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ケルト坂開戦

 将軍バハムは深い渓谷をゆっくりと南進していた。

 魔人族の国ファダオを出て2年になろうとしているが、未だ人族の国には至らない。

 が、もうほど近いところまで来ていることは理解していた。


 魔人王ソドムが封印の地を脱して人族の国を侵略すると宣言してから15年になる。

 切っ掛けは、大量の瘴気を練り固めた“瘴毒の槍”が開発された事だった。

 飢えと渇きに苦しみ続けた魔人族にとって、瘴毒の槍は未踏の魔境域に踏み込む勇気を与えるに十分な武器となった。

 数年掛かりで監視の皇帝竜とその眷属を討ち取る方法が模索され、遂にその作戦が成功を収めると国中が歓喜の声で沸き返った。


 その成功を受けて、アビスの一族を以て人族の縄張りへ至るルートを探らせることとなる。

 アビス一族は密偵や暗殺を担う一族だった。

 その一族に未踏の魔境ルート探索を命じたのはまさに適役であったと賞賛されている。

 数年後に戻って来たアビスの配下が、見事人族の国へ至る道を探し出して来たからだ。


 来る侵略戦に備え、アビスは人族の国を攪乱し疲弊させるために彼の地へ単身残ることを選択した。

 アビス配下からその報告を受けて、ソドム王はバハムの子ガルハを人族の国ノエリアへ先行させたのが2年半前。任務はアビスを救けて標的ノエリアを攪乱し弱体化を誘うというものだった。


 その1年後、屍竜と魔狼を伴った兵500の攻略隊がノエリア王都を陥れる為に進発した。


 更に半年後、ノエリア全土の制圧支配のための侵略軍を将軍バハムが率いる。

 道中に襲い掛かって来た多くの魔獣を魔笛で従わせてきた為に、今や当初の軍勢は10倍にまで膨れ上がっていた。




 昼夜を問わず進軍を続ける魔人族の軍勢を確認して、俺達はサルファス司令のいる本陣へ報告に戻ることにした。


 ジルべリア軍本部の幕舎に入ると、すぐにノエリアのブライアン王太子とシャーリアのマクガイア元帥が呼ばれてきた。

 さらに冒険者ギルド代表としてゼファールの爺さんとボルネット傭兵ギルド本部長という人もやって来た。


 ゼファールの爺さんはジルべリアから冒険者を大勢引き連れてやって来た。

 ボルネットはシャーリア傭兵ギルドの代表で、傭兵業界の顔役的な人らしい。シャーリア、ノエリア、リステルから来た荒くれ共のまとめ役として君臨している。ゼファール同様スキンヘッドで体中傷だらけ。しかもゼファールより年寄っぽいけど、ゼファールよりも2回りはでかい強面だ。


 そして軍議が始まる。

「敵は約5万。うち5千は魔人族で残りは魔物です。現在地はここ。凡そ5日後に例の襲撃ポイントに到達すると思われます」

 調査で得た情報を、地図を指しながら説明をする。

 そこにサルファス司令がピン止めで位置を記録した。


 俺の中であの襲撃ポイントはダッシュ坂と命名されている。しかし人族連合軍の共通認識として“ケルト坂”といつの間にか決まっていた。

 リブレイル司令の部隊から伝令鳥で“ケルトの樹がある坂”と報告がされていたらしい。

 そして人族連合軍の大軍が布陣するこの大荒野は、地名から“ナジフ荒野”というらしい。



 ケルト坂に向けて、既に総勢6千人のノエリア兵が急行していると言われた。

 ライリーが絶好の襲撃ポイントと報告をした直後に作戦が立案されて、リブレイル司令がその実行部隊将に名乗りを上げたそうだ。

 その人選に俺は一抹の不安を覚えた。


 確かに、ケルト坂では一方的な打撃を与えることができる。

 でも、万全ではないしリスクも高い。だからそのリスクを俺は口にした。


「あの斜面は全長が高々150メトルしかないんです。崖の両岸に並べられる兵数はせいぜい300人です。数万の魔物、それも高ランクの魔物が一気に駆け上がったりしたら、一瞬で突破されて死屍累々の大敗北って可能性もあります。リブレイル司令に6千人もの兵を預けるのはちょっと無謀な気がするのですが、大丈夫ですか?」


