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人族連合軍

 王女姉妹のコルネリアとリグレシア、侍女のアルバとジョシュアの4人を転移の間に連れて行く。


 古代神殿に向かう道すがら、リグレシア王女は泣き付かれたのか眠ってしまった。

 今はライリーに背負われている。

 そんなリグレシアをコルネリアが心配そうに見つめ、深い溜息を吐いた。


「そう心配しなくても大丈夫だよ。ジルべリアの王女は私達の仲間なの。とても優しい子だから、色々と力になってくれるよ」

 確かにリリィなら王女達に気を配ってくれるだろう。俺もリファの言葉に頷いた。


 そのコルネリアは幾分目元が赤いけど、落ち着きを取り戻している。

「えぇ。でもあの子のことが心配で・・」とまた一つ溜息を吐いた。


 襲撃を受けたあの日、リグレシアの目の前で両親と二人の兄が殺された。その部屋に身を寄せていた官僚や貴族、侍従侍女、近衛兵も大勢殺されたのだという。

 コルネリアは別の場所で拘束された為にその惨劇を目にすることはなかったが、その様を目撃してしまったリグレシアのショックは如何ほどか。

 今は毎夜、恐怖に刻まれる夢を見ては悲鳴で目覚まし、泣き震える日々なのだとか。


「それだけではないのです。敵の将官が私達に言いました。私達はいずれ魔人族の王に貢がれることになると。要らぬと判断された時は、功のあった者に下げ渡され、そこでも不要となったら魔狼のエサになると。その話を聞かされた時、リグレシアは倒れてしまいました。あの子の幼い心では、とても耐えられない恐怖だったのです」


 リグレシアは今も悪夢を見ているのか、泣きそうな顔で眠っている。

 何の不安もない幸福な暮らしに前触れもなく、悲しみと恐怖と絶望とが次々と降りかかったのだ。

 いくらリリィでもそんなリグレシアに、本当の意味で寄り添えることなんてできない。

 迂闊な同情など届かないだろうし、感情をこじらせてもっと悪化させる可能性もある。

 最終的には本人の心の強さに期待するしかないのだと思う。が、今はそんなこと口にできない。

 だから俺もリファも何を言えばいいのか言葉が見つからなかった。


 後ろを歩くアルバとジョシュアが鼻を啜った。

「どうしてこんな事に・・」

 ジョシュアの呟きを最後に、会話が途絶えてしまった。


 転移で獣人族の遺跡まで戻って来た。

 王女達に遺跡で一晩過ごさせるわけにもゆかず、魔境農園で一泊してからのジルべリア入りとなった。


 事前に連絡を入れたから、リリィと王妃様が王女姉妹を出迎えてくれた。

「あとは任せて」と請け負ってくれたリリィに4人を預けて、俺達は魔境農園に戻った。



 そして再び作業に取り掛かかる。

 が、ただ作業に没頭していたら勿体ない。

 せっかくだから俺は増幅と圧縮の魔法陣をより早く展開できるように鍛錬しながら道を拓く。

 理想は右手で殴り合いながら、左手で百倍シールドの魔法陣を自在に出し入れしたい。

 ラモンレベルを相手にするなら、これ位できなければ次こそ命を落とす。

 応用で百倍火球の魔法陣を自在に展開出来たら戦いが楽になりそうだ。


 ライリーは俺の護衛をしながら、リーフボードの練習をしている。

 今のライリーに空中戦は無理だ。でも戦いようはある。

 地上から一気に加速して、すれ違いざまに矢を放って敵を倒す。上手く行けば、空中戦でもかなりの戦果が期待できる気がする。


 アリアはマイペースに新技の開発に取り組んでいる。

 詳しく聞けば、氷結牢獄はその領域全体を瞬間冷凍する。でもそれは魔力の無駄が多い。

 この新技“アロージョン”はその領域の任意の場所の体液に浸食して氷結するという技らしい。

 例えば空中戦でアリアの風の領域に入った途端に翼だけが凍り付く、もっと言えばその風を吸い込んだ瞬間に肺が凍り付く、みたいなイメージらしい。

 敵に気付かれる事無くダメージを与え、しかも魔力消費量は超効率的。そんな夢の様な技を目指しているとか。暗殺者かよ!なんて恐ろしい事を考えてんだ!


