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第5話 記憶の鐘と影の獣(1.失われた午後の鐘篇)

柳の鐘


ちりん。


また鐘が鳴った。


風は吹いていない。


それなのに。


金色の鐘だけが揺れている。


「呼んでる。」


コットが言った。


「誰を?」


「たぶん僕たち。」


「たぶん?」


「かなりたぶん。」


MYUは笑った。


でも心臓は少し速くなっていた。


岩の向こうに現れた道。


赤い葉で覆われた不思議な小道。


その先には、


メダルに刻まれていた柳の木。


まるでずっと前から、


二人を待っていたみたいだった。


「行こう。」


MYUが言った。


コットは頷く。


二人は門をくぐった。


その瞬間。


世界の音が変わった。


ぱちん。


そんな音がした気がした。


森は同じ森だった。


なのに違う。


葉っぱの色が少し鮮やか。


空が少し高い。


風の匂いが少し甘い。


まるで現実が半歩だけ夢側へ寄ったみたいだった。


「MYU。」


「うん。」


「僕ちょっと泣きそう。」


「なんで?」


「冒険だから。」


「泣くところ?」


「泣くところ。」


コットは真顔だった。


柳の木


やがて二人は木の前にたどり着いた。


大きい。


とにかく大きい。


家より大きい。


学校より大きい。


枝は空を覆い、


葉は滝みたいに垂れている。


そして。


無数の鐘。


金色。


銀色。


青いガラスの鐘。


木の枝いっぱいに吊るされていた。


ちりん。


ちりりん。


風が吹くたび、


優しい音が鳴る。


MYUは思わず見上げた。


「きれい……」


その時だった。


ひとつの鐘が落ちた。


ころん。


二人の足元へ。


コットが拾う。


小さな鐘だった。


手のひらサイズ。


表面に文字が刻まれている。


「読める?」


MYUが聞く。


コットはじっと見る。


首を傾げる。


さらに傾げる。


最後は横向きになる。


「読めない。」


「そう。」


「でもね。」


コットが鐘を振った。


ちりん。


鐘が鳴る。


その瞬間。


頭の中に声が響いた。


『忘れないで。』


MYUは息を止めた。


コットも固まった。


「聞いた?」


「聞いた。」


二人同時だった。


鐘はただの鐘じゃない。


思い出が入っている。


そんな気がした。


影の獣


その時。


森の奥で枝が鳴った。


ばきっ。


大きな音。


鳥たちが一斉に飛び立つ。


「なに?」


コットがMYUの後ろへ隠れる。


「さっきまで前だったのに。」


「今は後ろ。」


「怖いから。」


「正直。」


また音。


ばきっ。


ばきっ。


近づいてくる。


大きい。


かなり大きい。


木々が揺れている。


そして。


暗い森の向こうで、


二つの金色の目が光った。


MYUは息を呑んだ。


鹿より大きい。


馬より大きい。


狼にも見える。


でも違う。


角がある。


羽もある。


尻尾はライオンみたい。


影でできた獣だった。


コットは完全にMYUの後ろに隠れた。


「だめだ。」


「なにが?」


「思ったより本物。」


「本物だよ!」


影の獣は二人を見ていた。


じっと。


静かに。


敵意はない。


でも圧倒的だった。


その時。


獣の首にも何かが見えた。


金色の鐘。


柳の木の鐘と同じだった。


そして獣はゆっくり振り返る。


森の奥へ歩き出す。


数歩進んで止まる。


振り返る。


また歩く。


まるで言っているみたいだった。


「ついてこい」


コットがごくりと唾を飲む。


MYUを見る。


「どうする?」


MYUは少しだけ迷った。


三秒くらい。


そして言った。


「行こう。」


コットは震えながら頷く。


「冒険だからね。」


「うん。」


「あと。」


「なに?」


「今さら帰れない。」


MYUは笑った。


影の獣は森の奥へ消えていく。


その先で、


何か大きな秘密が待っていることを、


二人はまだ知らなかった。


(第5話・終わり)

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