第22話 進まない季節と鏡の向こう(3.終わらない夏の国篇)
夏が終わらない日
夏休みの終わりが近づいていた。
風が少しだけ変わっていた。
森の匂いは同じ。
空も同じ。
蝉も鳴いている。
だけど。
MYUには分かった。
何かが違う。
「どうしたの?」
コットが聞いた。
二人は親子岩の上に座っていた。
フィンは草むらで昼寝をしている。
風が吹く。
静かな午後。
MYUは空を見上げた。
「なんか。」
「なんか?」
「夏が長い気がする。」
コットが首を傾げる。
「長いのいいじゃん。」
「そうなんだけど。」
言葉にできない。
長い。
でも。
前みたいな長さじゃない。
同じ日が続いているような。
進んでいないような。
そんな感覚。
屋根裏部屋
その日の夕方。
二人は屋根裏へ戻った。
宝箱。
地図。
冒険のノート。
全部そのまま。
コットは地図を広げる。
「次どこ行く?」
いつもの質問。
でも。
MYUは少しだけ考えた。
前なら即答していた。
塔!
湖!
洞窟!
そう言っていた。
なのに。
今日は違った。
「明日でもいいかも。」
コットが止まる。
ほんの少しだけ。
「そう?」
「うん。」
「宿題もあるし。」
沈黙。
宿題。
それは冒険の天敵だった。
コットは顔をしかめる。
「宿題なんて燃やせばいい。」
「だめ。」
「少しくらい。」
「だめ。」
フィンが笑うように尻尾を振った。
鏡
その夜。
屋根裏の奥。
ずっと置かれていた古い鏡が光った。
かすかに。
月明かりの中で。
MYUだけが気付く。
「……あれ?」
鏡の表面が揺れていた。
水面みたいに。
コットも気付く。
「おお。」
「おお?」
「これは絶対入るやつ。」
「入るやつだね。」
二人は顔を見合わせる。
そして。
同時に笑った。
まだ。
冒険は終わっていなかった。
鏡の向こう
手を伸ばす。
指先が沈む。
冷たくない。
温かい。
夏の風みたい。
次の瞬間。
世界が裏返った。
空。
草原。
雲。
風車。
そして。
どこまでも続く夕焼け。
永遠の夕焼け。
永遠の夏休み。
コットが叫ぶ。
「すごーーーーい!!」
走り出す。
転ぶ。
起きる。
また走る。
いつも通り。
MYUは笑った。
だけど。
少しだけ胸がざわついた。
太陽が動いていない。
風も。
雲も。
止まっている。
美しい。
でも。
どこか不自然。
その時。
遠くの丘の上。
白いドレスの少女が立っていた。
金色の髪。
銀色の瞳。
夕陽を背負っている。
まるで絵本から出てきたみたいに。
少女は微笑む。
優しく。
本当に優しく。
そして言った。
「ようこそ。」
「終わらない夏へ。」
風が吹く。
永遠の夕暮れが揺れる。
MYUはまだ知らない。
これが。
コットとの最後の冒険の始まりになることを。
そして。
コット自身が。
最も勇敢な選択をする旅になることを。
(第22話・終わり)




