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第20話 まぶしい時間とお腹すかせた鳥(2.月を忘れた塔篇)

時計喰い鳥


その存在は翼を広げた。


ぶわり。


塔全体に風が吹く。


時計が鳴る。


夢が揺れる。


光が散る。


その鳥は巨大だった。


フクロウにも見える。


ワシにも見える。


カラスにも見える。


見る人によって姿が変わる。


まるで時間そのものみたいに。


決まった形がない。


金色の瞳だけが変わらない。


その瞳が。


まっすぐMYUを見ていた。


名前


駅長が帽子を押さえる。


「時計喰い鳥……」


コットが聞く。


「知ってるの?」


「古い伝承だよ。」


駅長の声は珍しく硬い。


「失われた時間が集まりすぎると生まれる。」


「時間の澱。」


「時間の嵐。」


「時間の捕食者。」


フィンが低く唸る。


影の獣も牙を見せる。


二匹とも本能で理解していた。


危険だと。


クロックメーカーの罪


時計喰い鳥は翼を動かす。


それだけで。


保管庫の棚が崩れる。


瓶が割れる。


夢が飛び出す。


光の群れになって。


空を舞う。


クロックメーカーは青ざめる。


「そんな……」


アーヴィンが静かに言う。


「集めすぎたんだ。」


沈黙。


「君は守ろうとした。」


「でも。」


「夢も。」


「時間も。」


「自由に流れるものだった。」


クロックメーカーは何も言えない。


何百年も信じてきたことだった。


それが今。


崩れ始めている。


第一撃


時計喰い鳥が鳴いた。


ギィィィィィ――


声なのか。


時計の軋みなのか。


分からない。


だが。


その瞬間。


MYUの周囲の景色が変わる。


夏。


秋。


冬。


春。


夏。


秋。


冬。


春。


世界が高速で流れる。


「MYU!」


コットの声。


遠い。


近い。


遠い。


近い。


時間が乱れている。


赤いリストバンド


MYUは転びそうになる。


その時。


手首が光った。


赤いベルベットのリストバンド。


MYUとコットのお揃い。


第一巻からずっと一緒だったもの。


光る。


優しく。


温かく。


MYUは思い出す。


屋根裏。


宝の地図。


忘れられた鐘。


午後駅。


列車。


冒険。


全部。


全部。


コットと一緒だった。


時間は消えていない。


失われていない。


生きている。


胸の中で。


コットの答え


MYUが立ち上がる。


時計喰い鳥を見る。


怖い。


すごく怖い。


でも。


コットが隣にいる。


だから進める。


コットが叫ぶ。


「お前さ!」


鳥が止まる。


「なんで時間食べるの!」


すごく単純な質問だった。


誰も聞かなかった質問。


時計喰い鳥が首を傾げる。


金色の瞳が瞬く。


そして。


驚くことが起きた。


声が聞こえた。


直接。


頭の中へ。


――おなかがすくから。


全員沈黙。


コットも沈黙。


フィンも沈黙。


駅長まで沈黙。


「え?」


――さみしい時間が多い。


鳥は言う。


――かなしい時間が多い。


――捨てられた時間が多い。


――だから食べる。


MYUは気付く。


この存在もまた。


怪物ではない。


世界の後始末をしているだけだ。


MYUの提案


MYUはゆっくり前へ出る。


クロックメーカーが止める。


「危険だ。」


「うん。」


「すごく危険だ。」


「でも。」


MYUは笑う。


少しだけ。


未来へ繋がるあの笑顔。


「聞いてみる。」


そして鳥を見上げる。


「楽しい時間は食べないの?」


鳥が止まる。


長い沈黙。


やがて。


――食べない。


「どうして?」


――きらいだから。


「どうして?」


――まぶしい。


コットが吹き出す。


「なんだそれ!」


フィンも尻尾を振る。


影の獣まで笑った気がした。


鳥は少し不機嫌になる。


――まぶしいものは苦手。


その瞬間。


MYUの頭の中に一つの考えが浮かぶ。


倒すんじゃない。


追い払うんじゃない。


この子を。


お腹いっぱいにしてあげればいい。


最後の冒険


MYUはコットを見る。


コットも同じ顔だった。


悪巧みするときの顔。


「コット。」


「うん。」


「一番楽しかった冒険覚えてる?」


コットが笑う。


「いっぱいある。」


「全部使おう。」


「全部?」


「全部。」


塔の時計が鳴る。


どん。


どん。


どん。


時間の心臓が鼓動する。


どくん。


どくん。


どくん。


そして。


MYUとコットは手を繋ぐ。


赤いリストバンドが光る。


冒険の記憶。


笑った日。


失敗した日。


迷子になった日。


泣いた日。


宝物を見つけた日。


全部。


全部。


光になって溢れ始める。


時計喰い鳥は目を見開いた。


生まれて初めて見る。


「食べられないほど眩しい時間」を。


(第20話・終わり)

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