護り抜く約束
2003年9月26日午前2時3分。三ツ島遊郭浜風屋大浴場。
ジャーッ
「ふー・・・」
「「始様」」
「誰だー」
「銀河と」
「飛龍でございます」
「ああ」
「彩希子様をお部屋にお連れしました」
「寝てるか」
「それはもうグッスリと」
「世話になったな」
「太夫が茫然となさってました」
「・・・」
「何かあったんですか」
「あたしと彩希子どっちが好きって聞かれた」
「聞くと思いました」
「何とお答えに」
「栄」
「そうですか」
「彩希子様とはなぜ別れられたのですか」
「なぜ・・・てか」
「会話の端々から察するに彩希子様はまだ始様を好いておられます」
「声色、仕草、目線、色々なところから感じ取れます」
「だろうな」
「分かっておいでなのですか」
「うん」
「では何故」
「ずっと一緒に居たから」
「?」
「何するでも二人で一緒だった。生徒会の仕事も、戦いの日々も、放課後一緒に遊ぶも、授業受けるも何でもかんでも。でもそれだとあいつは駄目になる」
「冷えるから一旦上がる」
「これは失礼を」
浜風屋大浴場大脱衣室男性更衣室。
「あいつが小説書き始めたのは高二の時からだった」
「当時は荒れ果てていた校内風紀を立て直して一先ず生徒会の仕事が一段落していた」
「現文の授業で創作があってな」
「あいつのはよく出来てた。面白かったし」
「俺も褒めたし先生も褒めた」
「その後二人でいる時に俺が星新一を読んでたら朗読をせがんできた」
「読み聞かせたら面白がって次の日に自分でショートショートを書いてきた」
「それが超面白い。思わずタイトル見直して星新一のパクりを疑ってしまった」
1997年7月2日午後16時2分。県立湯海高等学校2年2組教室。
『ホントに自分で書いたのか・・・』
『どう!?面白い?』
『めっちゃ面白い。次何か書かんのか』
『始君が読んでくれるなら書くよ♪』
『読む読む絶対読む』
「そしたら次の日ペラ40枚くらいの話書いてきた」
1997年7月3日午前8時32分。県立湯海高等学校正門前。
『なんだこれ』
『書けた』
『一晩で!!?』
『書けちゃった』
「またこれも面白い。でも何が面白いのか分からない。それがまた良い。そういう文章は何が面白いのかを確かめる為にまた読む。でもまだ分からない。で、また読む。それを繰り返させる。あいつの話はそんなだ。今もそう」
「だんだん長くなって長編小説の長さになってきた。最初に書いてからまだ二週間から1ヶ月の話だ」
「俺は思った。やっべえこいつ天才だって」
「それで俺は聞いた」
1997年8月7日13時58分。中森家大広間食卓。
『彩希子、俺じゃもうお前は計り知れない』
『?なにそれ』
『出版社持ってく気は無いのか』
『無い』
『なんで』
『始君が読まないじゃん』
「馬鹿だよな。彩希子は俺が喜んでくれるから書いてただけだった。しょうがねえくらい可愛い女なんだよ」
「でもその「だけ」に留めるのはあまりにも罪だと思った。なんて勿体無いと」
『じゃあ俺が読んでから持ってけよ』
『良いよ、どんなのが良い?』
「この質問は軽いようで大変に重い質問だった。自由に書けといえば人間はどう書けば良いのか分からなくなるのが大半。だが方向性を限定すれば大きな丸にはならない」
「俺は考えた」
「そして俺は言った」
『知らない人の為に書いて』
『知らない人?』
『そう、俺の為に書くんじゃなくて・・・そうだな、東北の・・・』
『東北!?』
『東北の地方都市に住む文学少女の為に書け』
『???うーん、やってみる』
「その条件にはどんな意味が?」
「勝手なイメージだけど都市部以外の所謂県庁所在地に住んでるオタクって、やっぱり東京とか大阪に行きたがる。何故かって自分の地方には無い文化に触れたりお店に行って色んな物を見て新鮮さを見出だして買い物をしたい人間が多い。そんな中でそういう人達の為に在るようなお話があれば恐らく読まれるようになるし、分かっている人が読めば勧め方も簡単に思い付く」
