表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
189/194

ブライアン王太子

 「皆いるか?」

 声を掛けつつ光球を出すと、無事全員の姿が確認できた。


 そこはひどく荒んだ部屋だった。

「成功したみたいだな」

「えぇ、でもお目当ての場所かどうかはまだ分からないわよ」


 早速外に出たいところだけど、その前に遺跡を稼働させておくか。

 中央鎮座の魔石に魔力を流した途端、風が起こりくるぶしまで積もった埃を巻き上げ掃ってゆく。


 その床には、転移魔法陣が4つ描かれていた。


 転移先は・・どれどれ。

 妖精族と天翔族、ドワーフ族に人間族か。

 妖精族があるじゃないか!


「アリア!ここから妖精族の遺跡に行けるよ!これからはいつでもミトに会いに行けるぞ!」

 思わず叫んでしまった。だって俺も嬉しいからさ。


「良かったね、アリア!じゃあこのまま行っちゃう?」

「ダメよ。まずジルべリアに戻って報告しないと」

「そっかぁ・・」

 リファが凄く残念そうな顔をした。


 上階へ移動すると、真っ白い狼に似た獣の巨像が目に入った。

 鷲の翼と猛牛の角を持つ白い狼だ。

 四肢を踏ん張り何に向けて遠吠えしているのか、ちょっと想像が掻き立てられる。


「これが獣人族の神・・なんかカッコいい!」

「たしかビストゥルフ神だ。これは素晴らしい!考古学的にも美術的にもとんでもない価値があるぞ!」

「ふーん」

「へぇー」


 男心をくすぐる雄姿だけど、リファ達には響かなかったらしい。

 ライリーだって目を輝かせて感動してるけど「いつまで見てんのよ!早く行くわよ!」とアリアに急かされてしまった。


 外へ出れば月が高く上がっていた。

 時刻は日暮れから2時間ほどだろうか。月明かりが魔境の山々を淡く照らしている。


 俺の予想が正しければ、ここは魔境農園の北西50キロル地点だ。王都は真東に380キロルと思われる。

 魔境農園が確認出来たらそのまま王都へ向かうことにした。

 アリア操縦のリーフボードにライリーが跨って、俺達は夜の魔境の空へと飛び立った。



 深夜遅くに王都屋敷へ帰還した。

 突然の帰宅に、慌てたシュベールが寝間着のまま出迎えてくれた。

 そのシュベールがナイトキャップを被っていたものだから、俺は思わず噴き出してしまった。


「シュベール。良く似合ってるけどさ、その恰好はいささか間抜けすぎるぞ?」

 俺の指摘に羞恥で顔を赤らめたシュベールがおかしくて、リファとアリアも笑いだす。

「シュベールって実はお茶目だったのね」

「うん。すごく似合ってるよ!可愛い!」

「キースの使用人は面白いな」とライリーまでが言う。


 シュベールのお小言が始まる前にサッと風呂場へ避難して、食事をしてから寝床へ入った。


 翌日「何故お帰りになる前にご一報を下さらなかったのですか!」の説教を聞き流して朝食を摂り、4人で王国軍統合本部に向かった。

 少し悩んだけど、今回はライリーにも同行を願った。

 ライリーは俺達より口が達者だ。ノエリアの司令官と諍いがあったから、ライリーのフォローが必要だと思ったのだ。

 何よりライリーは色々と当事者だし、今後の事もあるから紹介くらいしておくべきだろう。


 突然の帰還にも関わらず、軍統合本部の一室には陛下、ディグリーム卿、サルファス司令、エゼリア宰相が待っていた。

 まず「その者は?」と素性を尋ねられたライリーが綺麗なお辞儀をした。


「私はライリー・アルフヘイム。アングライド大陸にあるアルフヘイム王国から来ました」

「ライリーはエルフの国の第3王子よ」とアリアが誇らしげに捕捉を入れた。

「王子と言っても、今は国を出て冒険者をしていますが」


 この暴露に陛下始め宰相に将軍までが目を剥いて驚いていた。

 その剝いた目のまま将軍が俺を睨んできた。


「おい、キース。どういうことだ!アングライド大陸から王族を連れ帰ったなどと聞いてないぞ?」

 と言われて、思い出した。確か、敢えて報告しなかったんだっけ。

 まずい・・何で俺は報告の度にこうも怒られるのか。


「そ、そう言えば話してませんでしたっけ?ライリーは冒険者になると言っていたから、報告はいいかなと・・やっぱまずかったですか?」

 今更だけどシラを切りたい。


「当り前だ!バッカモーン!」

 こわつ!無理やりついて来たのはライリーだ。何故俺が怒られるんだ?理不尽だ!


