観察者
この男はさっき倒した奴とはレベルが違う。
冷や汗が背筋をを通る。いつもやっているはずの呼吸がしずらい。意識してやらなければいけない。
逃げる?今は人数有利…そもそも他に敵はいるのk
「何をしている…」
怒りに満ちたグレンの声が静かに図書室に響いた。
「何をって?」
「その人達!」
「あーなるほど、この死体について言っていたんですね。安心してください。ちょうど教師の方がいたので少し試してたのですが思ったよりもつまらなくて椅子になってもらってただけですよ」
試す?何を?話がわかりづらいタイプだな。あいつが乗っている死体はおそらく戦闘学科の教師じゃない。それでも低くて俺たちと同程度…だが、
考えをまとめているとその刹那グレンが走り出した。
「待て!」
ガッ
危なかった。走り出しで気づけたおかげで服を掴んで止めることができた。
「何をしている!人をモノみたいに使ってるんだぞ!」
「待てって言ってるだけだ!」
「戦うこと自体は賛成だ」
何より冷静さを失ってこっちのアドバンテージを消すべきじゃない。
そして、敵は平気で人を殺すタイプだ。少しでも有利を潰すようなことはしたくない。
手が震える。冷や汗が滝のように出てくる。
殺す…そうだ。今回はトーナメントとは違って倒されてもセーフではない。そしてリサとグレンとは違って俺はリストバンドを使い切っている。俺が1番死に近い位置にいる。
何よりもしっかりと自分を支えてくれているはずの地面が歪だ。めまいがする。
相手は恐らく格上、
恐らく?違うだろ!相手は最低でも俺ら以上の実力を持つ教師を複数人無傷で殺している。
ない希望を見出すな。正確に実力を予想しろ見誤るのは死に直結する。
正確に…正確に?
嫌な情報だけが何回も頭の中をループする。
息が浅くはやく冷静でいようとする気持ちと焦りが互いに擦りあっている。
「それで勝てる気もしないから逃げるのも手だと思うんだけど」
今まで静かにこちらの会話を聞いていたリサが発した言葉で少し息が静まる。
逃げる…確かに3人で逃げれば…いや、敵はこっちよりも強いんだから逃げきれないんじゃないか?
別方向に分かれて逃げる?俺の場所に来たら?他に敵がいたら?人数有利というこっちのアドバンテージを失う。
「いや、逃げ切れる保証がない。逃げてるタイミングで後ろから攻撃されれば間違いなく死ぬ。少なくとも敵の能力…できれば実力を知らない限りは逃げるのはやめた方がいい…はずだ」
これでいいのか?正解は…
「それでいい。少なくとも私は納得した」
リサが目を合わせてはっきりと返してくる。
「何が正解かはやってみないとわからない。決めたんだから嫌なことは考えないようにして」
よくない“もしも”を考えることは戦闘には必要だと思う。だが、リサの言う通りそればかり考えて実力を出せないのは逆効果だ。もう少し最悪を捨てるんだ。想像しづらくても最高の状況を想像するんだ。戦う意志を持て。
「お前が止めてなければ俺は1人で突っ込んで死んでた。感謝している!勝つぞ!」
グレンさん?だったけど結構単純なタイプ思った通りだけどいい方に傾いてるしそれはいいか。
レイも少なくとも今は安定している。けれどこっちは逆に最悪の可能性を想像し過ぎてしまう。
「私が作戦を考える」
「…あぁ、わかった」
レイは少し迷いながら頷く。
今、戦うとして明確に有利な点は数だけどその有利は一瞬にしてほぼなくなるパターンがある。それはレイが狙われた場合。
グレンさんと私は一度なら死んでも大丈夫な中レイはもう残機はない。
「私とグレンさんが気持ち前に出る。レイは私たちの間少し後ろでタイミングを見てサポートして」
「水槍」
武器を作り出してゆっくり歩きながら近づく。
それに対し男はゆっくりと微笑みながら語り始める。
「そういえば自己紹介をしていなかったね。僕の名前はルイス」
