第二十七話:前衛
「ここがシクスティーリア」
ユイが呟く声を聞きながら周りを見る。
セカンデイルの冒険者ギルドの一部屋を借りて転移の宝珠を発動すると同じようだが調度品や配置が異なる部屋にいた。おそらく転移した先が同じ冒険者ギルドだったのだろう。転移先は事前に決めることができるということだったのでリーンがこの部屋を指定していたのかもしれない。
ドアを開けて冒険者ギルドの受付カウンターなどがある広間に出る。セカンデイルの冒険者ギルドとは広さも入っている人数も桁違いの広間に気後れするも見知った4人がいるのを確認して手を上げて挨拶する。
「来たか。ん?」
リーンが俺たちを見て眉を顰める。杖を器用に回していたアオイも杖を取り落してサーラとスノウは目を丸くしている。紹介しないとな。
「あ、この人は・・・・・」
「だ、誰?この人ー?」「え?カリツ、この女の人、え?」
サーラとスノウが怒ったように顔を赤くしながらユイを指さす。いや、いまから説明するっての。
「なるほどな」
ギルド内に設置されているテーブルを挟んでリーンたち4人と俺とユイが腰かけている。リーンが腕を組みながらことのあらましを聞いて納得してくれたのだがアオイは杖を再び回しながら苦笑いし、サーラとスノウはなぜかユイを無言で睨んでいた。その力がこもった2人の目線にユイが俯いてしまっている。
周りのテーブルにも何組かの冒険者たちがいて俺たちのほうを見て話を聞いていた。誰だろ?この人たち。
「話は分かった。2人でパーティーを組んでいるなら今回の件に関しても2人で」「待てよ、リーン」
リーンの言葉を遮るように声がかかり、周りのテーブルに座っていた男が1人椅子を動かす音とともに立ち上がる。リーンが立ち上がった男に目を向けた。
「俺はヤマト。Aランクパーティー『天翔ける波動』のメンバーだ」
精緻な造りの軽鎧を纏い、左手に槍を携えている。動きやすい装備、速度を重視した攻撃役だろう。
「俺たちがこれから討伐する魔物はAランクの岩百足だ。第17の街に行くために倒さなければいけないエリアボス。いままで何度もやられてきた相手だ」
俺はリーンに目を向けて説明を求める。
新たな街に向かう道には倒さなければならない強力な魔物、エリアボスが存在し、倒さないことには前に進めないとのことだった。いままでいくつものパーティーが挑戦してきたが悉く返り討ちにあってしまいAランク4パーティーでの協力体制で討伐する案が出たようだ。
ちなみに一度倒してしまえば再出現することはなく自由に行き来ができるらしいがエリアボスは非常に強力な魔物で倒した時の恩恵もいいらしい。
「強い冒険者を討伐に参加させたいとリーンが言うから待ってみたものの鎧も着けない、冒険者かどうかも定かではない奴と初期装備の魔術師なんか加えたところでどうにもならないだろ」
ヤマトと言った冒険者がやれやれという感じで両手を上げて呆れたように首を振る。その様子を見てリーンが眉を顰め、アオイは溜息をつき、サーラとスノウはヤマトを睨んでいる。俺たちが原因なのだが空気が悪い。
「ヤマト、言い過ぎだ」
ヤマトと同じテーブルに座っていた重鎧の男がヤマトを窘める。集まっていた冒険者全員が重鎧の男に視線を移した。
「不快な思いをさせて済まない。俺はイツキ、天翔ける波動のリーダーだ」
そう言って重鎧の男が立ち上がる。傍らには明らかに業物というような大剣があった。
「ただ容赦願いたい。リーンから話を聞いていたとはいえ、最前線で戦うには装備という点で疑問視するのは仕方がないことだと思う」
イツキの言葉に天使の剣以外の面々が言葉を発せず肯定する。俺は村人装備だし、ユイは初期装備だから仕方がないことかもしれない。
「どうだろう?俺たち4パーティーは最善の状態でエリアボスと戦いたい。道中の魔物を相手してもらえないだろうか?もし危機に陥っても必ず助けることを約束する」
「イツキ、それは」
リーンが言いかけるのを俺は手を上げて止めた。リーンとイツキが俺を見る。要は俺とユイでエリアボスに辿り着くまで露払いをしろということだ。エリアボスと戦うのもいいがユイのLV上げを優先するなら少しずつでも魔物と戦う方が理にかなっている。
おそらく俺とユイの力を試すということもあるのだろう。せっかく呼んでくれたリーンの顔をつぶすわけにもいかない。
「分かった。なるべく迷惑にならないようにするよ」
俺がそう言うとイツキは力を抜いて頬を緩めた。ヤマトも槍を回転させながら口角を上げる。部屋の中で槍を振り回すのはやめた方がいいと思うぞ?
