第二十八話:接触
「そういえばみんな輝星石使ってくれているんだな」
俺たちは岩の間を縫うようにして歩いている。道の幅は3人で並んで歩けるくらいのもので戦闘にはあまり適さないがエリアボスはもう少し歩いた開けた場所になるそうだ。ここら辺には魔物の影も見えない。
「ああ。付与されていた特殊効果も有用なものだったからな。それに・・・・・」
リーンとサーラは鎧に埋め込むように輝星石をあしらってあり、アオイとスノウはペンダントとして首から下げている。スノウはなぜか左手に上半身をカバーできるような大きさの円形の盾、ラウンドシールドを装備しており目を向けると盾を前面に構え、右手の杖を高々と掲げてポーズをとった。
暴竜の杖と同じくSTR強化補正でもあるのだろうか?ここでも魔術師は物理、撲殺要員なのだろうか?
サーラに目を移すと視線に気づき「あはは」と笑いながら顔を赤くする。左手を鎧の胸の部分に埋め込まれた透明な輝星石に置いた。
「アクセサリーとしても美しいものだからな」
リーンがそう言って笑うのを見て役に立てているようならよかったと思う。
「ちなみにユイにあげたのもMPとINT上昇の輝星石なのかな?」
アオイが聞いてくるので頷いた。アオイの胸で揺れている青い輝星石に付与した効果と同じものだ。天使の剣が有用と言ってくれているのだから先々も使えるだろう。
「ねぇ、カリツ。念のため聞くけど私たちとユイ以外には輝星石あげてないよね?」
サーラが上目遣いで聞いてくる。なんか変なプレッシャーらしきものがサーラとスノウ、ユイから出ているがなんなんだ?リーンとアオイは苦笑いしているが原因を知っているなら教えてほしい。
「同じ品質のなら、あと1人あげた子がいるよ。少し品質が落ちるやつは他の冒険者にやった」
俺がそう言うとサーラとスノウがよろめいた。ユイは思い当たったのか「ああ」と頷く。ミオはNPCだけど欲しがっていたからな。
同じ品質の輝星石をNPCにあげたことを伝えるとサーラとスノウ、ユイが集まり、話し出す。3人で納得がいったのか頷くと俺を睨むように見た。
「カリツ。お願いがあるんだけど」
意を決したようにユイが俺を見ながら話し始める。後ろには同じように俺を睨むサーラとスノウ。
「できれば私たちと同じような輝星石をもう他の人にはあげないで」
???
「なんで?」
有用なアイテムなら欲しい人はいるかもしれない。ミオにあげたものだって生産職からすれば有用かもしれない。それでTWOを楽しめるんだったら・・・・・。
「いいからっ!あげないで欲しいの!」
サーラが一歩踏み出して怒ったように言う。顔を赤くして目尻には少し涙が溜められていた。スノウも後ろで同じように頬を赤くしながら目尻に涙を溜めてうんうん頷いている。なんで俺責められてんだろ?
「わ、分かった」
なんかよく分からないが圧に押されて俺は頷いた。
両肩に手が置かれるので両隣を確認するとリーンとアオイが「まぁ仕方ないよね」という感じで笑っている。
分かってるんなら理由教えて。
「リーン。そろそろ奴の領域に入るぞ。気を抜くな」
ヤマトの言葉にリーンの顔が真剣味を帯びた。「んんっ」と咳払いしてアオイとサーラ、スノウとユイと俺を見る。
「イツキ、エミリア、リト、打ち合わせ通りだ」
エミリアは宵闇の風のリーダーで細身の剣を持ち細身の鎧を纏った長髪の女性プレイヤーで、リトは重鎧と巨大な諸刃の斧を持つ断光の男性リーダーだ。事前の打ち合わせでは4パーティーの前衛が岩百足の攻撃を凌ぎつつ打撃を与えてDEFの低い後方に待機する遠距離攻撃可能な弓兵や魔術師を守る。時間を稼いでいるすきに矢や魔法攻撃を仕掛けるというオーソドックスな攻撃方法だ。
「HPが少なくなってきたものは後ろに下がれ。体力の回復とともに前衛を入れ替えて対処する」
いわゆるチェンジというものだな。それで前線を維持することができる。
「これは4パーティー共同での討伐戦だ。自パーティーだけじゃなく他パーティーのメンバーにも気を配れ。いいな!」
「「「「「「「「おおー!」」」」」」」」
リーンの言葉に4パーティー全員が割れるような雄叫びを上げる。士気が高い4組のAランクパーティーが倒そうとしているエリアボスはよほど強力な魔物なのだろう。
ふと横を見るとユイが心配そうな顔で俺を見ていた。緊張感に満ちた場所で気後れしているようだ。
「大丈夫だ。エリアボスを相手にするのはAランクのパーティー。俺たちの出る幕はないよ」