 リファは新技開発の余裕なんてない。可哀想だけど仕方ないなのだ。

 でも、ポーションを作りながら色々と構想はしてはいるらしい。



 2週間後。

 俺は人族防衛戦略会議の参加を言い渡された。

 魔人族の侵攻に備えて、軍部が防衛に関する全体日程を作成したらしい。


 今回は初回ということで、ノエリアからサルファス司令も呼び出されている。



 会議はノエリア王と犠牲者への哀悼の言葉から始まった。


 人族VS.魔人族の大戦は5の月初めと予想されている。

 戦場はノエリア王国西南部ロタの街西郊外の広大な荒野が選ばれた。そこはセンティアから1200キロル以上離れた地点になる。

 西の魔境から現れる敵軍をその荒野で迎え討つと決まった。


 開戦時期が想定より早まる可能性を考慮すると、ひと月前の4の月初めには戦場へ布陣する必要がある。

 となると今は12の月の半ばだから、後3ヵ月半しか時間がない。

 間に合うのか?という思いが皆の顔に出ていた。


 ディグリーム将軍がシルベリア軍の編成とその移動方法を発表した。

 ジルべリア王国軍は総勢3万を投じる。

 騎馬隊5千を早期に王都から進発させる。

 歩兵従士部隊、魔術師団、工兵部隊、輜重部隊総勢2万人をノエリアへ転移させる。

 更に、リオネスカル王領地軍と南部貴族領軍総勢5千を王太子が率いることも決まった。


 サルファス司令から、シャーリア聖公国に防衛軍の参加を呼び掛けていると話しがあった。

 加えて傭兵ギルド、冒険者ギルドにも参陣を依頼していると。

 既にシャーリアへノエリア代表団が直接行き来して協議が始まっているそうだ。

 人間族の古代遺跡は、シャーリアの聖都にある。

 故に転移前提で考えれば、軍の移動に関してはセンティア迄たったの1日で移動可能なのだという。


 次にノエリアのブライアン王太子の書簡が読み上げられた。

 内容は大規模な糧秣の確保を進めているというものだ。

 ノエリアの備蓄に加え、シャーリアからも支援を受けて5万の軍兵が3ヵ月維持できる分を確保可能と報告された。

 これにジルべリアの供出も加わると、ひとまず糧秣の心配は不要という判断が下された。


 魔術師団のアルシオンの爺さんから開発中の兵器について話があった。

 現在、大型キャノンを開発しているらしい。

 砲と弾にそれぞれ魔法陣を刻んで、範囲殲滅できる仕様なのだそうだ。

 有翼兵対策もしているとかで、随分と自信がありそうだった。


 俺からは西の魔境に敷設している街道の進捗を報告した。

 王都から古代遺跡までを結ぶ総距離400キロルに近い魔境街道だ。

 と言ってもカルバニ砦を起点にするから、工事の総距離は350キロル程。

 歩兵が通れるようにすればいい。馬も荷車も通れない代わりに、あちこち野営拠点を設けて食料と水を貯蔵しておく計画だ。


 手を付け始めてから3週間が過ぎたけど、半分ちょいしか進んでいない。

 崖や川が多くて、予想以上に苦労しているのだ。

 街道名は“カルバニ魔境道”と決まり、あと2週間で終わらせろとせっつかれて会議は終了した。



 それから4ヵ月後。俺達は今、戦場となる荒野に立っている。

 日を追うごとに膨れ上がる人族連合軍をほっとした思いで眺めている。

 ジルべリアの会議では防衛軍とされていたけど、参加国が増えて人族連合軍と名称が決まった。


 ここまで怒涛の忙しさだった。

 カルバニ魔境道の開通を間に合わせるとすぐに野営砦の建設に取り掛かった。

 ジルべリア軍歩兵部隊2万人が続々と行軍してくる中、砦建設と食料配備に追われる日々が始まったのだ。

 歩兵部隊の転移を見守った後は、ノエリア国内を移動する騎馬部隊とリオネスカル進発軍に食料を供給し続けた。

 移動最優先で進むジルべリア軍には、野営地点に食料を届ける必要があったのだ。

 ジルべリア王都とノエリアの各街道を何往復もする途方もなく疲れる任務だった。

 その役回りを全て俺一人に任された形だ。

 というか、俺にしかできないのだから仕方なかった。


