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第23話 夢から出られない国(3.終わらない夏の国篇)

終わらない夏の住人


少女は丘の上で微笑んでいた。


風が吹く。


夕焼けは変わらない。


空も変わらない。


時間だけが止まっている。


「私はエルシア。」


少女は言った。


「この国の案内人よ。」


コットが元気よく手を振る。


「僕コット!」


「MYU!」


「フィン!」


フィンは尻尾を振った。


エルシアは少し笑う。


その笑顔は不思議だった。


優しい。


でもどこか寂しい。




夏休みの国


エルシアは二人を案内した。


花畑。


風車。


お菓子の家。


木の上の図書館。


空飛ぶブランコ。


湖の上を走るボート。


コットは大興奮だった。


「住みたい!」


即答だった。


MYUも笑う。


正直。


少し同意だった。


ここには嫌なことがない。


宿題もない。


失敗もない。


叱られることもない。


終わりもない。


不思議なこと


夕方になった。


はずだった。


でも夕方のままだった。


夜にならない。


コットが気付く。


「ねえ。」


「なに?」


「お腹空かない。」


MYUも止まる。


確かに。


昼から何も食べていない。


なのに平気。


眠くもない。


疲れもしない。


フィンも元気。


風車だけが回っている。


永遠に。




少年


湖の近くで。


一人の少年がいた。


年はMYUと同じくらい。


木陰に座っている。


エルシアが手を振る。


「こんにちは。」


少年は少しだけ笑った。


でも。


目が笑っていなかった。


MYUが座る。


「ここ長いの?」


少年は答える。


「わからない。」


「え?」


「何年いるか忘れた。」


静寂。


コットの笑顔が消える。


少年は続ける。


「ここでは忘れるんだ。」


「何を?」


「帰る理由。」


風が吹く。


少し冷たかった。




名前


「僕はルーク。」


少年は言った。


「最初は楽しかった。」


「最初は?」


「うん。」


ルークは空を見る。


動かない夕焼け。


変わらない雲。


永遠の夏。


「でも。」


「ずっと夏なんだ。」


MYUの胸がざわつく。


「それの何が悪いの?」


ルークは少し笑った。


寂しそうに。


「夏休みって。」


「終わるから楽しいんだよ。」


沈黙。


風が吹いた。


MYUは何も言わなかった。


けれど、その言葉は小さな鐘の音みたいに胸の奥で鳴り続けた。


鏡の湖


その夜。


夜ではないけれど。


夜と呼ぶしかない時間。


MYUは湖へ行った。


湖面は鏡だった。


本当に鏡だった。


空も。


自分も。


全部映る。


その中に。


もう一人のMYUがいた。


少し年上。


少し大人。


少し寂しそう。


鏡のMYUが言う。


「ここにいればいい。」


「何も失わない。」


「コットもいる。」


「ずっと。」


MYUは息を呑む。


本当に。


欲しかった言葉だった。




コット


その頃。


コットは一人で歩いていた。


珍しく。


フィンもいない。


MYUもいない。


すると。


遠くから笑い声が聞こえた。


子供たち。


たくさん。


みんな楽しそうだった。


でも。


近付いた瞬間。


コットは凍りつく。


その中に。


自分がいた。


小さいコット。


大きいコット。


たくさんのコット。


たくさんの友達。


たくさんのMYU。


全部。


「ずっと一緒。」


「ずっと遊べる。」


「ずっと終わらない。」


声が重なる。


甘い。


とても甘い。


でも。


どこか怖い。


コットは初めて気付く。


この国は。


夢を叶える国じゃない。


夢から出られなくなる国だ。


その時。


丘の上。


エルシアが静かにこちらを見ていた。


微笑みながら。


優しく。


本当に優しく。


そして。


少しだけ悲しそうに。


「気付いてしまったのね。」


風が止まる。


世界が静かになる。


コットは初めて。


この冒険で。


本当の敵と向き合うことになる。


(第23話・終わり)

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