転移
一千倍に魔力を増幅して、中央の魔石に流し込む。
すると、薄暗かった室内が明るくなった。
風が吹いて埃を巻き上げて運んで行く。多分状態保存の装置が作動したんだろう。
でもまだ満タンには程遠い。
更に2回分つぎ込んでフル充填となった。
さすがは巨大種の魔石。魔力量が半端ないと感心していると、ライリーの呆れた声が聞こえた。
「キース・・それは非常識だろ」
「そうなのよ!この2人って非常識なのよ!やっと私の想いを理解してくれる人を見つけたわ」
と便乗するようにアリアまでが非難しだした。
何故だ?なぜ突然そんな事を言うんだ?俺にはまったく理解ができない。
「え-私も?私はキース程じゃないもん!」ってリファまでが言う。
「え?自覚無いの?これまで私がどれほどあんた達に振り回されて来たと思ってるのよ!」
「私じゃないもん!全部キースだもん!私だってキースについてくだけで精いっぱいなんだから!」
何だよ・・リファとアリアは俺と同類じゃないか!
何で俺にばかりそんなこと言うんだ!寂しいこと言うなよ!
俺が非常識ならリファもアリアも非常識だろ!
・・ところで何でそんな話になったんだっけ。
訳が分からず、言い出しっぺのライリーに視線を向けると「アリアの言う非常識の意味は分かんないけどな。俺の言いたいのは、こんな大きな魔石に常人じゃ魔力は込められないだろ。お前の魔力量どうなってんだよ。ドラゴン級か?おかしいだろ」だって。
なるほど。ライリーはこれを俺の力と勘違いしてるわけだ。
「古代竜の力だよ。俺はその技術を教えてもらっただけだ。前に豆料理食いながら説明したろ?」
「あぁ、聞いたさ。だけどな、普通はそんな大きな力は制御できない筈だ。それをいとも簡単に使いこなしてる時点でもうおかしいだろ」
傍から見れば、確かに吃驚するかもな。
けど、古代文字覚えて魔法陣を現出できれば誰だって出来ると思う。
「ライリーだって覚えれば簡単に使いこなせるぞ?」
「無茶言うな。そんな膨大な力使いこなせると思わないし、使いたくもない」
と、ぶった切られた。
青色魔鉱石を要らないって言ってたし、ライリーは過大な力を望まない人の様だ。
「だけどさ、キース。その力を魔導具に転用できたら大儲けできそうだな」
そう言ってライリーはニヤリと笑った。
魔道具の発展してるアングライド大陸出身者がそう言うのなら、間違いないだろな。
この世界に魔力を一瞬で魔石に込められるような技術はない。
それを商品化したら、確かにガッポリ儲けられそうだ。
色々と応用すれば、魔道具革命が起きる可能性さえある。
それに、青色魔鉱石に古代文字の増幅の魔法陣、今は竜骨に巨大魔石も手元にある。
これを使えば、とんでもない魔道具ができる気がする。
例えば・・空飛ぶ船とか?
失敗して開発を中断したままだったけど、今なら簡単に作れる気がする。
なんか、いきなり目処が立ってしまった。
そう思ったら、船の開発に注力したくなってきた。
魔人族なんて相手にしてる場合じゃない。
さっさとケリつけて、こんな面倒事すぐにでも終わらせてやる。そしたらあれやってこれやって・・
思考に沈み始めたところで「キース、これ確認するんでしょ?さっさとしなさいよ!」とアリアから急かされてしまった。
魔力を込めた為に、魔石とその中央魔法陣がぼんやりと光っている。
そこから4方向に回路が伸びて、それぞれの転移魔法陣に繋がっている。
が、回路と転移魔法陣には未だ魔力が通っていない。
これは待機状態ってことかな?
俺達は期待にときめきながら、獣人族の魔法陣の上に立った。
「いいか?」
「いいぞ」
俺が代表して中央に描かれた“起動”の文字に魔力を流し込んだ。
すると転移魔法陣に俺の魔力が行き渡ってゆく。
そのまま回路を伝って中央の魔法陣を媒介にして、中央の魔石から魔力を引き込むってことだろ。
さぁ、行くぞ!転移!
・・・・
・・・・
・・・・
・・・・
うんともすんとも動きゃしねぇ。
って言うか、俺の魔力が中央の魔法陣に弾かれてる。
「ちょっと!キース、早くしなさいよ!」
「いや、見ればわかるだろ!動かないんだ。おかしいな、何か間違ってるみたいだ」
手順が違うのか?
魔力を込め忘れてる魔石がどっかにあるのか?