 その間、アリアとライリーはセンティア南部から西部に広がる穀倉地帯で魔人族狩りをしていた。

 リブレイル司令に手伝わないと宣言した討伐だけど、実際にはそうも行かない。

 さっさと進路上の敵を排除しなければ、開戦に間に合わなくなってしまうからだ。

 新技を試しつつ、ストレスなくこの忙しい時期をアリアたちは快適に過ごしていたと思う。

 だってリファは丸3ヵ月ひたすらポーションを作り続けていたから、ストレスで随分とやつれてしまった。可哀想に、リファが一番辛かったと思う。


 3の月に入ると、大型キャノンを始めとする武器弾薬類を戦場に運んだ。

 同時並行でリオネスカルの王太子軍がセンティアーロタ間に複数の防衛拠点を築き始めた。

 ここでも大量に収納していた大木が役に立ったし、俺も手伝わされた。


 そして今は、戦場となる荒野に続々と到着する味方を見守っている。


 ジルベリアからはサルファス司令が率いる2万5千の騎馬歩兵部隊と魔術師団が布陣している。

 頼れるフェルダール師団長やザック隊長、治癒部隊のメイベルも参陣している。


 ノエリアからは2万。

 ブライアン王太子は東部国境の守備隊を根こそぎ西部へ移動させてきた。

 この戦いに負ければ国境も何もないからだ。

 ドワーフ族3割を含む獣人やエルフ族の混じる異種族混成軍だ。


 シャーリア聖公国から2万の聖騎士団がこちらに向かってきている。

 軍本体の到着は若干遅れているけど、幹部参謀は一足先に現着している。


 更に、各国の冒険者と傭兵団も終結しつつある。

 こちらは5千前後と推定されている。噂によるとリステル共和国の傭兵団も参加するらしい。

 そして、大勢の商人達も集まってきた。



 実はこの布陣には一つ大きな問題がある。

 敵軍がどこに現れるのか、それが分かっていない。現在位置も出現ポイントも敵兵力も分かっていない。

 全ては魔境の奥、密集する木々の下に答えがある。


「キース、お前達に偵察を命じる。敵軍の位置を把握し、いつどこに現れるのかを明らかにせよ」

 軍議に呼ばれて行ってみれば、そんな命令を下された。


 俺達の負荷が異常に高い気がするけど、ここに否やはない。

 俺達が誰よりも適任なのだから仕方のないことだ。

 それでも俺的には若干苦い気持ちがしないでもないんだけど、うちの脳筋達は大喜びした。


「やったー!やっと暴れられる!やったー!!」

「ちょうど良かった。もう少し新技に磨きをかけたいって思ってたとこなのよ!」

「俺も行っていいよな?足は引っ張らないから連れてってくれ!な?」

「だから偵察だって言ってるじゃん!暴れちゃダメだぞ!探し出してばれないように見張るんだ!」


「分かってるわよ!でも魔物はいっぱいいるんだから討伐したっていいじゃない!」

「そうだよ!ね、もう今から行こうよ!私早く行きたい!」

「だから俺も行っていいよな?アリア、頼むから俺を置いていかないでくれ!」

「・・じゃあ、すぐに出発しよう」


 ってな具合でさっさと出発することになった。

 ここは西魔境手前に広がる大荒野だ。予測地点の対象は南北500キロル程もある。


 西の魔境上空を飛んでみるとその果てしなさに血の気が引いてきた。

「どうやって探すんだ?無理だろ・・」

「いつもみたいに竜眼で見えないの?」

「いや、そこら中に気配がある。魔境全体に魔物がいるから、どれがどれだか区別できないんだ」


 俺の目には眼下の魔境に満天の星の如く魔力が見えている。

 どの魔力が魔人族でどれが魔物かなんて、見た目では分からない。


「大変だけど一つ一つ確認するしかないだろ」とライリーが言うけど、それは無謀だ。

「メタルアントの時を思い出すわ。あの時も見つからなくて苦労したのよね」とアリアが溜息を吐く。

「じゃあ、適当に攻撃してみようよ?敵がいたら反撃してくるんじゃないかな」

 リファは余程暴れたいらしいけど、それは却下だ。


 どうしよう。良い解決策はないものかと考えてるとライリーと目が合った。

