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黒獅子傭兵団

 さっきシモンと数年ぶりの再会を果たし、今俺はベック宛の手紙を書いている。


 内容はベックのお陰で無事エルベスを越えられたってこと。

 だからベックにすごく感謝してるって書いた。

 エルベス大魔境で見た魔物やエルフ族の事、リーフボードを作って空も飛べるようになったってことも書いた。故郷の様子や家族のこと、学院のこともいっぱい書いた。

 そして、いつかベックに会いにモルビア王国まで行くよって約束をして締め括った。


 リファの手紙は、アンナと上手くやってる?とか子共できた?とか今幸せ?と質問攻めで始まってた。

 それからキースは強くなって凄くてかっこいいって、ベックもキースに会ったら吃驚するよ!ってそんな内容だ。

 最後にキースと結ばれたよ!とも。読み方によっては惚気てるとしか思えない。

 それに結ばれたなんて誤解されちゃわないか?

 このまま出すのはどうかと思うんだけど、リファがご満悦みたいだから何も言えなかった。

 ベックならきっと正確に読み解いてくれるだろ。多分・・


 ちょっと早めに夕方の偵察を済ませてから、手紙を持ってシャーリア聖騎士団の野営地へと向かった。


 案内されたところは士官用の大きめの幕舎だった。

 そこにデールが待っていた。シモンがせっかくだからと呼んでくれたようだ。


「リファーヌ、キース。元気だったか」

 あの頃のデールはいつも仏頂面で無口だった。

 副長になって、ゲイドと反目し合ってからはピリピリして笑わなくなってしまった。

 しかし、今は懐かしそうに眼を細めている。


「リファーヌはあのドミークの娘だ。ミルケットにも随分世話になった。こうして元気でいてくれたらそりゃ嬉しい。それにキースもな、小さいのに体を張って役に立っていた。あの頃から俺はキースを認めていた。ドミーク達がいなくても、キースと一緒ならリファーヌは大丈夫だと思っていた」

 思いの外デールが饒舌だった。


「うん!キースがいたから私は全っぜん大丈夫だったよ!」ってリファが胸を張る。

 そんなリファに「ふっ、変わらないな」とデールがふき出して、楽しい食事が始まった。


 まず、リファがミルケットの仇を討ったところから質問攻めにあった。

 ベックの故郷で騎士団に追われてエルベス大魔境を越える羽目になった経緯を語り、そこで見た世界を教えてあげた。

 ジルべリアで冒険者となり仲間が増え、屍竜を討伐したり古代竜に会ったりした事なんかも話した。

 北のアングライド大陸に行ったことやロタで魔人族と闘った事なんかを話したら、その過激な生き方に2人が驚いていた。


「バルバドールの戦場で暮らす方が余程安全に思えるのは気のせいか?」とシモンが頭を抱えた。

「戦場で生き抜くコツをお前達は忘れてしまったのか?そんな危うい戦いを続けてたらいずれ死ぬぞ」とデールが本気で心配してくれた。


「大丈夫だよ!どんなに危険な場所でも強い相手でも、キースが全部何とかしてくれたから。それでキースは凄く強くなったんだよ。この戦争だってキースがいれば大丈夫。私、キースを信じてるもん!」

 リファが本日何度目かの胸を張った。


 デールはずっと笑みを浮かべている。

「逞しいな。リファーヌのそのくそ度胸はドミーク譲りだな。で、そんなドミークを信じて支えたミルケットの性格も受け継いでる。・・リファーヌを見ているとあの2人が偲ばれてならない・・」と、デールが突然鼻を啜った。