「こ、これはあれですよ!英雄の選択?決断?でしたっけ。ほら、宰相閣下の“人族の未来を俺に託す”とかってなんとかって話があったでしょ。その論理で言えば、俺の行動は全て肯定化されるはずでは?その証拠にノエリアではライリーがいてくれて凄く助かったんですから」

 焦りまくった俺は丸っと宰相の発言のせいにする。ついでに今後何をしようと怒られない布石にもなってる筈だ。


 その言い草に将軍から再びの雷が落ちる前に、アリアが切れた。

「ちょっと!そこは私達に感謝するとこでしょ!ライリーはノエリアで王女達を助け出したのよ!それに、ノエリアからここまで転移できたのだって全部ライリーのお陰なんだから!でもそれだって元はと言えば、ライリーを連れてきた私達のお陰じゃない!」


 ライリーの話題のせいで、アリアの無礼が暴走を始めてしまった。

 陛下や宰相の御前だぞ!敬語くらい使えよ!せめて丁寧語で喋れ!っていうか、アリア!陛下を睨むな!


「待て、転移とは何だ?いや、まず先にセンティアの情勢と魔人族軍の報告を聞こう」

 俺達を派遣した本来の目的を思い出したのか、アリアの無礼を咎めることなく陛下は報告を求めてきた。ただし、盛大な溜息をついたけど。


 ライリーの話で盛り上がってる場合じゃないって気づいてくれた様で何よりだ。

「ゴホン。では報告します」

 俺はセンティアでの出来事を順を追って報告を始める


 ノエリア王の非業の死に、陛下は目頭を押さえて沈黙した。

 センティア半壊滅の惨状に、全員が言葉を失っていた。

 屍古代竜と魔人族軍の討伐完了には、深く安堵の息をついていた。

 しかし半年後に迫る本格的な魔人族軍の進軍情報に顔色を失くしている。

 リブレイル司令との対立の話で眉を顰められ、転移魔法陣を使った移動の報告では驚きに言葉を失っていた。


「キースよ、お前はどう動く。我が国はどう動くべきか。お前の意見を聞かせてくれないか」と宰相がまず口を開いた。


「一番重要なことは、魔人族軍の本隊をどこでどう迎え撃つかだと思います。ジルべリアが中心になってノエリア、シャーリア、冒険者ギルドとも共同で迎え撃つ必要があるかと思います。半年先と言えば、もう時間がありません。急いで同盟を呼びかけるべきかと」


「ふむ、当然だな。しかしそれで勝てるのか?否、間に合うのか?我が国から軍を移動するだけで半年を見ねばならんぞ。とても間に合うとは思えんのだが」と陛下が尤もなことを仰る。