それとも起動用の詠唱とか呪文が必要なのか?
「ライリー、そっちの大陸で転移する時はどうやってんだ?」
「すまんが知らない。俺自身は転移したことはないんだ」
「ちょっと、使えないわね!それでもエルフの王族なの!」
アリアってばライリーにも容赦がない。そんなんじゃ振られちゃうぞ?知らないぞ?
それから色々と試したり悩んだりしたけど、全然転移できる気配がない。
いい加減悩み切って、一旦諦めることになった。
「一度、本部に戻ろう。リブレイル司令官に報告もしなきゃいけないし」
ということで、夜が明けるのを待って軍本部へ戻ってきたのだが・・
「お前達!どこで油を売ってたんだ!」と顔を見るなり怒鳴られた。
こっちに怒られる謂われはない。
「無事送り届けたのなら、何故すぐに報告に戻って来ないのか!あの巨大な竜が暴れ回っていたのだぞ!この一大事に何をのんびりやってるんだ!今すぐに偵察に行ってこい!街はどうなったのか、王城は無事なのかを今すぐに偵察して報告せよ!」と。
軍幹部や冒険者たち、大勢の関係者に取り囲まれての面罵だ。
これはさすがに納得できない。
「偵察くらい自分達で出来るでしょ!こっちにばかり頼ってないで、少しは自分達で動きなさいよ!」
すかさずアリアが青筋を浮かせて怒鳴り返した。
「そーだ!そーだ!」とリファが援護を入れる。
「俺達はあんたの部下じゃないって言ったよな!まだ理解してないのか!」と俺も加わった。
「偵察ならとっくに行かせた!が、王宮の手前までだ。それ以上は危険すぎて行かせられん。だから安全な空から偵察しろと言っているのだ!」
リブレイル司令も顔を真っ赤にして怒鳴る。
周りの関係者から、あちこちで非難めいた同調の声が上がった。
完全な対立状態だ。
「ちょっと待てくれ!」とライリーまで声を張り上げた。
「偵察に行かせたなら、魔人族兵が消えたと報告を受けてるだろ。今のセンティアのどこが危険なんだ?」
「確かに、魔人族兵との遭遇はなかったと聞いている。だが、遭遇してからでは遅い!これ以上犠牲者を増やすわけにはいかんのだ!だが、お前達なら安全に偵察できる。だから行けと言ってるのだ!」
「はぁ?魔人族は空を飛ぶのよ?あの巨大竜も。私達なら安全だという根拠が分からないわ。自分達は安全な場所にいて、私達なら危険に晒されても良いってこと?馬鹿にしないで!」
「アリアの言う通りだ。そっちは怯えてるだけじゃないか!」と俺も援護する。
俺達の反論に「ふざけるな!」とか「ノエリア人をなめるな!」と外野からヤジが飛ぶ。
「子供が偉そうに盾突くな!」「お前らは黙って言う事聞いてりゃいいんだ!」って声も聞こえる。
嫌な雰囲気だ。このままだと、またアリアに急速冷凍されてしまいそうだ。
心配になってアリアをちらっと見てたら、先にリファが切れた。
「うっさーいっ!!」
風魔法で音量を上げたものだから、地下の石壁に反響してグワングワン響き渡った。
こ、鼓膜が破れる・・リファ、ボリューム抑えてくれ。
皆して耳を押えてるのに、頭に血が上ったリファは音量そのままに怒りをぶちまけた。
「巨大竜ならキースが討伐したよ!ついでに魔人族も全滅してる!だから今は危険なんてどこにもないのっ!あんた達はビビッて中途半端な偵察しかしてないからそんな事も知らないんでしょ!王女達助け出して、敵も全滅してあげた!そこまでして何で怒鳴られないといけないの!ノエリア人は恩知らずで恥知らずってジルべリアに報告するから!」
フーフーと荒い息使いまで全体に響いてる。
このやり取りは地下遺跡の隅々まで聞こえてるんじゃないか?