「始様の今の言い方だと万人受けをするなと言っているようにも聞こえますが」
「しなくていいだろ。しようと狙ったところで歴史に残る保証は無い。そんなのを狙う必要は無い。だけど彩希子は出来そうだった。だからこそ狙わせないために狙う範囲を限定したんだ」
「その結果は・・・」
「所謂処女作『オヤスミナサイ』はマルス出版社に持ち込まれ全然理解出来ない面白さによって逆に面白がられ同社の雑誌『ジャガー』に掲載。小川紀子は爆発的人気を誇ってその年の芥川賞を受賞しちゃった」
「なんと」
「この時弱冠17歳。考えられるか?休み時間に俺と喋りながらペンを走らせていたのが芥川賞作品だぞ。凄いヤツなんだよ」
「高校卒業の折だった。その時には二作目の『羅生門の鬼』の連載やってた頃さ」
1999年3月9日16時5分。湯海高等学校駐車場。
『迎えは』
『今日はお母さまが』
『そう・・・連載順調そうだな』
『ホントは載る前に始君に読んで欲しいんだけど・・・』
『どうした』
『何か・・・もう大丈夫だな』
『そうか』
『始君に読んでもらわなくても、読んでもらえなかったとしても。書きたい事がどんどん湧いてくるんだ』
『良いことじゃん』
『だから』
『そうだな、もう大丈夫だ』
『うん』
『暫くは専業作家か。いっぱい書けよ』
『始君も・・・大学頑張ってね』
『心配すんなよ』
『もうすぐ・・・終わるね』
『これからはお互いの、自分の為に生きていく』
『私達、だいぶ人の為に時間を使ってきたからね』
『だからこれからは自分の為に時間を使うんだ』
『始君に負けない生き方、していくから』
『俺も頑張るよ』
「それが俺達の最後だった。もうお互いを絶対必要としなくなったんだ。別れたっていうよりフェードアウト・・・かな」
「そうでしたか・・・」
「でも今は栄だよ、俺のナンバーワンは」
「それ、もうちょっと本人に言ってあげてください」
「その方が太夫の心も上がります」
「え~・・・」
2003年9月26日午前2時。三ツ島遊郭浜風屋15階甲の間。
「お風呂頂きましたー」
「お湯加減如何でしたか」
「バッチリ・・・」
「?」
「あー・・・」
「何か不都合ありましたか?」
「いや、そうじゃなくて・・・」
「なんですかー!」
「やっぱりお前がナンバーワンだ」
「えっ、ど、どうしたんですか」
「俺のナンバーワンは栄だから」
「はっ!はい!」
「いつもお風呂沸かしてくれてありがとう」
「いっ、いえいえ・・・なんか面と向かって言われると恥ずかしいですね・・・」
「美味しいご飯を作ってくれてありがとう」
「えっ!?なんですか!」
「いつも俺の為に綺麗な自分を見せてくれてありがとう」
「あっ、あの」
「俺の存在を許してくれてありがとう」
「どうしたんですか!」
「いや、・・・たまには面と向かって感謝を伝えようかと」
「いつも言われてるじゃないですか」
「でもその場その場だから」
「飛龍と銀河に何か言われましたか?」
「もっと愛情表現をしろと・・・」
「しょうがないわね・・・」
「怒らないでやって」
「・・・怒りませんよ、始様にそうやって仕向けさせたあの娘達の腕、認めざるをえませんね」
リリーン
リリーン、リリーン
「電話だ」
「廊下ですわ、出てきます」
「俺も彩希子の様子見てくる」
「分かりました」
ガラッ
「・・・」
「スーー」
「・・・彩希子、起きてるだろ」
「・・・スー・・・」
「起きてるだろ」
「・・・グー・・・」
「このこのこのこの!!!!」
「にゃああああああああああああ!!!!」
「まったく」
「だっ・・・だって・・・」
「気使ったのか?」
「ナンバーワンは栄さんなんだ」
「今はな」
「私は?」
「お前もナンバーワン」
「・・・」