「転移とやらができるのではないか?」と将軍。

「はい。多分できると思います。ただ、遺跡は西の魔境のオーガ集落の近くにあるので、そこまで移動してもらう必要がありますけど」

 と俺が言うと、ディグリーム将軍は嫌な記憶を思い出したかのように顔を顰めた。


 転移は色々と便利だ。

 それをどう生かすかが重要なポイントになると思う。

 そこで俺のシャーリア行きが決定された。


 次に、増幅と圧縮の魔法陣から新たな武器を開発する話に話題が移った。

 赤玉と白玉と砲筒はある程度有効だと分かっている。しかし、空を飛ぶ敵にはあまり効果がない。

 その対策を含めた改良兵器が必要だという話だ。

 開発はアルシオンの爺さんに任せればいい。俺がすべきことは、基本となる魔法陣を提供することだ。

 さっさと書き写してディグリーム卿に渡すと、次の話題はライリーの処遇に話が戻った。


 結局、ライリーはジルべリアの滞在が許された。

 本来なら他国の王族にはこれでもかと護衛をつけるらしいのだが、ライリーはそれを拒否した。

 「私の身に何があってもジルべリアのせいには致しません」と一筆書かされていた。


 俺はレミュノーラの魔石と竜骨の所持を認められた。

 王国法ではS級魔石の所有は認められてない。しかし、今回はレミュノーラから俺達への報酬として受け取った経緯がある。

「古代竜の里へ行くために魔石と竜骨は必要なんです」と訴えたらすんなりと許可をしてもらえた。

 ただし、“王国に害を齎すことに使用しない”と俺も一筆書かされたけど。


 学院は2ヵ月遅れで再開の予定だそうだ。それまで学院生は王都復興に駆り出されることになる。

 俺とリファは学院復帰の目処が立たないから、留年を含めてすべて棚上げ状態となった。



 それから色々と具体的に話を詰めて軍本部を出た。

 その後、治癒院にいたリリィに帰還報告をしたらもう陽が暮れかけていた。


 帰り道、俺達は徒歩で街を歩いている。

 大店の多いこの中央地区もだいぶ被害が大きい。

 街は未だ焼け焦げた臭いが漂っている。王都は外壁に囲まれているから、風の逃げ場がないのだろう。


 宰相の話では、犠牲者は2万人を超えたそうだ。

 防御シールドのお陰もあって王城と貴族街はほぼ無傷。軍の一部に被害を受けたものの、被災地も死傷者もほぼ平民地区での被害だ。

 この状況に王国に向けた批判が平民の間で生じつつあるという。

 故に陛下は復興に総力を注ぐつもりでいたのだが、今回魔人族の進軍が明らかとなった。


 陛下は頭を抱えておられた。復興よりも防衛を優先させねばならない状況なのだ。

 そこで民から人気の高いリリィを前面に出して懐柔策を図ると決まった。

 矢面に立つリリィは辛い思いをするかもしれない。

 リリィ以上に人気のある風の旅団も協力したいところだけど、俺達は任務でそれどころじゃない。

 時間は半年ほどしかないのだ。

 それまでに軍と協力して、他国を巻き込み迎撃態勢を整えなければならない。



 翌日、俺達は魔境農園へとやって来た。暫くここを拠点にする。

 が、俺だけまた転移部屋へとやって来た。

 シャーリアへの道を開くためだ。


 転移魔法陣は4つ。

 その中の人間族の遺跡に向かう転移魔法陣を起動した。

 シャーリアの聖都に人間族の神、ヴァース神を祭る古代神殿はある。

 勝手ながらヴァース神殿に転移して、許可も得ずに転移部屋の魔石に魔力を充填してしまうのだ。

 そうすることで、シャーリアとジルべリアとノエリアを転移で行き来可能となる。


 ヴァース神の転移部屋に着くと、さすがに綺麗な状態で保存されていた。

 魔石にも少量の魔力が込められている。状態維持が機能しているということだ。

 周囲に人気はないが、上階の神殿には大勢人がいるのだろう。

 誰にも会うつもりはないから、人知れずにささっと魔石に目一杯の魔力を注いでしまう。



 そして戻って来た魔境農園。

 ここでリファはポーションを作る。アリアはリファのお手伝いをしつつ周辺で食材用の魔物狩りだ。

 俺はライリーと獣人族の古代遺跡から王都までの間に道を拓き野営拠点を作る。

 以前オーガ集落への移動路を造ったことがあるから、今回は2度目だ。

 邪魔な樹木をホイホイ収納して、人が通れるように道を均す。

 で、ライリーが俺の護衛をする。


 ここは山岳地帯だ。本来なら10年単位の国家事業に匹敵する難工事だと思う。

 でも、俺の手に掛かれば1日で10キロルくらいは軽く進む。

 どんな大木でも触るだけで根っこから次元収納できるし、魔力の枯渇もないから延々と土魔法が使える。



 そんな作業を一週間続けて王都へ戻った。

 ディグリーム将軍の元へ向かうと、3人が旅支度をして俺達を待っていた。


「ノエリアへ向かう者は全部で12人、まずはこの3人だ」と将軍が彼らを紹介してくれた。

 一人はサルファス司令。それに騎士2名。


 今日と明日で代表団12人を魔境農園まで連れて行く。そして明後日には遺跡からノエリアへ全員で転移することになる。

 このために、2人乗りのリーフボードをもう一台作った。わざわざアリアにワイバーンを数匹狩って来てもらった。


 計3台で4往復。片道330キロルを2日間で4往復だ。

 まったく、人使いの荒い爺さんたちだぜ。

 きっちり報酬は出るから文句は言わないけどさ、にしてもちょっと扱き使い過ぎじゃないか?


 魔境で収納した大量の大木を演習場に下ろして、代わりに軍の荷物を収納する。

 そして代表団の3人を乗せて、空へ飛び立った。

 大木は魔術師団が乾燥させてから、復興に使われるのだという。

 復興資材が不足してるからちょうどいいってさ。

 1本金貨1枚で引き取ってくれるからいいんだけど、多分数万本分になるぞ?全部買い取ってくれよな!


