決勝
勝った…だが、アドバンテージがあって相打ちになった。
チーム戦で勝てただけだ。
次の作戦会議の予定を聞いた俺は建物から出る。
外に出た瞬間、差し込む日差しに視界がボヤける。
「私に勝ったのにあまり嬉しそうじゃないわね」
声の主へ視線を向けるとリサが立っていた。
「リサ…さん?」
そのまま横を通り過ごそうとすると胸ぐらを掴まれ少し低い声で言われる。
「何を考えているかわからないけれど負けた私の前でその顔するのやめなさい。ムカつくから」
「それと、呼び捨てでいいわよ次戦う時は潰すから」
確かに勝ってはいる。だが、個人的な戦闘能力では負けていた。
「貴方が何を考えて困っているかは私には分からない」
「でもね、貴方はまだ決勝があるでしょ。今まで貴方に負けてきた人も私も勝ち抜くために来た。なのにここまで勝ち抜いた貴方がその様子なのは失礼よ」
それは分かる。今までいろんな人を倒して協力して勝ち残ってきた。分かっているが…どうしても俺自身が納得できない。
「俺は、ルールがあったからお前に勝てただけだ。普通に戦ったら負けていた」
「あぁ、そういう事ね。貴方は勘違いしている」
「貴方が今回の勝ち方を気にするのは構わない」
「でもそれは今じゃない。貴方が気に入らない勝ち方をしたくないなら強くなるしかない。今貴方がするべき事は次の相手に向けて備えることでしょ」
そうだ…そうだな。確かに今俺がするべき事は悩む事じゃない。チームの為にも俺は終わった結果に囚われてる場合じゃなかった。
「あぁ、ありがとう」
「そう、じゃあ私は帰るから」
そう言ってゆっくりと歩いて去っていく。
「……話ってそれだけか?」
「あ、」
少し早歩きでこちらに歩いてきたかと思ったらリサはバッグから封筒を出してこちらへ渡してくる。
「貴方の決勝の相手の情報。全部じゃないけど」
「なんでこれを俺に?」
俺が勝とうが負けようがリサには関係ないはずだ。
「貴方の決勝の相手は私の知り合いよ。それでその資料を渡した理由は貴方たちの情報を得る為」
「試合の様子は自分のもの以外は観れないはずだぞ」
「トーナメント中はそう」
そう言って少し笑う。
「でもトーナメントが終われば、全生徒がトーナメントの映像を見れるようになる」
影に隠れた彼女の瞳には静かに光が灯っていた。
「つまり私達はこのトーナメントが終わればこの学年全員から学年上位の座を狙われる側になるの」
リサはもう振り向くことなく去っていく。
「もう、迷わない」
寮に戻るとすぐにリサから渡された資料に目を通す。
「次の相手は…セト、電気属性か」
近距離での戦闘が得意でリサがこれまで見た中で1番強い相手。
「成績が学年1位、同世代最強の敵か」
そして決勝の日がやってくる。
1までと比べてかすかに重い空気が流れるまま作戦会議が始まる。
「最初はゼクスが行ってくれ」
「僕がいくの?正直セト君と戦いたいし最後がいいんだけど」
「お前が勝ち抜けば戦える。それに相手は今までの敵の中で最強だ。お前の初見殺しで確実に人数差を作るんだ」
俺はこのチームで勝つ為にルールをとことん利用してやる。
それが俺の覚悟だ。
「これまでより気合の入ったいい目だね。いいよ僕が出る」
決勝戦勝ち抜き戦
1人目が出てきた。
戦闘が開始すると同時にゼクスは距離を詰める。
試合前
「これまでの戦闘で思ったんだが」
「どうしたの?」
「トーナメントに参加してる奴は成績上位なだけあって全員近接戦が出来るんだ」
サラとゼクスは真顔でこちらを向き返答する。
「それは、そうですけど」
「だから、僕の初見殺しは避けられる可能性があるとかそういう話?」
「いや、そうじゃない。全員近接戦が出来るからこそ起きていた事がある」
「ここで戦う奴は遠距離得意でも近接戦が出来るなら即座にそっちに意識を変える奴が多い」
「だから初見殺しを当てるなら突っ込んで距離を詰めれば相手も近接戦で戦うはずだ」
ゼクスは波に乗り近づいた瞬間に魔法を発動する。
「ヘカテー」
背後に水も花が咲き周りには水の草原が広がる。
「水弾」
構えた人差し指から水を放つ
「そんな攻撃当たるかよ」
相手は土で剣を作り弾いた瞬間。
ドサッ
地面に倒れる。
「何を…した」
「さぁ、何をしたでしょう?」
「それにしてもこんなに上手くいくんですね」
サラは控え室で驚きながら試合を見ている。
「ここまで上手く行った理由は二つある。一つ目は敵がこれまでよりも弱かったこと」
「決勝ですよ?」
「あぁ、だがこの学園のクラス分けは成績がどのクラスも同じぐらいになるようにされている。つまりセト以外は他よりも成績で言えば下だ」
「理由二つ目はゼクス本人もそれほど重要に考えていないかもしれないがアイツの(ヘカテー)という能力が強力な点だ。本来はできないはずの能力に属性関係ない効果を乗せた攻撃、戦闘ができるやつほど引っかかる」
実際水に何か効果を持たせる事は世界で見ても数人程度だ。本人に聞いてみても理屈はよく分からないらしい。そんなイレギュラーな攻撃を避けられるはずがない。しかも水滴一つでも当たれば発動なんだからな。
「ただ次からはこう上手くはいかないだろうな」
「それまたどうしてですか?」
「確かに特殊な魔法なことには変わりないが特殊=強いわけじゃない。初見殺しには使えるがこのトーナメントに出てくる相手なら次で対策してくるはずだ」
2人目の敵が入場してきて試合が始まる。
「ヘカテー」
再び水の花草がさきほこる。
「それはさっき見た」
さっきの試合では水弾とやらを弾いた瞬間に倒れていた。
だとしたらヘカテーとやらはフェイク?それとも、関係しているのか?