「俺は地道に痕跡を探すべきだと思う。多分それが一番早い」

「ライリーがそう思うならそうした方がいいんじゃない?」

 アリアがすかさず賛同して俺も消極的ながら乗っかることにする。

 リファがちょっと不満気だけど、多数決だ。我慢してくれ。


 魔境沿いを南北二手に分かれて、魔人族の先発隊の通った痕跡を探す。

 センティアには500の兵と数百匹の魔狼が現われたのだから、それなりの痕跡がある筈だ。


 30分と経たない内に、北沿いに向かったアリアから連絡が入った。

 ライリーが早速見つけたということで急行する。


 そこは布陣した地点から僅か60キロル程北に行った場所だった。

 魔境出口に大規模な野営跡が残っている。魔狼の足跡もしっかり残っているから、ここで間違いない。


 早速その野営地点から魔境の中に踏み込んで行くと、しっかり道が出来上がっていた。

 定間隔で木の幹に傷がつけられて目印まで残されている。

 鬱蒼として薄暗いけど立派な間道だ。

 たまに現れるゴブリンやボアをアリアとリファが瞬殺しながら、リーフボードをスイスイと進めて行く。

 そうこうする内に陽が暮れてきたため、出現ルート発見の報告の為に一度戻ることにした。



 翌朝、再び敵魔人族軍の探索を開始。

 時折、上空から索敵しつつ基本は魔境の間道を延々と西進した。


 約120キロル地点。

 そこに深くて広い谷が現れた。谷幅は多分30キロルを越えている。

 高さは100メトル強。両崖の根元は崩れた土砂が積み上がっているけど、上部は急峻で人が登り下り出来るものじゃない。


 ただし、間道が谷にぶつかる部分だけは急斜面とは言え人が這いあがれるくらいに崩されていた。

 斜面の中ほどにケルトの大樹が1本生えていて、ちょっと目立っている。

 ケルトの樹はポポトと同じく魔境のどこにでも生えていて、リーフボードの素材に代用できる樹木だ。


「ここを登って来たのは間違いないな」

「キトリ達もここを通って来たのかな」

「キトリって誰だよ。いや、そんな事よりここは絶好の襲撃ポイントじゃないか?」

「上から赤玉を落としたら簡単に大損害を与えられそうよね。」


 有翼兵もいるし、身体能力の高い魔人族のことだ。アリアが思い描くほど簡単じゃないと思う。

 でも、絶好の襲撃ポイントってのは間違いない。


 崩れた部分は手が加えられて、人が辛うじて登れるくらいには均してある。

 全長150メトル程の急斜面だ。幅は20メトルで下の方は50メトル位だ。


 一回自分の足で登ってみる。

 かなり崩れやすいし足を取られる。でも身体強化をしたら意外といけた。

 坂道ダッシュで足腰を鍛えるには手頃な斜面だ。


 思考がずれた。

 崖の両岸から攻撃されたら隠れる場所もないし、足場もかなり悪い。

 攻撃を受ける側としたらかなり厄介な場所だと思う。

 大軍勢でなくても、奇襲すれば大きな損害を与えられるかもしれない。


「この場所のことを早く知らせた方がいい。こっちが布陣する前に通過されたら絶好の機会を失うことになる」

 ライリーの主張に同意して、アリアとライリーに急遽戻ってもらうことにした。


 そしてリファと2人で谷底を探索する。

 2人きりになると、なんだか昔エルベス大魔境を2人で彷徨った頃が思いだされる。

 あの時は大変だったなぁ。なんて感傷に俺は浸っていたけど、リファは「あ!地雷樹見っけ!あ、バキュームカズラもあるよ!懐かしいね!」って余所見ばかりしていた。


 魔人族の先遣隊は北からやって来たとすぐに分かった。

 その痕跡を探しながら、西岸の崩落部分を探す。

 奴等は何処からかこの谷底に降りてきたのだ。その場所が分かれば、敵軍も見つけやすい筈なんだ。


 5日が過ぎた。

 この谷にはワイバーンの営巣地がある。

 黄毒猿に火焔熊やトロール、カイザーコングなんかも生息している。

 紅クジャクと呼ばれるかなりレアモノが視界に入った瞬間、俺達は任務を忘れてつい追いかけてしまった。


 ここはなんて楽しくて素晴らしい場所なんだ!

