第4話 岩の門と赤い道(1.失われた午後の鐘篇)
巨人の門
ジョージさんは地図をカウンターの上に広げた。
店の窓から午後の日差しが差し込み、
古い紙の上をゆっくり移動していた。
「本当に行くのかい?」
MYUは頷いた。
コットも頷いた。
しかも二回。
「二回うなずいた。」
ジョージさんが言った。
「本気だから。」
コットは胸を張った。
「それに冒険だから。」
「なるほど。」
ジョージさんは笑った。
「じゃあ止めても無駄だな。」
「うん。」
「うん。」
今度は二人同時だった。
エレノアさんが小さな布袋を持ってきた。
「はい。」
「なに?」
「おやつ。」
「やったー!」
コットが飛び上がった。
「まだ開けちゃだめよ。」
「え。」
「冒険の途中で食べるから価値があるの。」
コットは真剣に考えた。
「それは深い。」
「たぶん深くない。」
MYUが言った。
地図の秘密
ジョージさんは地図の一点を指差した。
そこには小さな門の絵が描かれていた。
「ここを探しなさい。」
「門?」
「巨人の門。」
「巨人がいるの?」
「昔はいたと言われている。」
「今は?」
「知らない。」
ジョージさんは肩をすくめた。
「伝説というのは、だいたい知らないから伝説なんだ。」
コットは感心した。
「深い。」
「今度はちょっと深い。」
MYUは笑った。
森の入り口
夕方。
二人はウィローウッドの森へ向かった。
風が木々を揺らしている。
葉っぱが光る。
鳥が鳴く。
どこにでもある森。
でも今日は違った。
地図がある。
目的地がある。
そして冒険がある。
それだけで世界は少し変わる。
「ねえ。」
コットが言った。
「なに?」
「冒険ってさ。」
「うん。」
「歩く前が一番ドキドキするよね。」
MYUは少し考えた。
そして頷いた。
「そうかも。」
実際、
胸がどきどきしていた。
怖いわけじゃない。
でも、
何かが始まる予感がしていた。
岩
しばらく歩くと、
木々の向こうに巨大な影が見えた。
「あれだ。」
MYUが言う。
二つの岩。
大きな岩。
小さな岩。
寄り添うように立っている。
地図の絵と同じだった。
「親子みたい。」
MYUが言った。
「巨人の親子だ。」
コットが断言した。
「絶対?」
「七十五パーセント。」
「急に下がった。」
二人は岩の前に立った。
そのときだった。
風が止んだ。
鳥の声も消えた。
森全体が息を止めたようだった。
MYUの手首の赤いリストバンドが、
ほんのり温かくなる。
コットも気づいた。
「ねえ。」
「うん。」
「今、光った?」
岩の間。
ちょうど門のようになっている場所に、
金色の線が浮かび上がっていた。
地面から。
空へ。
一本の扉の輪郭のように。
ごうっ。
突然、
風が吹いた。
地図がめくれる。
そして。
岩の向こうに、
昨日までなかった道が現れた。
赤い葉っぱが敷き詰められた、
まるで誰かが招待するために作ったような道。
コットは息をのんだ。
MYUも動けなかった。
道の先には、
見たことのない柳の木が立っていた。
地図のメダルに刻まれていた木。
その木の枝に、
何かがぶら下がっている。
小さな金色の鐘。
ちりん。
風もないのに鳴った。
そして森の奥から、
何か大きな影が動いた。
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ。
狼にも見えた。
鹿にも見えた。
でも、
どちらでもない何かだった。
コットが小さな声で言う。
「MYU。」
「なに?」
「今の。」
「うん。」
「たぶん。」
コットはごくりと唾を飲んだ。
「本物の冒険だ。」
(第4話・終わり)