「あぁ。色々あったがあの頃は本当に楽しかった。いい思い出だ」とシモンまでしみじみと遠くを見る目で杯を呷る。


 調子に乗って話してたら、急に湿っぽくなってリファが困惑してる。

 だから俺が話題を変えた。


「そう言えばさ、アガシ一族って知ってる?リステルの暗殺者集団なんだけど」

「ん?あぁ、リステルで一番ヤバい連中だ。評議会と繋がってるという噂もある」

「評議会って?」

「あの国は実質4つの大商家によって仕切られている。その4家がリステルを運営するための議会を評議会というんだ」

「ふーん、それでそのアガシ一族がドミークを殺したって話を聞いたんだ」

 その一言で沈黙が訪れた。


 そして「なんだと・・誰から聞いた」と聞くデールの声は一段下がってその場が凍りついたような錯覚を覚えた。

 さっきまでの柔らかい目つきじゃない。戦場で敵を前にした時の殺意が籠った目つきに変わった。


「えっと、アガシ一族の暗殺者から」

 俺はちょっとビクついて答えた。デールが怒っているのは明らかだったからだ。


「詳しく話せ」

 と言われて、ジルべリアのリステル公使邸で起きた一連の出来事を語って聞かせた。

 リステル公使と商業ギルドの悪事が発覚し、ジルべリアで粛清が起きた事を。

 その粛清劇の現場にいたアガシ一族の手の者はバルバドール王を上客だと言い、赤獅子傭兵団の頭を討ち取った話をしていた。

 その実行犯の一人はセプタスというクロウの使い手。ただし、もう組織を抜けて今は追われる立場だ。

 ついでに、ロタの街で共に闘い俺はセプタスに命を救われている事と、リファはセプタスには思う所はないという話もした。


「ドミークを殺ったのはそのセプタスって奴じゃないな。獲物が違う。だが、大きな手掛かりだ」

 デールの目の奥に爛々と光が宿って、さっきまでとは別人のように殺気が溢れだしている。

 デールがとても怖い顔をしている。

 楽しい食事が台無しになりそうだ。


 だから、もう一度話題を変えた。

「そ、それでデールはこれまでどうしてたの?」


「あぁ、俺はあれから暫くしてバルバドールを出た。モルビアって国はどうも陰気臭くてな、素通りしてリステルに向かった。そこで商隊の護衛や日雇いで野盗狩りなんかをしていた」


「デール程の腕があったらさ、抱えこみたいって話はなかったの?」

「大金で俺を雇いたいって話はいくつかあった。が、所詮陰謀や潰し合いの手駒にされるとわかっていたから全て断った。金は稼げるが信義の欠片もない連中だ。ドミークの様な男を探し続けたがあれ程の男はそうそういないらしい。仕方なく自分で傭兵団を立ち上げた。もう3年も前の話だ」


「黒獅子傭兵団といったか。今、団員はどれくらいいるんだ?」とシモンが聞いた。

「300を少し超えた。あんな国でも信念を持った奴らは多くてな、自然と集まって気づいたら大所帯になっちまった。この戦場は正体不明の敵が相手だから危ねぇって言ったんだが、その部下共が人族の為に戦いてぇと騒いでな」