 薬草も魔物も希少種が多いし種類も豊富で、俺もリファもライリーは特に目を輝かせている。

 でも一番はしゃいだのはアリアだった。

「見て!野生のミノタウルスよ!あれは私が殺るから手を出さないで!アロージョン!」と言って喜々と突撃しては新技を繰り出してゆく。


「アリアずるい!次は私の番って言ったじゃん!」

 リファがむくれたから、仕方なくマンティコア討伐を任せる。


「全然先に進まないんだがいいのか?」とライリーでさえ心配するほど、遅々として探索が進まない。

 でも言い筈がない。


「もう討伐は禁止!任務最優先だっ!破ったら探索任務から外して陣地で留守番だ!わかったか!」

 さすがに呆れてつい怒鳴ってしまった。

 俺達の探索に人族の命運が掛かってるのだ。心を鬼にして、パーティーリーダとしてはっきりと命令を下した。


「キースのくせに横暴よ!」

「えぇー!キースがそう言うなら従うけど、ちょっとくらいは大目に見て欲しいかも」

「新種とかレア物はいいんじゃないか?探索だけじゃさすがにつまらないぜ?」

 皆、好き勝手を言う。でもダメなものはダメだ!

 事が落ち着いたらまた来ればいいんだから。


 なんて厳しい態度で先に進み始めた矢先だった。


「あれってジュエリータートルじゃない?」

 アリアの指さす先に、眩い宝石の甲羅を背負った亀がのっそのっそと歩いている。


 なんてことだ!!!

 レア中のレアだ!幻の中の幻!!夢のまた夢!!!

 あれは有史上3匹しか討伐実績のない幻のジュエリータートルじゃないか!


「アリア!リファ!前言撤回!あれを逃がすな!!甲羅を傷つけるなよ!全員掛かれっー!」

「任せなさい!」

「やったー!お宝だー!」

「ウヲォー!」


 って訳で、見事ジュエリータートルを討伐して俺達はホクホクで大満足した。

 5メトルの甲羅に巨大な原石がわんさか乗っかっている。

 売ったら幾らになるのやら。


 だけど、つい自ら命令を破ってしまった。俺はなんてダメなリーダーなんだ・・

 でも、ジュエリータートルを逃せば一生後悔したと思う。

 きっと仲間からの信頼も失うことになってた。

 というより、冒険者なら夢を掴みたいじゃないか!

 これはノーカンにしようということで俺は割り切ることにした。


 そして夢のお宝をゲットした俺達は、その後他のレア魔物に遭遇しても気を取られることなく任務に集中できるようになった。



 その日の夕、幻想的な湖に出た。

 巨大な渓谷から成る樹海にその湖はひっそりと存在していた。

 湖面に僅かな揺らぎもなく、どこまでも透き通っている。

 湖の周辺には見たこともない黄色い野花が一面咲きほこって、そよ風が吹くたびに淡い黄緑色の花粉がフワフワと舞っていた。


 その花粉が血の病に効くと竜眼が告げてくる。

「リファ、血の病気で困ってる人って多いのか?」

「うん、多いみたいだよ。瘴気を吸いこむと肺を汚してそれが血を汚すんだって。すぐに浄化できればいいけど、放っとくと血が汚れて子や孫にも病気が引き継がれちゃうの。でも、なんでそんな事聞くの?」

「この花粉に血の病を癒す効果があるんだって」


 そう告げると、リファは風を操って花粉を採集しだした。

 レフミ草という希少な野草だ。もし薬が出来たら、かなり貴重で高額なものになる。

 そんな薬があるって貴族や商人に知られたら、また大騒ぎになりそうだ。


 嬉しそうに花粉を集めるリファを眺めながら、俺は石小屋を造り野営の準備を始めることにした。



 その夜遅く、谷の北側から魔物の群れが押し寄せてくるのを感知した。

 魔物は湖の東側を南に向かっている。

 まるでスタンピードの様に、幾種もの魔物の群れが何かから逃れるように広い谷底を南へと駆けて抜けて行く。

 俺達のいる場所は通り道ではないから襲われることはなかったけど、警戒を強めた。


 いよいよ魔人族の本軍が現れたのかもしれない。


 湖の対岸にまで感知範囲を広げると、夜中だというのにまるで行進するかのような速度で移動してくる巨大な群れを感知した。


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