キーンとする耳を癒してると、ザワザワしだした。いや、ガヤガヤかな。
「信じられない!」とか「今すぐ確認を!」とか。
皆、耳がバカになって声が大きい。
「おい、魔人族はもういないってことか!」とリブレイル司令が聞き直した。
「だからそう言ってるじゃん!」
「リファーヌ、うるさい。音量下げて」とアリアが俺達の言いたいことを代弁してくれた。
言われたリファは不貞腐れて唇を尖がらせてる。
騒めきはどよめきに変わり、ついに「うをををー!」と歓喜の声に変わった。
いきり立っていた面々が、喜びや安堵の笑みを浮かべて抱き合い肩を叩き合って喜んでいる。
皆、とても嬉しそうだ。
「では、王城は解放されたのか?街はもう安全なんだな?嘘じゃないだろうな!」
「自分の目で確認すればいいだろ!」
リブレイル司令はすぐに偵察隊の出動を命じた。
そして自身は東城壁に吊るされたままの王族や高官の遺体を収容するべく出かけていった。
俺達も残党がいるかもしれないと、王城に同行する。
さっきまでピリピリした雰囲気は吹き飛び、ノエリア兵の顔は晴れやかな笑顔で溢れていた。
広い王城を隈なく探査し、一人の残存兵もいないと確認が取れた。
死骨古代竜に殺されるか、きれいさっぱり逃げ出してしまったらしい。
魔人族兵が陣取っていた一室、王城西向きの窓から見えるセンティアは果てしなく土塊の大地と化していた。
街も人も街壁も地平線まで放射状に全てを消滅せしめて、土砂しか見えない。
その有様を初めて目にしたノエリアの人々は言葉を失っていた。
ついさっきまでの笑顔が消え、茫然と現実を理解しようと試みているかのようだった。
王城まで来たついでに、武器倉庫に寄って回収してあった武器を戻しておいた。
それから、本部に戻って仮眠をとることにした。
ただし、ライリーがいない。また一人勝手にどこかへ消えてしまった。
ま、そんな事は気にも留めずに俺達は邪魔にならない端っこで眠りについた。
ところが、熟睡してるところをリブレイル司令に起こされた。
寝ぼけ眼で、用件を聞く。
「巨大竜の死体がどこにあるか知らないか?」
「・・それを聞いてどうするんですか?」
「勿論回収する。疲弊した王国を建て直す貴重な財源だ。急ぎ回収する必要がある」
頭が回らなくて理解が追い付かないけど、何を言ってるんだ?
「えーと、あれは討伐した俺達のものですよ?」
「バカな事を言うな!我が王国は、あれのせいで壊滅的な被害を受けたのだ。故に我らノエリアが所有すべきものだ!」
「うっさいわね、何なのよぅ」
「なーに?どうしたの?」
すぐ傍でリファ達が寝てるのに、大きな声を出すから起きてしまった。
「古代竜の素材を寄こせって言って来てるんだ」
「なにバカなこと言ってんのよぅ。そんなくだらないことで起こさないでよ」
文句を言ってアリアはまた寝転がる。
「くだらないとは何だ!我が国にとって重大な事だ!」
うわぁ嫌な流れだ、と思った時にはアリアの額に怒りの青筋が浮き出ていた。
「あ”ーうっさい!魔物素材は討伐した者の取り分でしょ!そんな常識もない人間がこの国では司令官なの?信じられない!いい?あれは風の旅団の物よ!それを差し出せって言うなら奪ってみなさいよ!私があんたを返り討ちにしてやるから!」
「な、何を、その発言は大問題だぞ!お前達はジルべリアの使者だろう!これは重大な外交問題となる!ジルべリア王に厳重な抗議をするから覚悟しておけ!」
この時には部屋にいたノエリアの兵や冒険者達が集まってかなり注目を浴びていた。
その視線は気になるけど、こっちだって黙っていられない。
「好きにするといい。俺達からもノエリア軍幹部は全く信用できないと報告を入れておく」
「キース、もうこの国から出て行こ。色々してあげたのに怒鳴られてさ。いい加減嫌になっちゃった」
「あぁ。ライリーが帰ってきたらすぐに出て行こう」
「待て!お前達にはまだやってもらうことがある!」
「お断りよ!報酬もなくただ働きするわけないでしょ!フン!」
「そーだよ!それに感謝の一言もないじゃん!私この国大っ嫌い!フンだ!」
うちのメンバーにここまで嫌われる奴も珍しい。
ブラックパンサーのジュード並みだ。よっぽどだぜ。
俺もこの国とはこれ以上関わり合いたくないけど、そうもいかない。
だから、後ろにいる連中にしっかり聞こえるように少し大きめに声を張り上げた。
