06 策略
「大丈夫ですか?」
王宮の廊下でうずくまっている人に声をかける。
「ごめんなさい、気持ちが悪くて」
「まぁ、ロクサーヌ様、誰か呼びましょうか?」
「いいえ、まだ知られたくないの」
そう言われては、仕方がない。
ロニには近づくなと言われていたけれど、本当に顔色が悪いし、吐き気がするのか口元を押さえている。
子どもがお腹にいる女性が、この様な状態になるのは聞いたことがあるし、ロクサーヌ様に子どもが出来たなら、カシム様にとっても良い事だった。
そうであれば、尚更はっきりしない状態を周囲に知られたくない気持ちも判る。
「お部屋に戻られますか?」
「お願いします」
ロクサーヌ様を支えて、部屋に戻り、長椅子に座らせてからどうしようかと考える。
誰か側にいた方が良いと思うが、カシム様は学院だし、ロクサーヌ様が信頼している侍女がいてくれたら良いのだけど、個人的な交流が無いので、さっぱり分からない。
「ごめんなさい、少し落ち着きました。お茶でも入れますから、お座りになって」
「落ち着いたなら良かったです。私もすぐ外しますので、お気にならさないで下さい」
と部屋を出ようとするが、
「お願い、お茶くらい飲んで行って下さい」と言われれば、無下にも出来ない。
「判りました」と言って座っていると、目の前にカップが置かれる。
レモンなどの果実を使ったハーブティーで、「最近、気に入っているの」とロクサーヌ様も美味しそうに飲んでいる。
本当に子どもが出来ているならいい。
妙な噂話など、おめでたい話ですぐに消えてしまうだろう。
「あの、それは何ですか?」
ロクサーヌ様が左手に付けているリングを指差して聞いてくる。
「これは魔道具ですわ。私は魔力を持っていないので、この魔鉱石に弟が魔力を込めてくれて、何時も使っています」
「見せて頂いても?」
「珍しいものではありませんよ?」
「でも綺麗だわ」
確かにアルフレッドが魔力を込めたばかりなので、魔鉱石が鮮やかな緋色になっている。
魔道具自体は珍しいものでは無いかもしれないが、緋色の石は美しい。
「判りました」
アルに怒られそうだわ、と思いながら、リングを外して彼女に渡す。
「本当に綺麗」とロクサーヌ様に緋色に輝く石を褒められるのは嬉しい。
そろそろ后妃様との約束の時間になる。
目の前のハーブティーを飲んで、席を立とうとした時、体に力が入らないのを感じる。
「なにこれ?」
毒ならば耐性がある。
なのに意識が奪われていく。
体の中に入ったドロドロと気持ちの悪いものが、そのままリディアの意思を奪って行く。
「眠ってしまった?」
そっと目の前に倒れている人の手に触れて、びっくりする。
それはまるで死人のように冷たい。
「どうして?」
すると知らない男の人が、部屋の中に入って来て、
「ははっ、助かったよ、本当に守りが厳しくてさ、中々近づけなかったからな。
あんた、お手柄だな」
「どう言うこと!? ちょっと眠るだけだって」
「本当だぜ、眠っているだけさ。まぁ、目覚めるかはわからないけどな」
「そんな」
「あんただって、居なくなって欲しかったんだろう? 今更、何を言ってんだ」
男達は、妙なベールに彼女を包んで樽の中に入れたかと思うと、部屋の外にいた人にその樽を運ばせて出て行こうとしている。
「彼女をどうするの?」
「聞いてどうするんだよ、これがあんたの望みだろう?」
そう言ったかと思うと、手の中にあったリングを取り上げ、外に投げ捨てると、そのまま部屋を出て行く。
そんなつもりでは無かった。
王宮から、王都から、ほんの少し居なくなってくれればいいだけだったのに。




