14 雨上がり(1)
麦の収穫が終わったころ、数日雨が続く。
ガルスで雨は珍しいので、サイラスだけでなく、イグルスまでも日が落ちると闇の中に消えて行く。
明け方どうやら戻って来るようだが、疲れているのかそのまま部屋から出て来ない。
二人をおいて食事場に降りて行くと、マルタと言う女性が何時もの様に食事を出してくれる。
「おや、今日はイグルス様もお休みかい?」
「いつも勝手をして申し訳ない」
「ははっ、大丈夫だよ。サイラス様は、調理場の薪を割ってくれたりしてね、ちゃんと手伝って貰っているよ」
「それならば良いのだが」
「まぁ、気にせず早くパンをお食べよ。雨がやんだからね、急いだ方がいいよ」
どういう意味だろうと思っていると、パタパタと楽しげな足音が聞こえて来たかと思えば、食事場にリディアが走り込んで来る。
「ほおら、やって来た」
「ザィード様、お食事が終わったら川に行きましょう」
「川、ですか?」
「ええ」
「お嬢様、食事を急かすものではありませんよ」
「ごめんなさい、マルタ」
「さぁ、少し落ち着いて、お座りになって下さい」
食事場の女性に指摘され、少し首をすくめたかと思えば、前の席に座り、女性の出したお茶を飲み始める。
「川とは、先日行ったところですか?」
「ええ、この前行った所より、もっと上流になるのだけど」
「雨の降った後は、危険ではありませんか?」
「少しね、だからジャルドに付いて来て貰うけれど、バーブやクレスは雨上がりで無いと取れないから」
「取る?」
「そう、バーブは、ザィード様が今、食べているものよ、その赤いジャム」
「これが?」
「ええ、美味しいでしょう? クレスは、ジャルドが来てくれれば、夜に食べられるわ」
「珍しい」
「えっ?」
「貴女が人に任せるとは」
「仕方ないわ、クレスは崖に生えているから、残念だけど私ではちょっと無理なの」
仕方ないと首を横に振る様子を見ると、どうやら無理だと行動の結果、知ったらしい。
「お嬢、馬の用意が出来たっすよ」
「まぁ、ありがとう」
「殿下も行きますよね?」
「出来れば同行させて頂きたいな」
「是非、来て欲しいっすね」
「あら、そんなに無理をお願いしていないでしょう?」
「へぇ、そうだったんすか?」
「ふふっ、頼りにしているわ」
憎まれ口を叩いていても、この護衛が彼女を大切にしているのは良く分かる。
リディアも気心が知れているのか、屋敷には兵士達もいるが、何かと彼と一緒に動く。
外に出ると馬が三頭用意してある。
珍しい、どこに行くにも一緒にいる人が、どうやら同行しないらしい。
「アルフレッド殿は、行かれないのですか?」
「ええ、弟はする事があるから」
どうやら雨が上がった時の習慣らしく、リディアがヒョイと馬に乗ったかと思うと、結構な速さで走りだす。
先日行った川をさらに上に行くと、ちょっとした高台にたどり着く。
馬を繋ぐと、ジャルドは崖に近づき、命綱を付けさっさと下に降りていくので、何をしているのかと下を覗けば、崖に生えている野草を取っている。
「あれがクレスですか?」
「ええ、春先にもっと下流で取れる野草なのだけれど、この時期に取れるものは、ちょっと癖があって私は大好きなの」
「それでここまで?」
「一応、ジャルドも好きなのよ、多分」
自分が我が儘を言っている自覚があるらしく、ちょっと視線を外して話す仕草が可愛らしい。
「リディア嬢は何を?」
「私はバーブを集めるわ」
「ではお手伝いしましょう」
バーブという名の野草を教えられ、茎の太い、これもとてもジャムになるとは思えない野草を集める。
必要なのは茎だけと言うので、周りの葉を落としていると声が聞こえた気がする。
頭を上げ、耳を澄ませていると、
「ザイード様、どうされましたか?」
「いや、声が聞こえたような」
「声?」
「ああ」
確かめるため、馬に乗る準備をしていると何事かとジャルドが崖から上がってくる。
「お嬢」
「ジャルド、声が聞こえるみたいなので、ちょっと行ってみるわ」
彼が意識を広げ、周りを探っているのが分かる。
問題ない様子を見せるので、そのまま彼女と下流に馬を走らせる。