「水弾」
こちらに考える時間を与えないようにするためかゼクスは直ぐに攻撃を仕掛けてくる。
「土盾」
魔法で受ける。
少なくとも俺自身に当たらなければ発動しないわけか。今気づいたがあの魔法はただの水属性の能力だとは思えない。特殊な効果が乗っている?
「だとしたらどれだけレアもんだよ」
どれだけ考えても水の魔法ですごい威力があろうとあの倒れ方は不自然すぎる。
「少なくとも皮膚に当りさえしなければいいんだよな」
「ならっ」
なかなか土の壁から出てこないな。
彼は土属性。戦闘スタイルは中近距離が得意かな?
少なくともさっきの水弾がそれほどスピードもなかったし射程距離が長くないこともバレてそうだけど、それなら直ぐに長射程の能力を使うべきだね。
「それがないなら、」
水弾を土の壁の右側へ集中的に撃つ。
これでどっちからくるか…。
右側なら結構自分自身を固めているはず。そして、左から来るなら守りよりもスピード重視のはず。
ドンッ
大きな音が鳴り土煙が上がる。
「そこでしても意味ないだろう」
そう言った瞬間右側からすごい速度で何かが壁の裏から出て行く。
「そこか」
その何かに水弾を撃ちながら見てみると…
ただの土の塊だった。
ダミー!
本命は左か!
「いない…」
土の壁を見てみても人が出た形跡は何もないし俺の周囲にも人の気配はしない。
あれだけの隙があっても詰めてこなかった?
確かに近距離の攻撃しかできない場合はあり得る。
何より少しでもダメージを与えておいた方が基本は有利になることが多いのに動かなかった。
「でも、」
決めつけはやめなければ——。
土の壁が迫ってくる。
「どっちでもないのかよ」
まだ思い込んでいたみたいだね。水弾をある程度受けても平気そうなことから固定の壁だと思っていた。
「硬水」
背後のヘカテーの水の花を掴み能力を発動させると球体になり手の中に収まる。
その手を壁へ向けると小さく圧せられた水が細く勢いよく放出される。
その水圧は土の壁を容易に切り裂いた。
「これでいい」
しかし、壁の裏には敵の姿は見えない。
壁は浮きながらこっちへ来ていた。人力のように押していたわけではに?
土の柱?がある…これを作る時の勢いで押したのか!
……だが相手はどこにいる?壁の外にはいなかったはず。壁の内側はありえない反撃ができないのだから。でも裏にいたことは間違いない……。
まさか!
壁を押した柱の下。僕の死角となる位置に敵は潜んでいた。
ここまでの行為全部ハッタリってわけね。
相手は予め土で凶器を作っていたようで体を切られる。
「ツッ」
後ろにいっていればかすり傷で済んだかもな。
だが僕は前に行った。
結果深手を負ってしまった。
確実に不利になった。あとは逃げ続けられたら僕の負け…
……と思うよね。
壁を切る水を持っていた手と反対の手を出す。
敵は想定外だと言わんばかりにこっちを向いて
「その手には何も握っていなかったはず…まさかあの動きもフェイク!」
「いや?」
直ぐにお相手さんは小さいが即席で壁を作る。
君は直ぐに逃げるべきだった。自分を信じて何もないと思うべきだった。
何かあると思わせて何もないのにあえて近づいた。
避けられないと感じ守りに入ってくれたおかげで間に合った。
さっき壁を切った方の手にもう一度水の花を圧縮する。
さっき相手が作った壁もフェイクの攻撃しか防げない大きさ。
作った硬水をその場で炸裂させる。
水を浴びた敵は動けなくなる。
「ありがとう。いい試合だったよ」
2人目を倒した。ただ、傷が深いことに変わりはない。
「これは次の試合しんどいかな」




