04 王都到着(2)
エルメニアの王都は、王宮を中心に古都と呼ばれる建国当時の街並みがあり、古都の周囲を守るように第一層、第二層と呼ばれる街が続いている。
古都は、貴族たちのエリアになっていて、王宮を始め、学院や貴族院、緑樹院やその薬草園、王立図書館など貴族たちが暮らしている。
かれらを相手にする店ももちろん存在しているが、あくまで貴族達のためのものであり、特別な許可が必要で、王宮に入るには、まず古都の城門を通過しなければならなかった。
第一層と呼ばれるエリアは、貴族と平民が住んでいて、ウエストリア伯の様に、王都に屋敷を持つ場合は、このエリアに家を持つ。
貴族の屋敷や、獣人の住む場所など、ある程度固まって建物や人が集まっているので、上手く貴族と平民や商人が住み分けている場所でもあった。
第二層は、平民の居住区になり、鍛冶屋や魔道具の工房などもあり、ごちゃごちゃとしていても、活気のある街になっている。
この古都や第一層、二層の間には、城壁があり、中に入る為にはそれぞれ城門を通る必要がある。
エルメニアには、自分の籍を記載した“エルダ”と呼ばれる魔道具があり、人々は必ずこれを持っている。
そこには、自分の生まれた土地やその約定、自分の財産まで全てが記載されているので、人々はその“エルダ”を使って証文を作り、それを持参して街を移動する。
国内の移動では、それ程厳しくは無いが、王都に入る場合は、その確認が非常に厳しく、例え貴族であっても証文を持たなければ、王都に入ることも出来ない。
また、第二層から第一層へ、第一層から古都の中へと王宮に近づくにつれて警備も厳しくなり、簡単に立ち入る事が出来なくなる。
昨年、秋の社交界に参加しなかった為、その王都に来るのは一年ぶりになる。
初めて見た時は、仰々しいと感じた王都を囲む城壁も、久しぶりに見ると懐かしく思えるのだから不思議なものだった。
「ふふっ」
「なんですか、行儀の悪い」
「ごめんなさい、お母さま」
「まぁ、王都に来るのが楽しいと感じているのならいいのでしょうね」
「はい、お母さま。とても楽しみに思っています」とにっこり笑う。
母が思っている事では無いけれど、王都に来るのを楽しみにしているのは嘘ではない。
国境も開いた頃で、数か月前に分かれた人もそろそろエルメニアに来る頃だった。
人を好きになると言う気持ちは難しい。
母と話すのは何だか恥ずかしい気がするし、ロニに聞いても明確な答えは教えて貰えない。
セレスティアは、彼以外とは考えられないと言うけれど、それも私には感覚がまだ判らない。
自分にとって、大切な人や、側にいて欲しいと思う人は沢山いる。
その人達と彼がどう違うのか、今でもはっきり分かっている訳ではない。
只、精霊の王歳に残れと言われた時、最初に浮かんだのは彼の顔だった。
自分を見る困ったようなやさしい菫色の瞳に会えなくなるのは嫌だった。
両親や弟、ロニやジャルドなど、彼よりずっと長く自分の側にいた人ではなく、彼を思い出したのなら、その人と一緒にいたい。
彼がエルメニアに来る前に、色々な事を終わらせておきたいと思う。
そうすれば、彼がどんな顔をするか、ちょっと楽しみでもある。
とても真面目な人なので、自分が獣人である事や、私がウエストリアを離れる事を気にしているに違いない。
本来なら社交も始まっていないこの時期に王都に来る必要もないが、秋の社交界に来なかったことや、冬の間にミリオネアに行っていた事までも婚約している相手が知っているなら、放っておく訳にもいかなくなる。
おまけにそれを理由に婚約を解消しようとしているのだから、地方の貴族たちが集まっていないこの時期が望ましい。
彼が自分を望んでいないのは知っていたし、后妃候補として出来のよくない娘を排斥するのは、珍しい事でもないので、自分の名は地に落ちるが、それを彼が気にするとは思えないので問題もない。
フレリア様のおかげで、マテの白茶の売上は順調だし、アレス様が協力してくれたので、フレの布地もミリオネアで取引が出来そうだった。
2人にお礼を言いたいし、結局カシム様から頂いた布地で仕立てたドレスも着る機会がなくなりそうだが、彼にもお礼くらい言っておきたい。




