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ダンス・ウィズ・ドラゴン

2003年10月23日午後1時4分。三ツ島遊郭浜風屋15階甲の間隠し事務所。

「それは誠か」

「はい」 

「誰からだ」

「島田様からです」

「なんと・・・」

「どうなさいますか」

「どうしようか・・・」










 





翌々日。猪崎さんが総長を勤める法眼大学病院に来ていた。あまりのショックに倒れたらしい。栄と一緒に見舞いと言うわけだ。これも島田さんが教えてくれた。

『倒れたあ!!?』

『これでくたばるようじゃあのジジイもおしまいね。仇討ちは任せろって言っといて』

『また手厳しい・・・』









 



2003年10月25日午後2時35分。法眼大学病院8階830号室

「こんにちは・・・」

「中森の・・・栄太夫まで」

「猪崎様・・・」

「猪崎さん・・・何があったんですか。老けましたね」

「まさか俺が墜とされるとは・・・」

「993で行ってたワケじゃないでしょ」

「GT-Rだ」

ヨシムラスピード BCNR33。猪崎さんの本気の車。ブーストアップで400馬力仕様ながら五状の400メートルのハイロングストレートでは230キロをマークし、これに着いていくことこそが五条を走る全てのルーレット族の目標だったのだが・・・。

「それを撃ち破るヤツが現れるとは・・・」

「ワシも抜かれるなら君のフェアレディと思っていただけに・・・残念だ、引退する」

「えっ!」

「993だけあればいい・・・。他の車は売却する」

「なんと勿体無い」

「中森の。なんぞ欲しい車あったら持っていけ。手続きもこっちでやってやろう」

「結構です!どうしたんですか猪崎さん!しっかりしてください!」

「今の自分の立ち位置になってから初めて負けた・・・年も年だしなあ・・・、良い機会だろう」

「まだ70にもなってないでしょ!一回の負けが何ですか。引退理由になんてなりませんよ!」

「はあ・・・」













 法眼大学病院一階玄関。

「かなり重傷だわ」

「どう負けたらああなるんだ」

「島田様にお伺いしてみましょうか」

「そうだな・・・どういう展開だったかを知りたい」

「かしこまりましたわ」























 三ツ島遊郭浜風屋15階甲の間。珍しいお客様が店を訪れていた。

「ようこそいらっしゃいました、島田様」

「お招きありがとう二人とも」

「俺の店じゃないよ」

「私の護衛についている以上始様も立派な従業員の一人ですわ」

「その自覚でやれってか、なるほど」

「できてるでしょ」

「できてますわ」

「従業員って意識は無いんだが」

「無意識に出来てるってことよ」

「このままいくと難しい話になりそうですので早速」

「はあ・・・」



「「「乾杯!」」」



「土橋のボーヤは来ないのかい」

「部署の移動がまだでして」

「それでか」

「やっぱり裏工作していたのか」

「だって可哀想ですわ、あんなに働いて。いずれ擦りきれます」

「そりゃ困る」

「五状最高のロータリーマイスターも気苦労は絶えないねえ」

「土橋様が最高のRX-7乗りですか?」

「今昔合わせても一番はあの子だろうねえ」

「島田様から見てその速さの見解というのはあるのでしょうか」

「んー。ハジーも分かっていると思うけど、速く走るためには如何に車のトラクションを路面に伝え続けられるか・・・なの」

「分かっているつもりです」

「五条の特徴は安全に走らせる気が全く感じられないレイアウトと一定の距離毎に変わる路面状態・・・滑らせなければ速くクリア出来ないカーブもあればその逆も然り。しかも365日同じ状態が無い、舗装路面なのに未舗装路のようなコンディション・・・にも関わらずその場で最適なトラクションをかけ続けることが出来る、のが五状のトップランカーの最低条件なのね」