 あ。センティアでも木材は大量に必要なんじゃないか?

 あげてしまえ。腐る程いっぱいあるから大量に寄付してしまおうか。



 2日後。

 騎士や文官12名を獣人族の古代遺跡に運んでノエリアに転移した。


 獣人族の遺跡の転移部屋もウルハ遺跡と同じ構造だった為に、転移はすんなりと出来た。

 中央の巨大魔石に魔力を充填しておけば、起動時に消費する僅かな魔力で転移ができる。

 これなら青色魔鉱石さえ手元にあれば、誰でも簡単に転移出来るということだ。


 同行者はサルファス司令にレヴィン隊長、騎士5名と文官5名。

 レヴィン隊長はロタ防衛戦にも参加したベテラン騎士で、リブレイル司令とも面識があるらしい。


 そのジルべリア王国代表団なのだが、全員妙に子供っぽい。

 空を飛べば騒ぐし、魔境上空でも騒ぐ。古代遺跡を見ても転移してもずっと興奮していた。

 サルファス司令でさえもだ。次期将軍だよ?この人は。

 今まで厳めしい部分しか見てなかったから、ギャップがひどい。


「そんな興奮しっぱなしだと疲れませんか?」

 さすがに呆れて聞いてみたけど「興奮しない方がおかしいだろ!凄く貴重な体験だ。夢でも見てるようだ!君ももっと感動すべきではないのか?」とか言ってた。

 そりゃ1回目は凄く興奮したよ。でも他人が興奮するところを目の当たりにすると、なんか、こう冷めてしまった。

 それより、この人達に人族の命運を託して大丈夫だろうか・・なんてちょっと心配になったりもした。


 ウルハ遺跡から20キロルを移動してセンティアへ。

 既に地下本部は撤収済みだったから、王城内の軍本部にリブレイル司令官を訪ねた。


 リブレイル司令は俺達の顔を見てまず顔を顰めた。余程嫌われてしまったらしい。

 まぁお互い様だが。


「ジルべリア軍上級司令官のサルファスだ」

「ノエリア軍司令のリブレイルである」

 2人が握手を交わす。

 この2人を引き合わせたら俺達の仕事は終わりだ。魔境農園に戻ってまたせっせと道作りに励むことになっている。


 ところが。

「風の旅団、ブライアン王太子がお前達をお待ちだ」と言われてしまった。

 王太子は東部国境方面から帰還中と聞いていたけど、もう戻って来ていた様だ。

 俺達がリブレイル司令に随分な態度を取ったから、殿下直々に叱られるのだろうか・・

 会いたくない。でも、さすがにこれは断れない。


 そして連れて行かれたノエリア王城の謁見の間。

 両脇に騎士と若干の文官らしき人達が居並んでいる。

「ジルべリア王国騎士団上級司令官、ファレル・サルファスと申します」

「風の旅団のキース、アリア、リファーヌ、そしてライリーです」と挨拶をした。


 ブライアン王太子はジルべリアの王太子よりも2つ3つ年上っぽい。20代半ばの面立ちをしていた。

 精悍という言葉がぴったりな人だ。高貴なエリート軍人って感じだ。あ、軍服を着てるからそう思うのか。

 コルネリア第一王女に似ているけど、強さと厳しさが顔つきに現れている。

 ディグリーム予備軍というか、この人は歳を取る程に怖い顔になるんじゃないか?

 因みに髭は生やしていない。


 王太子はサルファス司令と二言三言交わした後、俺に眼を向けた。中々の眼力だ。

「お前達が風の旅団か。妹達を助けてくれたそうだな。更には魔人族共を倒しセンティアを奪還したと聞いている。まずは礼を言う。お前達を遣わせたジルべリア王にも感謝していると伝えて欲しい」

 怒ってない。良かった。最近怒られてばかりだから、被害妄想が染み付いてしまっているようだ。


「は、勿体なきお言葉を頂き恐悦至極に御座います」

「そう固く構えずともよい。ジルべリア王国と風の旅団によってこの国は救われた。感謝してもしきれぬ思いでいる。亡き父王も一安心しているであろう。が、その恩人達を我が国の者が怒らせたと聞く。混乱し途方に暮れていたとはいえ、お前達の事情を鑑みず過度に頼り過ぎたと聞いた。我が国の臣が済まない事をした」


