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第6話 光る思い出と消える星(1.失われた午後の鐘篇)

忘れられたものの谷


影の獣はゆっくり歩いていた。


速くない。


でも不思議と追いつけない。


歩けば歩くほど、


森は深くなっていく。


木々の間から差し込む光は金色だった。


夕方なのか。


朝なのか。


ここでは分からない。


「お腹すいた。」


コットが言った。


「さっきクッキー食べたでしょ。」


「冒険するとお腹が二回すく。」


「そんな決まりない。」


「ある。」


「ない。」


「ある。」


「ない。」


「ある。」


「うるさい。」


コットは満足そうだった。


谷


やがて森が開けた。


二人は立ち止まる。


「わあ……」


MYUは思わず声を漏らした。


谷だった。


でも普通の谷じゃない。


そこには無数のものがあった。


風船。


木馬。


片方だけの靴。


古いオルゴール。


ぬいぐるみ。


帽子。


凧。


色鉛筆。


紙飛行機。


ありとあらゆる物が集まっている。


まるで。


世界中の忘れもの置き場だった。


「宝の山だ!」


コットが飛び出した。


五秒後。


何かにつまずいて転んだ。


「痛い!」


「宝の山ね。」


MYUは笑った。


オルゴールの少女


谷の中央。


小さなオルゴールが鳴っていた。


誰も触っていないのに。


優しい音。


懐かしい音。


MYUは近づく。


すると。


オルゴールの隣に女の子がいた。


年齢はMYUと同じくらい。


白いワンピース。


金色の髪。


でも少し透けている。


「こんにちは。」


少女は微笑んだ。


「こんにちは。」


MYUも答える。


コットは少し警戒していた。


「誰?」


少女はオルゴールを撫でた。


「忘れられた子。」


「え?」


「みんなに忘れられたの。」


その言葉は悲しいはずだった。


でも少女は笑っていた。


「だからここにいる。」


MYUは胸が少し痛くなった。


「寂しくない?」


少女は考えた。


そして首を傾げた。


「分からない。」


その答えが、


余計に寂しかった。


鐘の秘密


影の獣が近づいてくる。


巨大な体。


金色の瞳。


首の鐘が揺れる。


ちりん。


すると。


谷のあちこちで光が灯った。


忘れられた物たち。


忘れられた思い出たち。


それぞれが小さく光り始める。


「見て。」


少女が空を指差した。


MYUは見上げる。


谷の上空。


無数の光が漂っていた。


星みたいだった。


でも違う。


「なに?」


少女は微笑む。


「思い出。」


MYUは息を呑んだ。


「みんな誰かの思い出。」


光はゆっくり流れていく。


まるで川みたいに。


その光景はあまりにも綺麗だった。


コットでさえ黙って見上げていた。


珍しく。


本当に珍しく。


そして異変


その時だった。


一つの光が消えた。


ぱっ。


突然。


「え?」


MYUが声を上げる。


また一つ。


また一つ。


光が消えていく。


谷の空から。


誰かが集めているみたいに。


少女の顔が曇った。


初めて。


「まただ。」


小さく呟く。


「また来た。」


風が吹いた。


冷たい風だった。


影の獣が低く唸る。


ぐるるるる……


森の奥。


誰かがいた。


見えない。


でもいる。


何かが思い出を盗んでいる。


谷の空から、


光が次々と消えていく。


少女は不安そうにMYUを見た。


「お願い。」


「なに?」


「鐘を守って。」


MYUは首を傾げる。


「鐘?」


少女は柳の木の方角を見た。


「鐘が全部消えたら。」


風が強くなる。


光がまた一つ消える。


少女は震える声で言った。


「この谷も忘れられちゃう。」


影の獣が前へ出る。


金色の目が森の闇を睨む。


そして初めて。


敵の気配が現れた。


(第6話・終わり)

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