「そっか、最低条件か」

「そう、それが出来れば速く周り続けることが出来る。そこにそれぞれの個性が乗っかるコーナリングが繋がるワケ」

「猪崎さんと島田さんは如何に速度を落として小さく回り、如何に立ち上がりでアクセルを踏めるか・・・ですか」

「そ。私はスープラ、おっさんはスカイライン。双方ともに1JZ、RB26という直列六気筒のエンジンだからこその走り方。これはA70、R31の時から変わらない」

「俺と土橋さんは・・・」

「平均速度を如何に上げるか」

「そうよ太夫。あたしらはカーブをカーブと捉える。それに対しハジーとボーヤはカーブを曲がったストレートと捉えている、違うかい?」

「はい。俺の場合どれだけステアリングを切らずに曲がれるかに焦点を当てます」

「ボーヤはそれに合わせてどうアクセルを全開に出来るかを考える」

「それはロータリーエンジンだからですか」

「そう、回転が落ちれば本当に辛いエンジンだから。だからこその走り方なの」

「何故ロータリーを・・・」

「私達トップランカーにとって車を選ぶ最大のポイントは、自分と車の力関係の比率よ」

「ああ、確かに」

「比率?」

「自分が車を捩じ伏せるのか、助け合うのか、おんぶに抱っこなのか。助け合える関係が5対5、考え方の違いよ。あの子は恐らく9対1くらいじゃない?ハジーはどんな比率?」

「Zを選んだのは元々好きだったから。とあるキッカケがあって手に入れてチューニングをしていくとどうしてもボディ剛性とエンジンの重さがネックになってきました。自分が思い通りに動く車にしたかったからボディ補強をしてエンジンをSRに変えて・・・」

「つまり捩じ伏せたかったのね」

「200キロで走ることは俺自身では出来ないのでそこはZに任せますがそれ以外の運動のキッカケとか姿勢の維持とかは俺がやりたいですね。割合なら7対3かな」

「3は車に頼っている、と」

「反射神経と思考能力、視力その他諸々を考えれば今の俺はそれがベストですね」

「私とかオッサンはまあ・・・年も年だから。半々くらいが良い塩梅なのよね」

「お二人はゆったり乗られている感じが外から見て伝わってきますわ」

「もう殆ど脱力よね。何十年と走っているからもう大体分かる」

「洗練されている感じですわ」

「それを人に言われるようになったら私も中々上手くなったわ」

「俺もまだまだ、だな」

「ハジーは凄いわ。走り初めてもう七年か、それで私達と並び立てるって時点で自分に自信を持たないと」

「ですって」

「甘やかすなよ・・・」

「それで言うとあれも中々よ、山下クン」

「出たな」

「どんな走りを?」

「EJ20エンジンは高回転を回すエンジンじゃない。低回転からトルクフルに回し、レッドゾーン付近よりも手前でシフト操作をする。私達とは速さへのアプローチが違う」

「そんなエンジンならどれだけグリップ走行できるか・・・を考えるな」

「彼はおそらくカーブの考え方はハジーと同じよ」

「曲がったストレートと捉えていらっしゃる?」

「その上で如何に「四輪を接地させてトラクションをかけて走るか」も考えてるんじゃない?」

「そんな走りならミスも少ないだろう。タイヤのグリップ力で走る感じか」

「あと車だけど、軽量化してないね」

「どうして」

「タイヤの接地面積を稼いでグリップを確保する為だろうねえ。ブレーキは大きくて効きそうなのがついてる」

「動きもマッタリしそうだけど」

「だからこそカーブの進入じゃあ姿勢を決めて入ってくるね。無駄な横振りとかスライドを嫌ってるんだろう」

「予測運転が上手いのか」

「そこに電子制御も入る。無駄が無い」

「ふーん。強敵だな」

「正直この五状で彼の車はスープラじゃ抑えられない気がしてね。どうしようか・・・」

「策は無いワケじゃない」

「!」

「ほう」

「10年以上という車のギャップ、埋められるよ」













 















 