「あら、彩希子様。起きてらっしゃったの」
「栄、電話は?」
「無言電話なんです」
「はあ?」
「なーんにも。うんともすんとも言わないで。直ぐ切れましたわ」
「なんだそれ」
「栄さんを困らせるなんて・・・許せない!!」
「お前まだ酒抜けてないのか」
「こんな美人を困らせるなんてホント最低野郎だよ!次かかってきたらあたしが」
リリーン
「!」
リリーン、リリーン
「ナイスタイミングぅ!!」
「あっ、彩希子!」
「文句言ってやる!」
「まったく」
「もしもしっ!!?ここが何処か分かってンの!!?」
「はあ・・・」
『なんだそこにいたのか』
「はあ!?ここにいるわよ!」
「・・・?」
『貴女の存在を認めない』
「ひっ・・・!」
「変われ彩希子っ。てめえなにもんだ!!!」
プチッ
「・・・」
「始君・・・」
「栄!緊急事態だ!」
2003年9月26日午前2時20分。三ツ島遊郭浜風屋番頭台。
「紫電、雷電。なるべく騒ぐなぁ。お客様の身許をもういちど確認するんだぁ」
「合点!」
「承知の助・・・」
「太夫、次はぁ!」
「通話記録を出して。うちの電話なら全部記録してるでしょ、どこからかけてきたか突き止めて」
2003年9月26日午前2時22分。三ツ島遊郭浜風屋玄関。
「大悟!」
「兄貴!例の資料お持ちしまし・・・」
「それもそうだが緊急事態だ!」
「へ?」
2004年9月26日午前2時25分。三ツ島遊郭浜風屋番頭台。
「どうしますか」
「取り敢えず移動だ。俺は酒呑んじまったから車出してもらえるか」
「分かりました。マークⅡなら乗ってきてますが」
「それで良い。取り敢えず俺ら乗っけて出してくれ」
「分かりました。姉さんは」
「今連れてくる」
「彩希子」
「なんで」
「ああ」
「なんでここまで!」
「知らん。でもな、守りきる」
「始君・・・」
「お前も久々に会ってから俺の知らないセリフを直々言ってきたな」
「・・・」
「俺も言ってやろう」
「俺に任せろ」
「わあ、聞いたこと無い」
三ツ島遊郭浜風屋奉公人詰所。
「串田」
「旦那、内線ではないちうんは分かりましたぁ。外部からですよぉ」
「町内の電話を調べてくれ。入間組なら調べてくれる」
「分かりましたぁ。手配しますぅ」
「紫電雷電!」
「お客様の行動その他聴取させて頂きました!」
「あの時間に部屋から出たお客様はちょこちょこいた・・・。電話使った人はその内一組、連絡先も割れてる。外線使ってるから関係ない・・・」
「よし、お客様は関係無いな」
「兄貴!」
「取り敢えず浜風に出来ることは全部やってくれた。感謝する」
「再びの連絡会ったときの為に俺らは備えます!」
「絶対に逃がさない・・・」
「頼む」
三ツ島遊郭浜風屋正面玄関。
「栄!」
「始様!」
「癪だが離れる。迷惑もかけられんしな」
「ご武運を・・・」
「長い戦いになるかもしれんが・・・絶対終わらせて帰る」
「お気をつけて」
「栄」
「?」
「お珍しい」
「決意表明みたいなもんだ、一段落したら連絡する」
「はー・・・」
「じゃ、行ってくる」
「お気をつけて・・・」
「飛龍ちゃん、入間組に繋いで。銀河ちゃんはハリー・ホプキンスに」
「「かしこまりました」」
2004年9月26日午前2時37分。三ツ島遊郭浜風屋一階電話室。
『始?』
「組長、町内の公衆電話は」
『紫電から聞いてる。町内の公衆電話は10基。内あの時間に使われてるのは一台』
「どうでした」
『監視カメラの様子的には結構な長電話だったから関係無さそうだわ』
「ありがとうございます」
『待って、まだ最後の一台の結果がまだ来てない。それまで電話繋いどいて』
「どこのですか」
『ちょっと待って・・・、三ツ島遊廓から直線200メートル。そこからだと二番目に近い所』
「お願いします」
『あたしらに出来ることは?』
「大悟を暫く借りたいのと・・・あ。」
