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第11話 雲の上の銀色の塔(2.月を忘れた塔篇)

止まった午後


夏休みは、永遠に続くように見える。


少なくともMYUはそう思っていた。


朝はゆっくり始まり、


昼は長く、


夕方は金色だった。


そして明日は、


また明日として来る。


それが夏休みだった。


「だから暇。」


コットが言った。


ジョージ夫妻の店の床に寝転がり、


逆さまの世界を眺めている。


「昨日も言ってた。」


MYUは本棚の隙間から答えた。


「だって昨日も暇だった。」


「それは幸せなんじゃない?」


コットは考えた。


三秒くらい。


そして言った。


「幸せだけど暇。」


ジョージさんが笑う。


エレノアさんも笑う。


店の中には、


アメ玉の瓶と、


古い地図と、


役に立たないものがたくさんあった。


MYUはその店が好きだった。


役に立たないものは、


たいてい面白かったから。


異変


その時だった。


カチ。


壁時計が止まった。


誰も触っていない。


なのに。


秒針が動かない。


MYUは顔を上げた。


ジョージさんも。


エレノアさんも。


コットだけは寝転がったままだった。


「時計だって休みたい日あるよ。」


「ないと思う。」


MYUが言う。


すると。


店の外から声が聞こえた。


「おじいちゃん!」


男の子だった。


息を切らしている。


「広場の時計も止まった!」


ジョージさんの笑顔が消えた。


ほんの少しだけ。


MYUは見逃さなかった。


止まる町


広場へ行くと、


人が集まっていた。


時計台。


教会。


郵便局。


全部止まっている。


十二時七分。


どれも同じ時刻。


まるで世界が


その瞬間を忘れたみたいだった。


「故障だろう。」


誰かが言う。


「そうだろうな。」


別の誰かが言う。


大人たちは納得した。


でも。


子供たちは違った。


MYUの隣で、


知らない女の子が呟いた。


「昨日が短かった。」


MYUは振り向く。


女の子は続けた。


「昨日の午後。」


「うん?」


「何したか思い出せない。」


その瞬間。


コットが立ち上がった。


珍しく。


真面目な顔だった。


「MYU。」


「なに?」


コットは広場の向こうを見ている。


森の方向。


ウィローウッドの奥。


さらに奥。


誰も行かない場所。


「見える?」


MYUは目を細めた。


そして見た。


遠く。


森の彼方。


雲の上。


銀色の光。


塔だった。


窓辺から最後に見た、


あの銀色の塔。


今度ははっきり見えた。


そして。


塔の周りを、


巨大な時計の針が回っていた。


ゆっくり。


ゆっくり。


まるで世界そのものを巻き上げるみたいに。


ジョージ老人の言葉


その夜。


ジョージさんは店の奥から、


一本の古い懐中時計を持ってきた。


銀色。


傷だらけ。


だが不思議なほど美しい。


「これは?」


MYUが聞く。


「昔の旅人が置いていった。」


ジョージさんは塔の方を見る。


「銀色の塔へ行く者に渡せと。」


沈黙。


コットが嫌な顔をした。


「そういうの大体危険。」


「その通り。」


ジョージさんは頷く。


「だから君たち向けだ。」


「褒められてないよね?」


「全然。」


エレノアさんが笑う。


そして。


真剣な顔になった。


「時間が盗まれ始めている。」


店の空気が変わる。


「このままだと。」


彼女は静かに言った。


「子供たちから夏休みが消える。」


MYUは息を呑んだ。


夏休みが消える。


それは大人には些細なことかもしれない。


でも子供にとっては。


世界の終わりみたいなことだった。


コットも真顔になる。


「それは許せない。」


「おやつの時間も?」


MYUが聞く。


「特におやつの時間。」


MYUは笑った。


少しだけ安心した。


だって。


コットが真面目になりすぎると、


本当に危険な時だから。


今はまだ。


少しだけ笑える。


でも。


窓の外では。


銀色の塔が月明かりを反射していた。


静かに。


ゆっくりと。


世界の時間を集めながら。


(第11話・終わり)

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