「俺もいい加減この国にはうんざりだ。だけど最後に忠告してやる!南部の農村地帯は今も魔人族に占領されてるはずだ。早く対処した方がいい。でないと、食料を奪われてこの先大変な目にあうぞ!それに半年後には魔人族軍の本隊が来る。その戦争で生き残りたかったら、そいつら相手に訓練と思って頑張って討伐しろ!俺達は一切手を出さない。俺達やジルべリアに甘えてばかりいると、次は本当に国を失うことになるぞ!それでいいのか!相手は、強いと言っても同じ人族だ。闘うための武器もある。しっかり備えて、死に物狂いで強くなれ!それと、この甘ったれた司令官は変えるべきだ!ダメな人間が指揮を執っても結果は見えてる。これまで逃げて隠れる事しか考えなかったんだろ?その間にも大勢が殺されてたんだぞ!戦えよ!死にたくなかったら戦え!守りたかったら闘え!逃げるな!甘えるな!わかったか!!」
「な、な、な・・!!」
怒りに震えるリブレイル司令との間に風の防壁を張って、これ以上の接触を拒絶する。
そのせいで、部屋の書類が舞い散ったけど知った事か。
「キース、ライリーに連絡とってよ。こんな気分の悪い場所今すぐ出て行きたいから」
アリアが言うには、アリアのハンディフォンをライリーに預けてあるらしい。
それを早く言えっての。
「あ、ハロハロ!ライリー?実はね・・」
俺がライリーにハロハロすると、アリアが割り込んで話し始めた。
すぐにウルハ遺跡で待ち合わせることに決まり、そのまま地上へと向かう。
「キースさっき凄くすっきりしたよ!さすがのキースだった!」
「でもあの指揮官じゃ心配だわ。他にまともな指揮官がいればいいけどね」
なんて会話をしながら歩く。
リブレイル司令が必死に引き留めてきたけど、そこは完全シャットアウトで無視し続けた。
外はまだまだ真っ昼間。そして今まで隠れ潜んでいた大勢の民でごった返していた。
こう見るとドワーフ族が結構いる。さすがドワーフ所縁の地だけはある。
その混雑の中にファーメルの守人がいた。
数日前にアリアに凍えさせられたあの.5人組の冒険者達だ。
数人の大人と20人位の子供達を連れている。
ファーメルって人と孤児院の子供達だろう。無事に生き延びられたみたいで良かった。
カーニック達に満面の笑顔がみえる。
ちょっとほっこりした気持ちになりつつ眠気を我慢しつつ、ウルハ遺跡へと向かった。
ウルハ遺跡で中断された睡眠の続きをとって目覚めると、ライリーが床に雑魚寝している。
イケメンは寝顔までイケメンだった。
ちょっと邪魔ったい場所に陣取ってるから、危うく蹴躓きそうになった。
レーテ湖を眺めながら果実水を飲んでいると「おはよ」とリファが起きてきた。
続いて「痛ぁ・・ちょっと、そんなところで寝ないでよ!」とアリアの不機嫌な声も聞こえてきた。
そして頭を蹴られたっぽいライリーも後頭部を擦りながら起きてきた。
全員揃ったところで食事を摂りながら、この後どうするかを話すことにした。
俺が「今夜にも発ちたい」と話したところで、ライリーから待ったが掛かる。
「そのことなんだがキース、もう一度転移魔法陣の部屋に行ってみないか?調べたんだが、転移できるかもしれない」
「調べたの?どこで?」とアリア。
「王城さ。初代王の日記にヒントが書かれていた。それによると、転移するためには転移の鍵が必要らしい」
「初代王の日記って、もしかして宝物庫にでも忍び込んだのか?」
「見つけたのは王家の書物庫だ。宝物庫にも行ったけど、鍵らしき物も手掛かりも見つけられなかった」
ライリーは勝手に忍び込んで調べてきたらしい。悪い奴だ。
「どんな鍵なの?大きさとか形とかは?」とリファ。
「それも分からない。鍵について書かれてあったことは、『非常に貴重な鍵を設置しなければ転移できないと伝承がある』ってことくらいだ」
「鍵穴の位置も分からないのよね?」
「あぁ、設置という表現からして鍵穴じゃないだろうな」
うーむ・・
「それじゃ何も分からないのと一緒だ。もう一度調べたって無駄じゃないか?」
「そうでもないと思う。これは俺の予想だが、鍵が貴重な理由はその材質にあると思う。魔力的な意味で貴重な何かだ。ってなるとその材質ってなんだ?竜の魔石か?牙や爪か?もっと貴重な物って考えたら、青色魔鉱石って可能性もある。キース、お前今全部持ってるよな?」
「確かに、持ってるな」
「なら、調べるべきだ。鍵なんてお前なら簡単に再現できるだろ。あとはその設置場所を特定するだけだ。それで転移できるんだぜ?調べる価値はある」
