第3話 冒険前のキャンディショップ(1.失われた午後の鐘篇)
ジョージさんのキャンディ屋
額縁の森は翌朝になっても消えなかった。
MYUは朝ごはんを食べながら、
三回。
窓から外を見た。
五回。
そして七回。
「落ち着きなさい。」
母が言った。
「落ち着いてる。」
「その顔は落ち着いてない顔よ。」
MYUはパンをかじった。
コットはテーブルの下から顔を出した。
「落ち着いてる顔ってどんな顔?」
「たぶんパンみたいな顔。」
「パンに顔はないよ。」
「あるかもしれない。」
「ないよ。」
「見たことあるの?」
「ない。」
「じゃあ分からない。」
MYUは吹き出した。
朝の光は昨日の雨を忘れたみたいに明るかった。
でも。
MYUの頭の中には、
あの額縁の森しかなかった。
作戦会議
屋根裏に集まった二人は、
額縁の前に座った。
森は相変わらず映っている。
風まで動いている。
葉っぱまで揺れている。
まるで本物だった。
「行く?」
コットが聞いた。
「行く。」
MYUは答えた。
即答だった。
「よし!」
コットは飛び上がった。
「じゃあ冒険だ!」
「でも。」
「でも?」
「地図がまだ分からない。」
それは本当だった。
木箱に入っていた地図は古かった。
端は破れている。
文字も消えかかっている。
ただ一つだけ読める言葉があった。
【WILLOW WOOD】
「ウィローウッド。」
MYUが読む。
「ウィローって何?」
「木。」
「ウッドも木。」
「じゃあ木の木?」
「変な名前。」
「最高の名前だよ。」
コットは大満足だった。
森の入口の店
「ジョージさんなら知ってるかも。」
MYUは言った。
ジョージさんは町はずれの小さな店をやっている。
キャンディ。
クッキー。
古い本。
コンパス。
意味不明な置物。
何でも売っている。
何も売っていない気もする。
そんな店だった。
コットは頷いた。
「よし!」
「キャンディを買いに行こう!」
「地図を聞きに行くの。」
「ついでにキャンディ。」
「それが本命でしょ。」
「バレた。」
ジョージさんの店
店のドアベルが鳴った。
ちりん。
店の中は甘い匂いだった。
ガラス瓶の中で、
色とりどりのキャンディが光っている。
「おや。」
カウンターの向こうで、
ジョージさんが微笑んだ。
白いひげ。
丸眼鏡。
少し曲がった背中。
でも目だけは若かった。
「今日は二人とも探検家の顔をしてるね。」
MYUはぎくりとした。
「なんで分かったの?」
ジョージさんは笑った。
「探検家はみんな同じ顔をする。」
コットが小声で言う。
「絶対ウソだ。」
「聞こえてるよ。」
ジョージさんは即答した。
コットが飛び上がった。
「読心術だ!!」
「違う違う。」
奥から声がした。
焼きたてのクッキーの香りと一緒に、
ジョージさんの奥さんが出てきた。
「この子は昔から勘がいいだけ。」
「エレノアさん。」
MYUは笑顔になった。
エレノアさんは、
町で一番クッキーを焼くのが上手だった。
そして町で一番、
子供の話を真面目に聞いてくれる人だった。
「さて。」
ジョージさんが言った。
「今日は何を探しているんだい?」
MYUは地図を取り出した。
ジョージさんの表情が、
ほんの少しだけ変わった。
本当に少しだけ。
でもコットは見逃さなかった。
「見た?」
「見た。」
ジョージさんは地図を見つめていた。
そして静かに言った。
「これはね。」
店の窓の外で風が吹いた。
遠くで森が揺れた。
「ウィローウッドへ続く地図だよ。」
(第3話・終わり)