2003年11月2日午後10時5分。五国環状高速道路鰻山サービスエリア。

「眼福眼福・・・ですわ~!!!」

「なにが。こっ恥ずかしか・・・」

オーダーメイドの社交用スーツとピカピカの革靴。バッチリキメた服装・・・を栄に着せられている。

「これくらいしないと敵に舐められますわ!」

「殺し屋じゃないんだから・・・」

「これならどんな女の子もイチコロ!情報収集しますわ!」

「会って話してみたいだけなんだけど」

足で集めた情報こそ価値がある・・・果たしてそんな言葉があるのかは知らんが、山下とかいう男を探し回る事になったのが島田さんと会った日の事。探して回り初めたのがその翌日。会ってバトルを吹っ掛けるんだから身なりはキチンとしろと栄に言われてテーラーを店に呼んで採寸したのがまたその翌日。スーツが出来るまで相手を探さずZにも乗っちゃ駄目と栄に言われたのがその直後。秘策の為にとある作業を行ったのがその翌日。乗れないので車のセットアップを行ったのが四日目。スーツが出来上がり袖を通したのが五日目。着こなせてないから体に馴染ませろと栄に言われてスーツに慣れるために体を動かし初めたのがその直後。馴染むまでに丸2日。そんな一週間だった。

「長かった・・・!」

「お前が長くしたんじゃん」

「山下クンは女の子に人気があるんでしょ?」

「ん?ああ、土橋さんが言ってたな。女の子から聞いたって」

「つまり色男なのよお。見物の女の子に声かければ直ぐ分かるんじゃない?それに」

「それに?」

「格好良さで知らない他人に始様が負けて欲しく無い、寧ろ勝って欲しい」

「うーん。格好いいだろ?俺」

「!はい!!」

「この「格好いい」は栄がやってくれたんだから。俺はそれで良い」

「傲慢なのに謙虚!」

「まあでも、お前の前で女の子に声かけるのはヤダなあ・・・」

「好きになるかもしれないから?」

「飛躍しすぎだ。暴走して暴れるかもしれんだろ、栄が」



「ねえねえあの人、中森始さんじゃない?」

「ホントだー!格好いい!」

「恥ずかしいな、こういうの・・・。どうした」

「別になんでもないd・・・」

「一緒にいる女の人も綺麗!」

「女優さんかな?」

「ふふーん」

「機嫌が直ってくれたようで」

「褒められるのは嬉しいものですわ!あとあの子達絶対良い子!」

「よし、話しかけてみよう」









 




「オネーさん達俺の事知ってるの?」

「キャー!」

「一方的に存じ上げているだけですー!」

「ちょうどいいや。聞きたい事があってさー」

「何ですかー?」



「山下って、山下豊さんですか?」

「豊って言うの?インプレッサに乗ってるって聞いてるんだけど」

「青い車ですよ。大きな羽が付いてる」

「ふーん、どんなやつ?」

「うーんと・・・こうして見ると中森さんにそっくりですね!」

「ホント!雰囲気もそっくり!」

「顔がってこと?」

「そうです!なんか似てる」

「へー・・・」

「あ!来た!」

SAに入ってきたのは青いインプレッサGC8だった、が。


雰囲気が違う。これは・・・。

「22B―STI!」

「なあにそれ?」

「無敵の市販車の一台」










 


「キャアキャア言われとる」

「大人気ですわね」

「君たちは行かないの」

「中森さんがここにいらっしゃるので・・・」

「中森さんこそ話しかけにいかないんですか?山下さんに会いたかったんじゃ?」

「俺から行くとなんか図々しいからヤダ」

キャアキャア言われながらコーヒー飲んでる。仲間とかはいないみたいだ。一人で走ってるのかな。

「山下様!」

様つけられてる。

「お探しになってた中森始さんが今このSAにいるみたいです!」

?探してた?