 王太子がペコリと頭を下げると「殿下!なりませぬ!」と居並ぶ者の中から声が上がった。


「黙れっ!」

 王太子の一喝で謁見の場が凍り付いた。

 俺も背筋が一気に伸びた。

 この王太子は威圧の才能まであるらしい。とっても怖い目をしているんだが。


「驚かせて済まぬ。俺は王族ではあるが半分軍人なのでな、道理を弁えぬ行いが嫌いなのだ。迷惑を掛けたのであれば謝罪するのは当然であろう」とフッと笑みを浮かべた。

 一瞬前の恐ろしい眼力と笑顔の落差が凄い。

 その笑みを見て、何となくこの人は良い王になるだろうと思った。


「場所を変えよう。この様な堅苦しい場ではまともに話もできん」

 殿下は早々に謁見を切り上げ、俺達は別の部屋へと案内された。

 ふかふかのソファーが置かれた10人位座れる部屋だ。ジルべリアでも似たような部屋がある。

 王族が和やかに謁見する部屋を設けるのはどの国も同じらしい。


「さて、今後の方針については別の場を設けるが、今は別件で頼みがある。突然で済まないが、可能な限り早く妹達をジルべリアに連れて行ってくれまいか」


 王女2人のジルべリア留学、それが殿下の頼みだった。

 来る魔人族との大戦に向けて、王女達をセンティアに置いておくわけにはゆかない。更に隣国リステル共和国の動向も油断できない為、いっそジルべリア留学という形で避難させたいという話だった。


 本来であれば数か月に及ぶ長い旅になる。風の旅団の護衛でジルべリア王都まで送り届けて欲しいという依頼だ。

 ならばこの機会にこれまでの報酬を請求してしまおうかと目論んでいたら、サルファス司令が承諾してしまった。


「分かりました。この様な状況ですからジルべリア王も快く受け入れてくださるかと思われます。キース、頼むぞ」

 上官に言われたら「はい。お任せを」と俺も快諾するしかない。


「今はお前達に頼るほかないとはいえ大変な苦労を掛ける。何か望むものはあるか」と向こうから聞いてきた。

 これはチャンスだ!ということで、この場で俺達の望む報酬を伝えることにした。


「ではお言葉に甘えて、まずセンティアで討伐した古代竜の素材の所有権が風の旅団にあると認めていただきたく。更に、ドワーフ遺跡の転移魔法陣を無期限で自由に使わせて欲しいのでそちらも認めていただきたいと思います」

 センティア復興には金が掛かるから金銭は無理だ。そんな物よりも古代竜の素材の方が価値あるし、転移魔法陣も自由に使わせて欲しい。


「素材の方は良い。が、転移魔法陣とは何だ?」と聞かれて一から説明することになった。

 転移を使えば入出国がし放題だ。便利だけど弊害もある。

 ダメ元で言ってみたけど「良かろう」とブライアン王太子は迷うことなく許可をくれた。


 次にライリーが「私は古代ドワーフ族の作品を拝見させて欲しい」と願い出た。

 宝物庫に侵入したくせにじっくり鑑賞することができなかったらしい。転移の鍵やその記述を探していたからそれどころじゃなかったのだろう。


 それも即決で了承してもらえた。

 更にそれだけでは足りないと、宝物庫の中から好きなものを一つ選んでよいと言われた。

 中々に太っ腹な人だ。


 会談を終えて、案内された宝物庫を俺達は物色する。

 800年の歴史を持つ宝物庫は中々に雑多だった。色々あり過ぎてよく分からない。


 ライリーは古代ドワーフが鍛えたとされる剣を、アリアは風の精霊が宿ると伝わる緑宝石のペンダントを選んだ。

 リファはまだ。そして俺は思いっきり悩んでる。

 ここに古代ドワーフ作の武器はない。そもそも、ものすごく貴重な宝物が置かれていないと気づいた。

 きっとノエリア王家の本当の宝物は別のところに保管してあるのだろう。


 ライリーが選んだ剣は、かつての名工ドワーフの作品で、古代の遺物ではない。竜眼で鑑定したから間違いない。夢を壊してはいけないから言わないけど。

 アリアのは当たりだ。精霊は宿っていないけど、精霊の力が籠っている。多分、魔法の威力が上がるとかそんな感じだと思う。見た目では分からないけど、古代に作られた逸品で間違いない。


