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婚約破棄された地味令嬢は、北方騎士団の命綱でした 〜私を捨てた王宮は止まり、辺境公爵様には政務官として溺愛されています〜  作者: おねぴ


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18/19

第18話 閉じた峠に、通常便は通せません

北尾根からの再確認印は、翌朝の二番鐘のあとに届いた。


封筒は、昨日のものより乾いていた。


代わりに、紙の端が硬い。凍ったものを火の近くで乾かしたのだろう。角が少し反っている。


私は封を開き、昨日の受領証の写しと照合した。


品目は一致していた。


受領者、オルド。

再確認印、あり。


印影は、今度ははっきり読めた。


昨日の欠けた印の横に、私は小さく追記した。


再確認印、受領。

仮受領を正式受領へ移行。


空白だった欄は、もう空白ではない。


ただし、安心するには早かった。


受領証の下に、もう一枚、薄い報告が添えられていた。


北尾根信号小屋より。

峠道、閉鎖継続。

馬車通行不可。

中継砦より先、そりのみ可。

風向き東。

吹き溜まり、南側に増加。


私はその紙を、受領証の隣に置いた。


マルク副長が覗き込む。


「受領の確認と、道の閉鎖報告が一緒に来たのですね」


「はい」


受領は終わった。


けれど、補給は終わっていない。


北尾根に荷が届いたということは、次に考えるべきものが見えただけだった。


「第四補給便の予定表をお願いします」


マルク副長は、すぐに別の紙束を出した。


王都倉庫発。

南砦経由。

中継砦積替。

霜見砦、北尾根信号小屋、黒松見張所へ分配。


私は、経路欄に目を落とした。


南砦までは、まだ馬車が入る。


中継砦までは、小型馬車で行ける日もある。


だが、中継砦より先は、すでにそりしか通れない。


それなのに、予定表は一本の便として書かれていた。


王都倉庫から、北方各所へ。


それだけでは足りない。


「このままでは、第四補給便は通せません」


マルク副長の顔が引き締まった。


「王都からは、まだ出ていません」


「出しても、南砦か中継砦で止まります」


「馬車を分ければ」


「分ける場所を、書かなければなりません」


私は紙に線を引いた。


王都倉庫から南砦。

南砦から中継砦。

中継砦から北尾根、霜見、黒松。


同じ補給便として扱えば、途中で現実と合わなくなる。


「閉鎖後は、便ではなく区間で見ます」


マルク副長は、少しだけ目を細めた。


「区間」


「はい。王都から見れば第四補給便です。けれど北方から見れば、王都倉庫出庫、南砦集積、中継砦積替、各所配分の四つです」


私は南砦の在庫欄を開いた。


南砦倉庫。

空き容量、三割。

屋内保管可、乾物と布。

灯油樽は別棟。

馬飼料は屋外仮置き不可。


次に、中継砦。


中継砦倉庫。

空き容量、一割半。

そり二台。

替え馬なし。

積雪時、南砦方面の往復に半日遅延。


「南砦にも中継砦にも、置ける量に限りがあります」


「荷は多い方が安心では」


「置けない荷は、届いた荷ではありません」


マルク副長は、そこで黙った。


私は第四補給便の予定表に赤を入れる。


一括出庫不可。

南砦集積上限あり。

中継砦積替能力、そり二台分。

北尾根分は信号維持を優先。

霜見砦分は灯油と医療箱を先行。

黒松見張所分は狼煙材、乾燥食、替え縄を先行。


「食糧を減らすのですか」


「減らしません。順番を変えます」


私は別紙に表題を書いた。


第四補給便 閉鎖後配分表。


品目。

出庫元。

第一集積先。

積替方法。

最終受領先。

優先理由。

保留可能日数。


「保留可能日数」


マルク副長が、その欄を見た。


「はい。全部を急がせると、急ぐべきものが埋もれます」


「何が保留できますか」


「黒松の乾燥豆は三日待てます。北尾根の信号布は待てません。霜見の灯油は二日以内。馬飼料は南砦で止めると凍湿します。出すなら中継砦まで一気に動かす必要があります」


「かなり細かいですね」


「冬は、まとめて動いてくれません」


急がせるもの。

待たせられるもの。

置いてはいけないもの。


それを、同じ表に置く。


私は一行ずつ書いていく。


北尾根信号小屋。

信号布、灯油、蝋燭。

中継砦そり配分。

保留不可。


霜見砦。

灯油、医療箱、塩肉。

中継砦積替。

保留二日。


黒松見張所。

狼煙材、替え縄、乾燥食。

南砦経由。

保留三日。


南砦。

馬飼料、倉庫内保管分。

王都馬車到着後、即時屋内搬入。

屋外仮置き不可。


「ローデン顧問」


マルク副長が言った。


「これは、王都に送るのですか」


「はい。送ります。ただし、許可を求めるためではありません」


「では」


「王都が第四補給便を出す前に、通常経路では通せないことを知らせるためです」


文官庁は、費目を整理する。


会計院は、支出の根拠を見る。


けれど、雪の中でどこまで馬車が入るかは、北方が出さなければ分からない。


私は表の下に、補足を書いた。


峠道閉鎖により、第四補給便は通常経路での一括運行不可。

王都倉庫からの出庫は、南砦集積上限および中継砦積替能力に合わせて分割すること。

閉鎖後は、便名ではなく区間ごとに出庫、積替、受領を記録すること。


書き終えたところで、クラウス様が入ってきた。


「会計院より、第四補給便に関する照会です」


私は顔を上げる。


「ちょうどよかったです」


封書を開く。


件名。

第四補給便の出庫可否および北方側受領能力について。


確認事項。

一、王都倉庫からの出庫希望日。

