まあ教えたところで意味などない。さあペンダントを寄越せ」
「断る」
「ならば仕方がない。殺してからゆっくり頂戴する」
そういってガンガルは花束の中から小さな機関銃を取り出す。イングラムM10!武器が見えたこの瞬間私は相手に向かって走り出す。
シャキンッ!!袖からアイアンバトン「ライトニング」を出し相手の手元に突きをぶちこむ。
「くっ!?」
イングラムと花束を落とすガンガル。花束にはやはり他にも銃が入っていた。よくもまあこれだけ日本に持ってこれたものだ。私は感心した。
「やるな、始君」
「まだあるんだろ?出しなよ、出した瞬間また行くよ」
「平和ボケしたこの極東の地に、こんなやつがいたとは・・・面白い」
「来な」
「ふん・・・」
意外にもガンガルはそのまま殴りかかってきた。なんの変哲もないただのストレートパンチ、なのだが。
「?!」
凄まじい伸び。まるで腕そのものが何十cmも伸びたかのような・・・そのままカウンターを入れるつもりだったが余りの凄さにそのまま避けてしまう。
「凄いだろ?俺のパンチ。これもあのお方のおかげさ。」
「あのお方ぁ・・・?」
「そう、我がBLACK SATURNの大首領様のお力さぁ。全身の筋肉が躍動し・・・今までの何倍も力を出せる!」
「あ、そ・・・なら、その力が俺の前では無駄だってこと、教えてやるよ」
「言うじゃん・・・出来るかな・・・?」
今度は右のハイキックだった。やはり寸前で避けてもそのまま伸びて来たので更に仰け反り、バク転に入る。爪先が頂点に来た時点で体を捻り相手の顔にけたぐりを入れる。
「むぅっ」
着地した後爪先に力を入れ敵に向かい得意の飛び蹴りを喰らわせる。良い感じに胸に入った。
「があぁっっ」
「どうかな、中坊のキックは。大首領とやらに強化された体でも大したことないかい?」
「ちっ、ちったあやるじゃない?」
「じゃあもうちょっと行こう。最近自分の攻撃に名前付けて、撃つときに言うの自分の中で流行ってるんだよね♪」
「なんっ・・・だそりゃぁ・・・?小学生かよ・・・」
「それでもさ、その方が強いんだから別に良いじゃん?行くよ」
「ヒュアーッッッ!!!!!!」
痛みを押して飛び掛かってきた。右手で掴みかかってきたのでカウンターを入れてあげよう。
「電撃パンチっっっ」
ズドン
「~~~~っっっ!!!!!!?」
見計らったかのように警察が入って来た。知ってる顔がいる。
「やぁ立花警部。久しぶりです」
「やぁやぁ中森の。お手柄だね、話は社長・・・お母様から聞いてるよ。しっかしまあ・・・国際的な秘密結社の幹部どもがこの町に集まってくるとは・・・」
「いや、こないだのサンドゥーと言い、このガンガルと言い、幹部じゃないと思いますよ。こんな前線に国際指名手配犯が出てくるわけないです」
「はーん、まあ確かにな。お宅で預かってる女の子、あの子を狙ってるんだろ?」
「それだけじゃなくて、このペンダントも。とにかく亡命の目処が立つまでしっかり守りたいんですが」
「ああ。県警としてもパトロールの数を増やして治安維持に努めるつもりだ。始君も、女の子をしっかり守ってやってくれたまえ」
「ええ。じゃ、犯人の連行その他お願いしますよっ」
どうやらかなりしつこい連中にマイラは狙われているらしい。はやく亡命の目処を立てなければこの先何人刺客を送ってくるかわからない。こんなんじゃ警察もうちの会社も、元より俺の体がもたない。なんとかしなけりゃあ・・・。
よし、最終手段だ。
3月2日14時23分
「中森始です。社長のロバートに繋いで頂きたい」
マイラは母と洗濯物をたたんでいた。この一週間で彼女は我が家に馴染み、ロシアでは出来なかった束の間の日常を楽しんでいた。電話を切った後私はマイラに声をかけた。
「マイラ、確認なんだけどさ」
「?」
「亡命先の希望はアメリカで良いんだな?」
「うン」
「実はさ・・・」
「・・・というわけでマイラの亡命に、知り合いのアメリカの会社の社長が協力してくれて、既にビザは何時でもとれるようにしてくれた」
「!」
「お前は自由だ、もし何かあっても向こうで守ってくれる」
「ホントう・・・?」
「本当だ!」
「うっ・・・!」
「よく頑張ったわねマイラ」
「み、ミワねーサン・・・!始・・・!あた、あたし、アタシ!!!」
マイラは泣いた。こうやって日常を過ごしていてもやはりどこかでその心配はあるのだ。我々家族はみんなでマイラを抱き締めた。
出発2日前の3月19日22時12分。だがこの予定は実はフェイクであり、翌朝には日本を出る。BLACK SATURNや、恐らくロシア本国が彼女を狙っている都合上予定通りに動くことは逆に危険だと判断し、急遽ロバートに連絡をつけ、羽田にジェット機をチャーターしてもらった。更に成田にもフェイクの飛行機を同じ時間に飛ばし、更に更にこれまたフェイクで客船を横浜からも出す。後から知ったことだがロバートは更に更に更に関西国際空港にもジェット機を飛ばしていたらしい。正に四重の仕掛けである。
明日も早いしそろそろ寝ようかというところ。マイラが部屋に入って来た。
「始・・・」
そういいつつ私の布団に入って来た。
「なんだ、眠れないのか」
「ヤー・・・」
「ほいほいほれほれ」
そういって私は布団を開ける。
「・・・。私、日本語上手になった?」
