05 王宮へ
「王宮に行かれるのですか?」
「ええ、マリーダ様に呼ばれてしまったから、仕方ないわ」
「では、髪を結って行かれますか?」
「ふふっ、そうするわ、ありがとう、ロニ」
ザィード様から髪飾りを送られてから、髪を結うと髪飾りを付けるが同じ意味を持っている。
父に婚約の解消をお願いしていたので、それまで王宮に行くつもりは無かったのだけど、先日、フレリア様から聞いた話を、マリーダ様が信じているなら話をする必要がある。
「何の話ですか?」
「噂になっているようですよ、カシム様が魔力調節を覚えたのは、リディアが側にいたからだと」
どう言うことか判らない。
カシム様とは、昨年、王都に来た時から会ってもいない。
それが何故そんな話になるのだろう。
「暴発させた時、貴方が側にいたのでしょう?」
それが薬草園でのことなら、嘘ではない、だとしても、その事が何故、自分が居たからと言う話になるのだろう。
彼が魔力のコントロールを出来る様になったのなら、それはカシム様の力であって、他の誰かの力では無い。
薬草園の事は、単なるきっかけに過ぎず、強すぎる魔力を持っていた為に、扱い方が分からなくなっていただけなのだ。
「困ったものよね」
フレリア様も解っていて教えてくれたのだ。
これではカシム様にも申し訳ない。
せっかく魔力調節が出来ても、他人のおかげと言われては堪らない。
残念な事に、一番近くにいる人が、一番彼のことを信用していないのでは、今までなぜ彼が魔力調節を苦手だったのか分かる気もする。
マリーダ様に話が通じると良いけれど、后妃は少し浮世離れした所があって、リディアは苦手だった。
嫌な事からさっさと逃げて、楽しいことだけで自分の周りを守っているような所がある。
そう言う意味では、直接的なロクサーヌ様やセリーヌ后妃の方が分かりやすくていい。
「ロクサーヌ様にも会えるといいけど」
「お会いにならない方が、宜しいのでは無いですか?」
「噂がどのくらい広がっているのか分からないけれど、嫌な思いをしていると思うわ」
「君子危うきに近寄らず、ですよ」
「虎穴に入らずんば、とも言うわよ」
「私はあまり賛成しかねます。人は、時に思いもかけない行動に出る事がありますから」
「嫉妬される覚えもないのに?」
「お嬢様が無くても、あちらがどう思っているか解りませんよ」
「分かったわ。ロニがそう言うなら、今日はマリーダ様に話だけして帰るわ」
「婚約解消の話が纏まれば、ロクサーヌ様ともご友人になれますよ」
「そう思う?」
「はい、きっと」
「そうね、そうなれるといいわね」
ロニに髪を結って貰い、髪飾りをつける。
お嬢様が嬉しそうに鏡の前で髪飾りを付けた自分を見ている。
自分の容姿や服装に興味を持っていないこの人には珍しい仕草だった。
「よくお似合いですよ。髪が少し短くなっていますので、ピンでしっかり止めてあります。痛く無いですか?」
「ええ、やっぱり違うわね」
「何がですか?」
「ふふっ、ミリオネアに行く途中でね。セレスティナと髪を結い合ったりしたのよ。でも上手くいかなくて、結局、セレスティナも髪を切ったのよね」
「それでセレスティナ様の髪も短くなっていたのですね」
「これなら髪が短くなっているのも分からないわ」
「このくらいならいつでもお任せ下さい」
「ふふっ、ありがとう、ロニ」
「おや、上手く誤魔化したっすね」
ジャルドとも話ながら、馬車で王宮に向かう。
とりあえずこれ以上妙な噂話の的になりたくは無い。
貴族の女性は、基本的に髪を伸ばす、こんな時に短い髪で王宮に行ったら何を言われるか分かった物では無い。
そのうち、髪を切ったことで、世界を救う事にもなりかねない。




