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第21話 世界へかえる思い出たち(2.月を忘れた塔篇)

13時07分の鐘


時計喰い鳥は空を覆っていた。


巨大な翼。


巨大な影。


巨大な孤独。


だが。


その金色の瞳は変わっていた。


先ほどまでの飢えではない。


戸惑いだった。


冒険の光


MYUとコットのリストバンドが輝く。


赤い光。


温かな光。


記憶の光。


屋根裏部屋。


埃まみれの宝箱。


古い地図。


雨の日。


泥だらけの靴。


フィンとの出会い。


午後駅。


全部が現れる。


光の粒になって。


空へ昇る。


時計喰い鳥は見上げている。


食べようとしない。


ただ見ている。


まるで。


初めて星を見る子供みたいに。


クロックメーカー


その時だった。


クロックメーカーが前へ出る。


誰も予想していなかった。


彼は仮面を外した。


静かに。


ゆっくりと。


落ちた仮面が床で転がる。


からん。


そこにいたのは。


疲れた大人だった。


ただの。


どこにでもいる。


少し悲しい人。


アーヴィンが見つめる。


幼い自分が。


大人の自分を見る。


不思議な光景。


謝罪


クロックメーカーは時間の心臓を見る。


そして言った。


「ごめん。」


静寂。


誰も喋らない。


「守りたかった。」


「失いたくなかった。」


「だから集めた。」


夢を。


時間を。


希望を。


午後を。


全部。


全部。


止めてしまった。


彼の声は震えていた。


何百年分もの後悔。


何百年分もの孤独。


それが滲んでいた。


鐘


その瞬間だった。


どくん。


時間の心臓が大きく脈打つ。


塔全体が震える。


そして。


中心に何かが現れる。


銀色でもない。


金色でもない。


古い真鍮色。


鐘だった。


小さな鐘。


失われた谷の鐘。


MYUは息を呑む。


「どうしてここに。」


駅長が微笑む。


「元々ここにあったんだよ。」


「時間の心臓の鐘。」


「13時07分の鐘。」


本当の意味


鐘はゆっくり回る。


光を放ちながら。


そして。


MYUは理解する。


13時07分。


それは時刻ではなかった。


象徴だった。


冒険へ踏み出す瞬間。


想像する瞬間。


誰かと友達になる瞬間。


子供が世界を信じる瞬間。


その全てを表していた。


だから。


クロックメーカーは守ろうとした。


だから。


忘却王は奪おうとした。


だから。


時計喰い鳥は集めていた。


鳴らす者


駅長が言う。


「鳴らしなさい。」


MYUを見る。


「君が。」


「私?」


「うん。」


コットが頷く。


フィンも頷く。


影の獣も頷いた気がした。


クロックメーカーも。


アーヴィンも。


静かに見ている。


MYUは鐘へ近づく。


緊張した。


でも。


怖くなかった。


手を伸ばす。


そして。


鐘を鳴らした。


13時07分


カァァァァァン――


音が広がる。


塔へ。


列車へ。


午後駅へ。


森へ。


谷へ。


ウィローウッドへ。


世界へ。


音ではなかった。


記憶だった。


夢だった。


笑い声だった。


冒険だった。


誰かの大切な午後だった。


保管庫の棚が開く。


夢が飛び出す。


瓶が割れる。


紙飛行機が舞う。


凧が飛ぶ。


ビー玉が転がる。


失われた時間が。


持ち主の元へ帰っていく。


光の群れとなって。


時計喰い鳥の選択


鳥は空へ舞い上がる。


巨大な翼。


巨大な影。


だが。


もう恐ろしくなかった。


MYUは見上げる。


「お腹いっぱい?」


鳥は少し考える。


そして。


初めて。


少しだけ笑ったように見えた。


――まだ少し。


コットが叫ぶ。


「じゃあ次の冒険で!」


鳥は翼を広げる。


――約束。


そして。


光の中へ消えていった。


別れ


塔は崩れない。


列車も消えない。


ただ。


変わった。


クロックメーカーは管理者をやめた。


駅長の助手になった。


「降格だね。」


「そうだね。」


二人は少し笑った。


アーヴィンは時間の心臓へ戻る。


完全には消えない。


でも。


もう独りじゃない。


帰り道


午後駅。


列車。


森への道。


夕暮れ。


MYUとコットは歩いていた。


フィンもいる。


影の獣もいる。


風が吹く。


心地よい風。


コットが聞く。


「MYU。」


「なに?」


「次どこ行く?」


MYUは少し考える。


そして笑った。


「地図に載ってない塔。」


「まだ行ってない。」


コットが飛び跳ねる。


「行こう!」


「今すぐ!」


「晩ご飯まで!」


「それ絶対間に合わない。」


二人は笑う。


夕陽の中で。


どこまでも。


どこまでも。


歩いていく。





エピローグ


その夜。


ウィローウッドの森で。


誰も知らない場所。


古い石塔の窓に。


一瞬だけ灯りがともった。


誰かがいた。


誰かがこちらを見ていた。


そして。


小さな声が聞こえた。


「やっと見つけた。」


その声は。


MYUにも。


コットにも。


まだ届いていない。


だが。


次の物語はもう始まっていた。


(第21話・終わり「2.月を忘れた塔篇」 完)

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