第2章、魔法の授業③
今回は「古の魔法書と白ノ魔女」はお休みです。
色々な魔法石がはめられた腕輪は、簡単な魔法を発動させるには便利だが、細かな作業や複雑な魔法には向かない。そのため、別の魔法道具を使用する。それが杖だ。
ギアは二・三度、適当に杖を振ると、まるで指揮棒のように優雅に動かし始めた。
「〈獣が紡ぐは人の言葉。我らと共にいざ語らん〉…。」
大釜から液体が少量ずつ浮き上がり、それぞれ球体となって固まっていく。呪文を繰り返し唱えながら、キャンディーに魔力を込めることを意識する。
アリシアーレンが作っているのを初めて見た際は、美しい光景に目を奪われていたが、今はそんな状況じゃない。少しでも集中力がぶれれば、お終いだ。
「…ふぅ。」
大釜が空っぽになったところで杖を振るのをやめた。途端に、浮かんでいた全てのキャンディーが大釜に落下する。
「どうでしょうか。」
アリシアーレンに出来栄えを確認してもらう。
アリシアーレンはキャンディーを一粒取り、じっくり眺めた。そしてそのまま肩へ持っていく。
「食べてみて。」
リスはしばらく鼻を動かしていたが、やがて受け取り、ペロペロとなめ始めた。
「なかなか上手くできたと思うわ。効果は…この子が食べ終えたら分かるわね。」
アリシアーレンは茶目っ気たっぷりにウインクした。
キャンディーを瓶詰めしている最中に、リスは唐突に話し始めた。
「なかなか悪くない食べ物だったわ!」
ギアは突然の声に驚いて、一瞬思考が止まった。
「あたしよ!」
「ああ…リスか。メスだったんだ。」
リスはかわいらしくも甲高い声で、しゃべりだす。
「何よ。あんた、あたしがオスだと思ってたわけ?あたしみたいな美人、そうそういないのに!」
「いや、そういうわけでは…。」
リスの圧の強さに、ギアはたじろいだ。何気なく言った一言だったが、リスには引っ掛かったようだ。
「まあ、いいわ。それよりアリシア様、あたしがこの子と話せるようになったらお願いしたいことがあるって言ってたわよね、どんなこと?」
リスは首をかしげた。ギアも、何だろうかと首をかしげる。
「そうそう。」
アリシアーレンは、リスを自分の肩からギアの手に移動させた。
「あなたに、ギアの相棒になってもらいたいのよ。」
「「えええええええええ?!!」」
一人と一匹の声がきれいに重なった。
「相棒って…。このリスと魔法契約を結べと?」
「何でこいつとなの?!アリシア様とが良い!」
騒ぐ一人と一匹。笑みを浮かべるアリシアーレン。
「ギア、あなたには対等な仲間が必要よ。真面目で何事にも熱心に取り組めるのは良いことだけど、制御してくれる誰かが必要ね。」
ギアは真っ直ぐな性格で、何事も全力で取り組む。しかし、思い込みがやや強く、焼になることもあるため、アリシアーレンは常々、冷静に突っ込んでくれる者を傍に置くべきと考えていた。
「その点であなたはとても適任なのよ、子リスちゃん。はきはきと自分の意見を言える強い子だと思うから、ギアの良い刺激になるわ。」
最初に会った時から、アリシアーレンはこのリスをギアの相棒にと考えていた。真っ直ぐな物言いでギアを圧倒して見せたその姿から、ギアの補助に向いていると思ったのだ。また、鷹に怪我を負わせられながら気丈に応戦する姿を見た時から、屈強な精神の持ち主であると推察していた。
ギアには今後、このようなサポートメンバーが必要になる。そう踏んで、アリシアーレンはリスに頼んだ。
「仕方ないわね…。アリシア様がそう言うなら、この子の相棒になるわ。」
強い子と褒められ、リスはまんざらでもない様子だ。
「俺には相棒なんて…。」
あまり乗り気ではないギアに、リスは容赦ない言葉を掛ける。
「あら、あんた。自分には不足はないと思っているの?とんだ思い上がりね。そういうやつは、いつかやられるのよ。」
リスは真っ直ぐな目をギアに向ける。
「私はそれなりに強いと自負してきたけど、今日、鷹に怪我をさせられた。でも次に会った時は絶対にやられてなんかやらない。そのために努力するわ。今までだって、仲間と切磋琢磨して、生き延びるための知恵を身に付けてきたのよ。ヒトの知恵を借りれば、もっと強くなれるはず。」
「…。」
「あんたはもっと強くなろうっていう意思はないの?それとも、強くなるためには一匹じゃ無理だって知らないの?」
ギアはしばらくリスを見つめて考え込んでいたが、やがて大きなため息を吐いた。
「はあ…。」
ギアも承諾したのを見て、アリシアーレンはかまどの前に立つ。
「さあ、ギア。次の課題は、契約クッキーよ。」
ギアはリスに、魔力が込められたクッキーと魔法石がはめ込まれた首輪、そして名前を与えた。
リスは魔獣となり、〈イーラ〉と名乗るようになった。
~魔法使いのメモ~
☆杖…細かな作業や複雑な魔法を使う際に重宝する魔法道具。魔法使いには必須アイテム。魔女も所持している場合が多い。
☆契約クッキー…動物と魔法契約する際に用いる。双方が食べることで、パートナーとなれる(複数の動物と契約する場合は、パーティー)。相方の魔力を共有するため、ただの動物も魔法が使えるようになる。魔法が使えるようになった動物を魔獣と呼ぶ。
登場人物の名前は全て適当です。音の響きで何となく付けてます。