 とデールは少し照れ臭そうに鼻をこすった。


 デールは赤獅子にあやかって黒獅子を団名にしたらしい。

 デールが今でもドミークに心酔しているのだとしっかり伝わって来た。

 リファはそんなデールの思いを受けて嬉しそうに笑っていた。


 それからはドミークやミルケットの思い出話で花が咲いて、楽しい夜は更けていった。



 翌日、俺とリファはデールの元を訪ねた。

 久しぶりに吸う傭兵野営地の空気は相変わらずで、なんだかとても懐かしかった。

 やはり傭兵団は荒くれ共の巣窟なのだ。

 こうして見ると、冒険者の野営地と比べて粗野で行儀が悪くてなぜか心地いい。


「なんだか懐かしいね・・」とリファも同じことを思っていた様だ。


 雑然とする幕舎の間をすり抜けて行くと、白地に黒獅子の軍旗を掲げた野営地を見つけた。

 どうやら辿り着けたらしい。

 一見して、ここの傭兵は黒っぽい甲冑を着ている者が多い。


「お前ら、何か用か?」と声が掛けられた。

 見れば俺達と同じ年位の赤髪の少年兵だ。頭を負傷しているのか血の滲んだ包帯が痛々しい。


「俺達デールに会いに来たんだ」

 と俺が言うと「団長に?」と訝し気な目を向けてくる。


「私達、デールの昔の仲間なの」

「昔の仲間って、赤獅子傭兵団の時の仲間ってことか?」

 うんとリファが頷いた。

 しかし少年兵は「嘘つけ!」と怒鳴った。


「お前達、俺と同じくらいの年じゃないか!でたらめを言うな!ここに何をしに来た!」

 随分警戒されて、少年兵は背負いの剣に手を掛けた。


「嘘じゃないもん!私、赤獅子傭兵団のドミーク・ザビオンの娘だもん!」

 慌てたリファが怒鳴り返した。


 すると「え?」と少年兵が固まった。

「え?お前、あの伝説の赤獅子の娘なのか?」

「え?パパって伝説なの?」

「え?娘のくせに知らないのか?」


 少年兵とリファが互いにキョトンと首を傾げている。

 そこに新たな声が掛かった。


「カイン、何を騒いでる。そいつらは誰だい?」

「あ、姉さん!こいつが赤獅子の娘だって言って団長を訪ねてきたって言うんだ」

 その女傭兵は赤黒い髪を後ろで束ね、使い込んだ黒胴の甲冑に両手剣を肩に担いで現れた。


 女傭兵は検分するように俺達をまじまじと見て「あんたらが噂の風の旅団かい?」と口にした。


「話は聞いてる。ついてきな」と女傭兵の後について野営地を行く。

 カインという名の少年兵も一緒について来た。


「なぁ、お前ってホントにあのドミーク・ザビオンの娘なのか?」

「そうだよ。私はリファーヌ。こっちはキース。私達、風の旅団って言う冒険者をしてるの」

「なぁ、風の旅団が竜を倒伐したって噂は本当なのか?」

「うん、ほんとだよ」

 と言えばカインは目をキラッキラ輝かせ「お前ってすげーんだな!」って叫んだ。

「凄いのは私じゃなくてキースだよ」とリファが言うけど、カインには聞こえてないらしくリファに尊敬の眼差しを向けたままだ。


 そう、リファって凄くスゲーんだよ。分かってるじゃないか、カイン君。もおっと誉めてやってくれ!と俺はうんうん頷く。


 その会話に女傭兵も加わった。

「風の旅団の活躍は色々と耳にしていた。今朝、団長からあんたらが元仲間だと聞かされて驚いたよ。で、竜殺しのキースとドミーク・ザビオンの娘に私も会いたいと思っていたのさ。私はポーラってんだ。以後よろしく頼む」