「提案を受けてもらい感謝する。君たちの安全を考慮したうえでの提案だということも分かってくれ」
イツキが右手を出すので俺はイツキの手を取り、握りかえした。
エリアボスが出現する場所に向けてシクスティーリアから出発、草原の中の整地されていない道を歩く。シクスティーリアの街も見てみたかったが4パーティーは出る準備もできていたし、時間を取らせるわけにもいかないので名残惜しいがまたの機会でいいだろう。
「カリツ君、ごめんね」
横を歩くアオイが謝る。
「私たちが呼んで来てくれたのに酷いこと言って」
アオイは少し困り顔だった。リーンは無言で俺とアオイの少し前を歩いている。サーラとスノウは俺たちの後ろでユイと小さな声で話していた。「リアルの・・・・・」とか「カリツの・・・・・」とか聞こえるが話の内容までは分からないが打ち解けてくれるとありがたい。
「いえ、別に構いませんよ?」
俺がそう言うとリーンが肩越しに俺を見る。
今回エリアボスの討伐に参加した4パーティー『天使の剣』、『天翔ける波動』、『宵闇の風』、『断光』はすべてAランクパーティーだ。言わば全員が最前線ガチ勢。TWO販売当初からプレイしてきたプレイヤーたちなのでTWOに対する思い入れ、プライドもあるだろう。そこに天使の剣の口添えがあったとしても、いきなり参加してきた俺たちに対する思いは複雑だろうと思う。
「道中で魔物を倒せばユイのLVも上がるし、うまくいけば装備もGETできるかもしれないんで」
俺が笑いながらそう言うとリーンとアオイがふっと微笑んだ。気持ちを切り替えたように前を見て歩を進める。
「ここからは魔物が出現するようになる。見通しもよくないから各自警戒するように」
草原を抜けて山道のような道に入る前にリーンが注意を促した。エリアボスはこの山道を抜けた岩が切り立つ場所を根城にしているらしい。
俺は念動力を展開して魔物の影を探す。いくつかの影を見つけ、鑑定を行うと星降る大地の洞窟に出てきたオーガであることが分かった。LVは35。以前戦ったオーガよりもLVは低いが森に入ったばかりだ。こんなもんかと短剣を飛ばして貫き、短剣を鞘に納めるとオーガだった影が崩れていく。
「お、おい、カリツ」
森に入ってドロップアイテムを拾って来ようとする俺にリーンから声がかかる。周りには魔物はもういないから再度出現する前に行ってきた方がいいだろう。
「道から逸れない方がいい。ここでも魔物はB~Cランクが出現するからな」
イツキが俺を見咎めるように言うが、それならやはり急いだほうがいいので思考加速を使って回収してきた。魔石と素材だったが使えるかどうかは分からない。
「リーン、ドロップアイテムはあとで均等に分けるんでよかったよな?」
拾ってきたドロップアイテムをリーンに見てもらう。
「ドロップアイテム?カリツ、いつ魔物を倒したんだ?」
いまさっき。了承を得て俺のリュックに一旦仕舞う。たぶんオーガはCランクの下の方かもしれない。先に行くほど同じように倒せないかもしれないが露払いの役目は全うできるように頑張ろう。
目の前に光るウィンドウが現れた。特にLVアップしたような感じではないが開けろと言っているようなので指でタッチしてウィンドウを開く。2つ新しい項目が追加されていた。
『忍び寄る暗殺者の称号を獲得しました』
忍び寄る暗殺者:プレイヤー、NPC、魔物問わず、相手に気づかれる前に1人で倒した数が1000体を超えたもの。補正値AGI100%上昇。
一つ目はいらないものだった。AGIが2倍になるが俺のAGIは0。0にいくら補正の倍率がかかっても0なのだから意味がない。でも1000体も倒したんだな。フォルトゥーナのダンジョンでも多くの魔物と戦ったことを思い出す。
『スキル強欲の腕を取得しました』
強欲の腕:ドロップアイテム、魔石などを一人で累計1000個獲得した。ドロップアイテムなどの戦利品を任意の場所に移動させる。
お!これはありがたいかも。移動する場所を腕輪かリュックにしておけば回収する手間が省けるかもしれない。念動力で持ってきてもいいがあまり目立つ行動はとりたくない俺にとっては地味だが有用なスキルかもしれない。
「「「どうしたの?」」」
おわっ!
ステータスボードを注視していたせいで後ろにユイとサーラ、スノウが来ているのに気づかなかった。3人が覗き込んでいるので急いでステータスボードを閉じる。ユイにはバレるだろうが一応個人情報だからな。
急いでステータスボードを閉じたので確認できず不満なのか3人が揃って頬を膨らます。いや、ユイは見れるだろ?
「あ~あ、私もカリツとパーティー組みたい」「わ、私も・・・・・」
サーラとスノウが溜息をつきながらそんなことを言う。いや、俺はガチ勢に加わっても役に立たないぞ?
リーンとアオイも2人の言葉を聞きつけて眉を寄せながら近づきサーラとスノウを睨む。サーラとスノウは目線を合わせないようにそれぞれ目を逸らした。
新しいスキルを手にした俺は念動力展開と鑑定で魔物の影を捕えて倒していく。進んでいる間に森林地帯を抜けて目に見えるもの全てが岩に変わった。リーンの言葉通りならそろそろエリアボスとやらが出現する場所に近づいているはずだ。
「おかしいな」
後ろを歩くイツキが呟く。リーンたちも足を止めてイツキのほうを見た。他の3パーティーのメンバーも何か違和感を感じたようにざわついている。
「イツキ、お前もおかしいと思うか?」
リーンが問いかけるとイツキが拳を顎に寄せたまま頷く。
「ああ。以前来たときは森の中でもかなりの数の魔物が出現して戦闘になっていた。ここまで魔物が出現しないことはなかったんだが」
げふんっ。
それを聞いて俺の背中に冷たい汗が落ちていく。まずい、やりすぎたかもしれない。確かに魔物が現れる前に全て倒してドロップアイテムも強欲の腕で回収しているから傍から見れば魔物がいないという異常な状態に映るかもしれない。
誤魔化すように明後日のほうを見る。うん、なかなか切り立った岩が林立する険しい山だな。これでは魔物もおいそれと移動はできないだろう。
後ろでみんなが話し合っているのを聞きながら視線を感じた。何気ないふりをして視線が飛んでくる方を見るとユイとサーラ、スノウがジト目で俺を見ている。その目は「なにしたの?」と問いかけているようで俺はひきつく頬に力を入れて無理やり口角を上げた。
ユイはサーラとスノウと打ち解けたようだ。




