03 王都到着
「ようジャルド、久しぶりだな」
春、王都の転移門で荷を馬車に積み、主達が来る間、外でいっぷくしていると、大柄な男が声をかけてくる。
王都にいた頃、情報収集のために酒場や賭博場をウロウロしていた時に知り合った男で、見かけはともかく気のいい奴ではあったが、弱いのに賭け事が好きで、質の悪い奴らに騙されていたのを助けてから、こうして見かけると声を掛けてくる。
「よお、ダル」
「お前のお嬢様は、今回、随分早く来たんだな」
「まぁな」
「なぁ、お嬢様の話があるんだけど、、、」と、ちょっと言いにくそうに言葉を濁す。
ダルはジャルドがお嬢の護衛だとは知らない。
大体、ウエストリアにいてもジャルドか護衛だと知っている人はほとんどいない。領主の娘が、気軽に動けるよう側にいる従僕だと思っている。
それにウエストリア家の人間は、ジャルドが何者であるかなど気にしていない。
あの屋敷にいる人達が気にしているのは、お嬢を傷つける人か、否か。
彼女が側にいるのを許しているか、否かでしかない。
ダルはジャルドをウエストリア家に雇われた従僕と思っているので、街で聞いた噂をこうして知らせてくる。
おまけに彼の奥方は、王宮で働いているので、そこでの話が聞けることがあった。
「なんだ、面白い話でもあったのか」
「ああ」
気のないふりをして、手に持っていた巻き煙草を渡してやると、「悪いな」と言いながら一本に火をつけ、残りを自分のポケットに入れている。
それからこちらを向くと、「悪い話じゃないぞ」と前置きして、自分の妻が王宮で聞いてきたと言う話を教えてくれた。
転移門で一度に移動できる人数は決まっているので、主達がこちらに到着すると、馬車で王都に移動する。
お嬢達が乗った馬車を屋敷に向かわせながら先程の話を思い出す。
「ウエストリアのお嬢様は、不思議な力を持ってるんだろ?」
「なんの話だ?」
「俺のかみさんが、王宮でそんな話を聞いたってさ、その力のおかげで、王子が魔力調節出来るようになったって」
「へぇ、知らなかったな。お嬢様にそんな不思議な力があるなんて」
「違うのか?」
「そんな便利な力があるなら、俺はこの悪癖を止めさせて貰ってるな」と、手に持った煙草を美味しそうにふかす。
「そりゃ、そうだ」と笑いながら、「なんだ違うのか」と残念そうだ。
「そんな力があらなら、もっと早く王子にも会ってるさ」
「確かにな」
それでその噂にも興味を失ったのか、その後は、いつ賭博場に来る? と別のことが気になっていた。
なんだか面倒な事になっている。
カシム様の件が、薬草園での事を言っているなら、真実では無いが、嘘でも無い。
しかし、それだけなら噂にならない話が、不思議な力が加わって妙な広がり方をしているに違いない。
ジャルドは、リディアがウエストリアを出た後、王都にいたので、自分が去った数週間で噂は広がった事になる。
昨年、王都でゾルド教の拠点を一つ潰し、残党がウエストリアにまでやって来たが、殿下の手も借りて何事もなく収まっている。
ジャルドが王都にいたのもその後片付けの為だったが、彼等が王都で動いている様子はなく、お嬢がサウストリアに戻って来たので、ドロテアの街で合流した。
ゾルド教の方が落ち着いたかと思えば、今度は妙な噂話とは、相変わらずお嬢の周りは面白い。
とは言え、放って置くことも出来ないので主に知らせる必要があるが、あの人がどんな顔をするか想像するだけでこれも面白い。
きっと、酷く嫌な顔をするに違いない。
主は王都に来ると必ずアウスレーゼ公爵邸に顔を出す。
奥方のメリッサ様は、転移門での移動が苦手で体調を崩すので、お嬢とアル坊を連れて行くことになるだろう。
その間に少し噂の出所を探っておこう。
この噂の出所が妙な所なら、本当にそのままにしておく訳にはいかなくなる。




