第9章、歩み寄り②
今回も「古の魔法書と白の魔女」はお休みです。
「ア、アリシア…どうしましょう…!あ、頭が…レンくんがっ!」
アリシアーレンは魔法で鳥籠のようなものを生み出してリシアを閉じ込めた。そしてギアの元へ駆け寄り、レンの首を確認する。
「しばらくすれば再生するわ。」
「で、でも…。」
「大丈夫だから落ち着いて、ギア。レンは魔女なのだから死ぬことはないわ…今はただ気絶しているだけよ。」
アリシアーレンはギアからレンを受け取り、リシアの目の前に運ぶ。
「見なさい、リシア。あなたが起こしたことの顛末がこれよ。」
「…レン…。」
檻から手を伸ばすリシア。しかし、どれだけ一生懸命手を伸ばしても、レンの服にすら触れられない。
「レンはあなたにどれだけ酷い言葉を掛けられても反撃しなかった。なぜだか分かる?」
「…。」
「レンがとても優しい子だからよ。」
「…っ。」
リシアがくしゃりと顔を歪めた。
「レンのお父さんが人間であることを知っていて、あなたは人間の悪口を言っていたわね。」
(!!)
先程のレンの言葉を思い返す。
(確かに、レンはそんなことを言っていたような…。)
リシアの殺気に気を取られていたためあの時は聞き流してしまったが、改めて聞くと、レンの行動に納得がいく。
「だって―――」
人間に関しては譲れないようで、リシアはなおも食いつく。
だが、アリシアーレンは最後まで言わせず、ぴしゃりと言い放つ。
「あなたとレンは違う。」
リシアは黙った。アリシアーレンは諭すように言葉を続ける。
「レンは家族に愛されていた記憶があるの。あなたとレンは“きょうだい”かもしれないけど、それでも違う環境に生まれたのよ。あなたとレンは“別人”なの。なら、違う気持ちや考えを持っているのは当たり前でしょう?共にいたいのなら、相手に寄り添いなさい。」
うなだれるリシア。
(ここまで厳しく言うアリシアは珍しいな…。)
普段ののんびりおっとりしたアリシアーレンの様子とまるで違い、とても厳しい言葉を掛けている。
(それでもあなたは優しいですね、アリシア…。)
厳しさの中にある愛情深さ、それを読み取ったギアは口を挟まず黙っている。
リシアが長く黙っている。きっと、アリシアーレンに言われたことを考えているのだろう。自分が持つ人間への憎しみとレンが持つ人間への興味、それに折り合いをつけようとしているのだろう。
リシアがある程度、自分の中で考えをまとめたところで、アリシアーレンは口を挟む。
「分かったでしょう、リシア。」
「…。」
小さく頷くリシア。
「謝りなさい、リシア。」
「…。」
「二人に謝りなさい。」
「……。」
リシアは最後の悪あがき、精一杯の反抗をする。やはり、人間であるギアに対して直接非を認めることは嫌なのだろう。
そんなリシアを見てギアは立ち上がり、アリシアーレンとリシアに近寄る。
「俺に謝罪は結構です。だけどリシアちゃん、君はレンくんには謝るべきだ。」
「…。」
複雑な表情でギアを見上げるリシア。その目は、人間への憎しみよりもレンへの懺悔への気持ちが強いように見える。
「……もう、無理だよ…。」
そう言いながら目から溢れるものは、ぽたぽたと地面に染みを作る。
「もう無理だよ!きっとレンはわたしのこと許してくれない!傷付けないって約束したのに、わたしが破ったから!きっと嫌われた!もう無理なんだあああ…!!」
わんわんと泣き出してしまったリシア。
「―――。」
その時、レンが目を開いた。すでに頭部は修復していたものの、目覚める気配が全くなかったのだが、リシアの泣き声に反応したように起きた。良いタイミングで起きてくれたものだ。
「リ、シア…。」
寝起きのかすれた、でも柔らかな声。それを聞いたアリシアーレンは、未だ大声で泣いていてそれに気付かないリシアの前にレンを連れて行く。
「…?」
リシアは鼻をすすりながら近付く二人を見る。
「あ…レン……。」
アリシアーレンの腕の中、意識の薄いレンがリシアに手を伸ばす。
「…っ。」
レンに頭を撫でられ、固まるリシア。
「ごめんね、リシア…。」
強い眠気に引っ張られながら、それでもレンは伝える―――。
「一緒に人間嫌いになれなくてごめんね…。」
―――一番大切な“きょうだい”へ。
「忘れないで…ぼくが一番好きなのは魔女だよ…。」