「そうね、私もライリーの意見に賛成するわ。強行軍はつらいもの。楽になるならちょっとくらい時間かけて調べてもいいんじゃない?」
「うん、私もそれがいいと思うよ」
アリアとリファまで賛成に回ったことで、もう一度転移陣の部屋へ向かうことになった。
「鍵は大き過ぎず小さ過ぎず、人目に触れないように持ち運べる程度の大きさだと思う。設置場所は隠された部屋か棚、とにかく巧妙に隠蔽された何かがある筈だ。それを見つければいい」
再び訪れた転移部屋をもう一度丹念に調べてみた。
この部屋は床も壁も天井も隙間なく切り出された石板でできている。
鍵穴とか、何かを置く様な場所は見当たらない。
隠しポケットの様な物も見つからない。
俺達は魔法陣の部屋を中心に探してるけど、特に不審な個所はない。
さてどうしたものかと顔を上げると、アリアが入り口付近の壁を前に考え込んでいた。
扉がある訳でもない、ただの出入り口だ。
出入口ゆえに、その周りを彫刻で美しく飾り付けてある。
「何か気になるのか?」ライリーが話しかけた。
「うーん、なんかねぇ・・ここの様な気がするのよ」
そのやり取りに釣られて俺もリファも集まって一緒になって彫刻を眺める。
俺が見る限り、別段おかしなところはない。
「だって変だと思わない?これから転移しようって時に、出入り口を開けっ広げたままにするかしら?」
「いや、どうだろう・・」
俺的には別に構わないんじゃないかと思うんだが、そう言われたらそんな気がしないでもないかも。
「極秘の密命とか亡命とか?で使われるとしても、ドアくらい閉めてほっとしたところで転移したいって思うじゃない、普通は」
うーん・・そうっちゃそうなのかなと首を傾げる。
「そうに決まってるでしょ!どこに行くか分からないようにこっそり転移したいじゃない。通路から丸見えってあり得なくない?」
「うん、その気持ちわかる!駆け落ちするなら絶対に追手を遮る扉は必要だよ!」とリファがおかしな妄想に入った。
まったく意味が分からない。けど、扉があってもおかしくはないってのは賛成だ。
「だから、ここって閉まるんじゃないかしらって思うのよね」
と言われて、確かに・・と入り口を見た。
ただの壁に空いた出入口だ、その先に通路が見える。
ドワーフ族の技術は精密で超高度だ。一見何も無くても扉の2つや3つあってもおかしくはない。
改めて見ても、素晴らしすぎる彫刻が施されている以外に変わった点はない。
ペタペタと触れて4人で入念に調べていると「これか!」とライリーが叫んだ。
ドワズワーフ神が彫り込まれたブロックが奥に引っ込む構造の様だ。
それをライリーが押し込んだ。
するとゴゴゴゴと壁の中から音が聞こえ、通路側の壁の一部が通路を閉ざすようにせり出してきた。
「オ―」と感嘆の声があがった。
ズシーンと音を立てて部屋が閉ざされると同時に、照明が消えて魔法陣が輝きだした。
蒼い幻想的な光が空間を占める。
するとキュリキュリと音がして、4つの転移魔法陣の中央部分が地面からネジ巻式に突き上がって来た。
起動の文字が描れている部分だ。
突き出た円筒石は、まるで何かを収めよと言わんばかりに中身がくり抜かれている。
大きさ的に拳2つ分。
「これじゃない?」とリファが隣の転移魔法陣の円筒石の中から何かを取り出した。
見ると、普通の石だ。ちょっとごつごつした青黒い普通の石ころ。
「石?・・こんなもんが鍵?すごく貴重って話じゃなかったっけ?」
と俺はライリーを見た。
「はぁ、キース。これはどう考えても魔力の抜けた青色魔鉱石だろ。元々はとても貴重なものだったはずだ」
アリアとリファは分かってるみたいで、頷いてる。
俺一人だけがお馬鹿さんで悪かったな!と若干凹みつつ、次元収納から同じ大きさの青色魔鉱石を取り出した。
それをライリーが獣人族の転移魔法陣にセットする。
すると、円筒石はひとりでに床の中へ引っ込んでいった。
「さぁ、行こう」とライリーが言った。
「ええ、さっさと行きましょ」とアリア。
「なんかドキドキするね!」とリファ。
皆が俺を見る。
初めての長距離転移は俺に任せてくれるらしい。
ちょっと嬉しく思いながら「よし、じゃ行くか!」と一言告げて、起動部に魔力を込めた。
足元の魔法陣が更に光を帯びた次の瞬間、地面が抜け落ちた感覚があった。
キーンと耳鳴りがしたと思ったらもう地に足がついている。
そして俺達が転移した場所は、唯々真っ暗な場所だった。




