第14話 銀の切符と地図にない駅(2.月を忘れた塔篇)
失われた午後の駅
ゴォォォォォン……
塔の鐘の音は、
いつまでも森に響いていた。
鳥たちは飛び立ち。
木々は震え。
鐘の谷の鐘までもが
不安そうに揺れている。
ちりん。
ちりん。
まるで相談しているみたいだった。
捕まえた時計
時刻回収人は動かなかった。
影の獣の体当たりで、
木の根元に埋まっている。
フィンは素早く縄を巻いた。
ぐるぐる。
ぐるぐる。
コットも手伝う。
途中で自分まで縛られた。
「助けて。」
「何してるの。」
MYUが言う。
「僕も分からない。」
影の獣がため息をついたように見えた。
尋問
しばらくして。
時計頭の男が目を開く。
カチ。
秒針が動く。
「拘束確認。」
「そうだ。」
フィンが言う。
「質問だ。」
男は頷いた。
意外なほど素直だった。
「答えられる範囲で回答。」
「なぜ鐘を盗んだ。」
「命令。」
「誰の?」
男は塔を見る。
遠く。
銀色の塔。
「時計職人。」
クロックメーカー。
初めて名前が出た。
「目的は?」
沈黙。
秒針だけが動く。
カチ。
カチ。
そして。
「失われた午後の回収。」
MYUは眉をひそめた。
「失われた午後?」
「非効率時間。」
「空想。」
「寄り道。」
「昼寝。」
「冒険。」
「無目的会話。」
コットが怒った。
「全部大事!」
「非効率。」
「大事!」
「非効率。」
「大事!」
「非効率。」
永遠に終わらなそうだった。
地図にない駅
フィンが別の質問をする。
「回収した時間はどこへ行く。」
初めて。
時計頭の男が迷った。
秒針が揺れる。
カチ。
カチ。
「保管。」
「どこに?」
「午後駅。」
全員が首を傾げた。
「なにそれ。」
MYUが聞く。
男は淡々と答える。
「失われた午後が集まる場所。」
「地図には存在しない。」
「銀色の塔の内部へ続く。」
森が静かになる。
ジョージさんの古い地図にも載っていない。
フィンも知らない。
鐘の谷にも記録がない。
つまり。
本当に存在しない駅。
なのに存在する。
ウィローウッドらしい話だった。
時間切れ
その時。
男の時計盤が突然回り始めた。
高速で。
カチカチカチカチカチ!
「警告。」
「警告。」
「回収時間超過。」
フィンの顔色が変わる。
「離れろ!」
全員飛び退く。
次の瞬間。
銀色の砂になった。
さらさらさら……
時計頭の男は崩れた。
帽子も。
コートも。
全部。
砂。
風が吹く。
さらさら。
消える。
何も残らない。
ただ一つ。
小さな銀色の切符だけ。
地面に落ちていた。
銀の切符
MYUは拾う。
冷たい。
不思議なほど冷たい。
切符には文字が書かれていた。
『午後駅』
その下に。
小さく。
『発車時刻 13時07分』
MYUは凍りつく。
「ジョージさんの時計。」
「広場の時計。」
「教会の時計。」
全部。
十二時七分で止まっていた。
一時間違う。
でも。
何か関係がある。
そんな気がした。
コットが切符を覗き込む。
「裏にも何か書いてある。」
MYUは裏返す。
そこには。
子供の字で。
誰かの落書き。
『帰りたい』
たったそれだけ。
たったそれだけなのに。
胸が痛くなった。
夕暮れのホーム
その夜。
ジョージ夫妻の店。
フィンも来ていた。
影の獣は外で寝ている。
コットはクッキーを三枚盗み食いした。
見つかった。
怒られた。
反省していない。
そんな中。
ジョージさんが古い本を開いた。
分厚い本。
何百年も前の記録。
そして。
一枚の絵を見せた。
古い水彩画。
森の中。
線路。
小さな駅。
誰もいないホーム。
看板だけがある。
そこには。
はっきり描かれていた。
午後駅
「本当にあったんだ。」
MYUが呟く。
ジョージさんは静かに頷く。
「昔。」
「銀色の塔へ行った子供たちは。」
ページをめくる。
「みんなここを通った。」
店の空気が変わる。
冒険が。
一段階深くなる。
ただの森じゃない。
ただの塔じゃない。
時間そのものの世界へ続く扉。
その入口が。
午後駅。
「行くしかないね。」
MYUが言う。
コットはクッキーを持ったまま頷く。
「行こう。」
「怖いけど。」
「怖いけど。」
フィンも頷いた。
窓の外。
森の向こう。
銀色の塔が月明かりを浴びている。
そして誰も知らなかった。
その頃。
塔の最上階で。
銀色の仮面をつけた男が。
静かに目を開いたことを。
クロックメーカー。
時間を集める者。
彼は窓の向こうを見ながら、
たった一言だけ呟いた。
「また子供が来る。」
そして。
ほんの少しだけ。
笑った。
(第14話・終わり)