 ポーラは振り返って俺達に笑みを浮かべた。


 向かう間、カインがリファにあれこれと質問を投げかけている。

 赤の咆哮ってどんなだ?とか赤獅子って凄く強かったのか?とか。

 ずっと二人きりで話してる。俺はポーラと二人の前を歩いて蚊帳の外だ。


 ポーラの向かう先からは何やら喚声が聞こえてくる。

 着いた先では数人が戦っていて、それを囲むように多くの傭兵が囃し立てていた。

 一目で模擬戦だと分かったけど、物凄い熱気に圧倒されて思わず足を止めた。


 そんな俺にポーラが「あれは入れ替え戦をしてるのさ。あれは4番隊と5番隊だね」と教えてくれた。

 詳しく聞けば、黒獅子傭兵団には1番隊から6番隊まであって定期的に模擬戦を行って順番を入れ替えているのだとか。

 当然1番隊が最強の花形部隊だ。

 その1番隊の座を巡って、より強さを求める向上心が黒獅子の実力を引き上げているのだとか。

 ゲイドと反目し合ったデールならではの実力特化の序列方法なんだろ。


 少し歩くと大きな幕舎があって「ここだ。団長、連れてきたぞ!」と言いながらポーラはその入り口を潜って行った。

 カインはそこで立ち止まった。


「カインは入らないの?」とリファが聞く。

「俺はまだ出入りを許されてないんだ」と応えが返って来た。

「ふーん。じゃ案内ありがとね!」と言ったリファの背中をカインが残念そうに見つめている。


 リファの可愛さに見惚れてしまったか?気持ちはわかるが、リファはダメだぞ?諦めてくれ。

 心の中でカインを慰めつつ、幕舎に入ろうとして俺は足を止めた。

「カイン、じっとして。ヒール」とカインの頭部の怪我を癒す。


 え?と戸惑うカインに「案内の礼だ」と一言告げて俺も幕舎に入った。



 幕舎の中には中央に大きな机が一つ、その周りに10人程の猛者が立っていた。

 デールもいる。

「来たか、こっちへ」とデールに呼ばれてメンバーの紹介を受けた。

 ここにいる猛者たちはリステルから来た傭兵団の団長たちだった。


「さて、早速だがキース。頼めるか?」

 と促されて俺は人族連合軍の作戦内容、敵軍情報の説明を始めた。


 ここに集まった傭兵団はリステル共和国から志願してきている。そしてリステル共和国の正規軍はここに参加していない。

 故にどこかの国の騎士団に配属されることになったのだが、それがジルべリア軍の旗下になったという話だった。


 ジルべリア軍やボルネット傭兵ギルド長から、戦場での配置や役割などは聞かされているものの、圧倒的に情報が足りないとデールは感じていた。

 戦場に情報の不足したまま赴けば、即ち命取りになる。

 そこでたまたま昨晩俺達と再会し俺が情報に通じていたことから、この場で説明する様頼まれたという訳だ。


 皆、真剣に俺の話を聞いている。一通り説明を終えたところで質問が飛んできた。

「ちょっといいか?魔笛とやらでこっちの魔法士や兵達が操られることはないのか?」と聞いてきたのは白虎傭兵団のオウガイだ。獣人族の傭兵200人を白毛の虎獣人の男が率いている。

 ザ・これぞ武人ってタイプだ。

「あり得ないです」と答えておいた。


「有翼兵に使うその新兵器ってのは、真下で戦う俺達に影響はないのか?知覚の鋭い獣人がうちにはいるんだが?」と聞いてきたのは鉄志団の団長ゲレイロだった。自ら立ち上げた傭兵ギルドから猛者を800人連れて来てるそうだ。

