第3章、神殿魔女の手伝い①
今回も「古の魔法書と白ノ魔女」はお休みです。
冬の訪れを感じ始めたある日、二人と一匹は家を出た。
「どこへ行くの?」
飛行中、イーラはギアの鞄から顔を出してアリシアーレンに尋ねた。
すっかりギアの傍が定位置となったイーラだが、なついた相手はアリシアーレンだ。
首の前で揺れる小さなリボンは、ギアがあげた簡素な首輪では味気ないと、アリシアーレンがプレゼントした物だ。このような交流が、イーラとアリシアーレンの絆を深めた。
また、相棒を作ることに遠慮を示していたギアも、イーラと仲良くなろうと歩み寄りを見せていた。ギアはその様子を見て、ベストのような服を手作りしてイーラにプレゼントしてみたのだ。イーラは、まんざらでもない様子でそれを受け取った。
「この山の下には、街があるの。それなりに栄えた街よ。もうすぐ祭りがあるから、その手伝いをしに行くの。」
「祭りは毎年あるんだ。俺たちはいつもこの時期、街で過ごす。ずっと森で暮らしてきたお前には騒がしいかもしれない…けど、素晴らしい物がたくさんあるから、案外楽しめるかもな。」
イーラは恐る恐るといった様子で尋ねる。
「おいしいもの、ある?」
アリシアーレンは微笑し、ギアは苦笑した。
「もちろん!後で、屋台を見に行きましょうね。」
街に着いた途端、イーラは鞄を出てギアの肩に移動した。
「すてき!」
目を輝かせるイーラ。その視線の先には、着飾られた街の姿が。
風に揺れる華やかな飾りは、もうすぐ開かれる祭りへの期待を高めるには十分な効果を持っている。アリシアーレンもギアも、祭りが楽しみになってきていた。
「祭りが開かれるのは、明後日から三日間だ。それまで俺たちは仕事の予定があるけど、忙しくて大変だから、祭りまであっという間に感じると思う。」
ギアは、街を眺めながら足を進める。
「仕事があるの?」
「そうだよ。街の人から依頼された仕事が二、三個ね。確認程度の仕事だから、そんなにかからないよ。でも一つ大きな仕事があって、そっちは魔女の力が必要なんだ。」
「魔女は他にもいないの?」
「魔女の数は少ないわ。魔女は長生きだけど、その代償なのか、とっても生まれにくいの。…けど、この街に魔女がいないのか、という質問に答えるなら、一人だけいるわ。」
アリシアーレンとギアは目的の場所に到着した。
「ここよ。」
イーラは街の中で最も立派な建物だと思った。
黒と白を基調とした、美しい建造物。所々に、金の装飾が施されている。
威圧感を押し出しながら、どこか寂しさや悲しさを漂わせているのは、黒色が建造物の七割を占めるせいかもしれない。
「お城なの?」
最近読んだ絵本から得た知識から、イーラはそう考えた。
しかし、アリシアーレンは首を横に振った。
「いいえ。ここは神殿よ。」
アリシアーレンは、神殿に向かって手をかざし、そのまま左から右へ動かした。
次の瞬間、建物の模様が変わった。先ほどよりも金の装飾が増え、豪華さが増した。建物がどんどん、姿を変える。
ギアは鞄から魔法石の入った袋を取り出した。口を開くと、魔法石はひとりでに出ていく。袋の大きさからは考えられないほどの量だ。そして、その大量の魔法石は、アリシアーレンに操られるがまま神殿を彩った。
袋には、透明な魔法石だけが残った。それを確認し、ギアは袋を鞄にしまった。
「~~~っ!すごい!すごい!!」
イーラは大興奮だ。しかし、揺らすしっぽが頭に当たり、ギアは少し顔をしかめた。
「さすがです、アリシアーレン様。」
建造物の中から何人かの人間が出てきた。
彼らは皆、神殿と同じ色と模様があしらわれた服を着ており、それぞれ魔法道具を身に付けていた。
「久しぶりね、神殿長。」
アリシアーレンは畏まった様子の人間たちに、ふわりと優雅に微笑んで見せた。
「お待ちしておりました。」
アリシアーレンに神殿長と呼ばれた男は、次に、ギアに微笑んだ。
「お元気でしたか、ギア。」
「ええ。神殿長もお変わりないようで、安心しました。」
高齢の神殿長はしわを深めて笑った。
「ルウシャ様がお気遣いなされるもので、普通の老人より元気なのですよ。」
ギアはイーラを神殿長に差し出して見せた。
「神殿長、この子はイーラと言います。ついこの前、魔法契約を結びました。」
「おや、かわいらしい装いをされておりますな。わたしはウィスカル。この街の神殿魔女、ルウシャ様に仕えている者。どうぞよろしく。」
ウィスカルは、イーラに手を差し出した。イーラはその手を両手で掴む。
「よろしくお願いします、イーラです。」
イーラとの挨拶を終えると、ウィスカルは、後ろにいた魔法使いに前に出るよう手で合図した。
「ここにいるのは、同じくこの神殿にて働く魔法使い。」
「「こんにちは。」」
五・六人の若者は、ぺこりと頭を下げた。
「アリシアーレン様、今回はこの者たちが補佐役を務めます。どうぞ、何なりとお申し付けください。」
「ええ、分かったわ。」
よろしくねと声を掛けたアリシアーレンに、少年も少女も期待に満ちた顔で返事をした。
「さあ、参りましょう。」
ウィスカルを先頭に、皆は建物の中へ。