「そういえば・・・最初に会った時は片言だったけど、そういえば上手くなったな。やっぱりこれだけ周りで喋っていれば、自然と身に付くんだろうけどそれでも限界はある。マイラが賢いからだな」
「始は外国行ったことある?」
「昔家族でアメリカに行ったことがある。軍人家系のゼットリングさんっていう人がお世話してくれてさ、また行きたいな・・・」
「私旅行したことない。ずっと仕事でしかアメリカ行ったことない。アメリカに住んだら色んなところ行ってみたい」
「グランドキャニオン、自由の女神・・・」
「向こうのバーガーも食べてみたい!」
「すっげえぞ、こーんなにでかくてさ・・・どしたのマイラ」
気づいたらマイラの顔は半泣きになっていた。
「んーん、大丈夫。マイラ強い。なんともない」
「そ、そう?辛かったら言えよ・・・泣いてお別れは嫌だからさ」
「私が向こうに行っても・・・覚えていてくれる?」
「!もちろん!忘れるわけないよ!あ、正月はさ、ハッピーニューイヤーつって毎年手紙送るし、なんかあったらその都度手紙送るからさ!マイラも・・・俺の事忘れないでな」
「・・・あなたの事は絶対に忘れない・・・」
3月20日朝6時21分。羽田空港国際線ターミナル。
「マイラ早く!」
「うんっ」
出発は6時40分を予定している。ゲートは目の前である。手続きは全て済ませ早めの出発も厭わないくらいだ。
「添乗員さんっ、あとは頼むね!マイラ・・・達者でな」
「始も・・・皆様によろしく」
「もうちょっとゆっくりできたらよかったのになぁ・・・次に日本に来るときがあったらその時はゆっくりできたら良いな」
「始、ありがとう。日本にいる1ヶ月。とっても充実してた。住むところが決まったらきっと連絡する」
「ああ、また会おう!さっ早く!」
「始ぇーっ!!!!!!」
添乗員に連れられてマイラは飛行機に向かった。それを私は見送った。
「出てこいよ、隠れてるんだろ」
「よく分かったな」
「カマかけてなんとなく言ってみただけなんだが・・・よもやよもや当たるとはね。ここから先は行かせねーよ?」
「マイラもそうだが私の目的はもうひとつ、君だ。BLACK SATURNの戦闘隊員を五人もやっつけてしまうとは・・・何者だ」
「人に聞く前にまず自分から名乗らんかい。礼儀がなっちゃあいないね」
「ふんっ、それは失礼した。私はタイタン。ミスタータイタン。それが私の名だ」
サーーーーーーーッと。カリオストロの暗殺のプロみたいに。恐らくタイタンの部下であろう、黒ずくめの男たちがいっせいに私を取り囲む。手下の戦闘員・・・ってところか。
夜に入って来た二人と同じ格好だ、やはりあれは下っ端だったか。
ここで私の怒りはピークになった。あまりにもしつこく、自分達の目的の為に女の子一人によってたかって・・・大人げない、許せねえっ。
私は久々にこの口上を叫ぶ。
「聞こえるぜ・・・天が、地が、人が・・・悪を倒せってな・・・何者かだと・・・?答えてやるよ、俺の名は・・・」
中森、始だぜ
「小癪な!皆のもの、かか・・・」
「おっと待ちなよ、タイタンとやら。俺を取り囲んで勝ったつもりか?国際秘密結社とか言う割には詰めが甘いんじゃあないか?」
「始とやら。そりゃあいったいどういうことだ?」
「こういうことさ」
パチンと指を鳴らしたその瞬間。空港職員や乗客に扮していた警察やTDFの人間が続々とタイタンとその一味に銃を向ける。
「こ、これは・・・!?」
「極東の島国だからって舐めてかかったんじゃないか?日本人を、舐めるなよ」
「確保ーーーーっ!!!!!!!!」
マイラの乗るジェットは無事に飛び立った。
窓からマイラが手を振っているのが見えた。
「始!」
「兄さん!」
「母上、一也・・・」
「よく頑張りました」
「今は休みなさい。この1ヶ月あなたは働きっぱなしだったんだから、もうすぐ高校入学も控えてることだし卒業式まで少し休みなさい」
「あ、そうか卒業式・・・一也、今日何日だっけ」
「20日だよ兄さん」
「は、20日かぁ、20日・・・三日後じゃん!大変だ!予行練習しないと!」
「落ち着きなさい、卒業生はでなくて良いのよ。いい加減に休みなさい!」
「さ、兄さん。帰ろう」
「うーん・・・」
「じゃあなマイラ。また会う日まで」
翌日マイラはアメリカに無事に着いた後ロバートと合流。今ではロバートの仕事を手伝っていると言う。今でも手紙のやり取りはしているが当分会っていない。そろそろ彼女に会いに行きたいな・・・。
これが俺とBLACK SATURNとの因縁の始まり。だが始まったと思ったら終わったようでミスタータイタンはこの後祖国に強制送還され現地での裁判を経て死刑宣告を受けた。一年後に刑は執行され、BLACKSATURNの活動は縮小の一途を辿っている・・・というのは去年久しぶりに立花警部に会ったときに聞いた。
が・・・どうだ。向こうはバッチリ俺の事を覚えていた。しかも名指しで俺を狙った。これがどういうことなのか、分からない俺では無い。正直途方にくれている。思春期の時はイケイケだったから怖いものは正直無かった。あの時もマイラを守るために必死だっただけ。だが今はぶっちゃけ怖い。縮小したとはいえ国際犯罪組織。それに狙われるとなると周りも無事では済まない。それが俺の弱さなのだ。
「まだまだ修行が足らん・・・か」
戦いは、終わっていない。