「可能性はあるから何か対策をした方が良いと思う」と答えておく。無いなんて言いきれないし。


 デールからも質問を受けた。

「ところで、キースはこの戦争の勝率をどう見てるんだ?人族は魔人族相手に勝てるのか?」

 勝てるかではなく勝つしかない!って思ってるけど、そんな当たり前のことをデールは聞きたいんじゃない。魔人族相手に何度も闘った俺の肌感を聞いているのだろう。


「正直、かなり均衡してると思う。個々の強さはあっち、武器と人数はこっちに分がある。でも、どう転ぶか予想できない。一度崩されたら一瞬で飲み込まれる気がする」

「むぅ・・」と皆が黙りこくってしまった。


 俺には圧縮と増幅の魔法陣がある。あれを使えば余程有利になると思う。

 けど、ファスローグとレミュノーラの古代竜が眷属共々敗北して屍竜にされた事実がある。

 魔人族の事は少しは知れたけど、分かってないことも多い。

 だから、楽観視なんてとてもできないのだ。


 長い話し合いを終えて幕舎を出ると、まだカインが幕舎の傍にいた。

 リファを見つけてすぐに駆け寄ってくる。


「お前すげぇな!団長たちの作戦会議に参加させてもらえるなんて」と目を輝かせてリファに尊敬の眼差しを向ける。

「話をしたのはキースだよ」とリファが返した。リファだってしっかり参加してたけど、真っ先に俺を立てるのはいつものことだ。


「ふーん」とちらっと俺を見てカインは「なぁお前さ、風の旅団抜けてウチに来ないか?団長の仲間だったなら皆も歓迎してくれるぜ?」といきなり勧誘を始めやがった。


「やだよ!私キースの傍にいたいもん。それにもうすぐキースの奥さんになるし・・」と言って一人頬を染めてモジモジし始めた。

 そんなリファの様子を後ろから俺は余裕な心持ちで眺めていた。

 だからカイン。リファは諦めろって。


「なっ!ぐぅぅ・・」と絶句するカイン。

 あっという間の失恋だったな。って言うかコクる前に撃沈だな!あははは。


 恨めし気に俺を睨むカインと別れて、黒騎士傭兵団の野営地を離れた。

 その道すがら、アリアの恋模様についてリファの解説を聞いた。


 なんでも最近、アリアとセシルはライリーを巡ってまた火花を散らしてるそうだ。

 ジルべリアからはピーキーはじめ高ランクパーティーが多数駆けつけている。

 そこにボトムスヘブンも加わってて、アリアは暇さえあればライリーを連れて顔を出している。


 その解説によると、一見アリアが圧倒的にリードしているように見えるけど実際はどっちも脈無しの可能性が高いという。


 エルフ族は長寿の為、人間族とは婚期の概念が全く違うというのだ。エルフ族の婚期は100歳から300歳と言われている。

 ミトの場合はピチピチの二桁台だった訳だから一概には言えないけれど、一般的にはそういうものらしい。


 あの二人は夕陽のレーテ湖を眺めながら、うふふあははといちゃついてたじゃないか。

 もう付き合ってるんじゃないのか?と疑問に思っていたら「あれはアリアが一方的にひっついてるだけだよ」と答えが返って来た。


 王族教育を受けたライリーは本音を見せず万人受けする対応が染付いてる。

 だからライリーはアリアを拒まない。代わりにセシルも拒まない。ということなのだそうだ。


 でもそこに乙女心がくすぐられて張り合って嫉妬して、感情を乱された挙句についつい甘い夢を見てしまうのだとか。

 ただ、ライリーにとってアリアはお子ちゃま枠に属してる可能性が高いらしい。


「アリアが勝負になるのは80年後くらいじゃないかな」

 って、リファの見立てを話してくれた。


 俺はアリアの遥か未来の恋路に幸あれ!と願いながらも、今は自分の幸せが大事だ。

 リファと手を繋ぎ二人きりの時間を満喫したのだった。




 そして、ついにケルト坂での敗北から10日が過ぎた。

 その日の朝、バハムが宣言通りに進軍を始めたことを俺達は確認して午前の軍議で報告を行った。


 更にその翌朝、陽が昇る前に魔人族の軍勢は西の魔境を背に布陣を完成させていた。


 ケルト坂からたったの120キロル。

 普通で考えれば魔境をそれだけ移動するのに幾日も要する。

 が、既に間道は整い魔人族の歩行速度は速い。しかも昼夜問わず行軍すると考えれば一晩にしてナジフ荒野に現れてもおかしくはなかったのだ。


 俺達は遥か上空からその布陣をつぶさに観察する。

 こちらとの距離はおよそ30キロル。敢えて魔境から遠ざかった場所を人族連合軍は戦場に選んだ。