「ホント!?どこどこ!?あ!あのZ32・・・中森さんのじゃない!?」

こんなフランクなやつだったのか。てっきりもっと寄らば斬るみたいなやつだと勝手に思ってたんだけど。

「あんたが・・・、中森始さん?」

「・・・そうだよ」

「やっと会えた、探したよ」

「噂は聞いてるよ。猪崎さんをちぎったんだって?」

「猪崎・・・あのGT-Rですか。あの人は速かったっすねー。五状っていう道をわかってらっしゃるというか」

「へえ、わかるんだな。流石は注目株といったところか」

「俺の目標は貴方を含めたハイランカー四天王を倒すことなんですよ」

「あ、俺も含めてくれるんだ。それが君の走る目標なんだ」

「車も仕上がりました。腕も申し分無し、そろそろ良いでしょう」

「俺たちに勝てると?」

「現にGT-Rは倒しました。スープラは戦意がないみたいですし、RX-7はツチノコレベルに出てこない。後は貴方だけです。ちょろいもんだ」



大した自信である。戦ったことのない相手にここまで啖呵を切れるのだから自分の実力を疑ってすらないのだろう。純粋なやつだ。負けた事が無いのか。



「お前、師匠とかはいないのか」

「貴方ですよ、中森さん」


「俺?」

「この五状に初めて来たその日に貴方を見た。圧倒されました正直。フィギュアスケーターみたいに美しく走ってた。破断するんじゃないかと見てたけど全く乱れない、それどころか走るごとに洗練されていく。そんな走りに俺は憧れたんだ」

「そりゃ嬉しいねえ」

「貴方の後ろを走ったこともあった。だけどずっとはついていけないから区間ごとに分けてついていったんだ」

「そのイメージを一周分繋ぎ合わせて・・・」

「そうさ。単独で走ったらこの五状では貴方が一番速く、そして美しい。だが・・・」

「?」

「貴方はいつの間にか走らなくなった。この五状から消えたんだ」

多分あれだ、そういう時間を避けて猪崎さんたちと明け方走るようになった時期だわ。ついてくる奴らがコバエに見えてきて鬱陶しくなった時だわ。ついて来る奴が下手糞な走りをすると整流された空気が乱れてダウンフォースが荒れるのを嫌ったっていうのもある。

「チャンスだと思いましたよ。遥か彼方を走るウサギが止まったのだからその隙に追いつき追い越してやろうと!」

「さよか」

「俺はもうあの時の貴方よりも速い。走るのを止めた貴方に勝つ可能性はない!」

そりゃあそう思うわな。走ってるのを見てないんだから成長してないって思うか。まあ走ってるんだけども。

「勝利宣言は格好いいな。俺もそんな風にカッコ良く勝負に挑みたかったよ」

「は?」

「これで面白くなった。結構ギャラリーも集まってる中でそんなこと言っちゃって負けられないな」

「だってそうでしょ。俺が勝つのは目に見えているのだから」

「そうか?やってみなきゃ分かんないだろう。まあでもそうだな、走るのは久しぶりだし、ちょっと準備させてくれよ。いつ走るかも俺が決めさせてもらおうかな、五状最速の君にとってはそれくらいの余裕はあるだろうし」

「なんですかその言い方。良いですよ、待ちましょう」

「決まったらこのSAに貼り紙を貼っておく。さあーて、しっかり勘を取り戻さないと」

「精々ギャラリーをしっかり楽しませられるように、ご準備の方宜しくお願い致します」

「任しとけよ」

タイヤスモークを上げながら周囲に手を振り去っていく山下豊。去り際に残した煙が始にかかる。挑発である。それも分かりやすい。

「舐められたもんだ」

「そうね」

「しばらく顔出してなかったからか。ツケがたまってしまったな」

「どうするの?」

「日程を決めるのを俺に委ねた。それをチャンスに持っていきたいな」

「なら・・・」

「雨の日だ」

WRCで実績を残してきた車である。どんな場所でも早く走らせなければならないその足回りに打ち勝つことこそが勝利へのカギになる。そしてもう一つ。次代を彼に任せたとして本当にわかっていなければいけない事が彼には理解できているのかを示すある指針。これを見極めなければならない。その為にやらなければならない事・・・。



















 





2003年11月3日午後11時14分。中山第一ビル屋上ヘリポート。

黒刻町に暫く前から広がる噂。相手の行く末を完璧に的中させる占い師がいるという。山下豊との勝負が決まった翌日、俺はそれを探していた。知り合い全員に聞きまわり捜索するも・・・。