二、南砦および中継砦の受領可能量。

三、峠閉鎖後の積替手段。

四、優先品目。


会計院は、こちらより早くそこを聞いてきた。


少なくとも、文官庁よりは早い。


「回答できます」


私は言った。


ユリウス閣下が補給室へ入ってきたのは、その直後だった。


「第四便ですか」


「はい」


私は閉鎖後配分表を差し出した。


閣下は、いつものように最初から読んだ。


便名ではなく区間。

集積上限。

積替能力。

優先品目。

保留可能日数。


途中で一度、指が止まった。


「保留可能日数」


「全部を同じ優先にすると、現場で判断できません」


「その通りです」


「王都が先に出せるものから出しても、南砦で詰まります。南砦で詰まれば、雪で荷が傷みます。傷んだ荷は、帳簿上届いても使えません」


ユリウス閣下は頷いた。


「この表で回答しましょう」


「会計院宛てに」


「会計院、王妃府、文官庁。三者に同じものを送る」


マルク副長が眉を上げた。


「文官庁にもですか」


「送るべきです」


私は答えた。


「文官庁が通常便として処理すると、また保留か一括出庫になります」


「では、最初から分けさせる」


「はい」


ユリウス閣下が署名欄に名を書く。


「これを北方側の回答にします」


「承りました」


閉鎖後配分表は、三通作られた。


会計院宛て。


王妃府宛て。


文官庁宛て。


それぞれに同じ表を添える。


ただし、文官庁宛てには一枚、確認事項を追加した。


王宮費目による第四補給便について、通常経路による一括出庫を予定している場合は、南砦集積上限および中継砦積替能力を確認のうえ、分割出庫へ変更されたい。


クラウス様が、その文を読み返した。


「かなり直接的ですね」


「遠回しに書くと、通常便として出ます」


「出ると」


「止まります」


それだけだった。


王都の会計院に、北方からの回答が届いたのは二日後だった。


若い担当官は、閉鎖後配分表を広げた瞬間、隣の主任を呼んだ。


「主任。第四補給便は、一括出庫不可です」


主任は眼鏡をかけ直した。


「閉鎖後配分表ですね」


「はい。峠道閉鎖、南砦集積上限、中継砦積替能力。優先品目と保留可能日数まで出ています」


主任は表を受け取り、読み進めた。


「王都倉庫から見ると面倒ですが、北方から見ると正しい」


「会計院としては」


「一括出庫ではなく、分割出庫にします。費目は第四補給便のまま。ただし、出庫記録は区間別に分ける」


主任は、処理案を書き始めた。


第四補給便。

王都倉庫出庫、第一分。

南砦受領。

中継砦積替。

北尾根、霜見、黒松へ区間配分。


「文官庁へは」


「北方側受領能力に合わせて、区間別分割出庫処理を行うと通知します」


主任は、最後に一文を足した。


通常経路による一括出庫は、北方側受領能力および積替能力と齟齬あり。

第四補給便は、区間別分割出庫として処理することが妥当。


北方本城に、会計院からの返答が戻った。


第四補給便。

区間別分割出庫として処理。

王都倉庫第一分、出庫予定。

南砦受領後、中継砦積替分を確定。

北方側閉鎖後配分表を添付資料として採用。


私はその文面を読み、受付簿へ記録した。


第四補給便。

一括出庫不可。

区間別分割出庫へ変更。

閉鎖後配分表、採用。


「通りましたね」


クラウス様が言った。


「はい」


私は紙を閉じた。


「ただし、出庫したわけではありません」


マルク副長が笑うように息を漏らした。


「また空白ですか」


「はい」


私は出庫欄を指した。


王都倉庫第一分出庫。


そこは、まだ空いている。


「まだ出ていないものは、出たことにしません」


マルク副長は、もう驚かなかった。


「では、次はそこを待ちます」


「待ちながら、南砦の受領準備を進めます」


「待つだけではない」


「はい」


私は南砦宛ての確認書を取った。


南砦倉庫。

第四補給便第一分受領準備。

屋内保管場所確認。

灯油別棟確認。

馬飼料屋外仮置き不可。


北方では、待つことと止まることは違う。


空白を残したまま、次の欄を用意する。


それが、今できる仕事だった。


文官庁に会計院の副本が届いたのは、その日の夕刻だった。


バルツァー卿は、閉鎖後配分表を広げたまま、額を押さえた。


「また区分か」


書記官が、横からおずおずと言う。


「王都倉庫から南砦、南砦から中継砦、中継砦から各所、と分けるそうです」


「見れば分かる」


バルツァー卿はそう言った。


だが、少し前なら、見ても分からなかった。


第四補給便と書けば、それで出ると思っていた。


便名があれば、荷は動く。


王都の机では、そう見える。


けれど、北方から戻る紙は、毎回その思い込みを切ってくる。


便名ではなく区間。

目的ではなく品目。

品目ではなく使える状態。

出庫ではなく受領。


細かい。


細かすぎる。


そう言おうとして、やめた。


それを言った結果が、今の状況だった。


「分割出庫で処理する」


書記官が顔を上げる。


「よろしいのですか」


「会計院もそう書いている。北方も受領能力を出している。こちらが通常便を主張する根拠がない」


「承知しました」


書記官が処理案を作り始める。


バルツァー卿は、閉鎖後配分表の余白を見た。


作成者欄。


エリシア・ローデン。


その名前を見て、彼はしばらく目を逸らさなかった。


夕方、黒松見張所から狼煙が上がった。


北尾根信号継続。

峠道閉鎖継続。


雪は止んでいない。


第四補給便は、もう一本の線ではなかった。

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