第15章、レフィアの指導④
お待たせしました。
続きをどう書こうかずっと悩んでいました…。ある程度の展開は決めてあるとはいえ、細かくは考えていないところも多く…。
「師匠は、動けないわたしに色々と手を焼いてくれた。行き先のないわたしを弟子にしてくれたし、強くなれるよう、指導もしてくれた。そして…、」
そこでレフィアがふっと笑った。ほんの僅かな変化だったが、ギアはレフィアの表情が和らいだのを感じた。
「師匠は、家族がどんなに良いものかを示してくれた。その上で、わたしを、家族に迎え入れてくれた。師匠も、他のルートノーダの魔女たちも、わたしのことを優しく迎え入れてくれた。だからわたしは、ルートノーダの魔女を大切にしている。」
そこでレフィアは、真顔に戻った。
「…だから、嫌いな人間でも、家族になるのなら認めることにした。」
ちらりとギアを見るレフィア。
「…せいぜい頑張れ。」
「…、」
ギアは何か言葉を返そうとしたが、その前にレフィアが会話を終了させる。
「一時間 休憩しろ。その後に、歴史の勉強の続きだ。」
「……。」
ギアがサンドイッチを丹念に咀嚼している。…本当のところは、考え事に気を取られて、どれほど物を噛んでいるか把握していないだけだが。
「…ギア。」
相棒の心ここにあらずな状態を見て、イーラが声をかけた。
「ぁ? ああ…何だ?イーラ。」
「何を考えているの? …さっきの勉強の時間に聞いたこと?」
ギアは、イーラを一目見ると、再び窓の外を見る。
一階は太陽光が入る唯一の階のため、ギアは自然光を浴びに何かと訪れていた。
(何を…か。)
「俺が…昔、アリシアに命を救われたことは話しただろう?」
「うん。」
「その時、レフィアも助けてくれたけど…悪党に容赦ない様子があの頃は少し怖くて、酷い態度を取ったんだ。…だけど、レフィアの過去を聞いて、むしろ、優しい奴だったんだって気付いて…。」
(そうだ…。本当は優しい奴だったんだ…。人間を嫌いながら、人間である俺やトト兄を助けてくれた。何があったのかと最初に聞いてくれたのは、アリシアではなく、レフィアだった…。それに、悪党に怒り、村を救おうと手を貸してくれたし、弔ってくれた。…表情がほっとんど変わらなくて、悪党をいとも簡単に傷付けられる強い力が怖くて、レフィアを怖がっていたけど…。)
ギアは苦笑する。
(子供にとって、第一印象が悪すぎた。)
「何笑ってるの、ギア。」
少し訝しむようにイーラが訊ねた。
「ああ…、本当は優しい奴なのに…、―――いや、むしろ、あんなに人間に酷い目に遭わされて、よく人間たちに優しくしてくれるもんだなと思ったんだ。」
イーラが腕を組んでうんうんと頷く。
「レフィア様ったら、寛容すぎるわよね。…ううん、寛容とは違うかも。」
「…諦めとか、期待がない、の方が近い気がするな。」
(レフィアは、人間に期待してないんだ。)
レフィアは、人間の行いに、善なる心によって為す正しい行いに、期待していない。だからこそ、レフィアは己の価値観や倫理観にのみ従って、“優しい”行動を取ることができるのだろう。そうギアは考えた。
「…何はともあれ、レフィアの過去を聞けて良かった。レフィアに優しさがあることを知れたからな。」
ギアが冗談めいた言葉で話をまとめようとした。
「え?ギアってば、何を言ってるの? レフィア様は表情に乏しい魔女だけど、優しいところがあるなんて、すぐ分かることじゃない。」
「…。」
イーラは知らない。レフィアが“手放しで優しさや慈愛を向ける対象”には、感じることが難しい。
ギアが知り、イーラが知り得ぬレフィアのもう一つの性格―――それは、残虐性だ。
レフィアは、人間を圧倒する力で、人間を傷付けることを躊躇わない。自らが“悪”と判断した者に対して、容赦しない。
先ほど、レフィアが己の過去を語った際には言っていなかったが、レフィアは、故郷の村から逃げる時、大勢の人間を殺している。ギアは昔、アリシアーレンとレフィアに救出された直後、アリシアーレンの家で静養している最中にレフィアから、大殺戮を行ったことを聞いたのだ。あまりに恐ろしい話に、自分の故郷が襲撃されたショックの落ち着いていないギアたちは、レフィアに恐怖を覚えた。それゆえ、アリシアーレンの下で修行中だったレフィアだったが、修行を中止して師匠エデリオンの元へ帰って行った。
このことをイーラに語らなかったのは、唯一無条件で心を開く存在に、ギアたちのように怖がられたり嫌われたりしたくなかったからか、あの時のギアたちの反応を覚えていて、話さない方がいいと学習したからか。どちらにせよ、レフィアは自分に残酷な面があることを、ある程度 自覚しているようだ。
(レフィアが人間嫌いでも、憎んでいても、それは仕方のないことだ。動物びいきなのも、仕方ない。)
レフィアが動物を好ましく思っていて、イーラもレフィアを優しい魔女だと思っている。その脆くて温かい認識を、わざわざ悪く書き換えることは無粋だろう。
「―――そうだな。レフィアが優しくない魔女だと思っていたのは、表情に乏しいせいだ。」
ギアは優しい言葉を返した。




