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第19話 二つに分かれた理由(2.月を忘れた塔篇)

時間の心臓


巨大な扉の向こう。


光が溢れていた。


白でもない。


金でもない。


夕暮れ色だった。


夏休みの終わりみたいな色。


MYUはその光を見た瞬間。


なぜか泣きそうになった。


理由は分からない。


でも。


とても大事なものを思い出しそうだった。


禁じられた部屋


クロックメーカーが前に立つ。


珍しく強い声だった。


「入ってはいけない。」


コットが言う。


「入る。」


「危険だ。」


「絶対入る。」


「危険だ。」


「もっと入る。」


MYUが吹き出す。


フィンも尻尾を振る。


クロックメーカーだけが頭を抱えた。


「なぜ子供はそうなんだ……」


「冒険だから。」


コット即答。


その返答に。


クロックメーカーは何も言えなくなった。


心臓


扉を抜ける。


そして。


全員が立ち止まる。


巨大な空間。


塔の中心。


そこには。


巨大な振り子時計があった。


いや。


時計ではない。


心臓だった。


鼓動している。


どくん。


どくん。


どくん。


そのたびに。


空間全体へ光が走る。


棚。


列車。


時計。


夢。


失われた午後。


全てが脈動する。


まるで世界そのもの。


MYUは呟く。


「生きてる。」


駅長が頷く。


「時間は生き物だからね。」


少年


振り子の下。


誰かが座っていた。


小さな男の子。


十歳くらい。


古い服。


銀色の髪。


膝を抱えている。


MYUは首を傾げる。


「誰?」


クロックメーカーが固まる。


初めて見せる表情だった。


悲しみ。


後悔。


恐れ。


全部混ざった顔。


「やめろ。」


小さな声。


「見なくていい。」


でも。


少年は顔を上げる。


そして笑った。


寂しそうに。


「やっと来た。」


名前


少年はMYUを見る。


コットを見る。


フィンを見る。


そして。


クロックメーカーを見る。


「久しぶり。」


クロックメーカーは答えない。


少年が笑う。


「まだ怒ってる?」


沈黙。


やがて。


駅長が静かに言った。


「彼はアーヴィン。」


「最初の時間守り。」


「そして。」


「クロックメーカー自身だ。」


静寂。


MYUは意味が分からない。


コットも分からない。


フィンも分からない。


影の獣だけが理解していた。


低く唸る。


真実


少年アーヴィンが立ち上がる。


「僕ね。」


「昔は冒険が好きだった。」


MYUを見る。


「君みたいに。」


コットを見る。


「友達もいた。」


少し笑う。


「君みたいな。」


コットが黙る。


なぜか胸が痛んだ。


アーヴィンは続ける。


「でも。」


振り子を見る。


「ある日。」


「友達がいなくなった。」


光が揺れる。


鼓動が遅くなる。


どくん。


どくん。


「事故だった。」


「誰も悪くなかった。」


「ただ運が悪かった。」


MYUは息を呑む。


クロックメーカーは目を閉じている。


少年は続ける。


「だから思った。」


「もし時間を止められたら。」


「もし冒険をさせなかったら。」


「もし危険な夢を見なかったら。」


「失わなかったのに。」


静かな声。


でも。


それが全ての始まりだった。


分裂


アーヴィンはクロックメーカーを見る。


「僕は怖かった。」


「だから大人になった僕は。」


「全部守ろうとした。」


「傷つかないように。」


「失わないように。」


「泣かないように。」


光が震える。


どくん。


どくん。


どくん。


「でも。」


少年は笑う。


少しだけ。


MYUに似た笑顔。


「守るって。」


「止めることじゃなかったんだよね。」


クロックメーカーが震える。


初めて。


ほんの少しだけ。


仮面が揺らぐ。


コット


その時。


コットが前へ出る。


誰も促していない。


自分の意志で。


「僕。」


少し考える。


「怖いよ。」


正直だった。


「MYUが大きくなるの。」


静寂。


MYUが振り返る。


コットは続ける。


「僕のこと忘れるかもしれないし。」


「いつか冒険終わるかもしれないし。」


「友達じゃなくなるかもしれない。」


その言葉は。


これから起こる未来を知る者には刺さる。


だがコットは笑う。


いつもの笑顔で。


「でも今楽しい。」


「だから行く。」


「次の冒険も。」


「その次も。」


「その次も。」


MYUの目が少し潤む。


アーヴィンも笑う。


そして。


クロックメーカーも。


ほんの少しだけ。


初めて笑った。


崩れ始める塔


その瞬間。


時間の心臓が大きく鼓動する。


どくん――!!


塔全体が震えた。


壁にひびが走る。


時計が逆回転を始める。


車輪が唸る。


列車が鳴く。


夢の棚が開く。


無数の光が空へ舞い上がる。


駅長が叫ぶ。


「まずい!」


「心臓が目を覚ました!」


コットが叫ぶ。


「それ良いことじゃないの!?」


「半分良い!」


「半分悪い!」


「どっち!?」


駅長も困っていた。


その時。


時間の心臓の中央から。


眩い光が弾ける。


そして。


何かが現れた。


巨大な影。


翼。


金色の瞳。


古い世界の姿。


忘却王より古い。


クロックメーカーより古い。


時間そのものに棲む存在。


駅長が青ざめる。


「まさか……」


MYUが見上げる。


コットも見上げる。


フィンが低く唸る。


影の獣が牙を見せる。


その存在はゆっくり目を開く。


そして。


MYUを見た。


(第19話・終わり)

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