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第18話 夢の保管庫と時間の心臓(2.月を忘れた塔篇)

夢の保管庫


列車は走り続けた。


ごとん。


ごとん。


ごとん。


窓の外には空がない。


森もない。


町もない。


ただ。


浮かんでいる時計。


流れていく午後。


誰かの忘れた風景。


そんなものが漂っていた。


「ここどこ。」


MYUが呟く。


車掌は答える。


「時間のあいだ。」


「全然分からない。」


「正しい理解です。」


コットが小声で言う。


「なんか好きになれそう。」


銀色の塔


やがて。


巨大な影が窓いっぱいに広がる。


銀色の塔。


近くで見ると圧倒的だった。


空へ伸びる。


終わりが見えない。


塔というより。


一本の時間そのもの。


そんな姿だった。


列車が停止する。


車掌が帽子を取る。


「到着です。」


扉が開く。


冷たい空気。


静かな空気。


誰も喋らない空気。


MYUは少し嫌だった。


保管庫


塔の中へ入る。


廊下。


階段。


廊下。


階段。


どこまでも続く。


やがて。


巨大な扉の前に出る。


その上に文字。


『夢の保管庫』


コットが顔をしかめる。


「保管庫って時点で嫌。」


フィンも頷く。


影の獣は鼻を鳴らした。


車掌が扉を開く。


ゆっくり。


重々しく。


そして。


全員が息を呑む。


棚


そこには棚があった。


無数の棚。


天井まで。


果てしなく。


棚。


棚。


棚。


その中に。


瓶。


小箱。


封筒。


ガラス玉。


紙飛行機。


木の剣。


ぬいぐるみ。


凧。


ビー玉。


折れた鉛筆。


子供の宝物ばかり。


MYUは近づく。


一つの瓶を見る。


ラベルが貼られていた。


『宇宙飛行士になる夢』


瓶の中では小さなロケットが飛んでいる。


別の棚。


『世界一高い木を登る夢』


『ドラゴンと友達になる夢』


『お父さんと仲直りする夢』


『海賊になる夢』


『友達を作る夢』


コットが黙る。


珍しく。


本当に黙る。


クロックメーカー


「美しいでしょう。」


後ろから声。


振り返る。


クロックメーカーだった。


彼は棚を見上げる。


まるで図書館の司書みたいに。


誇らしそうに。


「失われるはずだった夢です。」


「失われる?」


MYUが聞く。


「ほとんどの夢は叶わない。」


静かな声。


「ほとんどの希望は壊れる。」


「ほとんどの空想は終わる。」


彼は一つの瓶を手に取る。


中には小さな紙飛行機。


「ならば保存した方がいい。」


「傷つく前に。」


MYUは答えられない。


また少しだけ分かるから。


コットの夢


その時。


コットが固まった。


棚の一角。


小さな箱。


そこにラベルがある。


『コット』


全員が見る。


コットが震える。


「なんで。」


「僕の?」


クロックメーカーは答える。


「君も夢を見る。」


「イマジナリーフレンドだからといって例外ではない。」


コットは箱を開く。


中に入っていたのは。


小さな絵。


クレヨンで描かれた絵。


MYU。


コット。


二人で冒険している。


笑っている。


その下に子供の字。


『ずっといっしょ』


静寂。


誰も喋らない。


コットも。


MYUも。


フィンも。


怒り


クロックメーカーは優しく言う。


「叶わない夢です。」


その瞬間だった。


コットが箱を閉じる。


ぱたん。


そして。


振り返る。


今まで見たことがない顔。


怒っていた。


本気で。


「誰が決めたの。」


クロックメーカーが止まる。


コットは続ける。


「誰が。」


「叶わないって決めたの。」


塔が静かになる。


「未来なんて誰も知らないじゃん。」


「明日のことだって分からないじゃん。」


「なんで勝手に終わったことにするの。」


クロックメーカーは答えない。


初めて。


本当に答えられなかった。


コットの声は震えていた。


でも。


逃げなかった。


「僕は。」


小さく言う。


「僕はMYUともっと冒険する。」


「一年でも。」


「十年でも。」


「百年でも。」


MYUは思わず笑う。


「百年は無理。」


「じゃあ百一歳。」


「増えてる。」


少しだけ。


空気が戻る。


夢の保管庫に。


生きた空気が。


最奥の扉


その時だった。


塔全体が震える。


ごごごご……


棚の奥。


今まで閉じていた巨大な扉が開く。


ゆっくり。


ゆっくり。


その向こうから。


まばゆい光。


時計の音。


そして。


無数の子供たちの笑い声。


クロックメーカーの表情が変わる。


初めて焦りが浮かぶ。


「そこへは行けない。」


フィンが聞く。


「なんだ。」


クロックメーカーは答える。


静かに。


苦しそうに。


まるで長い間隠していた秘密を言うみたいに。


「時間の心臓だ。」


全員が息を呑む。


塔の最深部。


失われた午後が集まる場所。


クロックメーカーが守り続けた場所。


そして。


彼自身が最も恐れている場所。


(第18話・終わり)

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