「そのリスクは承知している。その上で削れる時に削れるだけ削る必要があると結論したのだ。しかし以前の報告では5千と聞いていたが、5万に増えたというのは間違いないのか?」

 ブライアン王太子が苦い顔で聞いてきた。聞いていた情報と全然違うと顔が言っている。


「あくまで推定です。しっかり数えたわけじゃありません。ですが、大きな誤差はないと思います」


 奴等は魔物を操る。屍人さえも意のままだ。魔境を通り抜ける間に数は増えるだろうと思ってはいたけど、ここまで膨れ上がるとは予想していなかった。

 皆同じ気持ちなのだろう。全員難しい顔をしている。


「ここで話が違うと文句を言っても始まらん。ケルト坂ではリブレイル殿の奮戦を期待するとして、主戦場はあくまでこのナジフ荒野だ。そこを前提として敵の大軍勢をどう迎え撃つか、今一度検討する必要がある」

 一番年長者で貫録のあるボルネットが発言すると、同意するように全員が頷いた。


「悪いが風の旅団、お前達には存分に働いてもらうぞ」とサルファス司令が俺達に告げた。


 そしてその言葉通りに早速、またしても俺は荷物運びとしてケルト坂に向かう様指示を受けた。この荷運びが地味に辛いのだが、泣き言を言ってる場合ではないのは分かっている。

 俺は空飛ぶ次元収納なのだ。割り切るしかない。



 ケルト坂に4人で向かうと、既にリブレイル襲撃部隊は着陣していた。

 軽く挨拶をして、俺だけは武器や糧秣を指定された場所に取り出して行く。

 その間に、リブレイル司令と最新情報を共有するべくライリー達に伝達役を任せた。


 そのライリーが、露骨に不機嫌なアリアとリファを連れてやって来た

「どうした?」と聞けば、「やっぱり私あいつ大っ嫌い!」とリファが真っ先に怒りをぶちまけてきた。

「いくら軍令だって言われてもこんなの納得いかないわよ!」とアリアも憤りを隠さない。

「キース、リブレイル司令から命令があった。まずケルト坂と渓谷沿いに石造りの防壁を築けとさ。高さ1.5メトル厚さ1メトルの防壁をケルト坂の両岸全体に、渓谷沿いは南北に各5キロルだ。ケルト坂の上部付近は高さ10メトル幅3メトルの石壁で囲む。更に後方に拠点用の石砦を両岸各3つ。それから砦とケルト坂、砦と渓谷を結ぶ物資運搬用の道を拓けと。まだあるぞ。ケルト坂の上手に幅20メトル、深さ10メトルのV字型の溝を掘れってよ。それから砦とは別に、東後方200メトル地点を拓いて司令部を作れって。あとは周辺の魔物狩りと日に4回敵の位置を偵察して報告しろとも言ってたな。なぁ、6千人も兵がいて何で俺達だけ働かせようとするんだ?そりゃ怒りたくもなるさ」


 ケルト坂と渓谷沿いに強固な防壁を築けと。砦と道と司令部も俺達で整えろということか。


「・・ちょっと腹立つな。あいつに俺達に命令する権限はない筈だ。でも言われた通りやってやろうと思う」

 ちょっと考えて、その方がいいと判断した。

 開戦まで時間がない。やるなら俺一人でやった方が大変だけど素早くできる。


「キース!私あいつの言いなりになんて動きたくない!」

「私も嫌よ!」

「まぁ、そう言うなって。魔物狩りと偵察以外は全部俺の仕事じゃないか。俺が我慢すればいい。戦闘はノエリア兵に任せることになるんだ。だったら少しでも戦い易いようにして犠牲が減る様に準備してやりたい」


 多分、防壁が有ると無いとでは戦果が大きく変わってくる。

 安心して休める砦が必須だってのも分かる。

 リブレイル憎しで手を抜いた結果、大勢の兵が犠牲になる事態は避けたいと思った。


「ここで私達は戦わないの?」

「俺達が戦うならもっと空が開けてないと。こんな狭い空間じゃ飛べないじゃん」

 見上げれば樹木の枝葉がこれでもかと生い茂っている。

 その木を全部切ってしまえば戦えなくもないけど、敵の有翼兵だって戦い易くなる。

 むしろこっちは不利になるんじゃないか?