『お』
「歩いてて違和感を抱かない・・・でも最近黒刻町に顔出さない人、そんな人を探して頂けたら」
『途方も無いよ』
「その内その電話使った人、分かるかな」
『データ上がってみないと・・・あ、待って。来た』
「!」
『スーツ着た男が使ってる。通話時間も一瞬。こいつだ』
「どんなヤツですか!」
『待って・・・照会にかけてる。わかった』
『山本・・・?』
「山本?」
『山本周作・・・』
「山本さん?」
『ああ、うちらとは別の会社だったけど現場はよく一緒になったな』
「山本さん・・・」
『始か?』
「支配人」
『そっちはどうだ』
「大丈夫。なんとかやれると思う。それよりさ」
『なんだ』
「山本さん、今日店に来た?」
『山本?山本ったっていっぱいいるぞ。俺の知り合いにも六人以上いる』
「山本・・・周作さんだよ」
『おー』
『来てたぞ』
2003年9月26日午前2時40分。三ツ島遊郭浜風屋正門。
大悟が乗ってきたマークⅡで移動を始める。
「大悟、頼む」
「はい!」
「はー・・・」
「兄貴。目標は・・・」
「山本さんだ」
「山本・・・どの?」
「周作さんだ・・・よりによって・・・」
「この辺のバウンサー業やってる奴らの教官的存在でした。入間組にもアドバイザーとして何度かご教授賜りました」
「その人・・・強いの?」
「自分は・・・本気のあの人を見たことが・・・」
「強いよ」
「!」
「知ってるの?」
「ハリー・ホプキンスで騒ぎがあったときに俺とあの人で片付けた事があった」
「共闘されていたとは・・・」
「俺にあわせて連携してきた。相手の動きを読んで無力化するのに最適な選択が出来る。中学のままの俺だったら簡単にやられるだろうな」
「そんなに・・・」
「どうしますか」
「そうだな・・・」
ブーッ、ブーッ
「!?」
「落ち着け彩希子、お前の携帯だ」
「ふうー・・・編集さんからだ。はいもしもし」
「取り敢えず彩希子のマンションに行ってくれ。場所は・・・教えたな」
「分かりました!」
「どうせ、今の行動も見られてるんだ。分かりやすく動いてやる」
「でも追手の車とか今のところないですよ?周囲の車もそのような様子は・・・」
「だったとしても、見られてる意識は持っておいた方が良いだろ」
「えっっっっっ!!!!!!!?」
「「!!!!!!?」」
「どうした彩希子」
「獲っちゃった・・・」
「直木賞・・・」
2003年10月16日午後3時30分。東京會舘一階エントランスホール
「全員用意は良いか」
「はい。準備OKです」
「最後の確認だ。大半の出席者はボディーガードなんかつけてない。強いて言うなら秘書くらいなもん。分かりやすいのは我々だけだ。ターゲットは山本周作。顔は全員頭に叩き込んでるな」
「「「「はい!」」」」
「最大の目標は彩希子を守る事。ターゲットの確保及び無力化は二の次である。この事を改めて踏まえろ」「見つけ次第無線で全員に共有。その後ZATの二人と三沢さんは彩希子の身の安全を確保。入間組は退避ルートと車の保全、及び各スタッフへの指示出し。」「以上だ、キッチリ終わらせて直木賞の賞金にあやかろう」
東京會舘直木賞受賞者楽屋。
「ねえ、始君」
「なんだ」
「私、お話書くのやめる」
「・・・なんで」
「私の本のせいで色んな人に迷惑かけてさ。何日も何日も始君達のお世話にもなって・・・そのせいで周りの人を危険に晒しかけて・・・」
「彩希子」
「それに・・・ちょっと疲れちゃった。新しいお話も全然思い付かない」
「トバしすぎたんだ。少し休めば楽になるさ」
「マンションも引き払おうと思う。暫く執筆業から離れて実家でお花触りたい」
「そうか」
「今思えば・・・いい気になってたのかもね。書くお話全部ヒットさせて。褒められて舞い上がって」
「成金みたいな呑み方するしな」
「自分で書いたものを否定して捨てて・・・。あたし、変わったね」
