18 約定
ジャルドが朝の日課のようにやって来て、お茶を飲みながら話して行く。
ロニが作るお菓子目当てでは無いかと思う時もあるけれど、外に自由に出られない私に色々教えてくれる為なのだと理解している。
もちろん、教えるので大人しくしておけという意味もあるけれど。
屋敷の中の事は、ロニが。
屋敷の外の事は、ジャルドが何かと知らせてくる。
ウエストリアを離れても、彼らが側に居てくれると良いけれど、二人はあくまで父の使用人であって私のではない。
おまけに知らない土地に行く事は、彼らにとっても大変なはずだ。
「ねぇ、ジャルド。聞いたことが無かったのだけど、貴方とお父様の約定はどうなっているの?」
「何すか、お嬢が雇ってくれるんすか?」
「それは約定の内容によるわ」
「へぇ、だがお嬢じゃちょっと役不足かなぁ」
「まぁ、そんなに厳しいの?」
「俺、メシが不味いと働けないっすよ」
「えっ、マルタ以上が必要なの? それは大変だわ」
「お嬢の料理に期待してないっすよ」
「正直にありがとう。でも食事ねぇ、それは困ったわね。
サイラス様が、マリのトルテを食べたとき、レテは苦いから小麦が美味しいって言っていたのよね」
「まぁ、少しの間、待っても良いっすよ。お嬢だってメシは美味い方が、って思うっしょ」
「それもそうね。私の料理の腕が上がるかもしれないし」
「それ、時間かかりそうっすね」
「失礼ね、アルは喜んで食べてくれるわ」
「いや、不味いとは言ってないっすよ。俺は、美味い飯って言っているだけで」
「本当に正直な人ね」
「ま、俺の事はいいっすよ。それより昨日は何で殿下を困らせてたんすか?」
「別に困らせるつもりは無いのよ。ザイード様が魔力を私に入れようとするから、ダメって言っただけ」
「別にいいじゃないっすか、少しくらいの魔力、貰っておけばいいでしょう?」
「ジャルド、彼は私が部屋で躓いても心配して大騒ぎするのよ、本当にそれで良いと思うの?」
「まぁ、確かに」
「少しは慣れて貰わないと」
「今は仕方ないっすよ。体調が戻ってないのは本当なんすから」
「それでもよ。時間が経てば体調は戻るわ、この位平気なんだと知って貰わないと困るわ。それに私は自分の中にある魔力は使えないのもの、勿体ないでしょう?」
「あゝ、なるほど」
「なぁに?」
「お嬢が主人の娘だったと思い出したっすよ」
「まぁ失礼ね、あんなに腹黒くありません」
軽口を叩きながら目の前で笑う人の事を考える。
確かに殿下の魔力を貰い続ければ、殿下とお嬢の間には、守るものと守られるものと言う関係が確立してしまうだろう。
それは殿下と対等の関係でありたいと思う、お嬢の望むのもでは無い。
面白いなぁと思う。
殿下の中には、人は弱く守るものと言う考えが根付いている。
おそらくそれは、ガルスの獣人達が当たり前に持っているもので、特別な感情ではない。
お嬢の望みは、その意識を変えるのと同じことだ。
それはガルスの獣人だけでなく、そこに住む全ての人の意識を変えることでもある。
お嬢の側にいれば、これから何が起こるか見ている事が出来るだろう。
こんなに面白い事があるだろうか?
『お嬢、俺の約定はね。メシが美味い。それにもう一つ、面白いこと』
決して教えるつもりは無いので、心の中で呟く。
初めて会った時から俺を捕まえたのは、目の前に座っている少女だ。
そして捕まった事を残念に思ったことは一度もない、おそらくこれからも。