 それに俺達が地上戦で戦っても大した戦力にはならない。

 だって赤玉を放るだけだ。誰でもできる。

 それなら風の旅団はナジフ荒野で暴れるべきだ。


「ライリーはこの話をサルファス司令に報告してくれ。アリアとリファは偵察。終わったら魔物狩りだ。俺は防壁に取り掛かる」

 指示を出して、俺も自分の為すべき作業に向かった。



 5日後の昼頃。

 予想した通りに敵軍勢は渓谷に現れた。先頭は1キロル先、渓谷の分厚い木々の下に物凄い数の魔力がひしめいている。


 一応、俺達は命令されたことは全部やり終えた。ちょっと頑張り過ぎた。お陰でかなり寝不足で疲れている。

 アリアとリファはずっと文句を言っていたけど、なんだかんだ魔物狩りも偵察も頑張ってくれた。

 あとは戦いをノエリアの部隊に任せる。俺達の任務は本部の連絡と有翼兵の駆除だ。

 俺とリファ、アリアとライリーのペアで両岸に分かれて戦況を見守ることにした。


 因みに俺のハンディフォンはサルファス司令に預けてある。

 そしてライリーがナジフの本部にハンディフォンで戦況を伝える役目だ


 今は双方鳴りを潜めて相手の出方を伺っている感じだ。

 そこに気味悪い笛の音が突如聞こえてきた。

 同時に、眼下で木々越しに陣形が大きく動く気配がした。

 いよいよ戦いが始まる。


 人族の軍がここに布陣して待ち構えていることはとっくにバレている。

 有翼兵が空から偵察すれば一目瞭然だからだ。

 巨木の枝の隙間から陣形を伺う敵を見つけ次第撃ち落としたけど、さすがに全部じゃない筈だ。

 凡その人数や、こちらのやろうとしていることはほぼ知られているとみて間違いないと思う。


 ピリピリとした緊張に包まれる。

「動いた!」ライリーが短く叫ぶと同時に、見張り兵が敵襲を知らせる花火を上げた。

「敵襲!」とあちこちから声が上がり、すぐに「投擲用意!」と指揮官達が怒鳴る。


 俺も感知を広げて確認すると、敵軍勢の一部がこちらへ突進してくるところだった。

 木々が邪魔な筈なのに、かなりの速度が出ている。

 すぐにケルト坂の下に到達すると、赤色の鹿っぽい魔物がバラバラと斜面を駆け上がって来た。

 黒い大きな角が何かいい素材になりそうな魔物だ。

 竜眼が火鹿と告げてきた。単体ならそう強くないランクC程度の魔物みたいだ。


「撃てー!!」

 一斉にノエリア兵が砲筒を打ち始めるけど、遅い!