「やっぱり見つからんか」

「兄貴!」

「大悟」

「ダメですね。今日はどこにもいません」

「ホントに道でやってんの?」

「俺が前見かけた時はちょうどこのビルの下でやってたんですけど」

「探そうと思って見つかる相手じゃないってことか」

「諦めますか?」

「探し方を変えてみよう」

「どうしますか」

「なんとなくで探してみよう。目を凝らして探すよりいいのかもしれない」

「八住とも連絡繋がってます。八住?」

『はい、大悟さん』

「出たなコンピューターの魔術師」

『頑張って魔法をかけちゃいますよ』

「頼むよ八住」

「さてと・・・どっちかなー」

指を舐めて天にかざす。しばし瞑想。

「こっちだ」

ビルからビルへ。飛び移って移動する。大悟は始のフリーランニングについていける黒刻町では唯一の男である。

「八住」

『その方角には国鉄西尾駅、我が入間組本家が主な主要スポットです』

「外の道これだけ探していないんだ。そもそも店を出していないか道沿いに出していないのかもしれない」

「でもハコは持ってないですよ。それは調べました」

「うーん。茣蓙敷いて商品並べて人が座ってたらそれで露店になるんだから、もっと広く考えよう」

「じゃあ・・・八住」

『はい、大悟さん』

「空き部屋があるビル。この方角にあるかい」

「ちょうど二人が上にいるビルです。小松崎バルンガビルです。」

「ちょっ・・・」

「兄貴危ない!」

「おっとと」

「びっくりしたー」

『すみません。言うタイミングが遅くて』

「いや寧ろレスポンス速かったよ」

「俺も聞くタイミングが悪かったです」

「で?このビル?」

『はい、ここの二階より上。テナントが埋まっていません。半年前の火災事故が原因です』

「ふーん、どうですか兄貴」

「匂うな」

「まだ焦げ臭いですか」

「違う違う」

成程確かに壁は黒く焦げ、色んなものが散らかって炭になっている。オーナーも修理代の事を考えるのが怖くて足を踏み入れてないのだろう、が。

「兄貴、ここ」

「足跡じゃん」

「出来てから時間は経ってませんよ」

「この部屋か?」

「早速当たりですか?」

しかし










 


まだ甘いですね











 

そう書かれたメモが落ちているだけだった。

「なんじゃこれ」

「まさか俺たちが来るのを予見して・・・」

「やるじゃん」

「くっそー、じゃあここにはもういないのか?」

「いや、大悟。気が早いぞ」

「どういうことですか!」

「他の部屋を探してない。移動するなら全部見てからだ」

「っ・・・、おっしゃる通り」

「対人レーダーとか無いのか」

『ICPOからの技術はまだ民間には下りてきませんよ』

「君らヤクザでしょ。なんとかならんのかい」

『なんともなりません』

「兄貴」

「あ、ごめん」

「隣、見に行きましょう」

「ああ」

結局この階にはだれもいなかった。あのメモは本当に小馬鹿にしていたただけらしい。なんやねん。そして下の階に行くとなんとあっさり見つかった。黒焦げになった廊下に小さなテーブルを置いて黒いクロスをかけ・・・、座っていた。

「なんなんだよ」

「お初にお目にかかります、中森始様」

「えー・・・」

「このメモ、上の部屋に置いたのは貴方ですか?」

「その通りです円大悟様。ちょっとした悪戯心です」

「まあ気は引き締まったから、許してあげよう」

「・・・兄貴がそう言うなら」

「お名前を聞いとこうか占い師さん。名刺とか無いの」

「てっきり・・・、知ってるものかと」

「いや知らん、よく当たる占い師がいるとしか聞いてなくてね」

「さようでございますか。改めまして附子と申します」

「附子ねえ・・・」

顔を黒いベールで覆い、全身黒装束で固めて怪しさ満点の恰好。しかしてその声は深く美しく響くようだ。附子。毒と偽る砂糖か、はたまたトリカブトか。関わる事で毒に侵されるのか、それとも薬となって俺を助けるか。

