第9章、歩み寄り③
今日は「古の魔法書と白ノ魔女」はお休みです。
すみませんが、来週は「魔女の敵」も「古の魔法書と白ノ魔女」も更新はありません。
「……。」
リシアを閉じ込めていた檻が消えた。もう暴れないと判断したアリシアーレンが魔法を解いたのだ。
「レン…。」
解き放たれてすぐにレンに抱き着くリシア。レンを抱きかかえるギアにも触れているが、あまり気にしていないようだ。
レンは先程の言葉を最後に眠っている。深い眠りで、リシアが強く手を握っても起きる気配がない。
(リシアを落ち着かせるためだけに、頑張って起きたんだね……。)
レンは聡い子だ。リシアが苦しい思いをしないように、でもギアを傷付けないように、上手く立ち回っている。だが、それには自己犠牲が伴っている。ギアはこの数日、共に過ごしてそれを知った。
「レンくんを部屋でゆっくり休ませてあげよう。」
そう提案すると、リシアはこくりと頷いた。
ギアはレンを抱え直し、立ち上がった。リシアはレンの服の裾を掴み、ギアと並んで歩く。
「―――ごめん…。」
ぽつりと呟いたその言葉は、一体誰に向けたものだったのか…。
分からぬままギアは黙ってレンを運んだ。
「お世話になりました。」
レンが完全回復して数日後、二人はアリシアーレンとギアに別れの言葉を掛けた。
一悶着あったあの後、レンは四日間眠り続けた。その間、リシアはレンの傍を離れようとしなかった。気付くといつも眠っているレンの手を握っていた。そんなリシアを支えたのはイーラで、落ち込んでいるリシアを気分転換に外に連れ出すなどして励ましていた。そんな日々の中で、身体を拭いたり水を飲ませたりとレンの世話を焼いていたギアに対して、リシアの態度が変わった。決して「おいしい」とは言わないが、ギアの作った料理を食べるようになったのだ。「おかわりは?」と尋ねるギアに頷いたり首を振ったりして返事をしているリシアの姿を、アリシアーレンは微笑ましそうに眺めていた。
レンが目を覚ましてからは、無理のない範囲で三人と一匹で遊んだり魔法の勉強をしたりした。
素直でないリシアは、ギアにぶっきらぼうに言葉を掛けていたが、最初の頃に比べたら大成長していた。
―――ギアはまだ、その時の会話が耳に残っている。
それは魔法の実験中のことだ。リシアの攻撃魔法を防ごうとして壊れた魔法道具の腕輪を、レンが修復してくれた時―――。
「ありがとう、助かったよ。」
直った腕輪を受け取ってギアはお礼を言った。ちなみに、その傍らにはリシアはいない。イーラと共にアリシアーレンの手伝いをしていた。
「でも大丈夫かな?病み上がりで魔法を使って…。」
「大丈夫ですよ。これくらい大したことはありません。」
「すごいな…。あまり俺と変わらない年齢なのに…。」
レンの幼い姿で強い魔法を使っているのを見ると、何だか悔しいような情けないような気持ちになる。
「仕方ないですよ。だって魔女と人間はちがうから。」
レンの何気ない言葉が、ギアの心に引っ掛かった。
「魔女と、人間は、違う…。」
言葉を繰り返され、少し怪訝そうにレンがギアを見上げた。
「??」
そんなレンと視線を合わせるようにギアはしゃがみ込んだ。
「…魔法使いも?」
レンは首を傾げながら答えた。
「もちろんです。だって魔法使いは人間でしょう?」
「……君たちと同じ、魔法を使うのに?」
レンはきっぱり告げる。
「魔法使いは魔女とはちがいます。魔女が力をかすことによって魔法が使えるっていうだけで、それ以外全部は魔法が使えない人間と変わらないので。そもそも、魔法使いは魔女がいないと魔法が使えないでしょう?そうなら、やっぱり魔法使いも人間ですよ。」
「―――。」
ギアの心に謎の空白が生まれ、広がっていく。
「……所詮、人間は弱い生き物なんだ。」
レンを迎えに来たリシアが口を挟んだ。その言葉に、ギアははっと顔を向けた。
リシアは真面目な顔で、ギアの心を見透かしたような表情で、口を開いた。
「魔女はたくさん持っているからこそ、何もいらない。…欲しがるなよ、人間。」
ギアはリシアとレンから顔を背けた。自分が今どんな表情をしているか分からない。分からないが、誰にも見せたくなかった。
「―――でも、何も持っていないお前たちに魅かれる魔女はいる。」
ギアは顔を上げた。
それを言ったリシアはレンの手を引いて歩き出していた。そしてアリシアーレンの方へ視線を向けて一言付け加えた。
「―――私には理解できないけど。」
笑顔でアリシアーレンと抱擁を交わしたレンとリシア。二人は自らの師匠が待つ家へと帰って行った。
去り際、レンは「また会えたらいいですね」と言い、リシアは「もし次に会うようなことがあれば挨拶くらいはしてやる、もしまだ生きていたらな」と言った。アリシアーレンも、「次に会う時は数十年後かしらね」と返し、笑顔で手を振った。
彼らの言葉は、人間とは異なる時間の流れ―――感覚を見せていた。
リシアとレンについて補足を…
これ以降、リシアは人間を真っ向から拒絶することはなくなります。人間を好きになる日はまずあり得ませんが、憎しみでむやみやたらと攻撃することはないでしょう。複雑な立場で葛藤するレンの心情に寄り添い、人間を憎しみ続けることを諦めた感じですね。
レンは最初から人間に対して複雑な感情を持っていました。人間のことは好きだけど、人間のせいで精神に異常をきたしてしまった魔女がいることも理解しています。しかし、今回のことで自分が一番大切にしているのは魔女なのだと結論を出し、自分の立場を定めます。彼は実は、人間に対して友好的に見えて一定の距離を保つスタンスなのです。
この雰囲気を感じられるような書き方を本編では心掛けました。未熟なのであまり上手くはできなかったのですが、僅かでも伝わっていることを願います。