 速度に特化した群れが跳躍しながら突進してくるのに、狙いなんてつけていたら絶対に当たらない。

 赤玉だから燃焼範囲が広くて抑え込めているけど、先頭にいた数匹はもうV字溝を飛び越えて最奥の石壁に到達した。


 そこで行き止まりだ。

 でも、この魔物に10メトル程度の壁は関係ないかもと直感で感じた。

 壁上の兵に焦りはない。この壁を乗り越えられないと高をくくっているみたいだ。


「油断するな!攻撃しろよ!」と思わず叫んだだけど、間に合わない。

 火鹿は勢いを落とさず壁を垂直に駆けて大きく跳躍すると、その赤黒い角から火球を創生して撃ちだした。


 壁上で一人の兵士が直撃を受けて四散し砲筒が爆発すると、赤玉が次々誘爆を引き起こして高熱が旋風となって吹き荒れた。

 周辺にいた兵士達が巻き込まれ、その火鹿も吹き飛んだ。

 張り出していた木々も一気に燃え盛って、周辺の兵士達がパニックで右往左往する。


「何やってんのよ!もう!」

 アリアが駆けつけて、氷結牢獄で一瞬にして炎を収めてしまった。

 他の火鹿も一緒に凍らせて事態を鎮静化したはいいけど、壁上にいた守備兵は全員吹き飛んでいた。


 この騒動で50人近い兵が死んだ。

 すぐに態勢を立て直したところで、また数匹の火鹿が最奥までたどり着く。

 今度は油断なく排除したみたいけど、今一不安が残る初手となった。


 戦いが始まってまだ30分。

 斜面入り口から中腹にかけて盛大に弾幕を張っている。その為、火鹿の死体は夥しい数だ。

 血と肉の焼ける臭いがもわっと漂って、抉れた斜面は血を吸って青黒くぬめり輝く。


 気付けば、象徴だったケルトの樹も焼け落ちて今はその痕跡すら見当たらない。


「順調って言えるのかな」とリファが呟く。

「どうだろ。全然楽観できる気がしない」

 リブレイル司令が率いてるというだけで、不安しかない。


 と、そこに異音が耳に入った。

 低音の呻き声が重なり合うような危険な感じの音。でも聞いたことがある。何だっけ。

 思い出そうとしてたら、リファが「これ、殺人蜂の羽音じゃない?」と教えてくれた。

 そうだ。殺人蜂だ。


 殺人蜂は魔境の浅層にいる体長1メトルにも満たない毒蜂だ。

 凶暴な肉食蜂だけど、羽音で気づくし群れても数匹程度だから対処はしやすい。

 が、今襲い来る毒蜂は殺人蜂の2倍は大きい。しかも一千匹は越えている。

 こんなにたくさんどこで見つけてきたんだよ!って感じだ。


 アレが襲ってきたら、火鹿どころじゃなくなってしまう。

 群れでまとまっている今のうちに対処しなければ!

 俺は殺人蜂の行く手を阻む様に、魔力の霧で覆う。

 そして霧全体に雷撃を放った。

 バリバリドーン!と大音が響くと、ボトボト煙を噴いて殺人蜂が落っこちて行く。


 でも、さすがにきれいさっぱりとはいかなかった。

 何十匹か逃してしまった。そいつらがバラけて崖上の兵士に襲い掛かる。

 俺達にも襲い掛かって来たけど、リファが茨蔦の鞭でピシパシと叩き落とした。


 兵士の何人かは刺されたみたいだけど、ほとんどが小隊ごとに剣や槍で迎撃している。

 中々安定した戦いぶりに、俺達は特に手を出すこともなかった。


 そして俺は、睡魔が襲って来て欠伸を連発する程に手持無沙汰となった。

 戦闘中だから眠らないけど、でも砦に引っ込んで休んでしまおうかと何度頭をよぎったことか。



 その後暫く魔物による襲撃は続いたものの、ノエリア兵だけで対処可能なレベルでの戦闘に終始した。


 日が暮れる直前に敵の突進が止み、渓谷の奥へと引っ込んでしまった。

 リブレイル司令は部隊の一部を残して大半の兵に休息を取らせるようだ。

 ケルト坂に松明が大量に投げ込まれて、斜面を明るく照らしている。


 そこで俺達も焚火を囲んで食事を取ることにした。

「ねぇ、ちょっと変だと思わない?魔人族の主力軍がこの程度って腑に落ちないのよね」


 アリアの言葉に俺もリファも頷く。

 魔人族は一人も現れなかった。まだ小手調べということだろう。

 まだまだこれからだ。


 ライリーは思う所があるのか何か考えている。

「でもな、敵側からしたらこの斜面の攻略は難しい。こっちは少ない犠牲で防げた。それは襲ってきた魔物が大したことはなかったからだ。魔笛で操れる魔物って弱い種類だけなんじゃないか?」