「良いんじゃないか?休むくらい」
「違うよ。やめるんだよ、書くの」
「あー・・・、それを決めるのは・・・、お前だ。もう書きたいものがないんなら辞めるのも良い」
「うん・・・」
「ただし」
「?」
「また新しいものが書きたくなって、もう一度書いた時に」「ちゃんと帰ってこれるようにしろ」
東京會舘大宴会場直木賞授賞式会場
『定時報告。以上無し』
「大悟、授賞式まであと何分だ」
「あと15分」
「もし俺が山本さんに出くわしたら、知らないフリをして話しかける」
「その隙に周りを固めるんですね」
「そうだ。絶対に逃がさない」
「しかしそれらしい人は見当たりませんね」
「くそっ、何処にいるんだ・・・」
「変装してるとか」
「あるな・・・だけど逆に今の俺達に見つけられるのか?」
「もっとナチュラルな人に代わりに見つけてもらうとかどうですか」
「ナチュラル・・・探すことに先入観がない人が良い」
「そうだなー・・・すいませーん」
ホテルの係員が前を通った。係員なら確かにお客をお客としてしか見ていない。先入観は無い。
「なんでしょう」
「こーんな人、見てませんか」
「この人ならさっき階段ですれ違いましたよ」
「・・・っ、上った?下りた?」
「?上りました」
「全ガードマンへ。ターゲットは上階へ移動した模様」
「なぜ上に!」
「授賞式会場・・・上・・・狙撃だ」
「会場で上から狙撃できるとしたら・・・」
「照明の調整室だ・・・」
「兄貴!」
「俺が行く。全員気付かれずに彩希子の周りを固めろ」
「了解!」
「大悟、頼むぞ」
「はい!」
東京會舘大宴会場照明調整室
「山本さん・・・」
「始?よく会うな」
「やっと見つけた」
「お前なんでここに・・・」
「もう分かってんです」
「何が」
「会場は包囲されてます。おとなしく降伏してください」
「何の話だよ」
「調整室に何の用ですか」
「ここからなら会場の間取りが立体的に確認出来る。紙じゃ分からないところも分かる」
「誰からのお仕事ですか。セキュリティ雇ってるのは小川玲子だけですよ」
「一鉄斎先生だ」
「今日は欠席ですよ」
「・・・」
「青龍堂書店で」
「・・・」
「俺を狙ったのは何でですか。小川玲子をホットスポットと表現したのは・・・何でですか」
「ふふ」
「何故ホットスポットと表現したか。ストーキングされていることなんて身内以外には知らせてません。にも関わらず貴方はそう表現した。そりゃそうでしょ、全部仕組んだの貴方だから。ホットにしてるのはあんただから」
「俺を狙った理由は・・・」
「全部ひっくるめて俺を引っ張り出す為の罠だったから」
「小川玲子・・・富永彩希子がピンチになれば俺がホイホイ現れると踏んだから。そして俺はホイホイ現れた・・・愛した女を守る為に」
「数々の嫌がらせも俺を熱くさせて視野を狭くさせるためだけの囮」
「小川玲子は顔出しはすれど経歴は一切明かしてない。俺も黒刻町に来てからあいつと知り合いだなんておくびにもそんな様子は出していない。基本箱入り娘だったアイツと俺の関係性を知ってるのは昔からの知り合いと黒刻町四女神のみ」
「ところが例外がある」
「貴方は俺達の関係性を知っている」
「高二の時の東西ヤクザの大戦争勃発の危機。和平の話し合いに俺達は巻き込まれたその場で」
「彩雲会初代会長、沢井宗一郎のボディーガードを勤めていたから」
「そしてもう一つの例外」
「その大戦争を目論んだ世界的犯罪結社」
「山本さん・・・貴方をそうさせたのは」
「そうだ。BLACKSATURNさ」
「やはり・・・!」
「そして俺はもう山本ではない。改めて名乗ろう中森始」
「我が名はスタッグ。BLACKSATURNの宿敵を遂に我が前に差し出した主に・・・」
「感謝せねばなるまい」
「むう・・・!」
「我が太刀の錆となれ」
「やめろ山本さん!」