道中でユイのLVも31まで上がっていたが通用するかどうかは分からない。
「おい」
俺とユイが話していると声がかかった。声のほうを見るとヤマトが俺たちを見て槍の石突で地面を打つ。
「エリアボスとの戦闘になれば俺達でも余裕がなくなる。なるべく離れて見ていろ。せっかくここまで来たんだ。途中で死んだら勿体ないぜ」
そう言うヤマトの目は優しいものだった。他のメンバーも緊張の中にも俺たちを思いやるような目を向けてくれている。
これがAランクパーティーのメンバーか。流石に初心者と比べると意識が高い。
「ああ。エリアボス討伐を見るのは初めてだからな。死なないように気を付けるよ」
俺がそう言うとヤマトが軽く笑う。でもそれは一瞬のことで再び緊張感ある厳しい顔つきに戻った。
「よし、行くぞ!広い場所に出たらすぐに展開しろ!油断するな!」
リーンがそう言って力を込めて一歩を踏み出した。
気合いを入れ直してから岩に挟まれた道を少し歩くと広い空間に出る。切り立った岩に囲まれた広い円形の空間だ。
俄かに4パーティーのメンバーの動きが慌ただしくなり前衛職が横に並ぶように散開した。どうやらエリアボスの出現する場所のようだ。
「いるぞ!」
イツキの声がして目線を辿ると切り立った岩に張り付くような形で百足型の魔物がいた。確認したリーンが大盾を前に出しモーニングスターを構え、サーラが剣を抜く。スノウもラウンドシールドを構えて、アオイは杖を握り集中しているようだ。
スノウ回復職じゃなかったっけ?大司教だよね?なんで盾を構えて攻撃に備えるみたいにしてるんだ?
「あ、ああ」
別のプレイヤーから呻き声のようなものが聞こえる。声のした方を見て目線を辿るとそこにも同じような百足型の魔物がいた。
「お、おいっ!こっちにも」
別のところからも声が上がって3体目の百足の姿を捕らえる。
「「「キシャシャシャシャ」」」
3体の百足型の魔物が俺たちの姿を捕えて威嚇の声を上げた。
「さ、3体・・・・・」
メンバーたちが身体から力が抜けたように感じた。みんな少し顔色が悪いが何か想定外のことが起こったのだろうか?
「ま、まさか、これが道中魔物が出現しなかった理由なのか?」
イツキが絞り出すようにそんなことを言う。いや、魔物いたけどね。
イツキたちから百足型の魔物に目を戻す。
しかし、この魔物たち・・・・・。
「ちっさ」
思わず正直に口にしてしまった。
「は?」「ん?」「え?」
リーンたちが呆けたような顔で俺を見る。
いま目の前にいる百足型の魔物は胴の太さが人間3人が並んだくらいのものだ。確かにそれだけ見れば大きいがフォルトゥーナのダンジョンで2日目に戦った百足型の魔物と比べれば大人と子供くらいの差がある。とてもリーンたち、Aランクパーティー4組であたらなければいけないような、最前線ガチ勢を苦しめるような魔物とは思えない。
「そうか!」
そうだ、こいつらはエリアボスではないんだ。エリアボスに辿り着くための言わば前座、前哨戦なのだ。この3体の魔物を倒したあとに真打のエリアボスが出てくるに違いない。
そう結論付けた俺はユイを見る。ユイは俺と目が合うと暴竜の杖を握りしめて頭をフルフルと振った。大丈夫というように俺が頷くとユイが再度百足型の魔物を見て目を戻しもう一度頭を振る。
俺はユイに近づいて頭に手を置く。
「ユイ、大丈夫だ。危なくなっても俺が必ず守ってやる」
俺がそう言いながらユイの頭を撫でるとユイが頬を染めて俺を見た。ユイも初めて見た魔物に緊張しているのだろうか?
「ズルいー!私も」「わ、私もしてほしいな、なんて」
サーラとスノウが俺たちを見て悲鳴みたいな声を上げる。いや、安心させるためだからな。緊張していたら本来の力が出ないだろ?
「サーラッ!」
リーンの切羽詰まったような声に意識を引き戻される。
3体のうち1体が地面に降りて無数の足を動かしリーンのほうに向かってきていた。移動速度は速い部類に入るんだろうが対処できないことはない。
リーンが足に力を入れて激突に備えるように体勢を低くした。サーラが素早く、リーンの隣に移動して抜いた剣を構える。そんな2人と百足型の魔物の間に俺は身体を滑り込ませた。
「お前の相手は俺だ。露払いは俺たちの役目だからな」
迫りくる、顎を開いた頭部に抜いた短剣を振りぬく。会心の一撃が的確に魔物の頭部を捕えて横に吹き飛ばした。