「え?だってあいつら竜とか操ってたじゃん」とリファが言う。

「否、それは黒杭を使ってたからだろ?それとも魔笛で生きてる竜を操ったのか?」


 眠い頭で思い返せば、魔笛を使われたのはミザリックダンジョンとロタの街と軍事演習の3回だけだ。

 サハギン、六足鰐、ボア、オーク、ゴブリン・・そう考えるとランクB以上ってないな。

 今日の火鹿や殺人蜂も個体としては強くなかった。

 ロタのオーガは黒杭が刺さってたし。

 なるほど。ライリーは目の付け所が違うと改めて感心した。


「魔人族はかつて魔物を使って他種族に戦いを挑んだ。アングライド大陸ではそう伝わっている。ここは魔境だから魔物は調達はしやすいだろうな。そう考えると。幾らでもやりようはある。俺が敵将なら今晩にでもここを壊滅させて、ケルト坂を制圧できる。もう時間の問題だと思うぜ」

 不穏な事を淡々と言いやがる。止してくれ、不安が激増するじゃないか。


 まぁ取りあえず、さっさと飯食って横になろう。夜の警戒はノエリア兵に任せた。

 そう思いながらスープ飯を掻きこんだ。


 と、そこに伝令兵がやって来て呼び出しが掛かった。

 司令部ではなく、俺の作った砦のひとつにある幕舎へと案内された。

 そこでリブレイル司令は武官達とワインを楽しんでいた。

 俺はそんなもの持ち込んではいない。自らの荷物として兵に運ばせたて来たのだろう。


 初戦の夜から酒盛りしやがって、とイラっとくる。

 リファが呆れ、アリアは羨ましそうにワインボトルを見つめている。


「来たか。お前達には本日より夜間哨戒任務に就いてもらう。範囲は渓谷沿いに南北30キロルとする。以上だ、下がれ」


「カッチーン!ちょっと!あんたがやればいいじゃない!お酒飲むほど暇なんでしょ!私達にばかり働かせるんじゃないわよ!」

「そうだよ!自分でやれ!」

「あんた指揮官なら、こっちの体力も考えたらどうだ?キースは働き詰めで相当疲れが溜まってる。そんなことも判らないのか?」

 3人が食って掛かった。


「発言を慎め!命令に従わない者は軍規違反で罰するぞ!」

 武官の一人が怒鳴った。


「やれるものならやってみなさいよ!」

「俺達はジルべリア軍所属だ。ノエリアの命令に従う義務はない!」

「少しはキースを休ませてよ!昨日までの陣地構築だって大変だったんだから!」

 俺は眠くて文句を言う気にすらならない。

 眠いんだ。早く寝たい。


 仲間とノエリアの幹部が互いに譲らず、ギャーギャーとののしり合っている。

 あぁ、うるさい。

 帰って寝よう。


「あぁ、もう限界だ。一度ナジフの本陣に戻ろう。ここじゃ休むことさえ許されない」

 俺がそう告げると、仲間はすぐに同意してくれた。


「ダメだ!私の許可なくここを離れるというなら軍規違反で拘束する!」

 リブレイルが怒鳴る。

 こいつにはいい加減うんざりだ。疲れてると、こんな奴が何を喚こうとどうでも良くなる。


「あんたさ、この防衛戦に自ら志願したんだって?その時俺達は戦力に入れてなかった筈だ。その上で6千もの兵をブライアン殿下から任されたんだろ?だったら、その範囲でやれよな。それでも俺達を保有戦力として使いたいなら、まずサルファス司令から了承を取ってくれ。話はそれからだ。明日また様子を見に来る」

 そう言い残して、俺は幕舎を出て行こうとした。


「行かせんぞ!」

 とお付きの武官達が剣に手を掛けた。同時にリファが火球をアリアが風のシールドをまとった。


「あ、ハロハロ?」

 睨み合う中、ライリーがサルファス司令に連絡したようだ。

 その会話を緊迫した状況でも聞かざるを得ない。


「・・という訳で、今ノエリアの幹部と一触即発の状況ですけどどうすれば良いですか?やっちゃっていいなら、喜んで対応しますよ」

「リブレイル司令に君達の指揮権はない。あくまで君達はジルべリア王国軍の指揮下にある。衝突が不可避ならば、怪我をさせなければ無力化して構わない。ブライアン殿下には私から話を通しておく」


