第二十六話:依頼
「カリツ~。お待たせ~」
セカンデイルの冒険者ギルドの前で待っていると宿屋のほうからユイが走ってくる姿が見えた。ログインして急いで走ってきたようで顔が若干上気している。
フレンド登録して次の待ち合わせをいつにするか確認したところ、すぐ返事が来た。時間に余裕があることを考えると俺と同じ学生ではないかと考えるがリアルの詮索は野暮と言うものだろう。
「そんなに急いで来なくても大丈夫だぞ?」
俺の傍に来て手を膝に置いて前傾しながら息を整えているユイを見て言うとユイが倒していた上体を上げて目を閉じて深呼吸。上がっていた息を少し落ち着かせる。
「でも、待たせちゃ悪いし」
そう言って笑みを浮かべるユイを見ながら俺も頬を緩めた。
「じゃ、今日はどうする?ギルドでなんか依頼受けるか?」
問いかける俺にユイが考え込むように握った手を口元に持っていった。なにか希望があるのだろうかと待つ俺にユイが「へへへ」と笑う。
「もう少し装備を整えたほうがいいのかな?杖は宝箱から見つかったけど服なんかは初期のままだし」
そう話すユイの全身を見る。確かに魔術師の服や布のズボンは初期装備なのかあまり能力値の上昇はない。暴竜の杖の上昇値と比べるとかなり見劣りするのは確かだった。
「あ、これでもいいんだけど、もっと、その、綺麗な服とか着て・・・・・ごにょごにょ」
なるほど。最後のほうは聞き取れなかったがユイも服装の好みやこだわりがあるのだろう。俺は万年村人装備だがフォルトゥーナのくれた神衣だからこれ以上のものはないと思う。
「う~ん。暴竜の杖はドラゴンゾンビを倒したときの宝箱だから同じようなAランクの魔物を倒せば出るかもしれないが」
前回の大騒ぎを見ると本当にセカンデイルでAランクの魔物が出るのは稀みたいだ。果たして都合よく出てくるものか判断がつかない。
「次の街サードメルエまで進むのもアリかもしれないな」
第3の街『サードメルエ』まで行って装備屋や道具屋を見るのも一つの手かもしれない。ファストラスやセカンデイルはまだ初心者用の街かもしれないがサードメルエまで行けば少しは充実している可能性もある。
「じゃあ、とりあえずめぼしい依頼がないか確認して、もしなければサードメルエまで移動することも視野に入れて情報収集するか」
俺がそう言うとユイが嬉しそうに頷いた。毒竜の巣にまたドラゴンゾンビ出てないかな?
ピロン。
俺とユイが冒険者ギルドに入ろうとすると軽やかな音が鳴って目の前にステータスボードが現れた。その中の点滅している項目、フレンドメールに目を向けて指で触り開く。天使の剣のリーンからだった。
「どうしたの?」
俺がメールを確認しているとユイが覗き込んでくる。
「フレンドからのメールなんだけど」「フ、フレンドッ?」
驚愕したような声を上げて、なぜか硬直しているユイを横目で見つつ文面を確認する。
『突然すまない。私たちが活動しているシクスティーリアでカリツの力を借りたい案件がある。もし時間があるようなら手伝ってはもらえないだろうか?もし可能であればシクスティーリアまで転移できるアイテムをギルド経由で依頼しようと思う。検討してみてくれ』
う~ん。シクスティーリアはガチ廃人勢が活動している最前線の街だ。セカンデイルでのんびりやっている俺に何かできることがあるのだろうか?疑問。
「なぁ、ユイ・・・・・」「カ、カリツ!フ、フレンドって誰?私以外にもいるのっ?」
パーティーメンバーであるユイにどうしようか相談しようとするといきなり胸ぐらを掴まれた。な、なんだ?
「ねぇ!誰?もしかしてリアルの?男?も、もしかして女?」
なぜかかなり焦った様子のユイにユイ以外のフレンド8人、天使の剣と黒翼のことを話す。女4人に男4人。黒翼は全員男であることは分かっているが天使の翼はよく分からん。TWOは性別を選ぶこともできるからな。
フレンドの詳細を話すとユイが洋服を掴んでいた手の力を緩めた。そして後ろを向いてしまう。
「カリツの反応。うん、大丈夫。まだそんなんじゃない。それなら・・・・・」
ぶつぶつ言いつつ、なんか一人で納得しているようなユイだが相談しないわけにもいかないので声をかける。振り向いて頭を掻きながら「へへへ」と笑うユイに事情を説明するとユイが眉を寄せた。
「シクスティーリアって今判明している最後の街だよね?途中の街全部飛ばしちゃうけど」
天使の剣の案件を片付けたらもう一度セカンデイルに戻ってサードメルエまで旅をするつもりであることを話す。せっかくの旅をショートカットするようなことはあまりしたくないからな。
「じゃあまだ旅は続けられるんだね」
そう言うとユイが安心したようにホッと息をついた。
「天使の剣は俺がTWOを始めた時にファストラスで旅の準備とか手伝ってくれたんだ」
サーラとスノウに世話になり、対人戦の楽しさを教えてもらった。そのあと対人戦でボコボコにしてしまった負い目もあるので手伝えることがあれば手伝いたいとユイに伝える。
「ボ、ボコボコ?最前線のプレイヤーをボコボコにしちゃったの?」
うん。軽い手合わせのつもりだったのだが一撃でリーンとアオイのHPを削ってしまったことを話す。
「カリツLV99だもんね。カリツだけならシクスティーリアでも十分活動できるんじゃない?」
う~ん。俺はもう少しのんびりTWOを心ゆくまで楽しみたいのだが。でもユイの装備の件もあるし考えてみてもいいかもしれない。少し考えてからリーンにメールを出す。
『シクスティーリア近隣のダンジョンならAランクの魔物も時々出現する。力を借りたいと言ったのもAランクの魔物の討伐に関することだ』
リーンの返事で心は決まった。行ってみるか。リーンに再度了承の返事を送る。転移できるアイテムを冒険者ギルドで用意してもらうのでセカンデイルのギルドまで向かうように言われた。メッセージボードを閉じる。
「ユイ、冒険者ギルドに行ってシクスティーリアまで転移しよう」
そう言って歩き出すがユイはその場に立ち止まっていた。どした?
