19 出発
「父上、どう言うことですか?」
「何の話だ」
「姉さまがウエストリアに帰るのに、どうして僕が残らなければならないのです」
「あゝ、その事か」
「その事か、ではありません」
「大きな声を出さなくても、聴こえているよ」
「では、説明して下さい」
「必要ないからだよ」
「えっ?」
「殿下が共に行くのだから、お前は必要ない」
自分が彼に敵わないことくらい分かっている。
「姉さまと離れるつもりはありません」
「それでどうするつもりだ」
「どう言う意味です」
「リディアと共にいて、お前は何をするつもりなのかと聞いている」
「それは、、、、、、」
「あれはすぐにガルスに行くぞ、自分が生きる場所を決めているからな」
「一緒に行きます」
「今のお前が付いて行っても役には立たん」
「僕だって守ることは出来ます」
「殿下の足元にも及ばないお前では、ガルスに行っても意味がない」
「ロニやジャルドはどうするのです」
「共に行くだろうな」
「彼等が行くのに、どうして」
「リディアがそれを望んでいるからな」
父の部屋を飛び出す。
そのくらい分かっている。
姉さまにとって自分は弟で、共に歩く相手ではない事も。
それでも側にいられるならいいと思っていた、それだけが自分の望みだったのに、、、、、、
「アル、いるの?」
部屋に引きこもっていると、ドアをノックする音と共に、大好きな人の声がする。
「うん、どうしたの?」
ロニに支えられて歩いているので、部屋の中に招いて長椅子に座って貰うと、
「ありがとう」と言いながら、頭を撫ぜられる。
「姉さまは、明日出発するでしょう? 気をつけて、無理しちゃダメだよ?」
「ふふっ、大丈夫よ。 それより、貴方の方こそ気をつけてね」
「僕?」
「そう」
「どうして僕が気を付けるの?」
「まぁ、お父様に話を聞いたのでは無いの?」
相変わらず面倒な人だわ、私から知らせるつもりだったのかしら?
「何を?」
「アルが、イルネラの街に行くって聞いたわ。 だからウエストリアに一緒に帰らないって」
イルネラの街は、“トゥグ”の鉱石が取れる場所だった。
数名のメンバーでチームを作り、森の奥に入り魔物を倒して鉱石を取る。
取った“トゥグ”は、ウエストリアに納めなくてはならないが、魔物が落とす魔石や森で取れる貴重な薬草は、イルネラの街では高値で取り引きされているため、街には、父との約定に従って仕事をしている者の以外にも、冒険者と呼ばれる流れ者が集まる場所のはずだった。
そんな場所に行って、僕に何をしろと言うのだろう。
「僕が行っても役に立たないよ」
「どうして?」
「強い者が行く場所だろ?」
「アルは、強い者では無いの?」
「僕は、強く無いよ」
「アルにとって強い人はだれ?」
「父さまとか、殿下とかかな、姉さまだってそう思うでしょう?」
「そうねぇ、弱くは無いと思うけれど、私にとってお父様は面倒な人で、ザィード様は困った人だから」
「困った人なの?」
「ふふっ、そうね」
「じゃぁ、僕は?」
「アルは、弟よ。 きっとこれからどんどん変わっていくわ、楽しみね」
「変わる?」
「ええ。 貴方は、これからだもの。お父様だって、昔からあんなに面倒な人では無かったはずよ、絶対かわいい子どもの時代があったはずだと思いたいわ」
「僕も変われるかな」
「きっと。 でもお父様を目指さないでね」
「父さまはダメなの? 目標って大切だと思うけど」
「アルがなりたい人になればいいわ」
「僕がなりたい人?」
「そう」
「それって難しくない?」
「そうかしら? アルが決めればいいのよ、先に進む時や何かを行う時、自分が間違っていないと思った方に進めばいいわ、その為に何をすればいいか考えるの」
「僕の選択が間違ったらどうするの?」
「それは大丈夫よ」
「どうして?」
「私が知っているから」
「側にいないくせに」
「でも今まで側にいたわ、だからアルフレッドがどんな選択をするかちゃんと分かっているわ」
翌日、姉さまとザィード殿下がウエストリアに向けて出発する。
転移門を使わずに、街道を通って行くため、ジャルドの他に数名の兵が付き何台かの馬車が並ぶ。
今回は、姉とその婚約者のお披露目の旅でもあるので仕方がないが、薄化粧をして装った大切な人は、綺麗で、幸せそうで、本当に腹立たしい。
「ザィード殿下、姉をよろしくお願いします」
「はい、お約束します」
「僕は、姉の選んだ道を否定するつもりはありませんし、今はそんな力も無いことを知っています。
でも姉が幸せでは無いと感じたら、必ず取り返しに行きますので、覚えておいて下さい」
形通りの挨拶をした後、殿下に近づいて言いたい事だけは伝えておくと、
「アルフレッド殿、信じて頂けないかもしれませんが、初めて会った時から、貴方が私の一番のライバルで、一番戦いたくない相手だと思っています。 そうならない様に肝に銘じて置きます」と返された。
そう、初めてリディアに会った時から彼がずっと側にいた。
今でも彼女の左腕には、あのリングが付いていて、変わらず彼女を守っている。
まだ幼く魔力の扱いにも長けていないが、辺境伯が爆炎の様な強い力を使って戦うとすれば、エリス殿は、全ての力を使って多彩な攻撃をしてくるだろう。
彼はおそらくその両方を使う。
緋色の瞳は、炎を扱うのに向いているとされているが、他の力が使えない訳ではない。
それに気がついているのか、いないのか。
リディアに伝えてみようかとも思ったが、彼女は弟を信じているので、「いつ気がつくかしら?」と笑っているに違いない。
腕の中にいる人に、自分以外の事を考えさせたくないので、その件は忘れる事にする。
これからしばらくの間、彼女は私だけのものだ。
腕の中にいる人をそっと抱きしめると、彼女が甘えてくるのが分かる。
彼がこわれ物を扱うようにそっとふれる。
優しくて暖かい気持ちになるけれど、初めてキスされた時を思い出すとちょっと物足りないし、これからどう変わるかちょっと楽しみでもある。
そしてウエストリアに戻り、数日後。
私はこの優しい人の腕の中で目覚めるようになった。
これで終わりになります。
お付き合い頂きありがとうございます。
初めての事で、何も分からず書いていたので色々長くなりました。
出来れば今後、ウルフレッドの過去の話や、ガルスでの話など書いてみたいと思っています。
機会があれば、またお付き合いください。