 やはり次期将軍は話が分かる。

「ということだ。行かせてもらうけど、邪魔するなら拘束させてもらう」

 俺がリファに目で合図すると、武官達の足元から蔦がニョキニョキと生えて足首に巻き付いた。

 茨蔦じゃなく、縛られても痛くない普通の蔦だ。

 チッ!と舌打ちしてリブレイル司令が顎で出口をしゃくった。


 俺達は夜の魔境を東へ向かい、途中で眠気に負けた俺は早々に帰陣を諦めて魔境の中に石小屋を建てて眠りについた。


 翌朝ライリーとアリアは再びケルト坂へ向かい、俺とリファは報告の為にサルファス司令を訪ねた。

 そしてブライアン王太子からリブレイル司令宛ての書簡を預かって、俺達もまたケルト坂へと向かった。


 書簡には、司令への叱責が書かれていると聞いた。

 ザマミロだ。

 書簡に目を通すリブレイル司令の真っ青な顔を見て、ちょっと清々した気分になった。


 その後、丸3日間敵は襲ってこない。

 その沈黙が不気味で俺達は警戒を強めたけど、敵は動く気配を見せなかった。



 バハムは初日の戦闘で地形的な劣勢を思い知った。

 急坂を真正面から突破するのは非常に困難を極める。ならば、先に人族軍の守備を殲滅してやれば良い。

 そう思い至ると、有翼兵に魔笛を持たせて崖上に向かわせた。


 3日かけて奥地から魔物の大群を集め操って突撃させる。

 魔境で魔物を大量に集めることなど簡単な事だ。


 襲撃のタイミングを合わせて急坂に突撃すれば、混乱の中で人族軍の防衛態勢に必ず穴が空く。

 一度穴が空けば、もう事は為ったも同然だ。


 そしてその作戦は実行された。



 その日の深夜。

 静まり返るノエリア防衛部隊の陣地に魔笛が響いた。

 すぐに敵襲を知らせる花火が打ちあがり、陣地内を兵が慌ただしく走る。


 光球がいくつも打ちあがり、頭上も昼程に明るくなると黒狼と火鹿の群れが斜面を駆け上がってくるのが見えた。

 すぐに赤玉が炸裂し火を噴いた。。


 丸3日も沈黙を保っていた敵が突如動いたのだ。

 なにか伏線で仕掛けて来る筈だ。


 そう思って探知を広げると、魔境の奥から魔物の群れが押し寄せてくることに気付いた。

 すぐに、奥地から警鐘の音が幾つも届いた。


 砦内で休息中の兵全員が叩き起こされ、背後からの敵襲に備える為に行動を起こす。


 が、陣形が整わない内に魔物の群れが到達し始めた。

 慌てふためくノエリア兵。

 魔物の群れはそんな兵に突進する。


 魔笛は音の出所が判別しにくい。

 近いのか遠いのか、方角も定かではない。

 それでも俺達のやるべき事は魔笛を吹く魔人族、恐らく有翼兵を急ぎ始末することだ。


「リファ!魔笛を奪え!」

「任せて!」とリファがすっ飛んで行った。


 対岸でも同じことが起きているようだ。向こうでも兵達が右往左往している。

「壁上の兵は斜面を守備することに専念しろ!ケルト坂を抜ける魔物を討伐する事だけに集中しろ!」


 一言、風魔法の声を届けて俺も魔笛を探して飛び立った。


 しかし、魔境の奥から湧き出て来る魔物が多い。

 アイアンボアがいる。バイコーンにブラックウルフ、オーク、アックスディア、レッドグリズリーとちょっと厄介そうな個体が混じっている。

 闇フクロウが音もなく通り過ぎ、ゴブリン、コボルト、角兎、ヘルハウンド、グリーンタイガーが次から次に現れて突進していった。

 数が多くて処理しきれない。

 多分、数千にもなる大軍だ。スタンピードそのものだ。


 ヤバイかも。

 背後が凄く気になる。

 それでも、魔笛を探すべく探知魔法に集中した。


「見つけた!」

 かなり後方の大木の裏に潜んでいる怪しい奴に向けて魔力増し増しの魔力弾を放った。


 ズドーンと轟音が響いてバキバキ音を立て大木が倒れた。

 直後に魔笛の音が一つ減った。

 でもまだどこかから聞こえてくる。


 俺は次の魔笛を探して再び探知魔法を広げた。


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