第15章、レフィアの指導②
「これからしばらく、この家を使う。」
レフィアの案内で、ギアはその家を見た。
それは、“森の隠れ家”という言葉が似合う、自然と調和した家だった。
大木に守られるように玄関があり、根や岩の隙間からは、ところどころ窓が見えている。
中に入って石階段を降りると、広い半地下の空間になっていた。簡素なテーブルセットがある他、剣や箒、杖など雑多な物が置かれている。
少し奥には、そこからさらに地下へ続くらしい螺旋階段があった。
「ここは休憩室だ。外道具の置き場にも使われている。」
説明しながらレフィアが階段を下りる。ギアはその後を付いて行く。
階段はまだ続いていたが、二階の広間で止まった。
「この階は、共有空間だ。そしてここは居間。あとは食事部屋、キッチン、風呂なんかも、この階に集まっている。」
再び、階段を下りる。三階は、広間から十字に長い廊下が続いていた。その一つを進み、とある部屋で立ち止まった。
「この階は個人部屋だ。わたしはここを使っている。お前はこの部屋を使え。」
レフィアが一つの扉を指差し、また、その向かいの扉を示した。
「分かった。荷物を置いて来る。」
ギアが荷物を下ろしに部屋に入った。そこは、窓がない以外、いたって普通の個室で、なかなか広々としていた。ベッドも机も本棚もクローゼットも揃っている。
日当たりのいい部屋同様に明るく、地上のように空調も効いている。
「地下にしては、なかなか明るくて空気のいい部屋だな。」
部屋を出て、レフィアに感想を言うギア。
「ここは、大昔にルートノーダの魔女が造った家だ。全てにおいて魔法が掛けられている。明かりも空気も水も、部屋の広さも良いように調整してある。」
「大昔…。そうは見えないほど、綺麗だ。これも、この家を造ったという魔女の魔法か?」
「ああ。大半はそうだが、それだけでは足りないから、わたしたちが掛けたものもある。なんせ、あのアリシア様のご祖父母様が造られたらしい。」
(アリシアの、祖父母…。)
アリシアーレンの血縁の話題は珍しい。ギアはアリシアーレンの親族が気になった。
「…その方たちは?この家に住んでいるわけではないのか?」
「とうに亡くなっている。ご両親も、魔女が死ぬ魔法が奪われる前に亡くなられたらしい。」
再び階段を下りるレフィアの後ろを付いて行くギアは、軽く衝撃を受けた。
(そうか…、そうだった。魔女も、昔は“死んでいた”んだ。)
ギアは、アリシアーレンの直近の血縁の魔女がすでにこの世にいないことに驚いた。どうりで話題にならないわけだ。
「アリシア様が受け継がれてしばらくは、アリシア様のお弟子様らがここに住んだり、管理したりしていたらしい。しかし、師匠が受け継がれてからは、たまに来て泊まってメンテナンスをするくらいだ。」
「君は以前にも来たことがあるのか?」
「ああ。ここから師匠の家はそう遠くない。師匠の弟子がわたし一人の時は、よくここに来た。ここは、療養や魔法の修行にぴったりの場所だからな。」
そこで二人は足を止めた。
四階の広間には、四つの大きな扉があった。それぞれの扉の上には、〈植物園〉・〈実験室〉・〈製作場〉・〈訓練場〉と書かれたプレートが取り付けられている。
レフィアがギアへと向き直り、口を開いた。
「師匠がわたしに指示した、お前の修行内容はこれだ。―――魔女を殺す魔法の知識を身に付けること。」
(―――!!)
「わたしはこれからお前に、魔法薬学、魔法武器生成法を叩き込む。お前の習得速度によって、修行期間は変わる。早く終えたければ、それなりに頑張るといい。」
ギアは大きな衝撃を受けたまま、口を開く。
「ま…、魔女を殺す魔法は…、大昔に人間が消し去って以来、何百年も見つけ出せていない…。修行期間ごときで見つけ出すなんて無茶だ…。」
ギアが混乱する頭のまま告げた内容に、レフィアは少し呆れたように言葉を返した。
「誰が、魔女を殺す魔法を見つけろと言った。これまでの研究を頭に叩き込めという話だ。」
ギアはほっとしてため息を吐いた。
「そういうことか…。」
ギアが冷静さを取り戻したのを見て、レフィアは扉を指差して詳しい説明を始めた。
「魔法薬学で必要な材料は、大概、植物園で見つけられる。中は広く、温室のように整えられていて、膨大な種類の植物が揃えられている。アリシア様たちが収集したらしい。」
そこでレフィアは、ちらりとイーラを見た。
「迷子になるなよ、気を付けろ。」
見たこともない柔らかい微笑みに、ギアはまた別の意味で衝撃を受けた。
(は、初めて見た…。レフィアも、普通に笑えるのか…。)
レフィアと過ごした時間はそれほど多くないが、幼い頃、アリシアーレンに命を救われた直後、数日間だけレフィアとも暮らしていた。彼女はどんな時も無表情で、怒っても目つきが鋭くなる程度だった。
それゆえ、笑っている顔など想像もつかなかったが、今、口元は確かに笑っていた。
まるで幽霊でも見たかのように驚き頭が真っ白になっているギアを余所に、イーラは元気よく「はーい!」と返事をした。
「実験は実験室でしろよ。」
説明の続きに、ギアは現実に戻った。
「杖や剣といった魔法道具は、製作場にある。一から魔法道具を作りたい場合も、そこでしろ。石も木も金属も布も、大抵は揃っている。」
そこでレフィアが訓練場へ入ったため、ギアも続く。
中は、とにかく広く、何もない空間だった。
「魔法の試用は訓練場で。実験室と訓練場は、特に頑丈に造られているから、安心して遠慮なく暴れていい。」
そう言った次の瞬間、レフィアが魔法を放った。ドッカーンと大きな音を立てて、数十メートル先で大爆発が起きた。
ギアとイーラは、突然のことに肝を冷やしたが、訓練場の床にも壁にも、傷一つ付いていなかった。
「訓練場とは書いてあるが、鍛錬を積みたいなら、ここよりも、この次の階に行くことを勧める。そこは、様々な仕掛けがしてあって、一人で入っても二人で入っても、なかなか良い鍛錬になる。〈ダンジョン〉と名付けられていて、下に行けば行くほど広く、ハードだ。…ただし、お前は五階、行ってもせいぜい六階までにしておけ。戻れなくなったり、大怪我を負ったり、最悪、死ぬ可能性がある。」
ギアはゾッとして、即答した。
「絶ッ対に行かない。」