そんな自己紹介に気にすることなく3人は距離を詰める。
「物語制作世界選択」
その言葉と共に図書館は見たこともないような部屋に変わった。
骸骨に門?炎で出来ているからこの敵の属性は間違いなく炎でしょうけど…こんなに部屋に炎が燃え盛っているのに図書館の本には影響がない。それどころか煙も無ければ体感も暑苦しいと感じない。
「何かやる前に攻撃をするぞ!」
グレンが手のひらを後方へ向け炎を出して加速する。
「リサ乗れ!」
レイがそう言いながら六花を二つ足下に送ってきた。
これに乗れっていうことね。
直ぐに理解し乗った瞬間に加速した。
乗り心地最悪、体制を立てづらい。攻撃に繋げるなら…
ルイスに届く瞬間に六花から降り水槍を曲げ床に引っ掛け加速する。
3人がほぼ同時にルイスの目の前にまで近づき攻撃を放とうとする。
「人物生成モデルケロベロスプラス罪人」
その言葉の瞬間に炎で出来た3つの頭を持つ犬と骸骨が生まれる。
その大型の犬の攻撃によって全員が吹き飛ばされる。
ケロベロス…って確か地獄の番犬だったよね。あの炎の門も関係してそうだけど…あの骸骨生み出す時に罪人って言ってたし…
思考する暇もなく沢山の骸骨に囲まれる。
「離れすぎずに近い敵から処理する。レイは自分優先で余裕があったらこっちのサポートをして」
水槍で骸骨を攻撃すると意外にも一撃で倒れる。他の2人もそれほど苦戦することなく処理できる。
でも…量が多い。それに教師を倒してる時点でこの程度な訳がない。後ろに佇んでいる犬も残っているし。
ルイスは笑顔で3人の戦いを観察している。
「あの3人は氷、炎、水属性なんですね。指示を出しているのは水属性の子…炎は感情が先行している氷は慎重な感じの性格でしょうか?炎は大雑把な魔法が多い氷は攻撃系の魔法もあるが守りの魔法の方が得意そう。ここ2人は性格にもあっているイメージ水も単純な能力を工夫して複数の戦い方をしてるイメージですね。もっと知りたいなぁ」
ルイスの目から光が消えていく。
「炎の子は勢いで敵の強さ関係なく攻撃することがある。けれど理解していないわけではない。実際氷の子に止めてもらったことを感謝していた。魔法は遠距離でも使える炎を飛ばすようなもので大雑把な感じ。近い骸骨に対しては拳に炎を纏わせて攻撃している。歪だなぁ近距離にはそれにあった攻撃をする。それはあっているけど微かにぎこちない。最近作ったのかな?必要以上に攻撃していたり一撃で倒せそうなところで倒せていない。最近作る…もちろんおかしなことじゃないけどこういう子は自分の強みを伸ばすことを優先しそうなイメージだし誰かに負けたみたいだな。うん、その方がしっくりくる気がする。だとしたら誰だろう?炎属性の攻撃を防ぐのは学生じゃ難しそうだけど…それこそそこの氷の子っぽいな。1年生なら入学したてだろうし連携がある程度できてることから知り合いだと思うし防御的な思考を持ってそうだからしっくりくるかな。水の子は真面目って感じだな。まとめるのも得意。氷の子を呼び捨てにしてるから知り合いか?この3人を精神的な部分でまとめているし入学時点で多少色々と経験してそうだ。能力についてもシンプルだからこそ強みを引き出している。でも、無意識に自分を過大評価してそうだなぁ。自分から指示を出す役に出ることもそうだし自分の能力を疑っていないタイプ。完全に失敗だという指示は出さず細かすぎる指示を出したりもしない。経験値からくる考えを疑わないタイプ。氷の子は…分かりずらいな。慎重…本当に?ならなんで攻撃手段はほとんど近距離の魔法?近づかれる前に対処するか守りに徹するのもできる実力はあるのに…自分を隠している?それならどこまで追い詰めれば本当の姿が見れるんだろう?」
ひたすらに呟き続けながら3人を観て観察していく。
火花の舞う中ただ焼け跡だけが部屋に増えていく。




