07 ミリオネア(1)
着いたのはミリオネアの中でも真ん中くらいの大きさの島で、到着後、まずアレス様の屋敷に向かう。
船の上ではそれ程感じ無かった気候の違いが、島に降りると顕著に現れ、とにかく暑い。
話に聞いていたので、夏の服装を用意していたが、それでもこのままの姿で歩き回る気にはなれない。
「これを着るの?」
「確かに涼しそうだけど」
服の生地も薄いが、肩や腕がむき出しになっている服は、羞恥心が優って流石に着ることが難しい。
その中でも比較的布地の多い物を選び、一緒に選んでくれたマカラと言う女性に、フェーラと呼ばれる軽く大きな布を渡され、それを使って肩や腕を隠す。
「ありがとう、これなら何とかなりそうだわ」
「気に入って貰えたなら良かったわ、靴も履いてみて欲しいけど、素足は抵抗があるかしら?」
用意してくれていた靴に足を入れる
「まぁ、とっても気持ちがいいわ」
「平気?」
「えぇ、私達の国ではちょっと考えられないけど、郷にいれば郷に従えって言うものね」
「良かった」
「ありがとう。私達が受け入れ易いものを選んでくれたのね」
褐色の肌をした彼女の服装は、もっと開放的で、とても似合っているけれど、エルメニアで育って来た自分達は、身に付ける事が出来ない。
「いいのよ、私も楽しかったわ」
少し年上の彼女は、面倒見も良いのか、その後もフエーラの使い方を色々教えてくれ、ショールの様に使ったりするだけでなく、女性なら胸元に、男性なら腰に巻いて使ったりするし、日除けに使ってもいいわよと笑っている。
確かにこの日差しの中を歩き回っていると、後からロニに随分怒られそうな気がする。
「セレスティナ、少し外を歩いてみない? アレス様が、島を案内してくれると言っていたわ」
「ごめんなさい、私は無理。過ごし易いのは分かっているのだけど、もう少し時間を頂戴」
エルメニアでは、寝間着と言ってもいいくらいの服を着て、外を歩く事に、セレスティナはまだ抵抗があるらしい。
「ふふっ、大丈夫よ、ゆっくり慣れてね。おじ様が一緒に行くと言っていたから、私は行って来るけど、大丈夫?」
「私は平気よ、レナに居てもらうから」
「分かったわ、ちょっと行って来るわね」
「貴女こそ気をつけて頂戴ね、知らない国なのだから」
「それこそ大丈夫よ、エリスおじ様がいて、私に何か出来る人なんて居ないわ」
エルメニアから一緒に来てくれた侍女のレナにセレスティナを頼み、自分はマルタと言う女性と一緒に部屋を出る。
軽くふわふわとした布地で作られた服は、歩く度に足元で布地が動いて可愛らしい。
先程は選んでくれたと言ったけれど、周りを見ても自分と同じ様な服装をした人は無く、どうやら作ってくれたみたい。
これを考えたのが彼女なら、エルメニアのドレスにも使えないか、ここにいる間に話をしてみたいと考えていると、こちらも服装を変えたおじ様とアレス様に出迎えられる。
「やっぱり、僕のお姫様は綺麗だね」
「やっぱり、おじ様は私に甘いわね」
「いや、良くお似合いです」
「まぁ、ありがとうございます」
本当に綺麗だ。
彼女は、道中、身元を知られないように、髪を切り、栗色に染めていたが、ロートアで染粉を落として淡い金髪に戻っていた。
濃淡の緑色の薄い布地を何枚か重ねたこの国の正式な装いと、鮮やかなオレンジ色のフェーラはリディアにとても似合っている。
「これから日が陰り、過ごし易くなりますので、少し島を歩いて見晴らしの良い場所にご案内します。海の中に日が落ちて行く様子は、とても美しいので、気に入って貰えると思います」
エリス殿とリディアを案内しながら話す。
彼女が一人で無いのは残念でも、まだ時間はある。
それに、島に降りてから、エルメニアとは違う景色や匂い、目につく植物から店先に置いてある色とりどりの魚まで、楽しそうに見ている様子は微笑ましく、暑い日差しでさえ楽しそうにしている彼女を見ていると、本来の目的を忘れてしまいそうになる。
真っ赤な太陽が、空や海を赤く染めながら沈んで行く景色は、山や森が多いエルメニアでは珍しい、言葉を失う程魅入られている様子を伺いながら、やっぱり連れて来て良かったと思う。
彼女ならここでの生活もきっと楽しんでくれる、自分ならそれが出来る。
「ありがとうございます、アレス様。こんなに美しいものを見る事が出来るなんて思っていませんでしたわ」
「確かにこれは見事だな」
「ここにひと月もいれば、これが日常になりますよ、さぁ、そろそろ戻りましょう、日が落ちると少し寒く感じる様になりますから」
彼女を案内して戻ろうすると、丘の上、大きなドリアドの木に触れながらリディアが聞いてくる。
「まぁ、これは何ですか?」
「何がです?」
「ほら、ここ。キラキラと光って、、、」
その言葉が聞こえなくなるのと同時に、彼女の姿が消えて行く、まるで木の中に吸い込まれて行くように。
「リディア!」
エリス殿が追いかけ様としても、そこは何時もと同じようなドリアドの木でしかなく、彼女が言っていたように、光ってもいなければ、人が入って行ける場所も無い。
どう言う事なのか分からない、確かにミリオネアでは稀に精霊に魅入られる子どもが居ると聞くが、5、6歳くらいの子どもが殆どで、彼女くらいの女性が連れて行かれたなんて話は聞いた事が無い。
おまけにドリアドの木が、その入り口になっているなんて分かるはずがない。




