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第17話 時間を取り戻す旅へ(2.月を忘れた塔篇)

失われた午後の列車


その夜。


午後駅に霧が降りていた。


白い霧。


静かな霧。


まるで時間そのものが眠っているみたいだった。


ホームに立つのは四人。


MYU。


コット。


フィン。


影の獣。


そして駅長。


駅長は懐中時計を閉じた。


ぱちん。


「13時07分列車が来ます。」


「乗るの?」


コットが聞く。


「乗るしかない。」


MYUが言う。


「怖い?」


「少し。」


「僕も。」


「かなり。」


「正直?」


「かなり。」


二人は笑った。


少しだけ。


到着


遠くで汽笛が鳴る。


ポォォォォォ……


霧が揺れる。


線路が震える。


そして。


銀色の列車が現れる。


昼間よりも美しかった。


星明かりを集めたような車体。


窓の中では光が揺れている。


まるで無数の思い出が灯っているみたいだった。


列車は静かに停車する。


扉が開く。


誰もいない。


乗務員も。


車掌も。


乗客も。


ただ静かだった。


「絶対乗っちゃいけないやつ。」


コットが言う。


「乗るけどね。」


MYUが言う。


「乗るんだ。」


「乗る。」


「そういうとこ好き。」


第一車両


列車に入る。


そこは図書館だった。


本棚。


本棚。


本棚。


果てしなく続く本棚。


フィンが一冊抜く。


表紙には名前。


知らない子供の名前。


開く。


中身は日記だった。


たった一行。


『今日は秘密基地を作る予定だった。』


その先は白紙。


「なんだこれ。」


駅長が答える。


「実現しなかった午後。」


別の本。


『おじいちゃんに会いに行く予定だった。』


白紙。


『空を飛ぶ方法を考えていた。』


白紙。


『友達に謝ろうと思っていた。』


白紙。


コットが本を閉じる。


「嫌だな。」


「うん。」


MYUも思う。


これは死んだ時間だ。


生まれなかった時間。


第二車両


次の車両へ行く。


扉が開く。


そこは遊び場だった。


巨大な遊び場。


木の城。


ロープ橋。


滑り台。


ブランコ。


宝探しの地図。


全部ある。


なのに。


誰も遊んでいない。


静か。


不自然なほど。


静か。


コットが呟く。


「遊びたがってる。」


「え?」


「ここ。」


遊具を見る。


風もないのに。


ブランコが揺れていた。


きい。


きい。


まるで。


誰かを待っているみたいに。


MYUの午後


その時だった。


列車が揺れる。


ごとん。


MYUの前に扉が現れる。


今までなかった扉。


赤い扉。


そこに書かれていた。


『MYU』


全員が止まる。


コットも。


フィンも。


影の獣も。


MYUだけが近づく。


心臓が速い。


ドアノブを回す。


扉が開く。


その先には。


夏の日があった。


見覚えがある。


小さなMYU。


もっと幼い。


まだ今より小さい。


庭で遊んでいる。


シャボン玉。


笑い声。


赤いリストバンド。


隣にはコット。


今より少し丸い。


今より少し幼い。


二人で笑っている。


MYUは見つめる。


懐かしい。


でも。


何かがおかしい。


「これ。」


声が震える。


「思い出せない。」


その午後を。


見たことがある。


確かにある。


なのに。


思い出せなかった。


コットが隣へ来る。


黙って。


そして。


小さく言った。


「盗まれてたんだ。」


MYUは息を呑む。


クロックメーカーは。


子供たちから未来だけじゃない。


過去も奪っていた。


楽しかった時間。


大切だった時間。


その意味ごと。


車掌


その瞬間。


後ろから拍手が聞こえた。


ぱち。


ぱち。


ぱち。


振り返る。


車両の奥。


誰かが立っている。


銀色の制服。


銀色の帽子。


そして。


時計の顔。


しかし時刻回収人ではない。


もっと古い。


もっと大きい。


車掌だった。


彼は静かに一礼する。


「銀色の塔へようこそ。」


時計の針が回る。


カチ。


カチ。


「次の停車駅は。」


窓の外を見る。


霧の向こう。


巨大な影。


空を貫く塔。


銀色の塔。


「終点です。」


列車が加速する。


ごとん。


ごとん。


ごとん。


そしてMYUは思う。


これは鐘を取り戻す旅じゃない。


時間を取り戻す旅だ。


自分自身の時間を。


そして誰かの大切な午後を。


取り戻す旅なんだ。


(第17話・終わり)

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