「私が行っても足手まといじゃない?LVも26で低いし。最前線で戦えるとも思えない」
ユイが少し寂し気にそう言った。たしかにドラゴンゾンビを倒した経験値でLV26になっているが最前線では心もとないのかもしれない。
「ユイが嫌ならやめておくか?」
そう言う俺にユイが吃驚した顔をする。
「リーンたちには悪いけど、俺たちパーティーだろ?俺の我が儘だけ通すわけにもいかないからな」
そう言って再びステータスボードの中のメッセージボードを開こうとした。
「パーティー・・・・・。ね、カリツ。もし危なくなったら守ってくれる?」
俺はメッセージボードから顔を上げてユイを見て首を傾げる。なに当たり前のこと聞いてんだ?
「当たり前だろ?俺が先に死んだら無理だけどユイのことは俺が守るよ」
俺がそう言うとユイの顔が真っ赤に染まった。うん?なんか怒らせるようなこと言ったか、俺?
「・・・・・い、行く。シクスティーリア」
俺がリーンに断りのメールをしようとしたところでユイが言う。無理はしなくていいんだぞ?
「大丈夫!カリツが守ってくれるんだもん。頑張る!」
そう言って胸の前で両拳を握るユイに俺は頷いた。2人で冒険者ギルドに向けて歩き出す。
「うまくいけばユイの装備も新調できるかもしれないし。迷惑をかけないようにだけして頑張るか」
俺がそう言うとユイが笑顔を返してくれた。
「カリツさん、またなにかしたんですか?」
冒険者ギルドに行き、受付にいたイヴリンさんに事の詳細を話す。書類を確認したあと顔を上げて困惑の色を浮かべながら俺にそう聞いてきた。またって、俺なんかしたか?
「天使の剣から転移の宝珠の譲渡依頼は受けていますがFランクのパーティーがAランクパーティーから呼び出されるなんて普通のことじゃないんですよ?」
俺に聞かれても困る。でも黒翼からの呼び出しではなく、天使の剣からの呼び出しならば依頼は至極真っ当なものであると思う。
「まぁいいです。でもシクスティーリアは今現在判明している最前線の街、十分気を付けてください」
イヴリンがそう言って丸く輝く宝珠と呼ばれたものをカウンターに置いた。水晶玉の中に七色の光が形を変えつつ浮かんでいるようなアイテムはとても綺麗だった。
「おい」
俺が受け取ってユイと眺めていると声がかかる。振り返ると見覚えのある4人組が立っていた。ユイをダンジョンに置き去りにしてドラゴンゾンビのドロップアイテムに難癖をつけて対戦した4人だ。
ユイは俺の背中に隠れることはなかったが反応できないでいると4人が歩いて俺たちの傍に来る。
「・・・・・」
俺とユイ、4人が言葉もなく対峙した。
「ほらっ」「分かってるよ。急かすな」
何事かと訝しく思っていると弓兵の女性がシールドを持つ男性、リーダーを小突く。
「・・・・・悪かった」
リーダーがそう言って黙り込む。俺とユイは顔を見合わせて再び4人を見た。
4人とも目線を逸らして俯いていたが俺たちが何も話さないので顔を上げる。
「ユイ、ダンジョンに置き去りにして悪かった」
「輝星石もありがとう。おかげで装備も買えたの」
確かに4人とも装備を纏っているのを確認する。前のものよりも意匠がよくなっているようだが良いものが見つかったようだ。
ユイが俺を見るので頷いてユイの背中を少し押して前に出させる。
「う、うん。もう気にしてない。謝ってくれてありがとう」
ユイがそう言うと4人の身体から力を抜いた。
「また会ったらよろしくね」「今度は絶対置き去りになんかしないからな」「ありがとう」「今度対戦するまでに勝てるように鍛えとくぜ!」
4人がそう言ってギルドの建物から出ていくのを見送った。
ユイを見ると「ふふっ」と笑っている。
「でもあの4人にダンジョンに置いて行かれなかったらカリツにも会えなかったよね。4人には言えないけど、いまは感謝してるかな」
ユイは頬を薄く赤くしながらそう言って、輝くように微笑んだ。




