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13 森(3)

 森での生活は楽しいものだった。


 明るい間は森を歩いて、薪や木の実、木の幹からは樹液を集め、部屋に戻るとそれらを使って冬の準備をし、保存食を作る。


 その間、常に狼の姿でリディアの側に寄り添う。

 リディアは、歩きながら生えている草や実の名前を教えてくれる。

 食べられる物や薬草として使える物、甘く美味しい木の実や匂いに誘われても食べてはいけない物。


 王立図書館で、植物や木の実などの本に興味を持たなかった訳がよく分かる。

 これだけ自然の中で育ち、日々生活の中で触れているのであれば、わざわざ本を見る必要は無い。


 森の中に赤い紐が結ばれている所があり、見上げていると、


「あの赤い紐ですか? あれは、フレの花が咲いている場所が判るように結んであります。

 フレは気まぐれな花なので、新緑の頃、先ず薄緑色に咲く花を探して紐を付けておきます。花が散って、種をつける頃に何度も足を運んで、種が大きくなった頃、摘むので見印にしているんですよ。


 ああして紐を残しておいて、また次の年も目印に花を探します。

 でもフレの花はなかなか同じ処に咲かないので、森人達は毎年、花を探して紐を付けます。」


 そうした話をしながら森を歩く。


 森人と同じような服装をしたリディアは、部屋に会った弓で、高いところにある実を落とし魚も射る。落ちている木を集めてきたかと思えば、火も起こす。


 横に付くと、「これを運んで下さいね」と薪の束を渡してくれ、リディアと共に焚火を用意し、集めた木の実や魚で食事を作る。


 貴族の娘がするような事でも無いが、誰も戸惑う様子を見せないので、いつもの事なのだろう。


「何時もならこの辺りで野営するが、さすがにこの寒さではリディアは難しいな」

「アルフレッドの腕輪もありますけど、残ってはいけませんか?」


「リディアがいないと皆が寂しがると思うが、夜になるとこれ以上寒くなる。体調を崩しても仕方ないからね」


 魔力を持つ者は、その力を使って自分を守ることが出来る。

 寒さを感じなくなる訳ではないが、力を持たない者とは比べものにならない。


 魔力を持たないリディアは、外が冷えればそれだけ寒さを感じる事になる。

 彼女が残念そうな顔をするので、服の裾を引っ張って自分の側に座らせる。


「どうしたの?」と首を傾げるので、彼女を守るようにぐるっと自分の体を添わせると、動物の毛と自分の体温で暖かいはずだった。


「まぁ、とっても暖かいわ」

「寒くはないかい?」

「ええ」


 彼女の弟には、相変らず嫌な顔をされるが、エリス殿は安心した様子を見せる。


「ありがとうございます、ザイード様。

 フレの実を採るのは早朝の場合が多いので、遠出する場合はこうして野営するのですけど、夏ではありませんから、私は帰らなければならない所でした。この季節に外で眠るのは初めてです」


 と嬉しそうに笑う。


 また、リディアの様子を見た森人の子ども達が、サイラスとイグルスの側に寄っていき、同じ様に二頭の間に入ろうとする。

 二頭が仕方ないと尾をパタパタと動かして見せると、大人達も安心して離れて見ている。


 そうして夜になると、周りに森人が集まって来るので、不思議に思っていると、リディアがニコを弾き始める。


 不思議な音色、森の中に細く消えゆく様な音なのに、なぜか暖かく感じる音。


 夜が更け、リディアがニコを弾き終わると、周りを囲んでいた森人達がいなくなる。

 彼女が膝を丸め、体を預けてくるので守るように眠る。

 彼女が寒さなど感じないように、そして誰にも触れさせないように。



 夜が明けて、小川で朝の準備をする。

 森を流れる川は美しく、川底も薄い緑色に輝いて見える。


 ゲドム山脈の西に広がる森に、魔物の気配がないのは不思議だった。


 山脈の東側には、イルネラと呼ばれる街があり、ウエストリアの中でも魔物が多く集まる街と言われている。

 ツゥグを得る場所でもあったが、魔物から魔石を得るため敢えて放置されているとしても、西側に広がる森に魔物が出ないのはなぜなんだろう。


 そんな事を考え、川を見ていると、その中に黒い石を見つける。

 周りの石に溶け込めず、異物のような黒い塊。

 何となくその塊を目で追っていると、一人の森人が川の中からその石を手に取ったかと思うと、あっと言う間に鮮やかな緑色に変えてしまう。


 彼は、色が変わると満足したように、それをポイっと川の中に戻す。

 川の底にある他の石と同じように。


 自分の知る限り色を変える石は、一つしか知らない。

 黒曜石と呼ばれる魔石の一つで、魔力を溜め込むことが出来る。


 魔石はガルスで取れる魔鉱石と違い、魔物が落とす。

 何度も使える魔鉱石と違い、使うと消滅してしまうが、痕跡を残さないし、エルメニアでも魔物を狩れば手にすることが出来る。


 だが、戦いに魔石を使うのは効率が悪いので、今ではあまり使われていないが、黒曜石は別だ。

 黒曜石に込めた魔力は無くならないので、戦いの最中に魔力が枯渇した場合、石に溜めた魔力を取り込む事が出来る。

 もちろん黒曜石の魔力を取り込んでしまえば石も消えるが、貴族たちは、自分の力の誇示や領地を守るため、商人達には、足りない魔力を補うため、魔力を込めた石は、高値で取り引きされてもいた。


 ここには、その魔力を込めた大量の黒曜石が川底に眠っていることになる。

 森独特の気配や、川を流れる水のせいで分かりづらいが、よく見れば川の中から澄んだ魔力を感じる。


 それは森のあちらこちらからも。

 なるほど、これが森の結界を作っている訳だ。


 エルメニアの貴族達が知っているのか知らないのか、ウエストリアに戦いを挑む者がいれば、痛い思いをする事になる。


 だが、これは彼の意に反することをするなと言う自分達への牽制の意味もある。

 彼にはこれだけの黒曜石を放置出来るほどの力があるという事なのだ。


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