16 王立図書館(2)
アルフレッドに教えられ屋敷に戻る事にする。
心配性の弟が、自分を守るように動くのは何時もの事なので、その言葉には素直に従う。
「アル、せっかく王都にいるのだから、自分の行きたい所に行っても良いのよ?」
「別に、楽しいよ」
「ファーレン様に剣の指導をお願いしたのでは無いの?」
「大丈夫、そっちも通っているよ」
「なら、良いのだけど」
「それに師匠にも型をまず完全に覚える様に言われたよ」
「あら、正論」
「分かっているよ、あんまり基本ばかりだからさ、ちょっと嫌になっただけ、ちゃんとやるさ」
「ふふっ、会えて良かったわね」
自分が師匠に会いたかっただけだと言う事を、姉は良く知っている。
「うん」
王都で久しぶりに剣の師に会えたが、ちょっと離れた間に姉は面倒事に巻き込まれ、その時知り合った相手と仕事の話をするようになっている。
一人でも充分厄介な相手なのに、これ以上増えては堪らない。
まず図書館から、次は王都から、さっさと離れるに越したことはないと考えていると、外に出た時、会いたく無かったもう一人の厄介な相手から声をかけられる。
「こんな所でお会いするとは、思いもしませんでした」
「こんにちは、アレス様」
「何か調べものですか?」
「いえ、今日は特に」と姉が答えた後、少し考えるように、
「王都にいらっしゃるのであれば、少しお時間を頂いても宜しいですか?」と話している。
「もちろんです」
「では、明日の午後、工房に来て頂いてもよろしいでしょうか?」
「大丈夫です、必ず伺います」
仕事の話であれば仕方ないので、少し離れて距離を取るが、二人の会話が離れた自分にも聞こえている。
フレの糸は、高級な刺繍糸として地位を確立したが、その分品質の管理が必須となり、刺繍糸として使用出来ない物を生じさせている。
全体の半分を絞めるその糸は、現在、ノーストリアで羊毛と混在させて使用される。
ノーストリアにとっては、糸の光沢と軽さを出す素材として利益を得ているが、ウエストリアにとっては利を得られる物ではなく、どうにかしたい問題のはずだった。
親父や兄には申し訳ないが、彼女の興味を引く為、それしか思い付かなかった苦肉の策だが、それが何とか役に立っている。
彼女と約束を交わす。
彼女の言葉に僅かに違和感を感じるものの、真っ直ぐ向けられた瞳を逸らす事も出来ず、明日フレの工房に行くと答える。
そのまま彼女の馬車を見送って、今度は先程から感じている別の違和感の方に注意を向ける。
妙な男が彼女の行動を監視している様で、排除してしまおうかと思った時、
「手出し無用で、お願いします」と暗がりから声をかけられる。
「誰だ」とそちらを向くと、見た事のある護衛が、暗がりから姿を見せる。
「なぜ」
「エサには食い付いて貰わなくてはなりません」と言うと、姿を消す。
なる程、感じた違和感はこれか。
彼女は約束事をしない。いつ、どこで、と言う話をしないのに、さっきは指定した、おそらくあの監視者に知らせるために。
あの者が何者なのか気にはなるが、手を出すなと釘を挿されたので、自分は動けないし彼女に聞いたとしても、正しい答えが貰えるとも思えない。
只、ウエストリア伯の許可を得て彼女を連れ出すには、彼女の安全だけで無く、存在を知られない事もおそらく必要だと言う事になる。
それを知れただけで、一度、王都に戻った甲斐があった。
おまけに明日、もう一度彼女に会える。
ノーストリアで手に入れた物を、彼女に渡す機会が出来れば、興味を持ってくれるだろう。
彼女の心は、ドレスや宝石を送っても掴めない。だが仕事に関わっていれば、興味を引けるし何より自分もそれを楽しんでいる。
取引の話が纏まれば、ミリオネアに誘う可能性も出て来るはすだ。
急ぐ必要は無い。
婚約していると言っても、彼女の方は友人の域を出ていないし、辺境伯が王室との繋がりを欲しているとは思えない。
彼女が自由を、そして自分との生活を望んでくれればそれを与える事が出来る。
彼女が王都から離れてしまえば、婚約者以上に気になる相手は、一層手が届かなくなるはずなので、自分も安心して南に行ける。
その後、ウエストリアに行けばいい。
彼女が育った場所で、自分の申し出にどう反応するか見てみたい。
駆け引きは得意分野だ。
彼女の興味を引けばいい、見てみたい、行ってみたいと思える様に、これから数ヶ月でその土台を作っておけばいい。