 魔境傍で戦って魔笛を使われたりでもしたら目も当てられないからだ。


 魔物は黒狼が多い。全体の4割にもなる。

 アイアンボアとワイルドボアが最前列に固まっている。数が数だけに中々の壮観だ。

 次列は火鹿だ。あれだけ殺したというのに何故まだこんなにいるのか。

 そしてレッドグリズリ―に灰色角熊の大型重量級の魔獣が群れている。

 更に武器を持ったオーク。数的に全体の2割、黒狼に次ぐ多さだ。

 後は戦斧大鹿とグリーンタイガーとモンキーコングって猿が少数。ただし各種1千ほど。

 最後に屍オーガが数百匹。

 ブラックボアも大量にいるけど、それは食用らしく開きにされて焚火に焙られている。


 ケルト坂に現れた大蜘蛛や殺人蜂は見当たらない。角兎やらゴブリンもいない。

 数多く集めることができても、魔人族からしたら弱すぎて戦力にならないって判断されたのかもしれない。


 騎馬用に二角バイコーンがいる。馬の魔物だ。手綱つきが約一千匹。

 どの魔物も通常個体より一回り大きい。


 そして一番奥に魔人族の軍兵が凡そ5千。これは事前の情報通りだ。

 その一画にあのフェンリルがバハムの傍で寝そべっているのが見えた。巨体故に良く目立つ。

 バハムは当然、あのフェンリルも相当強い筈だ。

 ライリーの話だと、あのフェンリルは威嚇と共に強列な殺気を飛ばしてきたらしい。

 堂々たる体躯を覆う漆黒の毛並みが朝日に照らされて、なんというか剥ぎ取って売れば高値がつきそうだ。否、はく製にして展示すれば王都民の人気者になるかもしれない。

 倒すのに相当苦労しそうだけど。


 バハムの周囲には百名程のバシュラ一門がいる。

 全員同じ髪形で凄い筋肉をまとっている。ラモンっぽいのが100人って、むさ苦しすぎだろっ!


 更にバシュラ一門よりも頭一つ背が高く、ローブを纏った集団が200程いる。

 その姿からして魔術師に見える。魔人族の魔法士もローブを纏う習慣でもあるのだろうか。

 かつてサイガとキトリは戦闘部族には体術特化と魔法特化の部族がいると言っていた。

 連中は魔法特化の部族かもしれない、と俺は警戒を強めた。


 更に、あのアビスと見た目が似ている集団がいる。手足がやたら長くてカマキリみたいな顔にコウモリの翼が生えた集団だ。

 ミザリックダンジョンで体術と魔法を器用に繰り出し、強くて戦いづらい厄介な相手だった。腹に黒杭を撃ち込まれ屍人にされかけた記憶が蘇る。


 そしてコウモリの羽根を持つ小柄な部族が数百いる。猿がコウモリの羽根を背負った見た目だ。で、こいつらが魔笛を吹いている。


 他の大多数は一般兵か。皆、体格の良い武装兵だ。バハムから間隔をあけて野営をしているから身分差があるのかもしれない。


 とにかく、警戒すべき部族が複数いることが良く分かった。



 そんな情報を持ち帰るとすぐに軍議が行われた。

 そして各軍部隊から斥候が飛び出していった。


 魔人族軍は推定4万強。

 人族連合軍の実質戦力は6万5千。輜重部隊とジルべリア王太子の後方拠点は別にしての話だ。

 正直なところもう少し数を揃えたかった、と各国軍の首脳陣は頭を抱えていた。

 欲を言えば、敵戦力の5倍20万を集結すべきであったし、諸々の事情を排除すれば可能であったはずなのだ。


 ジルべリアだけで10万の軍勢を編成出来た。時間さえあれば。

 ノエリアやシャーリアの国家規模を考えれば、同様に出し惜しみ感が否めない。

 それでもリステルという信用ならない隣国を抱えていては全戦力を投入できなかったことも致し方ない。

 それにシャーリア聖騎士団は騎馬が不足している。転移ならノエリアまで僅か1日だ。でも馬までは連れて来られなかった。だから騎馬隊はかなり遅れて到着したけど、それでも数を絞るしかなかったそうだ。


 でも、そんな事情はこの戦いで敵は考慮しない。

 この大会戦に負けて取り返しのつかない事にならなければいいんだけど・・


 そしてその穴埋めをジルべリアから持ち込んだ兵器類と風の旅団が担うことになる。


 いよいよ魔人族対人族連合軍の戦いが始まる。

 人族の未来は果たしてどう決着するのか。


 俺はシャキンと背筋が伸びる思いで、厳しい表情のブライアン王太子初め各国軍のトップの顔色を眺めていた。


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