「いろんな意味が読み取れるね。良い名前だと思う」

「褒めてくださったのは貴方で四人目です。内、日本人では二人目です」

「随分グローバルに活躍されてるようで」

「たまたまです」

「兄貴」

「ああ、そうそう。占って欲しいことがあるんだ」

「なんなりと、貴方の行く末、来世に前世、ありとあらゆることを・・・」






「・・・次、いつ雨が降るかな」

「・・・雨、ですか」

「そう、雨の日。出来れば盛大に降る日がいいな」

「ええーっと、何でも大丈夫ですよ?これからの人生がどうなっていくのかとか、投機のタイミングとか・・・」

「うん、でも今は雨の日が知りたい」

「ええー・・・」

「兄貴、この人ガッカリしてる」

「うーんでも・・・今知りたいのはそれだからなあ。言ってたでしょ大悟、俺最初から」

「言ってましたね。頼むよ附子さん」

「な、なんかもっと大それた事を聞いてくるかと構えておりましたのに・・・お天気を占うとは・・・」

「苦手分野かな?」

「失敬なっ。得意中の得意です」

「出来れば一週間から二週間以内で・・・」

そういうと附子はいきなり両手を天に掲げ目を瞑った。一分ほど時間が経った頃。

「見えました」

「おお」

「というより・・・、中森様。見えていらっしゃったのでは?」

「雨が降ることを?そんなワケ無いでしょ。降ったら良いなーとは思ったけど」

「そうですか・・・」

「で、どうなんですか」

「今日より二日後、更に一週間後、日が沈むと同時に降り始め、日が昇ると同時に止みます」

「それは都合が良い・・・」

「中森様」

「うん?」

「なぜ・・・」

「皆まで言うな。皆まで聞かない。俺の人生からワクワクをとらないで?」

「ではなぜ今回は」

「絶対負けたくないから」

「負けたくない・・・」

「次のバトル、多分俺が負けると大事なことが無くなる気がするんだ。それを守る為になりふり構っていられないってのもあるかな」

「その大切な事とは」

「あー・・・、俺たち走り屋が心のどこかで持っていなくてはならない心がけ、かな。忘れちゃいけないものを守る為に、君の力を借りたんだ」

「・・・お役に立てたようで」

「まだ分からないよ、当日になるまで。でも、ありがとう」

「・・・」

「大悟、行こうか」

「はい」

「中森様!」

「は?」

「具体的な事を言うつもりは毛頭ございません!ですが一つだけ!」

「はい」

「我道邁進。これをお忘れなく」

「ああ!」












2003年11月3日午後11時55分

「これからどうしますか」

「やつに知らせてやらにゃあならん。八住!」

『はい、中森さん』

「頼んでたやつ、六日後に決まった」

『わかりました。出来次第各SAに貼りに行きます』

「ありがとう」

「兄貴、次は」

「一旦店に戻る。今日は解散するか?」

「そうですね。俺も一度組に戻ります」

「そうか、今日はありがとな」

「勝負の日までしっかり準備なさってください」

「ああ・・・、なあ大悟」

「はい?」

「なんで、ここまで付き合ってくれるんだ?」

「なんでって・・・」

「いっぱい連れまわしてさ、面倒くさいだろう」

「面倒だったら面倒って言いますよ」

「じゃあ・・・」

「兄貴は浜風屋の用心棒であると同時に我が彩雲会の食客でもあります。仕事中ならともかく組の人間が誰かついていないとマズいでしょ」

「まあ、確かに」

「それに!」

「⁉」

「結構楽しいですよ、兄貴といるの」

「そう・・・」

「だからもっと、面白い所に連れていきますし連れていってください!」

「うん、頑張るよ」

「じゃあ兄貴、浜風まで送ります」

「いや、大丈夫だよ。早く組戻ってあげて」

「そうすか・・・、わかりました。では、失礼します!」

「じゃあね」

 



「大悟・・・、いい奴だな」

 

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