 そんなアリアが「早く決めなさいよ!」と後ろからせっつく。

「そんな物よりも他のにしたらどうだ?あっちに古代ドワーフの名剣が山ほどあるぞ」とライリー。


 俺が悩んでるのは石だ。でもただの石じゃない。希少な鉱石だ。

 目の前に金、ミスリル、アダマンタイト、ヒヒイロカネ、オリハルコンの鉱石がゴロゴロ転がっている。

 竜眼を使えなければ、これらの石の正体は絶対に分らなかったと思う。

 でも宝物担当官にはこの石コロがどれほど貴重なものか理解できていないようだ。

  “ドワーフ族が献上した鉱石類”としてしか記録が残っていないそうだ。

 担当官は、変な物を真剣に選んでいる変な奴って目で俺を見ている。


 ミスリルは聖銀と呼ばれる金属だ。俺の剣もミスリル合金製で物理と魔力のバランスが良く、使い勝手が良い。ただ高価ではあるけど、そこそこ手に入り易い。

 アダマンタイトは物理的強度の最高峰らしい。ただし固すぎて加工が難しいから、古の技術が失伝している今は意味がない。

 ヒヒイロカネは魔導性でミスリルを上回る。が、柔らかすぎて武具に向かない。その軽さは魔道具に有用と思うけど、量が少なくてあまり使い道がない。

 オリハルコンはミスリルの上位互換だ。物理強度・魔力伝達に優れている。この中では一番貴重で希少だ。ただし、ナイフの半分にも満たない量しか抽出できそうにない。


 うーん・・ここはやっぱりオリハルコンか?

 上手くすれば、目の前の大きな石から薄い虹色の金属が抽出できるはずだ。

 何に使うかは後で考えるとして、微量とは言えオリハルコンを手に入れるチャンスは二度とこないだろう。

 ヒヒイロカネも捨てがたいけど、やっぱりオリハルコンにしよう。


 そう決めて宝物担当官に「これに決めました」と一抱えある石を差し出した。

 それからリファを探すと、宝具の棚の前でしきりと首を捻るリファを見つけた。


「リファ、決めた?」

「あ、キース。ねぇ、これ見て。これってあれじゃない?」

 そう言って差し出したものは、丸い石の塊だった。一部、変色している部分には光の粒が詰まっているように見える。


 この石を竜眼で見ても鑑定できなかった。情報が伝わってこないのだ。

 でも、これはあの魂玉だと思う。

 俺の持ってる二つと比べて、見た目が随分と違ってるけど。

 まず2倍位大きいし、表面の9割くらいが灰色に石化してしまっている。


「でもこれって魂玉だよな。なんでこんなところに・・」

「それは、遥か昔に存在したとある王朝がドワーズワーフ神の神殿で発見したと伝わるものです。それが何かは全くの不明ですが、とても貴重な物であった可能性があるとされています」

 と、宝物担当官が説明してくれた。

 絶対魂玉だとは言い切れないけど、多分間違いない。


「私これにしていい?だって、放っておけないもん」

 せっかく好きなお宝を貰えるチャンスなのに、リファは優しいな。

「いいよ。そうしたいんだろ?」

「うん。じゃこれにする」

 嬉しそうに笑顔で担当官に告げて、俺達のご褒美選びは終了した。


 その後、王城の展示室の古代ドワーフ族の作品を見学した。

 数百点の武具や彫刻品が飾られている。中には欠けたり壊れているものも多い。

 ライリーが一人見学する中、俺達は早々に飽きて備え付けのテーブルでお茶をして時間を潰した。



 翌日の夕刻、ブライアン王太子はわざわざウルハの王家別荘までやってきた。

 王太子がコルネリア王女とリグレシア王女に別れを告げている様子を俺達はそっと見守っている。


 姉妹はブライアン王太子に縋りついて泣いていた。

 故郷を離れるのは辛く心細いのだろう。

 つい先日両親を亡くし、再会も束の間に今度は頼りになる長兄とも別れなければならない。

 センティアは見る影もなく破壊されてしまった。

 この先魔人族の軍隊が攻めて来るし、ノエリアがその危機を乗り越え存続できるかも分からない。


 不安で心が壊れてしまうんじゃないか。そう思える程悲痛な時間だった。

 ブライアン王太子も離れ難そうに唇を噛んでいる。

 それでも妹達をセンティアに置いてはおけないと判断したのだ。


「・・・・二人を頼む」

 最後に王太子は顔を歪めて俺に一言告げたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