「行くぞっ!」
「仕方ねえ・・・」
ここでドンパチやり始めたら授賞式がおじゃんになる。なんとか外に引っ張りだせんか・・・。
刃先がギザギザしててノコギリみたいな刀だ。しかも長くない。屋内で振り回すのにはかなり向いた武器だ。こういう相手ならこっちにも迎え撃つ準備はある。
「むう」
「初めて見る武器だ。警棒の二刀持ちとは格好の良い」
「戦棍ライトニング。久々に振り回すから手加減出来るか分かりませんよ」
「ふん、小癪な」
クロスさせて振り抜いて来た。
前方に振り下ろされて来る相手の攻撃に対し内側から開くように捌く。
同時に顎に向けて蹴り上げる。
それをバク宙で躱されながら下から飛んでくる両足をこちらもバク宙で躱す。
「軽そうな武器だ。君の体にフィットしているように見える」
「特注だよ」
「人差し指を引っ掻けているリングは後付けか?手から離れないから便利だろう」
「そりゃあもう」
「武器が好きでねえ。珍しいモノを見たら知りたくなる」
「いつから・・・今の貴方になった」
「最初からさ」
「最初・・・
「元々俺はあの大戦争計画をおっ始める為に関西ヤクザの代表である彩雲会に潜入したスパイだった」
「社会の害悪共を一掃する計画だったが結局戦争は起こらなかった」
「それを纏めたのがお前なんだ」
「お陰で全ての計画がパーになった」
「ゴミ共の唯一の取り柄であるその命を天に召す為の計画が・・・」
「私はお前を許さない」
「良かった」
「何がだ」
「あの時誰も血を流さなくて」
「こいつっ・・・」
「改めて!俺のやってきた事は間違いじゃないのかもしれない!」
「感謝もしてるよ・・・山本さんに」
「ハリーホプキンスで一緒に騒ぎを治めたことがあったよね」
「あの時貴方の強さを目の当たりにして」
「もっと強くならねばならないと!」
「そう思えた事に!」
「死に晒せガキがああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
相手の最初の一歩目と同時に体を低く縮め相手に踏み込む。
「震天動地っ」
相手の脛めがけライトニングを振り抜く。
「っ・・・!」
怯むスタッグ。膝から崩れ落ち前に転がる。
もうこの人は山本さんではない。BLACKSATURNからの刺客。俺の敵である。
立ち上がるスタッグ。まだ武器を握っている腕。
「剛腕無双っ!」
外から相手の両肘に向けて同時に攻撃をかける。肘をこれで砕く。
「があっ・・・!!」
調整室から下の様子がふと見えた。
彩希子が壇上に立っていた。
何か喋っている。俺に向けてではなく。
集まった人達に。自分の声を聞く人達に。
それはもう自分一人で生きてはいけない弱い存在ではない。みんなを照らす天照大神の如く。
「大きくなりやがって」
後日談。
直木賞受賞と同時に引退を勝手に囁いていた彩希子はやっぱり現役続行。舞台裏で俺に破れた山本さんことスタッグは彩雲会の手に落ち前回の反省から死にたくても死ねないような状態にある、らしい。それでも俺の気が休まるワケではないのだけれども。
2003年10月23日午前10時7分。ヘンメルマウスマンション501号室リビングルーム。
全行程報告会。
「以上が事の顛末だ」
「お世話になりました」
「何言ってんだよ」
「結局また頼っちゃったね」
「良いって別に。直木賞おめでとう。そういえば言ってなかった」
「ありがとう」
「文屋、辞めるんか」
「いや」
「お」
「もう一回、向き合ってみる」
「そうか、頑張れよ」
「読者は大事にしないとね」
「ああ」
「ね、私の最初のファン」
2003年10月23日午後1時4分。三ツ島遊郭浜風屋15階甲の間隠し事務所。
「ただいま」
「おかえりなさい、始様!」
「全部終わった。俺の仕事は終わりだ」
「始様、ご報告が」
「うん?」
「猪崎様が墜とされました」
「嘘だろ」




